【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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こちら、二話連続更新の二話目になります。
お読みになる際、ご注意下さい。


希求 その8

 そのガラス管の先端はコルクで蓋がしてあり、一見すれば化学室に置いてある試験管のようにも見える。

 

 アキラは怪訝にユミルと試験管を交互に見つめる。

 

「何ですか、これ?」

「元気の出るクスリ」

「……緑色してますけど」

「普通よ。それが普通」

「どこかに塗ればいいんですか?」

「馬鹿ね。飲むに決まってるでしょ」

 

 アキラは明らかに怯んで、顔を顰めつつも丁重な手付きで試験管をユミルに返した。

 

「お気持ちは嬉しいんですけど、ちょっとよく分からないものを口に入れるのは……」

「あら、そうなのねぇ。でも関係ないわ、飲みなさい」

 

 手に持った試験管をアキラの頬にぐりぐりと押し付ける。その手を払い除けようとアキラも奮戦するが、どうにも力が出ず良いようにあしらわれていた。

 見かねてミレイユが口を挟んだ。

 

「それはスタミナを回復させる水薬だ。飲めば学校の授業も随分と楽になるだろう」

「え、これが噂に聞く、伝説のポーションなんですか?」

「どういう噂かは知らないし、伝説でもないけど、それよ。ミレイに頼まれて作ったんだから、感謝して飲みなさい」

「ミレイユ様から……!?」

 

 そうと言われて、更に押し返す気力はなかったらしい。

 ユミルからおずおずと試験管を受け取ると、蓋を取って匂いを嗅ぐ。途端に顔を顰め、縋るような目をして見てくるアキラに、ミレイユは頷き返して飲むように促す。

 

 意を決したアキラが試験管に口をつけ、一気に呷って嚥下する。

 試験管から口を離したアキラは、えずくように顔を歪ませて、空になった試験管をユミルに返した。

 

「うげぇぇえ……!」

「ホントに飲んだ」

 

 思わずと言った感じで、ポツリと呟いたユミルに、アキラは素早い動きで首を巡らす。

 

「ちょっと、本当に飲んだってどういう意味ですか!」

「ああ、いえ。ミレイの言う事なら、ちゃんと聞くのよねぇ、と思って」

「そうは聞こえませんでしたが!?」

「そんなワケないでしょ。被害妄想も大概にしなさいな。……ところで話は変わるけど、気分が悪くなったりとかしてない? 吐き気とか動悸の異常とか」

「それ本当に話変わってます!?」

 

 椅子から立ち上がり、掴みかかろうと手を伸ばして、アキラは不意に動きを止めた。

 自分の腕を見下ろし、次いで足を見下ろし、太腿を揉む。膝を小さく曲げては伸ばすを繰り返し、ユミルを驚嘆の眼差しで見つめた。

 

「これ、これ……どうなってるんです!?」

「ちゃんと効いてるみたいで安心したわ。最悪、爆発四散すると予想してたけど」

「は!? 何てモノ飲ませてるんですか!?」

 

 ユミルはカラカラと笑って、手を振った。

 

「お馬鹿ね、そんなワケないでしょ? 効果が薄かったり、最悪ただ苦いだけの液体ってだけで、後は肌が緑色になるくらいよ」

「ちょっと、最後! 最後の最悪ですけど!」

 

 指を突きつけて唾を飛ばすアキラを軽くあしらい、ユミルは自分の席に座る。そうしてミレイユに伺い立てるように問いかけた。

 

「作るのは別にいいんだけど、材料が磨り減っていくだけなのも怖いのよね。こっちの世界で代わりになる素材はないかしら」

「即座には思いつかないが、探してみよう。こっちじゃ自生している植物は雑草ばかりだからな……」

 

 思案顔になったミレイユに、アヴェリンも頷いて今日見てきた事を知らせて来た。

 

「朝に見た限りでは、確かに雑草ばかりで薬の素材になりそうな植物は見当たらなかった。花らしきものも一部あったが、民家の庭になってるものだしな」

「あら、そうなのねぇ」

「行く場所に行けばあるんだろうが……。この近辺じゃ難しいかもしれん」

「あっちじゃ、歩けば踏む程あったというのにねぇ」

 

 ミレイユは嘆くユミルの表情を横に見つつ、アキラへ座るように促した。

 

「どれも冗談だから安心しろ。それより、早く座って食べたらどうだ? 時間に余裕があるわけでもないだろう」

「はい、……いただきます」

 

 釈然としない表情を崩さぬまま、アキラは食事を始める。

 ミレイユもまたパンを手に取り、千切ってはスープに浸して口に入れた。他の面々も食事を始め、今日もまた、騒がしくも楽しい一日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 食事も終わり、それぞれが食後の一服を楽しんでいる時だった。

 アキラが自分で淹れたインスタントコーヒーを、ミレイユも所望して一緒に飲んでいた時、ふと思い付いた顔でアキラが言ってくる。

 

「それにしても、便利ですね。魔法で傷を治したり、薬でスタミナが回復したり」

「そうねぇ……。だから気兼ねなく、アンタもボコボコにされたんでしょうけど」

 

 ああ、と納得しつつも、恐る恐るという表現が正しい仕草で、アキラはアヴェリンに顔を向けた。

 

