【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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待望 その2

 豪華な椅子と普通の椅子、金髪の女性はその二つを見比べ、それから胡乱げな視線をルヴァイルへ向けた。親しい仲であったとしても、到底神使が神に向ける視線ではない。

 一体、二人はどういう関係なんだ、と問い質そうとするより前に、金髪の方が先に口を開いた。

 

「なぁ、ルヴァイル……。己の事、何て説明した?」

「ともを連れて行く、その様に申し伝えておりましたよ」

 

 あまりにぞんざいな物言い、そして気安く受け取るやり取りを見れば、その正体にも察しが付く。似たような服装をしているのも、それが理由なら納得できるというものだ。

 というより、真っ先に思い付いても良かっただろう。

 

 ルヴァイルが言う『とも』とは、友であって供ではない。

 随伴員ではなく、友人を連れて行く、と言っていたのだ。

 

 だが、これはミレイユが勘違いしただけとはならない。状況を踏まえて考えれば、神が連れて来る『とも』という単語からは、まず友人とは思い至らないものだ。

 伝言を頼まれたナトリアでさえ、この言葉には騙された一人ではないか、という気がした。

 

 ミレイユが苦い顔を見せてしまったのと同様、ユミルもまた苦り切った顔で鼻の頭に皺を寄せていた。

 

「何で神って奴は、そう要らぬ事をせずにいられないのかしらね? 他にも神が付いて来るなんて、こっちはまる……っきり、想定していないのよ」

「当然、何の用意だってしていない。だがまぁ、それが気に食わないというなら……」

 

 ミレイユが制御を完了させて、椅子を一つ召喚する。いつも何かと喚び出す椅子で、その座り心地は気に入っているが、その所為でこの場の誰より立派な椅子になってしまっている。

 金髪はそれを大層気に入り、粗末な椅子を外へ追いやって、早々に自分のものにしてしまった。

 

「助かる。いや、便利だな、お前は。それだけ多芸だと羨ましくなる」

「……皮肉のつもりか?」

「何でだよ。褒めてるだろ」

 

 ハン、と鼻で笑って、座り心地を確かめ、そして手摺り部分を撫で回し始める。

 ルヴァイルは嗜めるような視線を送ったが、それ以上何も言わず、ミレイユへと目礼して着席した。二柱が座ったとなれば、こちらも立ちっぱなしという訳にはいかない。

 

 ミレイユが最初に腰を下ろすと、それぞれが続いて着席する。

 誰もが剣呑な視線を二柱に向けていて、そして二柱はそれを悠然と受け流し、紅茶の入ったカップに手を付けた。

 

 気負いらしきものも見せず、実に自然な動きだったが、紅茶の味はお気に召さなかったらしい。僅かに眉根を寄せて、それからカップをテーブルに置く。

 

 説明も、自己紹介の必要も、彼女らは感じていないかのような振る舞いだった。

 初手から後塵を拝する様な形になってしまったが、向こうから話し掛けて来る様子はない。

 だが、何も言う気がないのなら、こちらから問うまでだ。

 二柱の様子を(つぶさ)に観察しつつ、ミレイユから口火を切った。

 

「……随分と、大それた真似をしてくれたな。これは不意打ちに等しい行為だ。私は、お前が信頼関係を築きたいのだと思っていたんだがな」

「それは間違いない。こいつはそれを願ってるよ」

「まず誰だ、お前は。この会談に混ざりたいなら許可を得ろ。そして先に、名を名乗れ」

 

 金髪は虚を突かれた様な顔をして、ミレイユの顔をまじまじと見つめ――それから大きく口を開けて笑った。隣のルヴァイルの肩を無遠慮に叩き、目尻を指で拭っている。

 

「あーはっはっは! おい、聞いたかルヴァイル。己の名前を知らんとよ! 神に名乗らせる豪胆不敵さ! くっくっく……ミレイユに、こんな一面があるとは知らなかった!」

「貴女はそもそも、彼女に言うほど興味など無かったでしょう。さも知っているような言い方は、止した方がよろしいでしょうね」

「……こいつらに聞いていたんじゃ埒が明かない。ユミル、ルヴァイルと縁深い神なんているのか?」

 

