【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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ギルド変容 その8

 スメラータの鋭い掛け声と同時、アキラが魔力制御を全力で振り回す。威圧感にも似たものが膨張し、筋肉の引き絞りとは別に、肉体を巨大に見せた。

 魔力を練り上げる事で生まれる錯覚が、まるで巨人の様に見せる程だった。

 イルヴィも似たようなもので、同じ様に威圧した力の奔流とも言うべきものが溢れ出す。

 

 互いに向けた力が互いの掌の中で爆発し、それが暴風と衝撃波となって吹き荒れる。

 真近にいたスメラータは咄嗟に防御したが、もんどり打って後ろに倒れた。これが嫌だから、誰もがスメラータにレフェリーをやらせている。

 

 衝撃波は結界に当たって止まったが、外へと押しやろうとする力が拮抗し、ビリビリと揺らした。その迫力あっても無害な衝撃に、観客たちは歓声を上げた。

 

「いいぞぉー! これだ、この迫力よ! 低レベルな奴ら同士の戦いなんざ、この後じゃ見れたもんじゃねぇ!」

「防護術はともかく、なんで結界までと思ったが……! こりゃとんでもねぇな!」

「とんでもねぇのは良いがよ、何で腕相撲一つでこんな事なってんだよ! 誰もおかしいって思わねぇのか!」

「楽しけりゃ良いだろ、そんなこと!」

 

 結局のところ、それがこの酒場に集まった者どもの総意だった。

 楽しいものが見られるのだから、それで良い。それが白熱できて、そして見応えある勝負なら尚良かった。戦闘中であろうと滅多に見られない、一級冒険者の力量を垣間見える瞬間でもあるし、どこまでも成長著しいアキラを見る楽しみもある。

 

「ぐ、く、ぐぅぅ……!」

「そんなもんかい、アキラ! 前回はもうちょっと強かった気もするがねぇ……!?」

 

 二人の実力は拮抗しているように見えたが、アキラの方が若干不利だ。じりじりと、先程のドメニ戦をやり直す様な形で追い込まれていく。

 歯を食いしばって耐えるアキラと、必死な表情でありつつ追い込むイルヴィ。

 敗けるな、追い込め、それぞれを応援する声が交差する。

 

「だありゃぁぁああああ!!!」

 

 アキラが吠えると同時、アキラの身体全体が、更に膨らんだように感じた。勿論それは錯覚でしかないのだが、魔力制御から放たれる威圧が、その様に見せてくる。

 アキラの制御練度は改善の余地が多く、スロースターターなのも相変わらずだった。

 初手から全力を出すことが出来ず、まず最初にエンジンを温めてやらねばならない。

 

 しかしそのお陰あって、戦況は五分に戻った。

 互いに顔を赤くさせ、身体を震わせながら押し込もうと必死になっている。

 

「く、く、くぅぅぅッ! 良いじゃないか! ――良いよッ!」

 

 イルヴィが獰猛に笑い、アキラの目を見つめてくる。

 話せるというなら、それだけ余裕があるという事だ。

 随分と舐めた態度に思えるが、いつだって勝負に勝つ気でいる彼女からすれば、その余裕は見せかけだけではないのだろう。

 

 だが、エンジンが温まった今なら、アキラはもっと大胆に行ける。

 魔術制御は循環だ。それはただ力で振り回せば良いというものではなく、丁寧さも必要になる。

 アヴェリンに、しつこく注意された点だった。

 

「はぁぁぁぁ……っ、だあああぁぁぁ!!」

 

 一瞬背筋を伸ばし、一時()()を作ってから、一気に内側へ捻り込む様に腕を倒す。

 それで形勢は大きく傾き、今度は逆にアキラの方が四十五度まで倒すことが出来た。

 イルヴィと合わさった目には、必死さと同時に勝利への渇望が窺える。ただ望むだけでなく、そこへ向かうという強い意志まで感じられた。

 

「そう……っ、簡単にぃぃぃぃ!!!」

 

 イルヴィが吠えて、威圧の暴風が吹き荒れる。またも結界がビリビリと震えた。

 彼女もまた魔力制御で挽回を計る。それはアキラとは真逆、丁寧さとは無縁の制御だった。本来なら無駄ばかりでロスの多い制御法なのだが、天性の勘と魔力量が、アキラとの拮抗を生んでいた。

 

