【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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幕間 その2

 ナトリアは簡潔に報告しようと心掛け、そして帰還の最中にも内容を整理しようと思考をめぐらせていた。

 そうして、まず先に結論を。そして聞かされていた内容の相違を説明するには、最初から順序立てて説明した方が良い、と結論付けた。

 

「接触は成功。ルヴァイル様との対面を約束し、転移陣の設置も済ませました」

「……そう」

 

 ルヴァイルの声音は、平坦なまま変わらない。表情にも変化はなく、むしろ落胆しているようですらあった。望む答えではなかったのだろうし、これから言う報告は更なる落胆を生むようで気が重い。

 

「彼女らのメンバーに、欠員はおりませんでした。カリューシー様を取り決めどおり弑し奉り、スルーズの身柄を確保した様に見せかけ、邸宅の中へ逃げ込み、到着を待ちました」

 

 これに対するルヴァイルの返答はない。小さく息を吐いただけで、反応と言えるのはそれ位だった。カリューシーの神魂は、この時点で回収する手筈になっていて、これは他の大神の総意でもある。これは勝手をやり過ぎた小神への戒めとも見られるが、事情を知る大神からすれば全く別の話だ。

 

 神魂だけに限った話ではないが、高度に精錬された魂というのは、高純度なエネルギーそのものだ。だから『遺物』を動かす事が出来るし、そして神々の狙いを達成するには必要な措置だった。

 これはルヴァイルが当然その狙いを知っていて、その為に邁進していると思わせる必要があってやった事だ。しかもカリューシー当神も、これに納得して魂を捧げている。

 

 この辺り、カリューシーは本当に変わった神で、一切の聖務を担わない代わりに、いつでもその生命を失おうと構わない、という取り決めがされていたという。

 他の小神にその様な話や取り決めは言ってない筈だ。

 そういう意味でも、今回カリューシーが弑された事は、あまり勝手をすればああなる、という教訓として映った事だろう。

 

 そしてスルーズについては、違反行為に近く、失敗した様に見せかけなくてはならなかった。

 大神は彼を欲しているし、あれば助かる、という程度の認識だろうが、ルヴァイルに関して言えば看過できないものらしい。

 

 最低でも他の神々の手へ渡らない様にする必要があり、そして可能ならその場で処分することが求められていた。

 この部分に関しては良い報告が出来る、と声が上擦りそうになるのを堪えながら、ナトリアは声を発する。

 

「スルーズの遺体は始末できました。私の死体と偽装させた上で火葬にしたので、ルヴァイル様の関与があったにしろ、決裂したと見えた事でしょう。この部分については、大変上手く事が運んだかと……」

「……そう」

 

 ルヴァイルの返答はどこまでも素っ気無い。

 この事でスルーズを回収できなかった始末も、ルヴァイルが信頼できる手札を失った事で相殺となる筈だった。他の大神は、ルヴァイルに特別な意図は無かったと印象付ける事ができるし、神使の損失はそれに見合うだけの制裁に相当する。

 

 元より疑念を抱いていようと、神々にとってルヴァイルの存在は完全な盲点、死角になる筈だ。

 この部分について、ルヴァイルは何度もナトリアに念を押す熱の入れようだったから、喜んで頂ける報告だと思っただけに、少々拍子抜けだった。

 

 そう思って、ハッする。

 神にお褒めの言葉を賜りたいと思っても、ねだるような真似は浅ましい事だ。

 ナトリアは自責の念で反省しながら、報告を続けた。

 

「ミレイユは非常に理知的でした。ルヴァイル様がご懸念された、拷問による情報の引き出しもなく、またユミルを使った強制開示もありませんでした」

「それで……?」

 

 ここで初めて、ルヴァイルの興味を引き付けた様だった。

 感情の発露らしきものを感じられ、ナトリアは促されるままに報告を続ける。

 

「ユミルはそれを辞さない構えでしたが、憂さ晴らしの側面が強く、それをミレイユが止めていました。よく先が見えており、私に託して頂いた情報に、求めるものは無いと断言しておりました。そして、それは事実でもあります」