「やっぱり、だから無頓着に殴ってたんですか?」

「だから気兼ねなく殴っていたんだろう」

 

 ミレイユが頷けば、アヴェリンもアキラに顔を向けて頷いた。

 

「これがあるなら気兼ねなく殴れるな」

「……ちょっと待って下さい」

 

 不穏なものを感じて、アキラは手を挙げて待ったを掛ける。青い顔をしたアキラは否定して欲しい一心でアヴェリンに問う。

 

「まさか知らずに殴ってたんですか? そしてこれからは、より気兼ねなく殴るつもりなんですか!?」

「いや……」

 

 アヴェリンは視線を逸し、頬をかいては鼻をムズムズと動かし、腕を組んで外へ顔を向けた。

 あまりに分かりやすい意思表示だった。誤魔化せると思っているなら、それは流石にアキラを甘く見過ぎだろう。

 

「まぁ、薬を煮詰める匂いはしていたから……、作ってはいるのだろうと思っていたが」

「でも僕に使うとは思っていなかったんですね」

「まぁ、そうだが」

 

 ついに誤魔化す事を諦めたアヴェリンは、素知らぬ顔で頷いた。

 誤魔化す労力より、認めた方が面倒が少ないと判断したようだ。

 

「だが、ギリギリのところを見極めて指導してやったろう」

「そうですよ。五体満足で生きて返って来てるんですから、手加減している方ですよ」

「いいですけどね、キツい訓練になるのは分かってましたし……」

 

 ルチアから慰めにもならないフォローが飛んできて、アキラはぐったりと肩を落とした。

 そこにユミルが首を傾げてアキラを見る。

 

「ちょっと疑問に思ったけど、魔術も水薬もないなら、どうやって傷を治すのよ?」

「普通に時間をかけて、自然治癒力に任せる感じですね。勿論、薬や湿布とか促進させる方法は幾つもあるんですけど。でも、大きな傷ならオミカゲ様が治してくれるんですよ」

「出たわね、オミカゲ様。病気だけじゃなくて、怪我まで治せるの?」

 

 アキラはちょっと考え込むような仕草を見せる。

 

「治すっていうのもちょっと違う気がするんですけど、とにかく自然治癒力が凄い大きくなるんですよ。だから骨折とかしても、ちゃんと添え木とかしないと変な形でくっついちゃいますし。さっきの魔術とかポーションみたいな即効性はないですね」

「へぇ……、因みに骨折だとどれくらいで治るの?」

「三日ぐらいですかね? 綺麗に折れたかどうかでも変わってくるんでしょうけど。でも、だから医者がいらないという話にもならないんですよ。診断を受けてから、オミカゲ様の御威徳で治して頂ければ安心ですから」

 

 話を聞いて、何ともおかしな話だ、とミレイユは思った。

 それが当たり前にあるのなら、日本の医学会は相当肩身が狭いだろう。医者の存在は無価値ではないが、あくまで添え物のような扱いになる。

 海外との扱いの違いに驚く筈だ。蔑ろにされているとしたら、現状に不満はないのだろうか。それとも、不満が出るほど悪い扱いではないのだろうか。

 

 考えるより聞いてみようかと思ったら、アキラが時計を確認して立ち上がり、軽く頭を下げた。

 

「すみません! このままじゃ、また遅刻しちゃいますので!」

「ああ、そうか。こっちも朝から長話になりそうな話題を吹っ掛けるんじゃなかったな。その辺は、また機会があれば聞くとしよう」

「はい、すみません」

 

 アキラは食器をどうしようかと持ち上げ、それをルチアがやんわりと止める。

 

「置いておいて下さい。こちらでやりますから」

「重ね重ね、すみません」

 

 恐縮して頭を下げるアキラに、何でもないように手を振って動くように促す。

 アキラは慌てて歯磨きを始めて、頭も簡単に撫で付け、乱れた髪をマシにしようとしている。汗まみれの身体で学校に行くのは辛かろうが、今日は我慢してもらうしかない。

 明日からの鍛練は、その辺りも気をつけて時間配分するよう、アヴェリンに言い聞かせる必要がある。

 

 歯磨きも終わり、制服に着替えて鞄を持って出かけようとするアキラに、一応念を押しておく。

 

「刀は好きにしていいが、外に持ち出して歩く事は推奨しない。制限もしないが、捕まっても私は責任を取らない」

「う……あ、はい、分かりました!」

 

 立て掛けられた刀袋とミレイユを交互に見て、アキラはとりあえず頷く。

 まだ実戦も未経験、敵の数も種類も未知数。まだまだ実感が沸かない今は、そもそも刀を持って歩こうとは考えていなかったろう。

 余計な事を言って戸惑わせたか、とミレイユは自省し、早く出るよう手の甲を外へ向けて動かした。

 

「ほら、急ぐんだろう? 行ってこい」

「は、はい。行ってきます!」

 

 慌ただしく靴を履き替え、部屋から飛び出して行くアキラを見ながら、ミレイユは苦笑する。口から我知らず、独白が漏れた。

 

「何だか……、妙なことにならなければいいが」

「妙? 妙じゃなかった事なんて、今まであった?」

 

 苦い顔でミレイユは顔を背ける。

 現在、その最たる状況に身を置いている今、ミレイユの行った事は確かに戯言に過ぎなかった。

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