 再び形勢が中央へ戻り、互いの腕がブルブルと揺れる。しばらくは耐えていたアキラだが、しかし徐々に後ろへと倒れていってしまった。

 悲鳴が上がり、そして同じぐらいの歓声も上がる。

 

 行け、やれという歓声の合間に、敗けるな、巻き返せ、という声も聞こえている。

 だが同時に、最早これは単なる腕相撲と見る事は出来なかった。酒場の席の一興には違いないが、それと言うには本人たちの発する気配が遊びとはかけ離れ過ぎている。

 

「ぐ、ぅ、ぅぁぁぁああああッ!」

「うぉぉぉァァァァア!!」

 

 決闘と見紛うばかりの迫力と、そして放たれる力の奔流は、冒険者たちの冒険者たちの魂に火を着けた。酒瓶片手にしている部分は変わりないが、ある一人の男が声を上がる。

 

「――ソール!」

 

 その一声が呼び水になった。

 ジョッキを掲げ、あるいは串に差した肉を掲げ、その声を上げる者が一人、また一人と増えていく。最後には、誰もが足を踏み鳴らし、二人へ声援を送っていた。

 

「ソール、ソール、ソール!!」

「……ソール、ソール、ソール!!」

 

 戦え、勝て、勝ち取れ。そう言う声援が幾重にも重なる。

 誰もがこれは、単なる賭け事や遊びではなく、一つの真剣勝負と認めた瞬間だった。

 その声援がイルヴィに力を与え、そして声援に背中を押されるようにアキラも力を高めていく。

 

「はぁぁぁぁアアア!!」

「ダァァァァアアア!!」

 

 再びの威風が両者の手を中心に吹き荒れる。

 まるで掌の中で何かがぶつかったかの様な衝撃波が放たれ、スメラータの身体が左右に揺れる。身を引き裂くほど強力なものではないとはいえ、防御一つで手一杯の様子だった。

 

 アキラは制御のギアを、更に一つ上げる。

 制御のセオリーである、供給と生成バランスを崩し、とにかく限界まで力を振るおうと、敢えてバランスを崩した。これをすると、明日一日動けなくなるのでやりたくなかったが、今は勝利に対する欲が勝った。

 

「オォォォォォオオオオッ!!!」

 

 更に抉り込むよう肩から動かし、体重を賭けつつ押し倒そうとする。

 再び拮抗は崩れ、イルヴィ不利になってきた。表情にも焦りが見え始め、喉の奥から吠える声さえ、その動きを止める事が出来ない。

 

 最後に手の甲が僅かに浮くところまで押しやられ、後ほんの少し、ほんの一押し、という状況で踏み止まっていた。

 その腕の震え一つで、テーブルに手の甲が付きそうでもあった。

 

「ぐ、ぐ、うぉあああああああ!!!」

 

 顎を上げ、喉を見せて抵抗し、その手が僅かに浮く。

 更に押し返そうとしたところで、上向いたイルヴィがアキラの目を射抜く。

 

「――カッ!」

 

 目が合わさって見えたのは笑顔だった。獰猛な笑みの中に隠れる歓喜の笑み。

 その一瞬が永遠に引き伸ばされたように感じると共に、唐突に抵抗の力が抜けた。

 叩き付ける力がテーブルを強かに打ち、そして凄まじい衝撃音と共に砕かれる。

 

 防護術を突き抜け、テーブルを粉微塵にし、そして床までイルヴィの手を叩き付け、大きな穴まで開けてしまった。その衝撃はテーブルだけに留まらず、それまでギリギリで耐えていた結界までも吹き飛ばす。

 

 結界の中で留まり続け、集約されていた力が一気に吹き荒れ、周囲の観客を軒並み吹き飛ばすという、珍事が発生した。

 悲鳴と怒号が酒場を満たし、立っている者が誰もいない状況で、数秒間その暴威が吹き続ける。過ぎ去るのを待ち続けるしかなかったが、発した時と同じく収束も一瞬だった。

 

 カラン、という軽い木片が落ちた音が聞こえ、そして誰ともなく顔を上げる。

 アキラ達の様子がどうなったか、窺うようにして見れば、イルヴィの手はしっかりと砕いた床に打ち付けられていた。

 

 互いに倒れ伏せ、手を握ったまま、アキラは俯向き、イルヴィ天井を見ている。

 手首や肘、肩まで複雑に骨折した上で、イルヴィは笑っていた。獰猛な笑みではない、愉快で溜まらない、といった顔だった。

 そのイルヴィが、胸を上下に跳ねさせて笑う。

 