「……えぇ」

「忍耐に期待するな、という発言をしつつ、良く自制できておりました。あれは単に、尋問をやり易くする為の見せかけだった可能性があります。……いえ、これは私情が混じりました。申し訳ありません」

 

 報告は正確に、見たままを伝えなくてはならない。個人的感情からの推測など、報告に交えるべきではなかった。

 だがルヴァイルは、そこにこそ強い反応を示した。

 

「自制できていた……、そして?」

「聞き出せる情報には限りがあり、そして現状では全てが叶わぬ事を理解していました。言の葉に出す事も憚られますが、ルヴァイル様の思考にも考えが及んでいたようです。神々の狙いについても、ある程度察しが付いてる様子でした」

「それは良い……、実に結構なこと……」

「そして……、私を無傷で解放しました。ルヴァイル様から申し伝えられていた内容に、全く無かった行動です。共に茶を饗され、どのように行動するべきか、一瞬我を見失ってしまい……。ルヴァイル様の神使として、見苦しい様を晒してしまいました。――どうか、お許しください!」

 

 言い終わると同時に、ナトリアは頭を下げた。

 拝謁を賜る時と同様、床に額付けるほど深い礼をする。何かしらの叱責があると、覚悟を持って待っていたが、返って来たのは歓喜にも似た高い声だった。

 

「――そう! 遂に、遂に妾が悲願……! 二百年の時を経て出現したなら、あり得ない話ではなかったものの……! 少ない可能性の先……、()()()()()()()が現れた!」

「最初……?」

 

 ナトリアは顔を伏せたまま、口の中で転がすように声を出した。

 その言い方ではまるで、今まで見てきたミレイユが外れだとでも言う様なものに感じられる。当たりを引いた、とも言い換えられる気がしたが、ナトリアに深い事情――それも神の思う先など知りようもない。

 

 それどころか、知る必要すら無かった。

 我らの主神が嬉しそうにしている。それが事実であり、ナトリアにとってもそれ以上大事な事は無かった。久しく見えてなかった本気の歓喜は、ナトリアの気持ちも上向かせてくれる。

 

「それで、ミレイユには、それ以外どの様な印象を受けましたか。理知的、冷静、だからこそ先が見えているのでしょう? その冷徹な思考は鋭く、余裕すら垣間見えたのではないですか?」

「は……、その様に言われてみると、確かに……。ですが冷静なのは、ミレイユだけでもありませんでした」

「へぇ……?」

「仲間たちも同様に鋭い考察を見せ、そしてミレイユは、それを頼りにしているように見えました。ミレイユ一人がというより、彼女ら全員が抜け目なく、それぞれを上手く補い合っているような……。彼女一人というより、彼女ら含めた一つとして機能し、それが神にも届く思考を持つようになったのではないか、と推測いたします」

「――そう!」

 

 ルヴァイルは遂に神座から立ち上がり、それにつられて装飾品がシャラリと音を立てた。

 ナトリアは未だに顔を上げてないから分からないが、その声音が今までにない上機嫌である事だけは理解できる。

 

 忙しなく床を踏み歩いている音も聞こえ、今までにない奇行とも思える行動に、我を忘れて顔を上げた。そこには果たして、顎の下に指を添えて、頬を上気させて感動している主神の姿があった。

 

「遂に……! 遂に……! 待ち望んだミレイユが……! ここより先は慎重を期さなければ……、これ以上の失敗は耐えられない。持ち堪えられないに違いなく……、最後の機会と思うべき!」

「ル、ルヴァイル様……? その様な……立ち上がって歩くなど、お御足が汚れます……!」

 

 掃除が行き届いているから、チリ一つ埃一つ落ちている筈はない。だが、神が見せる行為の一つとして、自らの足を使って歩かない、というものがある。不自然とも禁止ともされていない行為ではあるものの、その威厳を体現するに相応しくない、とはされるものだ。

 

 これが他の大神の前であれば失笑を買うだろうし、信徒を前にした行為ならば失望されてしまうかもしれない。それほど異質な行動なのだが、しかしそれを見せるというなら、ルヴァイルの興奮度合いも推して知れようというものだった。