 当然、ユミルならば即座に回答してくれるだろうと期待していたのだが、首を横に振って腕を組んだ。

 

「ルヴァイルってのは、まず表に出ないからね。何してるかも、何をされるかも知らない影の薄い神って印象で、誰と敵対的でも友好的でもない。だから、親しそうってだけじゃ判別できないんだけど……」

 

 そう言って一度言葉を区切り、金髪の顔を顰めた顔をで見つめてから、改めて口に出す。

 

「まぁ……、姿から察するに、インギェムじゃないかと思うのよ。アタシも本性が、こんな性格してるだなんて知らなかったけど」

「そうとも、自己紹介は必要なさそうだね。……ま、己は大神の中じゃ一番()()。気楽にしてくれて構わないよ」

「若い? だから何だと……。それに、インギェム……? 繋属と双々のインギェムか? ――敵じゃないか」

 

 ミレイユがそう言った途端、アヴェリンが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、武器を取って立ち上がった。ルチアが同時に制御を開始して、即座に防壁を張って攻撃に備える。

 ミレイユとユミルは二人と違って動きを見せず、目の前の二柱が見せる反応を伺っていた。特にユミルは顰めっ面を更に歪めて、つまらなそうに腕を組んでいる。

 

「落ち着け、二人とも。攻撃するつもりなら、椅子に着く前に開始してる。油断を誘うというなら、敢えてこの場である必要もない。元よりそのつもりなら、神にはそれが容易く出来る」

「いや、ご明察だね。神人最高傑作は、伊達じゃないってか。それに加え冷静。……ルヴァイルが気に入る訳だ」

 

 インギェムは嬉しそうに笑み、それからルヴァイルへと顔を向けた。

 ミレイユが座る様に手を動かすと、アヴェリンとルチアは渋々と武器と魔術を収めて座る。それでも完全に武装を解除したりしない。隙あらば――あるいは攻撃して来そうな動きがあれば、いつでも殴り掛かろうという意志が伺える。

 

 インギェムは、それすら楽しそうに見つめて、不敬を詰るような言動を見せなかった。

 だが、アヴェリンの行動は、決して過剰な反応ではない。敵意を見せていない、その素振りも見えないからといって、何の企みもないとは考えられないのだ。

 

 相手は神であり、強い戦士や魔術士と同じ様に見て良い存在ではない。

 神々には、その存在故に許される権能というものがある。魔術でも、武技でも到達できない異質な能力。その使い方次第で、戦局など、どうとでも転がってしまう。

 

 特にインギェムと言えば、ミレイユに『箱庭』を下賜した神だ。

 その箱庭にはGPSの様な役割があって、ミレイユの位置を特定する座標と追跡する為に用意された。それを作った張本人が目の前にいて、冷静になれる筈もない。

 

 ――そして、ルヴァイルが()の神を連れて来た。

 その意味は大きい。

 ミレイユは拳を握り締め、自制しろと自分に言い聞かせながら、言葉を投げかける。

 

「一応、何故だ、と聞いておこうか。私がインギェムに敵意無しとは思っていないだろう? 得意の未来予知モドキで知っていたからか? 大事にはならないと確信があったから、そいつを連れて来たと? 冷静にそこまで計算出来るなら、確かにインギェムは敵ではない、と見る事は出来るがな……」

「何の保障もないでしょ、そんなコト」

 

 ユミルが吐き捨てるように言うと、インギェムは皮肉げな笑みを浮かべながら言った。

 

「そもそも、敵だった瞬間なんて無いんだがね。ルヴァイルと一緒さ。他の神々に、それと分からないよう従順さを見せつつ、裏切る機会を虎視眈々と狙ってた」

「お前もか。……だが、自己申告だけで信じてやれるほど、私はお人好しじゃない」

 

 そもそも裏切るつもりのある奴は、自分の旗色が危うくなれば、また裏切る。あるいは仲間を売り渡したりと、保身に走るものだ。

 神の口から出た言の葉だから真実とは限らないし、約束を守ると確約されるものでもない。

 

