【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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神と人の差 その3

「あらら……」

 

 ユミルの呆けた様な声とともに、小手は見事命中し、アキラの体勢が崩れる。その絶好の機会を見逃す相手でもなかった。命の危機を感じた為か、七生もまた実力以上の理力を練り込み、横薙ぎの一撃を放つ。

 その握力があまりにも強かったせいで、柄を握り潰して砕く程だった。

 

「……ちょっと。頑丈な木刀だと思ってたから、すっかり付与された武器かと思ってたけど、案外そうでもないの?」

「されてはいたようだ。しかし術士の力量の問題だろう。不壊までは出来ず、頑丈程度の武器にしか、ならなかったのだと思う」

「あらまぁ。色んなところで、力量の低さが露呈していくわね……」

「だが、折れた事でアキラへの衝撃は最小限になった。もしも不壊の付与がされた武器だったら、死ぬまではないにしろ、危険な状態になっていたのは間違いない」

 

 学校の備品として本業がやった物もあるだろうが、授業の一環として作成した物が混じっていたりもするのだろう。あるいは学生としては十分な力作だったのかもしれないが、七生はそれを上回り、砕く程の練度を見せた訳だ。

 そして、だからこそアキラも九死に一生を得た。

 

 その七生の一撃を受けたアキラは、これまでとは比較にならない衝撃を受けて吹き飛んでいく。既にまともな意識が消えかかっていたように見えたし、これで完全に飛ばされただろう。

 元より勝てる試合ではなかったが、間違いなくアキラの糧にはなった。

 そしてこれは、七生と凱人にも言える事だろう。他の生徒に対しても、一種の意識改革となったなら、今回の試合を組んだ意味があったというものだ。

 

「これは……勝負あったわね」

「そうだな。良いところが全く無かったとは言わないが……、まぁこんなものだろう」

 

 アヴェリンは普段から鍛練をしてやる間柄だから、多焦点が辛くなるのだろうが、ミレイユとしては概ね満足した内容だ。アヴェリンと剣を交える場面は見ていても、やはり実力の近い相手なら余程良い動きをする。

 

 終了の宣言をしようと、ミレイユが声を上げようと思ったところで、アキラがふらつく足取りで立ち上がった。そして一歩踏み出す姿勢で、唐突に動きを止める。木刀も構えているが、既にアキラには意識すらないだろう。

 気力も体力も精も根も果てているのに、立ち上がって構えて見せたのは感心する他ない。

 

「……ちょっとちょっと、アタシったらアキラのこと見直しちゃったわ」

「ほぅ……。あれだけやられて尚、立ち上がって構えたというなら、これは素直に褒めてやらねばならん」

「そうしてやれ。……だがよくもまぁ、そうさせるまで仕込めたものだ。完全に意識を失っている筈だが」

 

 ミレイユが含み笑いで感嘆とした息を吐くと、アヴェリンも腕を組んで満足気に笑みを浮かべて何度も頷いている。弟子の育成結果に満足しているようだ。

 

 だが七生たちにはそれが分かっていないのか、更に追撃する姿勢を見せた。

 アキラも目を閉じている訳でもないから、未だ失っていない眼光に勘違いしてしまったのかもしれない。

 流石にあの状態で一撃を受けたら死んでしまう。それを止める為に立ち上がり、ミレイユは朗々と声を響かせた。

 

「――それまで。勝負あった」

 

 まるでその声を、アキラが理解しているかのようだった。

 ミレイユが声を発し、その僅か二秒後に武器を構え手放さぬまま、アキラは横倒しで崩れていく。固唾を呑んで見守っていた生徒たちは、倒れたアキラを見て悲鳴を上げ、中には即座に動いて駆け寄っていく者もいる。

 

 直接アキラの目を見ていた七生は、一瞬ミレイユの言った事が理解できないようだった。呆然として動きを止め、倒れたアキラを見て漸く事態を理解した。

 次いで顔を青くさせ、凱人を引き連れアキラの元へ走っていく。制止の声がなければ、無防備な相手に渾身の一撃を加えていたところだと気付いたらしい。

 

 ミレイユは椅子に座り直して、生徒に取り囲まれたアキラを見る。倒れる瞬間を見た限り、命に別状はない。怪我は多いだろうと思われるが、そもそも内向術士は怪我に強い。一日ゆっくりと眠るだけで大抵の傷は良くなる。

 

 今回のような傷は、アヴェリンと鍛練している間には良くあったものだ。

 取り立てて騒ぐような事でもない、というのがアヴェリンを含むミレイユ達の感想なのだが、学生たちには刺激が強かったようだ。

 

 授業中に気絶するまで戦い続けるという、馬鹿な振る舞いをする者はいない、というのも理由の一端な気がする。普通はその前に降参するのだろうが、アキラに降参などという選択肢は、鍛練を始めた当初から与えていないなかった。

 

 それはこの学園で異色に映るだろう。

 これが今後の学生生活に吉と出るか凶と出るか、それは分からないが実りあるものになる事を祈ろう、と他人事のように考えていた。

 

「何はともあれ、これで一通りの試合は見た訳ですか」

「二年生の試合はな。あと一年と三年の試合が……、つまり今の倍の数が控えている」

「それはまた何とも……。一つ見れば十分なのでは? 全体の評価は変わらないでしょう」

「それはそうなんだがな……」

 

 アヴェリンの言う事は確かだった。

 二年生より一年生は実力的に乏しく、三年生は秀でた者がいたとしても、大きく違うような事はないだろうと思えた。二年全体と三年全体を見比べた時、そして御由緒家を抜きで考えた時、その差はあっても大きなものにはならない筈だ。

