【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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待望 その3

「ミレイユ、お前は己が敵じゃない証明が欲しいんだろ? 己の神格と神徳を言ってみろよ」

()()()()……。だが、これだけじゃあ何の事だか、サッパリ分からん。お前のそれが、天井に穴を作った、と言いたいのか? だから何だ」

「何だと言われてもな……。つまり、一つ所に繋ぐ事を強要する訳だ。そして、一つを双子の様に増やしてやれる。そういう事でもあるんだな」

 

 その様に解説されても、やはりミレイユにはピンと来ない。

 眉間に皺を寄せ、詳しい解説を要求しようとしたが、それより前にユミルが口を開く。

 

「多分だけど、どこぞの大神が作ってた孔を、コピーしたと言いたいのかしらね。そしてそれを、箱庭に繋いだ……。そういうコト?」

「あぁ……? まぁ、正確じゃあないが、大体そういう事だ」

「だが、それがどうして敵意無しという証拠になる? ――いや、待て。孔のコピー? 天井にあるのは覗き穴だった筈じゃないのか? 孔のコピーというなら、どうして魔物が出て来なかったんだ?」

 

 覗き穴、と言ったのはあくまで例え話で、本当に目を当てて覗き込んでいた訳ではあるまい。しかし、時間と空間を飛び越えて、ミレイユ達の動向を察知するのに使っていた、というのは今までの会話からも確証を得られた。

 

 かつて神宮へ侵入した幻術士エルゲルンから、箱庭を使って察知していた、という話を聞いている。だから、その事実を追認されただけ、と思ったのだが、どうもそれだけという事でもないらしい。事実と異なる何かを示唆され、思考が乱れる。

 

 そもそも孔という存在が曖昧なもので、実際にどういうものか理解していないのもあるが、単にデイアートと地球を繋げるトンネル、というものでもないだろう。

 そこに事実の齟齬があり、だから理解出来ないのかもしれない。

 

 インギェムは一度難しそうな顔をして腕を組み、それから天井を見つめて、助けを求めるようにルヴァイルへと顔を向けた。

 顔を向けられた当の彼女は息を一つ吐いて、インギェムに変わって解説を始める。

 

「自分の事なのに、自分で説明できないとはどういうことですか。……別に不思議ではないでしょう。孔が幾つも作られていたのは承知している筈。その内一つをコピーしていた、という話であって、魔物が送られるのに使われていた孔をコピーしていたものではなく……」

「あくまで魔物が湧き出る孔とは別ものだと、そういう事か……」

「そうです。求められていた用途が別物ですし」

「あぁ、大前提の思惑として、気付かれない事に意味がある。魔物がボトボト落ちてくるなら、そもそもの役目を果たせない。……覗く以前の問題か」

 

 ミレイユが考察から私見を述べると、できの良い生徒を褒めるような視線を向けて頷く。

 

「えぇ。インギェムは求められたから、それを作ったに過ぎませんが、妾の意志をしっかりと汲んでくれています。繋属……一つ所に強制的な繋がりを作る、とはつまり、こちらからその穴へ繋げる事も出来るという意味です」

「それは、まさか……!」

 

 ミレイユは思わず身を乗り出しそうになり、慌てて動きを止めた。

 それから、そろりとした動きで背もたれに身体を戻す。冷静さを取り戻す為に、一度深呼吸をしてからルヴァイルを見つめた。

 

 どうやって現世に戻るのか、それは大きな課題だった。

 ルヴァイルから協力を匂わせる接触があった時、これを利用すれば現世へ帰る手段も得られるのでは、と期待を抱いたのは確かだ。

 

 だが、初めから要望を伝えれば足元を見られる。こちらから要望を出す前に、それを提示して来たのは有り難い。

 そうとなれば、とミレイユはやや顔を険しくさせる。

 

 やはり、ミレイユの望みや目的など、既に知られていると思った方が良いだろう。

 交渉の段階で有利に立つのは理想だったが、それは難しくなったと思うべきだった。

 

「……なるほど。そちらがやる気になれば、その穴へ……引いては現世に置かれた箱庭へ、帰る事が出来るという事か」

「実際の工程は複雑ですが、結果だけで言えばそうなります。あの世界へ帰る手段を、提供できるのはインギェムだけ。なればこそ、敵では無いと納得して貰えると思いますが」

 

 自信満々でそう言われてしまえば、思わず納得してしまいそうになるが、それは間違いだと知っている。唯一無二の手段の様な口振りは、自らを売り込む手口なのだと分かるものの、本当に唯一無二ではないと、ミレイユ達は理解していた。

 ミレイユがそれを指摘するより前に、ユミルが攻撃的な眼差しで口を開く。

 

「それは可笑しいじゃない。一度は『遺物』を使って帰還したのよ。同じ事をもう一度すれば良いだけだわ。その手段が存在している以上、アンタたちに頼らねばならない理由にはならない」

