【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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神と人の差 その1

「全く、世話のやける……」

 

 ミレイユは開始線へと移動するアキラを見ながら溜め息を吐いた。

 アヴェリンの顔は見えないが、その気配から忌々しくも、また不甲斐なくも思っていると察せられる。ユミルとしては特に思う事はないらしく、完全に観戦者として見ているようだ。

 

「んー……、常にアヴェリンを相手にしていた弊害なのかしらね。それと魔物を相手にして来た事へも。アキラにとっては、命の危険が常に付き纏うものだったワケじゃない?」

「ああ……、だから身の危険を感じないと、その気になれないという事か」

 

 アヴェリンが納得したように呟いたが、しかしだから許せるという訳でもないようだ。吐き捨てるような物言いで続ける。

 

「戦士であるなら、相手がどうあろうと戦う気構えは出来ていているものだ。殺される心配がないから本気を出せないなど、戦士以前の問題だ。明らかに欠陥だろう」

「そうだけどねぇ……でも、アキラの気持ちも分かってやりなさいな。同格以下の相手なんて、最初のインプくらいなものでしょ? 命のやり取りを強要され過ぎたのよ。そのクセ、鍛練でさえ常に身の危険が付き纏うんでしょ? 欠陥というより、どこか壊れちゃってるんじゃない?」

 

 ユミルの指摘はミレイユとしても同意するところだ。

 だから戦力的に拮抗すると見た凱人だけでなく、ダメ押しの七生も参戦させた。これでも命の危険がないのは変わらないが、本気にならざるを得ないと頭ではなく身体で理解した事だろう。

 

 ミレイユはアキラに続いて開始線へと移動した、凱人と七生を見つつ言った。

 

「強い敵意や殺気を受けなければ本気になれない、というのは、これから教え込む事で克服できるだろう。……その為の学園でもある。今は頭と身体が理解に追いついていないだけ」

 

 そう言つつも、ミレイユはつまらなそうな視線をアキラへ向ける。

 

「とはいえ……この期に及んで理力の制御を始めないのは、何かそういうルールがあるからか?」

「まぁ、開始の合図が出るまでは自然体で、っていう取り決めはあるのかもね。制御速度も実力の内、開始後から始めて間に合いません、っていうなら、遅い本人が悪いだけ。……そういう事なのかも?」

 

 ミレイユはアキラと対戦相手二人を交互に見つめ、そして制御の動きがない事を認めてから頷く。ユミルの予想は正鵠を射ているだろう。

 制御は速度を求めれば、練度は疎かになるものだ。逆もまた然りで、丁寧に理力を練り込もうと思えば速度を犠牲にする。

 

 その二つを高いレベルで扱える事は理想だが、元より速度に向かないアキラである。このままでは二人に良いようにあしらわれて終わるだけだろう。それでは、わざわざ二人をアキラと戦うよう指示した意味がない。

 

 ミレイユは今にも合図を送ろうとしている鷲森に向けて手を挙げ、声を上げて止める。

 

「――待て」

 

 ミレイユの静かな一言で、振り下ろそうとしていた鷲森の腕が止まる。

 アキラや凱人達も構えを解き、鷲森は振り返ってその場に膝を付いた。

 

「お互いに、まず制御を始め、練度を高めてから開始しろ。……鷲森、見極めは任せるから、両者が高め終えたと判断した時に合図を出せ」

「畏まりました!」

 

 ミレイユが満足げに頷くと、鷲森は立ち上がって一礼する。アキラたちへと向き直ると、制御を開始するよう促した。

 即座に開始する凱人と七生と、それに一拍遅れてアキラが始める。

 

 アキラはその制御速度の遅さから、自然とスロースターターになってしまう。後半に近付くにつれ、その本領を発揮すると言えば聞こえは良いが、実力伯仲する間では序盤で押し切られて負けてしまう事を意味する。

 

 それどころか、本質的には勝っているのに、その実力を発揮出来ないせいで負ける事も多いだろう。鍛練中なら上手いこと加減されるから、長く打ち合う事を考えれば問題ないのだろうが、今回のようなケースなら、間違いなく汚点となる。

 

 先日アキラの鍛練を見た時、その最大まで高められた時の理力は決して凱人達に劣るものではなかった。これはアヴェリンとルチアが丁寧に制御を教えたお陰で、また()()()()ような制御訓練の賜物でもある。

 

 ミレイユが御由緒家へ施した修正をするまでもなく、アキラは非常に素直な制御練度を持っている。後は速度さえ出せれば、この学園でも上位に食い込む実力を誇るようになるだろう。

 ただし、問題点は未だ多い。

 手放しで褒められるものではないが、この学園にいる者たちにとっては、流石は御由緒家と言わしめるに相応しい実力と認知されるあろう。

 

 ミレイユは対戦相手二人へ視線を移す。

 結界内で制御を正してやったのは記憶に新しい。本日の試合内容を振り返ってみても、その制御技術は間違いなくモノにし始めている。未だ完璧とは言えないが、その兆候は窺えた。

 

 対し、アキラはその制御技術だけは二人に対し勝っている。理力総量は僅かに劣り、速度に至っては相手にならない。だが総量で大きく劣っていないなら、拮抗した勝負は出来る筈だ。

 互いに内向術士であるならば、最後に勝負の決め手となるのは、その戦闘技術と克己心になるだろう。

 

 アキラの理力が練り込まれ、ボールを膨らませるように身体中を駆け巡っていく。既に凱人たちは終えていて、アキラの準備を待っているところだ。

 後ろに控えている選手達は、その練度に舌を巻く気分のようだ。小さなどよめきが起こっている。これが本当に先程のアキラと同一人物なのかと、疑う気持ちすら生まれているだろう。

