【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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不安と不穏 その8

 翌日、ミレイユは鍛冶場に火を入れ鍛造の準備をしながら、アヴェリンの報告を聞いていた。

 火の精霊の核を用いて炉の種火として使う事で、普段は消えない程度にしか灯っていない炉に、急激な活性化をもたらしながらその声を聞いていた。

 

「……で、どうだった?」

「どうもこうもありません。子供だから大目に見ろとは言われましたが、あれほど使えないとは思いませんでした。言わせていただければ、何もかも足りません。実戦に出すなら、冗談抜きで数年の訓練が必要です」

「そこまでか……」

 

 ミレイユとしては、少々予想外な展開だった。身体についた筋肉が褒められた物でなかったのは確かだ。それでもやりようによっては、と考えていたのだ。

 それにアヴェリンならば、上手く対処法を見つけて指導出来るだろうとも思っていた。しかし、これは少し当てが外れたかもしれない。

 

「そこまで酷いなら、何か対策を考えねばならないかな……」

「いえ、それはミレイ様がお手を患う程の事ではありません。こちらで上手くやってみせます。――しかし不甲斐ない。たかがあの程度で倒れるとは……!」

 

 話している内にアヴェリンの熱が再び入ってしまったらしい。手に持つフイゴを何度も押し込み、吹き出し口からは大量の空気が排出されている。

 ミレイユは苦笑しながらアヴェリンを宥めた。

 

「長い目で見て訓練してやれ。あれも今が伸び盛りだろう」

「……かもしれませんが、もしや本気で数年の世話を考えてる訳ではありませんよね?」

「そこは大丈夫だ。基礎を教え、鍛錬法を教え、敵を倒す方法を教えれば、それで十分だろう。その教えられた物を自分の中で昇華させるのは、アレの領分だ」

 

 そうですね、とアヴェリンが頷いて、ふと思い出したようにフイゴを置いて懐を弄る。そうして直ぐに数枚の紙幣を取り出して、ミレイユに渡した。

 

「アキラから預かって来ました。何でもいつも多めに現金を用意してあるのだとか。自分の分は『アトデオロス』とか何とか言ってましたが……、ともかく服を用立てる為に使って欲しいとの事でした」

「アトデ……? ああ、『後で』『下ろす』か? ……まぁ、分かった。アキラには礼を言っておこう。火が完全に入るまで、まだ時間が掛かるだろうから午前中に服選びは済ませてしまうか」

 

 アヴェリンが了解を伝えた時だった。ルチアが細工品の試作を幾つか持ってきて、鼻息荒く近くの机に広げる。

 

「ミレイさん、少し見て貰いたいんですよ。どういう方向で幾つ用意すべきかも分かりませんでしたので」

「ああ、分かった」

 

 ミレイユは炉をいじっていた手を止めアヴェリンに後を任すと、広げられた装飾品の試作をしげしげと眺める。

 

「とりあえず、ネックレス、ブローチ、イヤリングを用意しました。細かい線入れまで考えてるんですけど、それをすると時間も掛かりますし、石は何を使って良いのか、その辺りも――」

「分かった分かった」

 

 説明に熱が入り始めたルチアを宥めすかして、ミレイユは一つ一つ手に取って確かめる。それぞれ金を基本素材として使っているのは、銀を好むルチアとしては珍しい。しかし、それは実利を考え、とにかく現金との交換を目指した結果だろう。加工がし易い点も同時に考慮されているに違いない。

 

 現実と違い、エルフの加工は道具だけでなく魔術も使うので、実際の作業工程は大分異なる。現代では機械を用いねばできない宝石のカットや、リングに刻む溝など、手作業では膨大な時間と技術が必要だが、ルチアにかかれば違ったアプローチで同じ結果を生み出す。

 細工品と言ったらエルフ製に限るという言葉は、そういう部分が大きい。後はセンスの問題だ。ミレイユ自身はアクセサリーに詳しいつもりはなかったが、現代人の視点で見ると色々と常識の違いから指摘できる部分があった。

 

 リングに宝石をあしらう事は共通しているが、台座を用意して宝石を嵌めるという発想は、あちらにはなかった。大抵は宝石が嵌まる大きさの窪みを作り、そこに嵌め込む方式で、だから自然とリングは太くなる。

 しかし台座があればリング自体は細く出来るし、その構造さえしっかりしていれば、大きな石を使っても見栄えが良い。それを指摘してからというもの、ルチアは細工品を作れば必ずミレイユに助言を貰うようになった。

 

 ミレイユ自身、既に引き出しは空っぽで助言できる事はもうない。またルチアも向上心があるものだから既に独自の形に昇華し、ルチアブランドとも言うべき物を作り出している。

 だから試作品を見せられても、見事な品であるという事以外、ミレイユには分からなかった。

 

「相変わらず見事な一品だ。どれも指摘できるような物はないし、色合いが合えば好きな石を使ってくれていい。敢えて言うなら、高値で売れそうなら、そうしてくれ」

「……それだけですか?」

 

 不満そうに口の先を尖らせるが、さりとて助言らしい助言も難しい。

 ミレイユはアクセサリーの一つ、ブローチを手に取った。エルフといえば木の葉を模したブローチが一般的で、代表作とも言える作品だ。数多くの品が生み出されてきたから、この木の葉も金属とは思えない見栄えをしている。

 この世に金の樹木があるのなら、そこから一枚取ってきたと言われても通用する出来栄えだった。しかし見慣れているからこそ、もう一捻りが欲しいと思ってしまうのだろう。

 

「ならばいっそ、こういうのはどうだ」

 

 ミレイユは魔力を込めて、手の中の金属を変性させる。

 木の葉から蛹のような形へ潰れ、そこから蝶が出来上がる。ルチアのような造形美に拘った物ではなく、デフォルメされた妖精のような形だった。その胴体部分が円形に空いており、石を嵌め込めるようになっている。

 何色を使うか、どの石を使うかによって、この羽根開く妖精の種類や気品も違って見えるだろう。

 

「まぁ……!」

 

 ルチアはそれを奪うように手に取ると、表と裏を引っくり返して確認する。そして、そのまま更に変性させて、羽の形を微調整し、あたかも今羽ばたこうとする瞬間を形作って見せた。

 

「素敵です。この中心にはどういった石が似合うでしょう? どれも違って、違えばまた違う瞬間を切り取って造りたくなってしまいます……! ミレイさん、貴女って本当に……!」

 

 ミレイユとしては蝶を模したブローチなど、別段珍しく感じるものではない。しかし、ブローチといえば木の葉という先入観が、ルチアの発想の邪魔をしていたらしい。

 この世界のアクセサリーを見物すれば、彼女なら幾らでも新たな着想を得るだろう。単にそれを先に知っているだけのミレイユは、何とも気恥ずかしい思いがした。

 

 感激で涙さえ浮かべ始めたルチアに、ミレイユは苦笑しながら他の品を返す。

 

「他の一切は何も心配いらない出来栄えだ。さっきも言ったが、好きに石を使って良い」

「分かりました――!」

 

 踵を返して出ていこうとするルチアだったが、ミレイユはその背に呼びかけた。

 

「今日は午前中、服を選びに行くからそのつもりでいろ。あまり石選びに時間を使わないように」

 

 その声に軽く声を返してルチアは部屋を出ていった。既に頭の中では数々の発想が出ては、その選別に思考を使っているのだろう。

 アヴェリンも呆れに近い表情でその背を見送り、ミレイユに向かって口を開いた。

 

「家を出る前は声をかけるのではなく、引っ張り出すようにしておきます」

「……そうしてくれ」

 

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