【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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こちら、二話連続更新の二話目になります。
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幕間 その1

 その日は特別な事など無い筈だった。

 いつものように結界発動の感知を通達され、現場に急行し、そして然るべき対処をする。幾度となく繰り返して来たルーティン。

 そして先祖より脈々と受け継がれる、オミカゲ様より任された責務でもあるのだ。

 

 阿由葉(あゆは)七生(ななお)は、その責務を誇りを持って受け継いでいる。

 その一端を御由緒家へと任せている事実は、一般人に知られてはならないからこそ、その重要性もよく分かろうというものだ。

 

 今いる場所は、とあるマンションの屋上、結界が発動した市営マンションから二百メートル離れた場所に立っていた。

 それ以上は近寄ってはならない、と厳命されたからだが、それに対し如実に不満を表す者もいる。

 

 七生は傍らに立つ三人へ目配せした。

 この部隊のリーダーは七生だが、他の面子も同じ御由緒家。部隊は基本、四人一組で行動するものの、その四人全てに御由緒家を当てるような事態は、七生が知る限り今までなかった。

 

 御由緒家はその血筋ゆえ、他の力持つ者よりも更に強い力を持つ事が多い。驕るわけではない、ただ事実として御由緒家は別格なのだ。

 かくあるべしと育てられもして来た。

 強い力を持つ者は、だからこそ驕り高ぶる事なく、その力を使わねばならない。オミカゲ様より授けられた力であればこそ、それを歪んだ心で使う事は、オミカゲ様の顔に泥を塗る行為となる。

 

 何より御由緒家が誇りとしているオミカゲ様の忠臣という立場が、驕る事も慢心する事も許さない。家中の者であれば勿論、他家であっても同様に考える。

 もしも私利私欲でこの力を使う者が出れば、自身の一族だけではなく、御由緒家全てから命を狙われる程の大罪となる。

 

 だから御由緒家の誰もが、常に自分を戒め、そして己の力を高める事に余念がない。

 力を振るうべき場所を誤る事はしないが、力を振るえる場所があれば気分が高揚する場合はある。丁度、隣にいる同い年の男性――比家由(ひかゆ)(れん)がその類だった。

 

「ねぇ、漣。その顔やめてよ、待てって指示なんだから。……飛び出そうとか考えてたりしてないわよね?」

「……してねぇって。それに変な顔もしてねぇ」

「じゃあ、その不満顔やめて。見てて不安になってくる」

 

 言われた漣は、顔を歪めて横に顔を向けた。

 そこには一際大きな巨体を縮こませ、屋上の床に片膝をついた男がいる。その目は油断なく結界のある方向を見つめていた。これだけ離れていれば、見えるものも見えないと思うが、実直なこの男からすれば、警戒しろと命令があればその通り熟すのだろう。

 

 名前を由衛(ゆえ)凱斗(かいと)。同じ御由緒家の一人で、七生との付き合いも深い。

 御由緒家は基本的に同列で上下の序列もないが、お互いの気性や実力、家の挙げた功績などで暗黙の了解のようなものは生まれる。これは当主交代などで幾らでも変わるので、不変の位という訳でもない。

 それでも、その中に置いて、最も下に見られる凱斗が、最も上に見られる七生と上手くやれているのは不思議だった。

 

 漣は凱斗に向けて同情めいた視線を向ける。

 

「お前、なんでこいつと仲いいの? 弱み握られてないか?」

「いや、そんな事はないが」

「でも、やたらアタリ強ぇじゃん」

「責任感がそうさせるんだ。七生も緊張してるんだよ」

 

 凱斗は顔の向きを変える事なく、素っ気なく答えた。

 ここからマンションの入り口近辺はよく見えるが、急行した自分達よりこちら、何の人影もない。時間が時間だからだろうが、既に日も完全に隠れようとしている時間帯、監視するのも難しくなりそうだった。

 

「俺たちは斥候だ。あるいは偵察。真面目に責務を果たそうとは思えないのか?」

「真面目だろうがよ。別に文句垂れてる訳でもねぇ。だがよ、もし結界からアイツらが出てきたら、どうなると思うよ? こんなに長時間、あそこで放置するようなこと今まであったか?」

「俺の知る限りは、ない」

「だろうがよ? 奴らにゃあ、結界の中で収まって貰わにゃならん。あん中で暴れられたりしたら、結界はどうなる? 勝手に出てきて暴れられたら? 俺はそこを心配してんだ」

 

 漣の言い分には一理あるように思われた。

 結界は強固であり堅固だが、万能ではない。使う力の性質によっては、結界そのものを貫通してしまうものもある。あの中にいる鬼妖(おにあやかし)が何か分からないが、もし強力な鬼が出てくれば、結界の保護に回る必要が出てくるだろう。

 

 七生もまた、そう考えたようだった。

 漣とは逆隣にいる小柄な少女へ顔を向け、労るように肩を叩く。

 ここにいる四人の内、三人は同学年の同い年だが、この少女だけは一つ下の妹分で、その能力の高さから目をかけている人物だった。

 

 由喜門(ゆきかど)紫都(しづ)、それが彼女の名前で、理力を使った能力が高く、また多才である事で有名だった。

 誰にでも身に付けられる力ではないが、御由緒家であれば誰もが何かしら力を持っている。家によって得意分野の傾向はあるものの、基本的に持てる能力に垣根はない。

 