 

 学園全体における評価は、殆ど決まったと言って良い。それでも見なくてはならないと判断する理由は、一重に生徒が実力をアピールする場として認識している事にある。

 オミカゲ様の御前試合みたいなもので、既に学園側が焚き付けたお陰で後はもう見ないと言えない雰囲気が出来上がっている。

 

 勿論、ミレイユはそれを無視できる権利も権限も持っているが、これは同時に御子神の紹介を兼ねている。生徒達に良い印象を与えようという気は更々ないが、今後の授業で実力の底上げをしていく事を考えると、軋轢は少ない方が良い、とう打算もあった。

 

「……ま、折角来たんだ。見るだけ見てみるさ……。案外、面白い逸材がいるかもしれないしな」

「そうだと宜しいのですが……」

 

 アヴェリンは期待するような素振りを見せたが、実際はそんな事はないだろう、という諦観に満ちている。ミレイユにしても同じようなものだ。

 精々、一年にいるという由喜門の次期当主に期待できるくらいだ。

 それとて戦闘用ではないと聞いているので、このような試合内容では大きな見せ場にはならないだろう。彼女のような支援型は後方で控えている事に価値がある。

 

 ミレイユはアキラの方を見つめながら、生徒の中にいた治癒術士が懸命に手当てするのを見る。誰が治癒するかで揉めている辺り、特別な才能があったところで、どこまで行っても学生でしかないんだな、と冷ややかな目で見つめた。

 

 それはユミルも同様だったようで、誰か一名が押し退けて治癒に当たる光景を見て、溜め息を吐く。一段低くなった声で、呆れた様子を隠す事なく告げた。

 

「子供のお遊びかっての」

「どっちの意味だ? 誰が治癒するか揉めた方か? それとも術の練度に対してか?」

「……どっちもだけど、どちらかと言えば術の方ね。もう少しマトモに行使できないの?」

「遊んでいるようには見えないが……。教える奴すら、あの程度だという可能性もある」

「ないでしょ……ないわよね?」

 

 否定しようとしても、しきれない不安があった。

 彼女らは決して無能ではないが、今の治癒術や基本の制御術を見ても、不正確な方法で行使しているように見える。間違っているとは思っておらず、それが正解だと思って使っているのだ。

 

 御由緒家とて似たようなものだったのだから、これが彼女らの――学園での常識なのだと類推できてしまう。教導役だと言っても、もう少し楽なものを想像していたが、これは相当に根が深いのかもしれない。

 

 御由緒家くらいしか、現世の理術士を知らない事が仇になった。

 無意識にあの程度の力量はあるのだと思いこんでしまっていた。理力総量や練度に違いはあっても、根底となる技術は身に付いているのだと。

 しかしそれは、余りに楽観的な考えでしかなかったようだ。

 

「でもまぁ……、今更驚く事でもなかったかもね。ちょいちょいと制御技術を弄ってやれば、今より遥かにマシになるでしょ」

「簡単に言うよな……。他人事だと思って」

「だってアタシには出来ないもの」

 

 そう言ってユミルは笑った。

 ユミルだけではない、ルチアにも出来ないし、他の誰にも出来ないだろう。これはミレイユだけに許された、それこそ神の素体として持つ能力故だ。やり方を教えたからと出来る事でないのは納得できるが、それを高みの見物されるのはどうにも癪だった。

 

 何か意趣返しの方法でも考えよう、と心の中で決めたところで、鷲森がおずおずといった調子で近付いてくる。そちらに目を向ければ、不躾でない距離まで近付いてから膝を付いた。

 

「本来は真っ先に私が中断の合図を出さねばならない事でした。御子神様へ余計なお手を煩わせました事、伏してお詫び申し上げます」

「……うん。謝罪を受け取ろう。だが、あのアキラは外から見ると非常に分かり辛かった。元よりあれを知っていればこそ出来たこと。お前も今後は注意すれば良い」

「はっ……! 寛大なお言葉、ありがとうございます!」

 

 謝罪する相手から、その謝意を受け取らないのが一番拙いと、この短い御子神生活から学んでいる。まずは受け取った上で、下手な慰めだろうと口にするのが大事なのだと、最近分かってきた。

 

 特にミレイユとどう向き合えば良いのか、というのはこの日本国においても難しい問題で、蔑ろにしないのは当然としても、神としてどこまで敬えばいいのか分からない部分がある。

 オミカゲ様の御子なのだから、それ相応の対応で、と言っても王女のような扱いというのも違う。子とはいえ、一柱の独立した神という認識なのだ。

 

 しかし、オミカゲ様と同立させるのも憚りがある。

 それがまだ定められていないし、未だ正確な通達がないせいで、こうしてミレイユと対面する者は非常に扱いに困るという事態に陥っている。

 

 申し訳ないと思うと同時に、ミレイユを正式な神と発表できない事情もあった。下手に信仰を得て世界に縛らせたくない、という考えが根底にある為だ。

 ミレイユにしろ、この世界で生きていく希望を捨てたくないから、こうしてやりたくもない教導などを引き受けている。しかし最後の保険として『世界渡り』の可能条件は残しておきたいという、オミカゲ様の考えも理解できるのだ。

 

 ミレイユは鷲森を下がらせ、アキラを見る。

 そこでは、その場で半身を起き上がらせ、称賛と心配の声を掛けられ照れる姿を見ることが出来た。褒められ慣れていないアキラだから、これほど簡単に意識を取り戻した事にも称賛される意味が分かっていないらしい。

 ミレイユはその困った顔を見ながら、小さく頬をほころばせた。

 

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