 

 ナトリアの言葉で我に返ったルヴァイルだが、自らの行為について気付いていないようだった。

 言われて初めて自らの足元へ視線を向け、そして苦笑としか言いようのない表情を見せた。

 

「えぇ、礼を失しました。我を失い、興奮し過ぎてしまったようです」

「しかし、それほど……その、ミレイユに対して期待をされているのですか?」

「期待……、そう。久しく忘れていた感情……、これは期待ね。勿論、期待しています。貴女もよく心得ておく様に。今後何一つ、些細な失敗すら許されません。そう心に刻み込んで行動するように」

「ハッ、勿論です! 御用命いただいた全てに対し、十全な結果をお届けいたしますこと、ここに誓わせていただきます!」

「――結構! 幾度か、こことミレイユとの間を往復して貰う事にもなるでしょう。何かと用向きを伝える役目を与えます。関係は良好に保つ様に。現在不仲であるというなら、これを改善するよう努力なさい」

「畏まりました――!」

 

 ナトリアは平伏しながら、ミレイユ達へと思考を巡らす。

 ミレイユ自身からはそれほど敵意は向けられていないと思うし、関係を良好に転じるのは難しそうでもなかった。

 しかし、アヴェリンやユミルは別だ。

 

 あの二人から強い敵意を感じるし、何よりユミルに対しては不都合な情報を渡し過ぎた。あの状況では仕方なかったとはいえ、あれでナトリア自身も相当嫌われただろう。

 

 神々の行った詭計の中には、ルヴァイルが関わっていたものもある。積極的に関与したものは多くないが、要所要所で関わっている以上、彼女の怒りを買う事をは避けられないだろう。

 今後、あの邸宅へ出入りするに辺り、どこまで良好に持っていけるか……難しいところだった。

 

「ルヴァイル様、その際には……どのように接触するべきか、ご助言を頂ければ心強いのですが……」

「そう……ね。他はともかく、ユミルについては関係の改善を強く求めません。元より彼女は許すつもりがない。取り入ろうとしても、無駄に終わるでしょう」

「な、なるほど……」

 

 それを聞ければ、ナトリアとしても幾らか胸を撫で下ろせる。考える限り、ユミルから好意を向けられるよう動くのは難しいと思っていたのだ。

 これはユミルに限った話ではないが、何かしらの物品を渡したところで好転するような者は、あの中に居ない。実直さと行動でのみ評価するタイプで、しかも見掛けだけだとすぐ見抜く。

 そして神々の側に近いと知っているだけに、一度の失態は取り返しがつかないだろう。

 

「あちらについて、ルヴァイル様が直接ご降臨する事は、既に伝えております。しかし、時機について詳しい説明はしておりませんでした。これについて、どうなされますか?」

「他の大神の油断や、勝利の確信を引き出す為、森で大人しくして貰う事が推奨されます。妾が訪うのは三ヶ月ほど先が良いでしょう。……が、それを正直に伝える必要はありません」

「では、もうしばらく掛かる、とそれとなく回答を先延ばしに……。しかし、ルヴァイル様がご降臨されるというなら、色々と欺瞞工作も必要かと思われます。それについても、こちらが主導で行った方が宜しいでしょうか」

「その程度、こちらで言わなくとも勝手にやります。むしろ口出しは、いらぬ誤解を生むので、何もしていないようなら仄めかす程度で結構」

「畏まりました」

 

 ナトリアは再び頭を下げて了承する。

 ルヴァイルの顔には常にあるような、諦観に似た表情ではなく、明日の朝日を待ち侘びる様な期待感に溢れていた。

 

 それがどういう意味を持つのか、ナトリアは正しく理解していないが、必要ならばルヴァイルは全て申し伝えてくる。それを理解しているから、ナトリアはただ指示に従うのみだ。

 結局のところ、ナトリアが望むものはルヴァイルが期待する成果だけ。

 現在が、その成果に直結する道の上にあるというのなら、ナトリアはその指示を全霊を賭して叶えるまでだった。

 

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