 例えば七生の阿由葉家は近接戦闘に優れた理力を発揮するし、由衛家は逆に護りの力を発揮する。

 発揮するというより、その傾向の強さから継承される技術もそちらに秀で、結局大成するのは家が得意とする理力になる、という案配だった。

 由喜門家もまた多くの場合、支援に秀でた理力を発揮する。大抵は自分ないし他人の能力を増幅させる力を得るが、紫都の場合それだけに留まらず、遠見の力も得ていた。

 範囲も広く鮮明に見える。それが偵察にどれだけ有利に働くか、言うまでもない。

 

「どうだ、紫都。何か分かるか?」

「……ん。ちょっと待って」

 

 その紫都が屋上の床に座って両手を前に突き出す。

 両掌に緑色の光がじわりと広がり、それが徐々に強さを増す。十秒を過ぎた辺りで光が最も強くなる。焦れったく感じる時間だが、これは全世代を含めた理者の中でも相当早い方だ。

 そしてようやく、力を込めた理力を握り締めて解き放つ。

 

 すると、目の前には長方形のディスプレイのような物が映し出された。

 横五十センチ縦三十センチ程の大きさで、そこからは結界内の様子が分かる。土気色をした小男のような風体の鬼、知性も見受けられない子鬼がいた。

 数は五匹と一度に目にするには多い方だが、相手が相手だ。これならば幾ら暴れようと結界が破壊される心配はなさそうだった。

 それを覗き込んでいた漣が、つまらなそうに呟いた。

 

「んだよ、土鬼かよ。心配する必要なかったな」

「だが、これだけの数を一度に見るのは初めてだ。群れたから何が出来るとも思えんが、警戒を解くべきではない」

 

 凱斗が同じく覗き込みつつ言えば、七生も頷く。

 

「なぜ私達が呼ばれたのか考えるべきね。楽観できる状況ではないから、こうして御由緒家が集ったんでしょう?」

「待機させて、警戒させる為だけにかよ?」

「いいえ、まだ孔は閉じてない。これから出てくる者が何かによって、話は変わってくるわ。それに、このまま十五分待って何も起きなければ、我々も動く」

 

 結界の奥に鎮座するように広がる孔、それを厳しく見つめた七生が言う。

 決意を秘めた、断固とした口調だった。

 そこに、紫都が緊迫した声で制止をかける。

 

「――待って。誰か結界の前に来た。一般人じゃない、干渉しようとしてる」

「なんですって!?」

 

 即座に映し出された幻像が結界の外を映し出す。

 そこには銀髪の少女と金髪の女性がいた。片方は杖を持ち、もう片方は防具を身に着け、メイスを持っている。それが結界の外に立ち、明らかにそれと理解しながら触れている。

 

「……一般人には見る事はおろか、ある事すら分からない筈だが」

「一般人じゃないのは、武器を所持してる時点で分かるだろうがよ」

「警戒していたのは、これなのかしら」

 

 七生が顎を摘んで呟くと、漣は茶々を入れるように笑う。

 

「それにしても、えらいベッピンじゃねぇかよ。おい、凱斗。お前、どっちが好みだ?」

「言ってる場合か? 武器を手にして結界に干渉しようなど、何をするつもりなのか分からんぞ」

「漣、少し口を慎め。それに皆、ちょっと待ってて、いま確認するから」

 

 七生は耳に手を当てヘッドセットのマイクを口に向ける。

 コールと同時に相手に繋がり、状況を簡潔に説明したのだが、返ってきたのは待機の命令だった。異議を唱えたかったが、命令は命令だ。

 了解の意を伝えてマイクを切る。

 

「確認した。現状のまま待機」

「おい、嘘だろ!?」

 

 漣が食って掛かろうとするが、その前に凱斗が拒む。

 

「命令は命令だ。それに、今回は誰の命で動いているか、お前だって知らない訳じゃないだろう」

「ああ、でもよ……宮司様だって――いや、悪い。すまんかった」

 

 言い掛け、しかし鋭い視線を返され、漣は素直に謝った。

 待機の命令に不満があろうと、それに反発していい相手とは限られてくる。そして今回の相手は絶対に反発して良い相手ではない。続けるなら制裁さえあり得る。だから漣も素直に謝罪した。

 

「ただ見ているのは歯痒いけど、でも動きがあったからこそ待機という感じだったわ。むしろ、これを待っていたみたい」

「……そうなのか? その為の斥候だって?」

「斥候は無能じゃ出来ないのよ。むしろ無能な斥候は害でしかない。私達は情報を持ち帰る為に来たし、そしてそれが出来るのは私達だけと判断されたんでしょ」

「……過剰じゃね? 大体、この距離だ。調べるだけ、見ているだけなら、紫都だけいりゃいい」

「――待って。また増えた」

 

 漣が子供のように口を尖らせた時だった。

 紫都の鋭い声が、他の面々を幻像に視線を集中させる。

 見てみれば、そこには確かに更に三人増えた女性グループがいる。どれも外国的というべきか、日本では見受けられない格好をしていた。

 

 その中で殊更浮いているのが一人。男物で現代的な服装に胸当てなど、アンバランスに組み合わせた少女がいる。そのクセ武器は日本刀という組み合わせだ。

 

「……なんだ、ありゃ」

 

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