【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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行動方針 その4

 ユミルは一つ前置きして、全員へ挑戦的な笑みを浮かべてから口を開いた。

 

「世界の端って知ってるでしょ?」

「それは、勿論そうだが……それだけか?」

「それ根拠にしちゃいます?」

 

 アヴェリンが怪訝に眉根を寄せ、ルチアも似たように顔を歪めた。

 二人が信用できないような顔を見せるのは無理もなく、これは世界の創世神話からなる話だ。神が作った世界に関する話で、その当然の理を口にされても困る、という事だろう。

 大体、それだと神は別次元にいない、という反論になっていない。

 

「世界に端があるなんて当然じゃないですか。それを口にされたところで……」

「あのー……、ちょっといいですか」

 

 ルチアの機嫌が急降下し、口調が荒れ始めようとした時にアキラが声を上げた。

 申し訳なさそうに眉を下げ、ルチアやユミルを見つめている。そうしてミレイユの方へ窺うように顔を向けた。そのような目を向けられても、ミレイユにはアキラが何を思っているのか分からない。

 

 まるで察してくれ、代わりに発言してくれ、とでも言いたそうであるものの、残念ながらその意を組んでやる事は出来なかった。

 ミレイユは顎を動かし、発言するように指示する。

 

「えぇーと……、世界に端ってあるんですか? ないですよね?」

「あぁ……」

 

 それでようやくアキラの言いたい事を理解した。

 現代社会で学んだ常識として、世界は球体であり断崖絶壁のように途切れた場所がないと知っている。大航海時代にマゼランの世界一周航海によって、それが立証されたのを皮切りに、世界各所で地球平面説は否定されるようになった。

 

 だが、それを知り得ない世界の住人が、世界に端があると考えるのは自然な事だ。

 アキラはそれをミレイユに、やんわりと否定しつつ説明して欲しいと思ったのだろう。

 しかし、ミレイユが何かを言う前にユミルが先に口を挟んだ。

 

「アンタね、こっちの世界のコトを知らずに適当言うの止めなさいよ」

「いや、確かに何も知りませんけど……。でも、世界に終わりの境界線なんて無いものじゃないですか。――そうですよね、ミレイユ様」

「うーん……」

 

 ミレイユはどう説明したものか、内容を整理しようと眉の辺りを撫でる。

 それが顔を隠すような仕草になってしまい、余計周囲を混乱させる要因になってしまった。

 

 アヴェリンはミレイユの様子を見て、実は端がないのかと驚愕しているし、ルチアは逆に端はあると強弁している。ユミルがアキラに食って掛かり、軽率な発言を(なじ)り始めた。

 討論と言うほどお上品なものにもならず、ただ相手を攻撃するような発言が飛び交うようになると、流石に止めない訳にはいかない。

 

「だから迂闊な発言いつもするなって言ってるでしょ。大事な話をしようってのに、そこで話の腰を折るんじゃないわよ。さっきもあの子が、まず話を聞けって言ってたじゃない」

「いや、つい口が出てしまったのは申し訳ないですけど、でも端があるというのは迷信の類いじゃないですか」

「だから、何でアンタがそれを決めるのよ。勝手にアンタの常識持ち出さないでくれる?」

「僕の常識じゃなくて宇宙の理で、惑星っていうのは球体をしているものなんです。平面じゃないんです」

「――どういう事なんですか、ミレイさん。端がないって、ミレイさん知ってたんですか?」

「だが、ミレイ様が即座に否定しないというなら……」

 

 ミレイユは両手を二度打ち鳴らして発言を止めさせ、その視線を自身に集中させる。

 ユミルは特に不満そうな視線を向けてきたが、今の状態ではその根拠を聞くどころではない。誤解というべきか、とにかく話を進める為にも一つ説明しておかなくてはならなかった。

 

「まず……私が認識している知識において、世界というのは球体だ」

「ですよね!」

 

 アキラが歓喜の声を上げ、ユミルは不満気に鼻を鳴らしたが、話はここで終わりではない。

 

「だが同時に、それはこちらの世界に端がないという事を意味しない。間違いなく世界には、これ以上先に進めない、という端が存在している」

「つまり、壁が設置されているんですか? 岩とか山とか、そういう自然物で先に進めないだけじゃなく?」

「あぁ、そういう事じゃない。自然物という意味では同様だが、進めないとされる明確な境界線がある。そしてそれは、海に存在している」

 

 うみ、とアキラは小さく口にして首を傾げた。

 それこそ球体説を支持するなら、真っ先に否定するところだと思っているような顔だった。実際そのとおりなのだが、迷信でも海流の違いで帰ってこれない訳でもない。

 

 デイアート大陸の周囲に広がる海は、絶対に西東へ進んでいけない――。

 船乗りの常識であり、戒めて守らねば成らない薫陶でもあるのだ。

 

「それ以上、進めないんですか? 進まないように心掛けている、という訳でもなく?」

「進めば死んでしまう。だから誰も近づかない、そういう場所だ」

「強大な海の怪物がいるとか、ですか?」

「あぁ……、それが全くない訳ではないが、それが理由で近づかないんじゃないな。言ったろう、境界線だ。これ以上進めない、という明確なライン。それを境界線と呼ぶ」

 

 そうは言っても、やはりアキラには理解できないようだった。

 首を傾げたまま考え込み、黙り込んでしまった。

 アヴェリンやルチアにしても、それは常識の事でしかないので、何が理解できないのかを理解できないような顔つきだ。

 

