【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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神と人の差 その8

 凱人の意図は理解できる。

 漣は即座に反応し、倒れた小隊へと駆け寄る者たちをフォローするように、入れ替わりで参戦した。倒れた小隊へ御子神様が攻撃するとも思えないが、それを救助しようとする小隊へは何かしら干渉するかもしれない。

 

 漣の役目は、途切れなく攻撃する事で、その余裕をなくす事だ。

 支援組へとハンドサインを出して、ありったけの支援理術を要求しながら、漣は理力を練っていく。その制御速度は実に見事で、他の者たちと比較するには申し訳ない程の開きがある。

 

 行使するのは漣の十八番、『火炎連弾』。名前のとおり、火球を連続射出する理術だ。威力も制度も桁外れに成長した理術は、少しの間でも漣へ釘付けに出来る筈だった。

 

 漣が率いる部隊は攻勢理術中隊で、非常に攻撃的であり、外から一方的に相手を縫い留める事ができる。他の小隊と連携すれば、あらゆる種類の攻勢を仕掛ける事も出来る。

 単純な攻撃一辺倒だけでなく、凍結や突風、沈下など、多くの妨害をしながらダメージを与える事も可能だ。相手次第では完封すらできる布陣だった。

 

 漣の理術行使を皮切りに、他の二個小隊も攻撃を始める。残りの一個小隊が支援班で防御壁を展開しては、無防備になる攻撃班を反撃から守った。

 

 御子神様はあっという間に煙に紛れ、見えなくなってしまう。

 突風で煙を飛ばして目標を露出するのも他の小隊の役目だが、今は縫い付けることを優先したかった。

 

「泥濘を張れ! 即座に凍らせて動きを封じろ!」

 

 凍り付いた泥濘はコンクリート並に硬くなる。それすら時間稼ぎにしかならないだろうが、とにかく撃ち続ける時間が伸びればそれで良い。

 漣達の中隊による攻撃がどれほど有効なのか、それを確認したかった。無傷ではないだろうという確信がある。ならばどれだけ傷を負わせられるか、それが分かれば後の展開に役立つ。

 

 今はまだ序盤、七生達が動き出す頃には、少しでも御子神様の実力の底を計っておかねばならない。自分を捨て石にするかのような考えだったが、それぐらいの気持ちで挑まなければ神に太刀打ちできないだろう、と漣は思っていた。

 

 漣が一度に打ち込める数は決まっている。

 これは練度の問題ではなく、理術としての設計だった。だから一度撃ってから次の発動まで、隙間となる時間がある。その隙間を埋める為に、同じ小隊のメンバーがそれを補う術を放つのだが、その術の着弾音が聞こえなくなった。

 

 煙すら誰も使っていないというのに、勝手に晴れていく。

 いや、勝手にではない。誰もがやっていないというなら、やれる者は一人しか残されていないのだ。

 

「手を止めるな! とにかく続けろ!」

 

 煙が晴れた場所から現れたのは、煤すら付いていない、無傷の御子神様だった。

 自分たちの攻撃が全くの無力だと知って、思わず呆けてしまったのは責められない。漣としても、自分の理術には自信があった。これまでの僅かな期間で、以前の自分とは比較できない飛躍を見せたという自負もある。

 

 程度の差はあれど、他の小隊も似たような気持ちであったろう。

 だが無事な姿を見せられてしまえば、攻め方だって見失う。何をすれば、という迷いも生じる。絶望にも似たような思いが沸き起こる中、御子神様を凍った泥濘に膝下まで埋まっていた足が動き出した。

 

 ピシリ、と一度亀裂が入ると早かった。

 まるで飴細工のように呆気なく、簡単に砕けてしまい、足を持ち上げて凍った泥濘の上を歩き出す。一歩踏み出し近づく毎に、その身体が巨大になっていくように錯覚した。

 

 決して動きやすいとは言えない神御衣、巫女服を豪奢にしたような見た目だから、当然戦闘にも向いていない。袖付けより下の、垂れ下がった袂など、腕を振るうには邪魔にしかならない。

 

 しかし、その僅かな腕の動きだけで制御は終了し、着弾する直前に無効化させてしまう。無効化に見えるだけで、別の何かかもしれないが、全く効果的でないという意味では同じことだ。

 その、圧倒的な制御速度は神業というに相応しく、努力だけで到れるとは思えない隔絶した練度を思わせた。

 

 御子神様が一歩踏み出す度に、生徒達から恐怖が滲み出て来るようだった。

 だが、小隊の誰もが恐怖してしまう訳ではない。その歩みを止めてみせようと奮起する者もいた。

 

「なんで……! なんで、こんな……!?」

 

 それは小隊の一つを任せられた女生徒で、だが人が歯牙にも掛けられず、一顧だにされず前進するのを見て、悔しさに塗れた声を出した。進む速度は牛歩の歩みで、まるで本気になっていないのは分かる。

 あえて攻撃させ、あるいは妨害させ、その実力を量る目的があるのだろう。

 

 しかし己の全力が、あらゆる手立てを講じて放たれる理術が、全くの無意味だと知らされるのは心に重かった。

 

 ――何をすれば止められる?

