【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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天の川(・・?)様、誤字報告ありがとうございます!
 


幕間 その3

 当然の事だが、七生と凱人による二対一の戦いは常時有利に展開されていた。

 アキラの力は強い。七生もまた相当だという自負はあったが、アキラに制御速度がない分、その力に変換される練度は並外れている。

 

 動体視力や純粋な身体能力に掛かる制御が抜群に上手く、七生でさえ的確な反撃を逃し、更に有効な一太刀を打てないでいた。

 また時に当たっても、それに怯まぬ防御と胆力を持っている。

 痛みを無視しているだけなのか、それとも上手く制御しているのか判断出来ない。

 

 阿由葉が攻撃寄り、由衛が防御寄りと言われているが、このアキラはその中間という気がした。どちらに特化しているというよりは、バランス型なのだ。

 無論、それが最も理想的であるのは七生も知っている。全てを高水準で纏めるのが、最終的に行く着く理想形だろう。

 

 しかし現実はそう上手くいかない。

 才能という問題もあるし、どちらかに特化した方が強くなるという部分もある。七生は防御に寄った制御が、どうにも上手くいかないのと同様、凱人もまた単純に攻撃に回すのが苦手だ。

 

 それもこれも、これまで使ってきた制御術にあったのだろう、と今更ながらに気付かされる。

 攻撃に最適化された制御法だからこそ、防御が苦手となる歪な制御になっていた。現在の形なら、それも克服できそうだが、染み付いた癖というのは中々消えてくれないものだ。

 

 理想的な制御形態を作るのは、まだ時間が掛かるだろう。

 初めから、変な癖なく伝授された制御法だからこそ、アキラはそこまでバランス良く理力を練られるのかもしれない。

 

 最初は七生単独でも有利に試合を進められていたが、それにも陰りが見えてくる。

 そして遂には七生とアキラの立場が逆転し、アキラの連撃が七生を攻め立て続けた。剣術の腕前で言えば、明らかに七生が勝っている。しかし、それでもアキラは予想以上の粘りを見せて七生を苦しめた。

 思わずその表情にも焦りや苦悶が表に出て来る。

 

 しかし七生にも意地がある。アキラの木刀は一度も七生に有効打を与えさせていない。

 しかし、その一撃は回数を重ねる毎に重くなっていき、七生は受けるので精一杯になって来た。本来なら反撃に移れそうなタイミングさえ、大きく体勢を崩された後では、それも適わない。

 

 そして何より厄介なのが――。

 

「くぅ、この……っ!」

 

 七生が隙を突いて放った一撃が、アキラの腕を打った。バランスは崩せるものの、それを意に介した様子もなく攻め立てて来る。

 

 ――私の一撃は、こんなにも軽かったの?

 

 今まで思った事もない不満が胸中を駆け巡る。

 七生の一撃が有効打たり得ないというのは、そう思わせるには十分だった。骨を打った音が鳴っても、動きを止めないので攻めきれない。

 

 だがアキラの一撃もまた、七生には届いていない。単純な剣術勝負として見た場合、まだ七生に軍配が上がる。御影源流の刀法を伝授されているという自負もある。そう簡単に一本与えるつもりはなかった。

 

 アキラはそれでも構わず連撃を仕掛けてくる。その合間に、七生は針の穴を通すような一撃を放ち、胴を叩く。しかし、やはりアキラは止まらない。その木刀を押し返すように前進を続けて来る。

 

 遂にアキラの一撃が七生の頭上へ振り下ろされる、という瞬間、横合いから凱人が殴りつけ、アキラを横っ飛びに吹っ飛ばした。

 

「凱人、余計な事しないで!」

「そうも言ってられん。二対一は健全でも対等でもないが、チームとして戦えとの仰せだ。そのピンチに黙って見ている壁役がいるか」

「く……っ!」

 

 アキラは何度吹き飛ばされても、その速度も力も落とさず愚直に向かって来る。

 運動着の下は見えないが、既に青痣や出血、骨にヒビなど惨憺たる有様になっている筈だった。それなのに、まるで意に介していないように猛攻を続けようとしている。

 

「全く……、痛みがないのか! 効いてない訳ないだろうに!」

 

 悪態をつきながら振り被った拳が、アキラの突進に合わせて突き刺さる。殴り付けた腹に拳が大きくめり込み、そして吹き飛ばされるより前に、アキラの木刀が凱人の防御に回していた肘を下から叩いた。

 思わず呻いて腕の防御が外れる。アキラの木刀の切っ先がその頬を掠め、そこから一筋の血が流れた。

 

 アキラは吹き飛び、そしてもんどり打って床を転がり――そして今更驚く事もないが、再び床を蹴りつけ突進して来た。

 凱人はアキラの眼光に充てられ、明らかに怯む。

 アキラは既にこれを試合だとは認識していない。動けなくなるまで死力を尽くして動くし、動けなくなれば死ぬと判断しているかのようだった。

 

 骨の一本、ヒビの一箇所程度、アキラにとっては怪我の内に入らないとでも言うのか。

 終わりの合図が出るまで、どこまでも愚直に突き進み、その動きを鈍らせるような気配を見せない。――その所為なのかもしれない。

 その必死と決死の思いが、試合をしているだけと思っている凱人と明暗を分けた。

 