 ルチアなどは、好奇心と興味にどこまでも突き動かされるような性格をしているから、現世へやって来た事でそれを知ったのかもしれないと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

 だがよくよく考えてみれば、ルチアがスマホを持っていた時でも、そこに興味を抱かなければ調べようとは思わなかっただろう。海の先に何があるのか、それが現世も同じだという思い込みが、新たな発見を見逃したのかもしれない。

 

 アキラは考え込んでいた顔を上げたが、やはりそこには納得の表情はなく、ただ形容し難い視線を向けて口を開いた。

 

「誰も進みたがらないのでもなく、進めないんですね? 線を引かれているから、誰も先に進まない、と……国境線とは違うんですか?」

「そういうものじゃないんだ。境界線だ、言ったろう。意志があろうと無かろうと、物理的に進む事が出来ない。近づけば巻き込まれ、死ぬ事になる」

「巻き込まれ……? でも、そうですか。な、なるほど……」

 

 そこまで強く言えば、アキラも納得せざるを得なかったようだ。

 話の腰を折った事を詫ると、ユミルが佇まいを直して話を再開しようとしたが、その前にミレイユへ渋い顔を向けた。

 

「……アンタって時々説明下手よね。それだけじゃ分からないし、イメージ掴めないでしょ。――アキラ、境界線っていうのはね、もっと分かり易く言えば大瀑布よ。右から左へずーっと、巨大な滝が目の前に広がってる」

「巨大な、滝……」

「当然、そんなところに近づけば命はない。ただ横に長いだけじゃなくて、上にも高い。見上げてもどこから水が落ちてきているのか分からない程度にはね」

「水飛沫で雲の層が出てきてしまっているからな。山より高いのは確実だし、どれほど遠くから見ても、その滝口が見える事はない」

 

 水が落ちてくる場所を滝壺と言うが、その逆、水流の落下開始地点を滝口と言う。

 今アヴェリンが言ったように、晴れた日であろうと、大陸のどこからであろうと、その滝口の様子を見る事は出来なかった。

 

 そもそもが吹き上がる水飛沫によって作られる雲で遮られてしまい、年中晴れない雲がその先を見せてくれない。

 アヴェリンはアキラに皮肉げな笑みを見せながら続けた。

 

「あるいは滝口なんてものは無いかもしれない、という者もいるがな。神の作り出した光景だ、そうであっても不思議じゃない」

「確かに……僕の知ってる大瀑布でも、どれだけ離れても途切れた部分が見えないなんて、有り得ないですし。そもそも瀑布って川があって成り立つものでしょう? そんな事あり得るんですか?」

「実際に見てみなければ、納得できるものでもないだろうがな。私もかつては度肝を抜かれたものだ。そういうものがある、という常識というか……人伝てに聞いただけでしかなかったものが、実在する事に驚いたものだ」

 

 なるほど、と頷いて、ユミルの意図を汲み取ってルチアは言う。

 

「つまり、それだけの光景を作り出せるのも神だけなら、その滝口の向こうに大陸か何かあって、そこに住めるのも神だけだと……。そう考えている訳ですか」

「島が空に浮かんでいたり、そこに住んではいないだろう、とかつて言っていた根拠はそれか……」

 

 そういう事もあった。

 それはやはりアキラが空を飛びたいと言った時の事で、そして空を飛ぶことを鳥のみ許可した、という話をした時だった。

 

 神の所在は神話やお伽噺の類で話される事もあるが、どれも曖昧で確かな記述は存在しない。教えたところで大瀑布の向こう側では近づけないだろうし、どれほど強固な船でも滝壺付近へ行ける訳もない。

 

 直角の滝登りなど出来る訳もないので、その滝口を覗こうと思えば空を飛ぶしかないのだ。

 そうとなれば、話は先程のドラゴンとも繋がってくる。

 

「つまり、そういう事か……? 姿を歪めてまで空を奪ったのは、大瀑布を超えて欲しくないからだと……」

「そう、それがアタシの考える理屈。文明の発展を抑えているのも、それが理由でしょ。あっちじゃ千年でヒトは空を飛ぶ機械を生んだのに、こちらでは四千年も変わらず停滞しているのは、それを神が許さないからよ」

「ですね……。いつだったか、そういう話をされました」

 

 ルチアも暗い顔をして頷いた。

 どういう話をしたのか、ミレイユは聞いていないし知らないが、だがそれなりに内容の察しは付く。多くはユミルの愚痴のようなものだったろうが、発展を許容しない神の最配は、疑問にも思った事だろう。

 

 ――それら全てが、空への道を封じる事に繋がっている。

 そうと言われたら納得できるだけの根拠に思えた。

 

「……確かにそうです。まるで空へ向かわれるのを、恐れているようですらあります。執拗に手段を潰されているかの様に感じますね」

「でしょ? そこまでして行かせたくない先に何があるのか……。それが神の所在地だと、アタシは考えてるワケ」

「なるほど。ここまで聞かされると、納得できる話ではあるな。だから別空間に居を構えてるとは思えない、か……」

 

 アヴェリンもルチアと同様、最後まで聞き終わって納得した表情で頷いている。

 実際、この話を聞く価値はあった。大瀑布の向こうに神が本当にいるのなら、という前提になるし、神が隠し封をしたいものが他の何かでない限りにおいて、所在地は大瀑布の向こうであるかもしれない。

 

 だが、別次元を作って隠れないのか、という部分においては、ミレイユとしては反論があるのだ。既に話し合いに一段落ついた雰囲気が漂っているが、それを真っ二つに斬り裂くように口を開いた。

 

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