【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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行動方針 その2

 ユミルは一つ断りを入れて、人差し指を立てた。

 根拠の一つ目、と言うのと同時に、その指先を上下させて空を示す。

 

「神はヒトから空を奪ったでしょ。近づかれたくないから、そうした措置を取ったのよ。別次元、別空間にいるのなら、そんなコトする必要ないじゃない」

「それは違う。空を飛ぶのは不敬だと言い始めたのは人間の方からだ」

 

 ミレイユが咄嗟に否定すると、おや、とユミルは首を傾げて、それからルチアへ視線を向ける。

 ルチアもそれに頷いて、呆れたように半眼で見つめた。

 

「それ、前にユミルさんが言ってた事じゃないですか。恨みが募るあまり、ない事まで含めないで下さいよ」

「あぁ、そうだったわね。策略を講じるのが大好きな奴らであるのは確かだから、色々飛び火させて考えちゃったけど……そうね、これはヒトが勝ってに言い出した方よね」

「飛行術を与えたのは、神様だって言ってましたよね……」

 

 アキラが複雑な顔をして呻くように言った。

 その被害に遭わされた身としては、思う所があったらしい。死と直面するような事態となれば、それも当然というものかもしれない。

 

 それで思い出した。

 箱庭を用意され、まだ何もない野原と、どこまでも広がる空しかなかったあの時、その中心に置かれた魔術書があった。これは当然、どこからか紛れ込んだものではなく、神が用意したものだろう。

 

 箱庭自体が神々にとって、一種の安全装置の役割を果たし、そして保険のような機能を持たされていた。

 箱庭での動きは察知されていた、というような発言もあり、便利であるが故に重宝させる事そのものが目的であった節もある。

 

 それを考えると、あの魔術書は、下手な使い方をすると自死を誘発させかねない危険なものだ。箱庭を与えた時点で殺す意図はなかった筈。そこに矛盾を感じる。

 

 神々には目的があったのは確かで、その為にミレイユを利用していた。

 時として始末屋としての側面を持たせつつ、その本質は魂の昇華だった。神の試練もその一つで、乗り越えたからこそ与えた箱庭で、対応できなければ死んでしまう罠を仕掛けるのは、度を越しているだけでなく意味不明だ。

 

「ミレイ様……?」

「あ……、ん? どうした?」

「いえ、突然、微動だにしなくなりましたので、どうなされたのかと……」

 

 気づけばアヴェリンが顔を覗き込んでいて、心配そうな顔で見つめていた。

 そもそもが体調不良を疑われていたので、疑わしい仕草一つで過剰に気をかけてしまうらしい。ミレイユも口元を抑えて固まってしまっていたので、謝罪するように一つ頷いてからユミルへ顔を向けた。

 

「そういえばユミル、箱庭の天井に穴のようなものがあった、と言っていたな」

「そうね、調べておけば、とも言ったわよ。……調べたの?」

「いや、すっかり忘れていた」

「アンタね……」

 

 ユミルの眉間を揉み解していた指先に力が籠もる。

 揉むのを止めて同じ場所を叩きながら、首を傾げて聞いてくる。

 

「今となっては調べようもないでしょうし……、一応聞くけど無理なのよね?」

「ああ、無理だ。箱庭はあちらに置いてきている、召喚できるものでもないからな」

「それは仕方ないけど、だとすれば、あの穴が箱庭を監視していたっていう前提で考えるしかないわね。そう言ってたワケだし」

「……そうだな。GPSのような役割を果たしていて、かつ箱庭での行動を監視できていたようだ。ルチアが結界術を習得し、孔を封じようとした事で、神々が行動を起こした……そう考えて良いんだよな?」

 

 ユミルは叩く指先を止めて頷く。

 

「そうね、そういう口ぶりだったから、としか言いようもないけど。鬼の強化度合いから、本来ならあと三ヶ月は猶予があって、もしかすると更に半年程は大丈夫だって試算が急に覆ったワケでしょ? ルチアが箱庭を使って修練し始めた時期とも一致するし……それは間違いないと思うけど」

「あれが覗き穴のような役割を持っていたというには、遥か天井にあり過ぎて意味がないようにも思うが……それは置いておこう。問題は、その穴を察知できる手段を敢えて用意してあった、という点だ」

「手段……? アンタ、その魔術書を箱庭で拾ってたの?」

「そうだが……」

 

 ミレイユは一言返すと、ユミルは黙り込んでしまった。

 元より顔を顰めていたので、その表情に変化がないように見えるが、不機嫌さは上がったような気がする。見ている間に顔が更に険しさを増し、それを隠すように手で覆った。

 

「……まさか、箱庭がアンタを殺す為の罠として用意されたものじゃないだろうし」

「というより、それでは神々の目的と合致しないだろう。あれらは素体を死ぬ目に遭う様な状況へ放り出したいだろうが、殺したい訳ではないからな」

「そうね。それに種の試練として用意したと考えても、あまりにショボ過ぎる……」

「思うんですけど……」

 

 そう言ってルチアが手を挙げた。

 本人も発言しながら、自分の意見に自信があるという訳ではないようで、その顔には困惑も窺える。

 