 呼気と共に振り抜かれる一撃は、それまでの一刀より尚鋭いものだった。

 凱人はそれを両腕で受けたつもりだったが、先程受けた肘への一撃が踏ん張りを利かなくさせていた。片腕が流され、上手に攻撃をいなせてない。

 

 アキラはその動きに合わせて体捌きを変え、流れた腕に合わせて横へ動き、剣ではなく体術の技で凱人を転ばせた。くるぶしを蹴りつけ、体勢が崩れた所を押し込もうとし、それに反発するように動いた凱人の動きを利用して転倒させる。

 

 そして倒れた凱人には目もくれず、アキラは七生へと急接近しようとした。

 それまで愚直なまでの突進だったのに関わらず、今だけは左右へとフェイントを交えながら向かっていく。これには七生も焦り、その対応に一瞬遅れた。

 

 今までの愚直さは、正に起死回生の一手として使う為の布石だったと、七生は今更ながらに気が付いた。そして気付いた時には、構え備えた所とは違う方向から木刀が向かってくる。

 アキラと目が合った七生は、その決死さに身が竦んだ。避けきれないと思われた一撃だったが、衝撃音と共にアキラの身体が横にズレていく。

 

 何がとは思ったが、その絶好の機会を逃す七生ではない。

 アキラに充てられ、死の危険さえ感じた七生は、その生存本能を余すことなく発揮した。腕の動きはそれまで以上に俊敏に、そして木刀へは最大級の力を込め、奇跡とも言える威力を持った一撃がアキラを打った。

 

 そのインパクトの瞬間、木刀の持ち手が砕けてひしゃげ、刀身まで縦割れのヒビが走る。

 アキラが吹き飛ぶのと同時に木刀は割れて、手の内から砕けて落ちた。アキラは吹き飛び、床に落ちると横へ何度も転がる。

 

「ハァッ、ハァッ、ハッ……!」

 

 アキラの決死に充てられ、七生もまた決死の一撃を放った。

 呼吸は乱れ、鼓動はそれ以上に乱れている。

 だが七生の中に油断はなかった。

 アキラは何度でも起き上がり、そして決死の武器を振るう。その確信があった。武器は七生の手の中で砕けたが、戦えなくなった訳ではない。それなら無手で戦えば良いだけだ。

 

 七生も決死の表情で腕を上げて構えを取り、予期していた通りにアキラが立ち上がった。そして一歩踏み出す姿勢で、唐突に動きが止まる。木刀を構え、今にも飛び出してくるという体勢なのに、まるで動き出す様子がない。

 

「……何? 怖いわね」

 

 受けた後のカウンターを考えていた七生だが、こちらから攻め込む事も考えなければならないか、と構えを変えた時、朗々と響く声に動きを止めた。

 

「――それまで。勝負あった」

 

 七生は御子神様の声を、最初なにを言っているのか理解できなかった。

 だってアキラは立っている。立ち上がる限りは武器を振るう相手であると、七生はこの短い時間で理解していた。そしてそれは、どちらかが倒れるまで終わらない。

 

 だが同時に、決死の表情のまま微動だにしないアキラを不思議にも思った。

 既に踏み出す力が残っておらず、待ちの構えで迎え撃つつもりなのかと怪訝に見据えた。そして唐突に、ゼンマイの切れた玩具のように、武器を構え手放さぬまま、アキラは突っ伏すように倒れて崩れた。

 

「うぁぁあああ!?」

 

 観戦していた生徒たちから悲鳴が上がる。

 幾人かの生徒が駆け寄って、治癒術をかけようと隣に膝を付いて腕を翳した。彼女は泣きそうな顔をさせながら、それでも必死に理力を制御して術を行使しようとしている。

 

「嘘でしょ……」

「たかが練習試合なのに、気絶する直前まで武器を振るえるヤツがいるのか……」

 

 自分に同じ事は出来ない、と言外に語っているかのようだった。

 凱人は七生の近くまでやって来て、近くに落ちている小手を拾った。

 それでにわかに理解した。七生に絶好の機会と木刀を振るった瞬間、アキラの体勢が不自然に崩れたのは、凱人が理力を纏わせた小手を投げつけたからだ。

 

「またやってくれたわね……」

「いや、今回ばかりは間違っていない。あれは頭部を狙っていたし、受けたら死にかねない一撃だった。アキラの奴、おかしくなったのかと思ったが……もしかしたら既に意識はなかったのかもしれん」

「そう……かも。あの表情、あの視線、背筋が凍るほど恐ろしかった。この身と引き換えにしてでも、っていう死を厭わぬ攻撃に見えた……」

「俺もだ。その時から既に意識がなかったというなら、相手を慮らない攻撃も頷ける。――そして、ああまでなる程の鍛練を、日常から受けていたという事にもなる」

 

 七生は顔を引き攣らせてアヴェリンを見る。

 気絶するまで身体を動かせ、そして死ぬなら諸共、と意識の根底に刷り込ませる程、日頃から過酷な鍛練を課す相手……。

 恐ろしものを見るように、畏怖の表情で見つめたが、当人はどこ吹く風でアキラを見ては、満足げな表情で頷いていた。

 

 そして唐突に気づく。七生もいつまでも呆然としていられない。

 介抱の一助でも出来ないかと走り出し、その無事を祈りながら走り寄った。

 

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