 それはルヴァイルも、そしてインギェムとて百も承知だろう。

 出来るというなら、その証拠を提示されるまで信じる訳にはいかなかった。

 

「証拠ならあるさ。そもそも、箱庭の役割は知ってるだろう?」

「言われるまでもない」

「じゃあ、何でそんなの用意したかっていうと、神々がお前の位置を常に把握しておきたかったからだ。本来はその為に強力な武具を下賜したのに、見向きもしなかったのはお前だ。だから、別の物を用意する必要が出て来た」

「あぁ、やっぱりそういう目的だったか」

 

 だが、ミレイユは単にデザインが気に食わない、というだけで、それら武具を倉庫の肥やしにした。余程便利で強い武具と分かってたが、それらに頼らねばならない程、追い詰められてはいなかった。

 

 自らが用意した武具では太刀打ちできない、となれば使う事も視野に入れたのだろうが、結果は見ての通りだ。

 何より、能力面が優秀だからと、それだけで採用する程、ミレイユは美的感覚を捨てていなかった。

 

「まぁだから、色々な敵を相手に戦って貰ったんだけどさ、お前は頼りにするより早く成長するもんだから、やっぱりお役御免になった。じゃあ、機能面で優れたものなら持ち歩くだろう、って事で、己に白羽の矢が立った」

「あぁ、確かにあれは便利だったな。手放し難くなるには、十分な機能を持っていた」

 

 その点については、策略どおり手の内に嵌った。

 押して駄目なら、という着眼点だったのだろうし、そして見事に絡め取られた訳だ。

 それを証拠というつもりなら、話は早々に終わらせて、その首を切り落としてやろうと思ったのだが、それより前にルヴァイルが口を挟んだ。

 

「『飛行術』の魔術書と共に、穴の存在を知らせたでしょう? それも加味して貰えませんか」

「あの醜悪な覗き穴の事か? 何をしているか、何をするつもりなのか、そこから見るんだか聞いていたんだかに利用していた訳じゃないか。それで教えるメッセージだった、と言われてもな……」

「間違いではありませんが、そう低俗なものではありませんよ。それに、あの穴は外から内側を見る事は出来ませんしね。発見しただけでは意味が分からず、結局捨て置く事になります」

「じゃあ、どういう意図があったんだ。見つけたところで意味不明、理解不能で終わるなら、意味なんて無いだろう」

 

 かつて、ユミルがそうだった。

 状況が状況だけに、即座に降下する必要があったし、冷静に分析できる状況でもなかったのは確かだ。だが仮に、何の目的も無く飛ばされたとはいえ、やはり穴がある発見より、まず着地の心配をする。

 

 命の危機にあるのだから、謎の穴より優先するのは当然で、そして或いは、あった事すら記憶の端へ追いやられるかもしれない。

 

 だが、同時にそれを敢えてこの場で説明するというのなら、意味が全く無いという事も有り得なかった。意味はあるのだ。それを教えるだけの意味が。

 

 天井に作られた穴。

 外からは分からないもの。

 教える為の魔術書。

 

 全く意味不明だが、意図があるというなら、それそのものが答え、という気がした。

 

「――つまり、そこに穴があると見せる事、それこそが意図であり意味だった、と言いたいのか?」

「おーっ、おーっ! ほっほっほ!」

 

 珍妙な声を上げ、インギェムは興奮気味に顔を輝かせながら、手を叩いて賞賛した。

 

「おいおい、凄いじゃないか! 何で分かった!?」

「何でも何もあるか。それぐらいしか可能性が無いからだ。さっぱり意味が分からないのは、さて置いてな」

「あぁ、それは仕方ない。ここで説明して、初めて意味が生まれるからだ。そこに確かに穴があったと、そう記憶している事が大事なんだ」

 

 そうだろう、とインギェムがルヴァイルへ顔を向けると、複雑な顔をして首肯した。

 その表情の意味が分からず、ミレイユはとりあえず続く言葉を待った。

 

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