「殺害が目的でないというなら、つまりヒントを与えていたって事になりませんか? 頭上を見ろ、というようなメッセージと言いますか……」

「穴自体は遥か上空で、見上げたくらいじゃ目に付かない。だからわざわざ、それを可能とする術を授けたと?」

「そうすると辻褄が合うと思うんですが……」

「合うわね。合うけど意味がないというか、だからどうしたって話でしょ。アタシが見つけた時のように、それが何であるか分からなかったし……仮にそれで意図を察せたとしたら、やっぱり不利になるだけで意味がない」

「それってつまり、さっき言ってた()()の部分なんですかね?」

 

 アキラが言って、時が止まったようにユミル達の動きが止まる。

 全員がアキラを注視したまま動きを見せなかったが、それに動揺して仰け反ったアキラに呼応するようにして、ミレイユ達もまた動き出す。

 

「有り得ると思うか? これは遊び心というより、むしろ利敵行為だぞ」

「――つまり、そういうコトなんじゃない?」

 

 何かの気付きを得たように、ユミルの瞳が爛々と輝く。

 

「神々が盤面を見て遊んでるって話をしたじゃない? 複数人がそれを見下ろして、駒がどう動くか見守ってる。……でもこれ、もしもチェスのような対戦であったとしたら?」

「利敵行為に見えるような事も……本来与えない逃げられる選択肢があった事も、それなら説明がつく……か?」

 

 もしかしたら、とルチアが前のめりになって全員の顔を見渡した。

 

「もしかしたらですよ。対戦ですらなく、妨害する意図を持つ神がいて、私達の利となる手助けを陰ながらする神がいたとしたら……それこそが鍵となりませんか?」

「小神は初めから味方に引き込むつもりでいた、と言ってたな」

 

 ルチアの思慮を読んだアヴェリンが、同じく興奮した顔つきで頷いた。

 

「大神の神器に細工できる神なら、同じ大神だろう。それが我らの味方になるなら心強い」

「ちょっと待ちなさいな。味方になるとは限らないわよ。単に不仲だから妨害してやろう、という程度の認識で、アタシ達へ積極的な助力をするとは限らない。気紛れの可能性もある」

 

 興奮気味に言い募ろうとした二人へ、ユミルは水を掛けるように言い放った。

 基本的に大神嫌いのユミルとしては、そこに積極的な味方である、という認識は持ちたくないだろう。

 

 だが、敵対する神が一人減ってくれるなら、それに越した事はない。

 ミレイユとしては、もし大神と敵対する大神がいるのなら、むしろ味方に引き入れたいと思っている。味方するつもりでいたのか、それとも別の意図があったのか、それは確認しなければならないだろうが、もしも可能ならば非情に頼りがいのある味方になる。

 

「ユミルとしては当然、大神憎しだろうし、全ての首を落としてやりたい気持ちだろうが、味方に出来るというなら、それは必要な事だと思う」

「そうだ、個人の我儘を言うところではないぞ」

 

 アヴェリンからも言われ、ユミルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「そうね、アンタの言うコトに頷くのは癪だけど、そこは受け入れなければならない部分でしょうよ。アタシの意見一つで可能性を一つ潰すワケにはいかない。可能である、信用を置ける、という判断を下したなら、味方に引き入れるのは有効な手だわ」

「ちょっと意外です。もっと頑強に否定すると思ってました」

 

 ルチアが目を丸くして、それでいて感心する素振りを見せると、ユミルは顔を背けて腕を組む。

 

「アヴェリンも言ってたでしょ。オミカゲサマから託されたものっていうのはね、決して軽くないのよ。……あの時の泣き顔と懺悔を目の前で聞かされた身としてはね、それを最大限尊重してやりたいの」

 

 ユミルの双眸が、ひたりとミレイユの瞳を見つめる。

 

「あの子が託されたものを、アンタに託された。それを叶える為ならね、アタシの屈辱なんてどうでも良いのよ。あの子に報いてやりたいし、神々には報いを与えてやりたいけど、託され続けてきた想いを考えれば、アタシの感情なんて考慮に値しない」

「お前……そんな風に思ってたのか」

 

 ルチアだけでなく、ミレイユもまた意外な思いでその双眸を見つめ返していた。

 ユミルは確かに何が大事かを良く心得ている。その為に己の命すら厭わないのは、オミカゲ様を逃したところからも理解できるが、下手をすると復讐を遂げられないかもしれないというのに、そこまで言い切る事に胸が震える心地がした。

 

「あのとき感じた涙の温かさは、未だに……、ここに残ってるからね……」

 

 ユミルは自分の肩口に手を当てて、それから悲しげに目を伏せる。

 それで何も言えなくなった。ミレイユが受け取ったのと同じ様に、ユミルにも受け取った何かがあるのだろう。それがオミカゲ様の意図したものではなかったとはいえ、ユミルにも報いてやりたいという熱い感情を抱える事になった。

 

「……うん、最善と思える出来る限りをしよう」

「そうですね、そうするしかないんです」

「必ずやり遂げましょう」

 

 他の二人からも激励と完遂の意を感じ取れ、ミレイユの気持ちを新たにする。

 これはミレイユ一人の問題でもなければ戦いでもない。

 共に成し遂げるべき難題として意識を切り替え、それぞれに感謝の視線を送る。それだけで皆はミレイユの思いを理解して頷き返してきた。

 

 必ず終わらせる、とミレイユはここで新たに誓った。

 

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