「カッ……、ハッハッハ……! あたしが敗けるのかい……!」

「おいおまぇ、腕がとんでもないことなってんぞ……! ――おい、誰か治癒の刻印持ってる奴、面倒みてやれ!」

「うっへ……、イルヴィ。あんた腕がとんでもない事なってるよ。これは流石に……治すんでしょ?」

 

 いつだか彼女自身が言っていた、決闘で受けた傷は誉れだ、という発言からのものだったが、イルヴィはゆっくりと頷く。

 

「流石にこれで治癒しないって訳にはいかないだろうさ。戦士を捨てるつもりはないからね」

「ごめん、なさい。力が……良くなくて」

 

 アキラも話せる限りの単語で精一杯謝罪したが、イルヴィはそれを蹴飛ばすように笑う。

 

「何であんたが謝るんだい。堂々としてりゃいいんだ。この程度の傷、なんて事ぁないしね」

「はい、えぇ……。でも……」

 

 つい現世の基準を持ち出してしまうが、粉砕骨折程度、この世界では切り傷と変わらない。治癒魔術という手段があって、どのパーティにも誰かが一人は扱えるものだから、怪我に対する認識も軽いのだ。

 

 それこそツバを塗ってれば治る、くらいの感覚でいる方が、この世界では健全なくらいだった。

 だが怪我をさせたのは事実なので、そこに負い目を感じる。特にアキラの感覚だと、どうしても持っていた常識が――女性に怪我をさせた、という事実が負い目にさせるのだ。

 

「勝者は勝者らしく、堂々としてりゃいい! あんたを見込んだあたしの目に、狂いは無かった!」

 

 イルヴィが堂々と負けを認めると、ワッと周囲の観客が沸く。誰もが我先にと立ち上がり、再び人垣を形成して拍手や指笛など、惜しみなく送る。

 勝者を称える声を上げると共に、治癒刻印を持つ冒険者が人垣へと分け入り、傷の治療を施していく。アキラはそれを済まなそうに見つめていたが、胴元が横から入ってきてアキラの腕を取った。

 

「さぁ、栄えある勝者はアキラに決まりだ! 掛けの比率はイルヴィに寄ってたが、大番狂わせは十分有り得ると誰もが思っていた筈だ! それをやり遂げたアキラには、盛大な賞賛をくれてやれ!」

「おぉ! 良くやった! 俺ぁ明日からしばらく飯の心配しなくて良いしな!」

「おめぇは生活費を賭けに使う癖、マジで直した方が良いぞ!」

「やめらんねぇんだ! ほっとけ!」

「――アキラ、アタイも嬉しいよ!」

 

 髪をボサボサに振り乱したスメラータが、傍に寄ってきて手を握る。まだ熱を持っている手に彼女の手は冷たく感じ、その対比として思わずイルヴィへ目を移した。

 

「そんなに気にする事? 確かに腕はグチャグチャになったけど、明日には……いや、明日は一応安静にしておいた方がいいけど、まぁすっかり元通りさ」

「うん、でも……気分が悪い」

「あぁ、アキラは前から変に優しいもんなぁ」

 

 常識の齟齬は簡単には埋まらないし、それを上手く説明できる語彙もない。

 アキラの心情などお構いなしに、周りは囃し立ててくる。元より一目置かれていた事には間違いないが、今回の勝利で、それに拍車が掛かった形だ。

 

 褒めてくれる事、認めてくれる事は嬉しいが、この一敗でイルヴィを軽んじる様な風潮ができないかだけ心配だった。

 実力社会だから、確かな力量を持っているなら、ある程度横暴でも許される。時として悪名さえ力を誇示する道具とする場合もあった。

 

 イルヴィは普段から気風の良い姉御肌だが、これでドメニが敗北した時の様な事態になればやるせない、と思っていた。

 その心配のまま見つめていれば、誰彼と気を配って彼女を立たせたり、奮闘を称えたりとしている。背中を叩いて労った男に、悲鳴を上げて非難の罵詈雑言を上げているのは、逆に笑えたくらいだ。

 

 ドメニと違って、イルヴィにはこれまで積み上げた信頼がある。それが敗者のイルヴィを気遣う姿勢として表れているのだろう。

 杞憂は杞憂に過ぎなかったと胸を撫で下ろし、今は勝者を祝福する声と雰囲気に身を預けた。

 

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