 漣の胸中をよぎるのは、その疑問だった。漣も攻勢理術を切り替えて、様々な攻撃を繰り出してはいる。しかし、それは腕の一振りと共に制御を完了させた御子神様に、その全て無効化されていた。

 

 あまりに早すぎるその制御速度は、有利な筈の先手を追い越して、その防衛理術を完成させているように見える。後の先を取られているのだと分かるのだが、対応しようとするのは全て漣に対してだった。

 

 他の者も同様に様々な術を行使しているのに、そちらの方へは一顧だにしない。そこにカギがあるような気がした。

 注意を向けるべきは漣だけで、他を取るに足らない、防御する必要すらないと考えているなら、漣が使う術とは相反するものを使わせれば、効果を出せるかもしれなかった。

 それに――。

 

「皆、霧を出せ! 直接当てるな、周囲に展開させろ!」

 

 ――泥濘凍結は無効化されていなかった。

 直接的に理術をぶつけるのではなく、その床や壁など周囲を利用するなら、全くの無意味ではないかもしれない。

 

 同じ方法では対処される可能性が高い。

 漣は出現した霧に風を送り込み、その周囲を回転させて濃霧を作った。まるで綿飴に包まれているように、御子神様の周りだけ不自然に霧が濃い。

 

 単純に視界を奪うだけが目的なら、こんな回りくどい方法は取らない。これもあくまで時間稼ぎのつもりだが、それだけという訳でもない。

 支援班から更なる増強を要求して、その練度を底上げさせると、全員示し合わせて土壁を築く。

 

「霧を囲うように作れ! 八面体で、急げ!」

 

 漣の宣言で即座に壁が築かれ、御子神様がいるであろう場所を完全に取り囲んだ。このままでは単に目の前に壁があるだけの、嫌がらせに過ぎない。

 視界が利かないとはいえ、目の前に壁があろうと横や後ろへと迂回しようと考えず、壁を壊して進もうとするだろう。だが、そこでわざわざ事前に用意した、綿飴程の強烈な濃霧が役に立つ。

 

 漣は再び指示を出し、示し合わせて理術を制御する。

 それは泥濘の時にも使用された、凍結の理術だった。

 

「今だ、空いた上から流し込め!」

 

 漣の合図で同時に凍結理術が放たれ、グラスの中に液体を注ぐかのように膨大な量の凍結術が流れ込む。逃げ場もないのは御子神様だけではなく、その凍結術も同様だった。

 溢れ出るものは止めようがないとはいえ、濃霧自体に害はなく、無効化するような警戒はされていなかった筈。ならばそれを一瞬で凍結させれば、その動きも止められると予測したのだ。

 

 だが、泥濘がそうであったように、止めていられる時間は長くないだろう。片手で数えられる程の時間でしかないかもしれないが、その時間だけ足止めできるだけでも重畳だった。

 

「壁を狭めろ! 時間との勝負だ!」

 

 各人が出した八面体になった壁が御子神様に向けて動く。

 最初は十分な距離を取って作られたものが、今では大人三人が入れるだけの狭いスペースになっている。凍結の冷気が上から溢れ、白い靄が天井付近から垂れるように流れてきた。

 

「壁を増やせ、二重にでも三重にでも、時間が許す限り作るんだ!」

 

 漣の指示で壁一枚の八面体が、更に更にと押し込めるように囲っていく。

 それを見ながら、漣は漣で別の理術を制御していた。

 

 御子神様は明らかに漣の理術を意識していて、他を切り捨て漣にだけ対応する術を都度使っていた。それは他の者では使うまでもなく無効化できるからかもしれないが、漣だけは対応しなければ防げないという意味だと察した。

 

 霧で視界を塞いで、なんの術か分からいまま使っても効果はあったかもしれない。

 しかしそれでも、効果が出るようなビジョンが見えなかった。精々火傷は負わせられるかも、という程度で、やはり意味はなかったろう。

 

 漣が使える術の中には四腕鬼を倒せるだけの威力を持つものもあるが、あれは仲間への被害を考えると容易には使えない。

 そこで用意したのが壁だった。これだけなら単なる封じ込めとしか見えないだろうし、即座に壊すにしろ、凍結させれば少しは身動きを遅らせられるだろう。

 

「お前ら、下がってろ!」

 

 漣が渾身の理力を練って飛び上がる、ポッカリと穴を開けてる八面体の口へ、全力の爆炎術を解き放った。

 未だ御子神様の動きはない。一秒でも遅れていたら壁は壊され、漣の術は味方殺しとなっていた恐れもある。しかしそれは見事に着弾し、八面体の穴の中で大爆発を起こした。

 

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