 

 凱人はそれでこそと認めるように両腕を開いて構え、七生は挑戦的な笑みを浮かべて木刀を構え直した。二人で相手する事に躊躇いはあったように見えたが、ここに来て、その甘さを捨てる事に決めたようだ。

 

 アキラも目を閉じて急速に巡らせていた制御を止め、木刀を正眼に構えて目を開いた。

 それが合図となり、鷲森が声を張り上げ腕を振り下ろす。

 

「……それでは、始め!!」

 

 

 

 最初に動いたのはアキラだったが、それに一瞬で反応して動いたのは凱人だった。

 剣道で使用する篭手に良く似た防具を両手に嵌め、ボクサーのように拳を肩の高さまで持ち上げて突進した。その直ぐ後ろ、ひと一人分の間隔を開け阿由葉も続く。

 

 以前も見たから知っているが、この二人は攻守を完全に分けて動く事に慣れている。単に二人を相手にするのとは違って、互いに何が出来て何が出来ないかと熟知している。連携にも長けていて、アキラにとっては、まるで腕が四本ある人間と戦うようにすら感じる事だろう。

 

 ――どう対処するのか見ものだな。

 ミレイユは元より試合観戦のつもりでここに来ていたし、少しは見応えのある勝負があるかもと期待する部分があった。普段はプロの野球試合を見ていても、高校野球はそれはそれで見応えがある、という具合に。

 

 しかし結果としては消化不良で、どれを見ても中途半端、退屈極まりないものだった。御由緒家はその中でもマシな部類ではあったが、相手が弱すぎて加減しなくては試合が成立しない有様だったし、ならばと思って一般組同士の取り組みを見ても、興味ひかれる試合はなかった。

 だからアキラに、今一度機会を与えるつもりで試合を組ませた。

 

 今度こそ見応えある試合になってくれ、と思いながらアキラの動向を見守っていると、どうやら凱人よりも七生を優先する事にしたようだ。

 その突進を躱し、凱人をやり過ごして七生に一太刀浴びせようというのだろうが、それを簡単に許すようなら壁役として価値がない。

 

 横へ跳んで回避しようとするアキラへ、凱人も張り付くように反応して、やり過ごさせる事を許さない。そうしている内に七生が逆にアキラの側面へ回って、無防備な肩へ一撃を振り下ろしたが、これには木刀を上手く回転させる事で、肩との間にクッションを作り直撃を避けた。

 

 だが、敵は一人ではない。

 凱人は壁役に違いないが、チャンスがあれば攻めにも転じる。

 七生の狙った方とは別方向から、捻り上げるようなボディブローがアキラの腹に突き刺さった。

 

 トラックに衝突されたかのような破壊音を響かせながら、アキラが吹き飛ぶ。しかし木刀を地面に突き付け、体勢を立て直すと共に、地を蹴りつけ再び攻勢に戻る。

 まるで攻撃を受けた影響を考えさせない、俊敏な動きだった。

 

 周りの生徒からは悲鳴のような声が上がったと同時に、アキラの反撃を見て歓声を上げる。

 避ける事は不可能と察したアキラは、凱人と対峙する事に決めたようだ。直線的に接近すると、肉薄すると同時に木刀を振り下ろす。

 しかし直線的な動きは分かり易い。回し受けの要領で木刀を捌き、空いたもう片方の手で突きを繰り出す。

 

 だがそれはアキラにも分かっていた事のようだった。

 木刀から片手を離してその突きを防ぎ、受けた衝撃で一歩後ろに下がると、それと同時に構え直して逆袈裟に凱人の顎を狙う。それはスウェーで躱されるが、アキラは一歩踏み込んで更なる追撃を繰り出した。

 

 凱人はそれを両手で受け止める。

 凱人の小手は何かしら付与された形跡が見られないので、本当に単なるスポーツ的な防具に過ぎないだろう。力一杯振り下ろされて、パァンと小気味よい音が響く。

 衝撃も相当なものであったろうに、それに痛痒を感じさせない反撃をするのは、流石の壁役、由衛の面目躍如と言ったところか。

 

 アキラは次の一撃を繰り出す前に、凱人の腹を蹴りつけ距離を離す。

 敵は一人ではない。アキラの隙を窺って、いつでも一撃を加える機会を狙っている。その七生が堪えきれなくなったのか、凱人の後ろに隠れるのを止めて突っ込んで行った。

 

 彼女は剣士として思うところがあったのかもしれない。

 それとも、アキラの一太刀を見て、余人を交えず剣をぶつけ合いたいという欲が高まったか。

 ともあれ、七生は逃げたアキラを追いかけて木刀を振るう。

 

 それを横に躱し、次の一撃を身体を横へ軸移動だけで躱し、更なる追撃を木刀で逸して躱した。

 そこから更に続く連続の猛攻にも、アキラは一撃も受けずに回避を続ける。七生の顔に焦りが生まれた時、アキラが肉薄し両手の間、柄の部分で鍔迫りの形へ持っていった。

 

 ガチッと七生の木刀を受け止めると、そのままスライドさせて七生の手まで到達する。互いに木刀を垂直に立てるような形になったが、武器を封じたつもりかと思った瞬間、アキラの身体が沈み込み、持ち上げるような動作で七生の事を突き飛ばした。

 

 七生を嫌がって距離を離したようなものだが、両腕を大きく振り上げた動作は凱人の恰好の的だ。先程と同じ場所にボディを打たれ、アキラが吹き飛ぶ。

 またしても、観戦している生徒から悲鳴が洩れた。

 

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