「それもまた可能な方法ではあるものの、やめた方が良いでしょうね」

「あら、何故? 自分達の存在理由がなくなるから?」

「いいえ、確実性に欠けるからです」

 

 それだけでは具体性に欠け、説得力も皆無だった。

 ユミルも攻撃的な視線に疑念の眼差しを加え、考慮に値しないと、切って捨てようとする。だが、それより前にルヴァイルがその具体性を提示してきた。

 

「『遺物』は確かに万能性を秘めていますが、完全無欠な存在でもありません。間違いなく、齟齬無く望む結果を得られるかは、賭けになるでしょう」

「そうかしら? 一度やれたならやれるでしょう。それとも、正確な年月日でも必要なのかしらね。だったら、アタシは記憶してるから問題ないってコトになるけど」

 

 ユミルはしてやったり、と口の端を曲げたが、ルヴァイルの余裕は崩れない。表情を一切変えないまま言葉を続けた。

 

「『遺物』はその万能性を持って、世界が――宇宙が繰り返し複数作られた事を認知しています。貴女が帰りたいと願う宇宙は、果たしてどの宇宙でしょうか? 数字が割り振られているような分かり易いものでもないのに、正確に指定できなければ、確実に望む場所へ帰られる保障もありません」

 

 ユミルは元より、ミレイユもその指摘に息が詰まった。

 多元宇宙論――そんなものが本当にあるとして、最新の宇宙だと言って、果たして伝わるものだろうか。そもそも管理されているものでもなく、『遺物』が認知しているからと、一言で理解し反応してくれるものだろうか。

 

 それは分からない。

 宇宙にしろ、時間にしろ、ミレイユが出来る理解の遥か外だ。理屈や理論など知らないが、そういうものだと言われたら、そうと納得するしかない。

 だが同時に、煙に巻くには丁度良い言い訳とも取れる。

 

 自らを売り込むのに、そして成果を餌にするには、他を利用されては困る。

 その欺瞞として用意したのなら、実に有益だと言わねばならなかった。

 ユミルも同じ考えでいたようで、同じような指摘をする。

 

「なるほど? 繰り返し過去へ飛び、その度に宇宙が作られ、その所為で複数の平行世界が作られたと。望む世界に飛べるかは運? だったらインギェムが繋ぐコトだって同じでしょ。どちらを使おうが変わらない」

「いいえ、インギェムは別の世界を認知していませんから。その様な万能性を持っていないので、繋ぐ世界は常に一つにしかありません。貴女方が別宇宙や別世界と聞いても理解できないように、インギェムにも理解できていないし、そして認知も出来ていない。この認知、というのが大事なのです」

「つまり無色透明なビー玉を複数並べるようなものか。仮に合っても目に見えず、そして色付きの物が一つだけあるのなら、それしか目に付かない、というような……」

 

 ミレイユが持論を述べてみると、ルヴァイルは華やぐ様な笑みで首肯した。

 

「まさしく、仰るとおり。インギェムにはその色付きしか見えていないので、他と間違えようがありません。そして、認知できていないが故、繋げようがありません」

「ふぅん? まぁ、何言われようと確認する手段も方法もない。だから信じるしかないワケだし、その理論については納得してあげても良いけどさぁ……」

 

 ユミルは攻撃的な視線を止めないまま、更なる指摘をしながら指を向けた。

 

「それを理由に、アタシ達を騙してないって、どう証明するのよ? 事前に天井へ穴を作っていたコトだって同じよ。それを持って、だから味方だと言うには杜撰(ずさん)すぎるわ。アタシ達が安心できる材料、何一つ無いじゃないの」

「誰が味方だって言ったよ。敵意なんて無いって言ったんだ。積極的に敵に回る理由が、こっちにだってない。他の神々がどういう思惑であろうとな。だが、協力関係なら築けるだろ?」

 

 悪びれずに言ったインギェムは、それから尊大に腕を組んだ。

 実に神らしい考え方と振る舞いで、ミレイユとしてはそちらの方が納得できる。だがやはり、それでは協力関係を結びたい意図を理解出来なかった。

 敵ではない、という言葉が事実だろうと、それ一つで安心できる――ミレイユ達を納得させる理由になっていない。

 

 その安心できる材料を提示しろ、という話をしていたのに、インギェムはそれを正面から斬った。

 だが、とも思う。

 

 だが、インギェムの言った事を考えてみると、彼女は神々の計画から漏れている事を意味しないか。

 元より一枚岩ではない事は理解しているし、神々は好き嫌いが激しく、仲違いも多い。だから、この計画の中枢にインギェムがいない事は不思議でもないが、ミレイユの件については、神々にとって一大事業のつもりでいた。

 

 全ての神が協力的で無いのは良いとして、箱庭を下賜して来たインギェムは、その計画に携わる中核メンバーだと思っていたのだ。

 

 そして実際、神々から協力を要精されるまま箱庭を作ったように、全くの無関係ではない。

 だが同時に、反逆を企てているルヴァイルには、積極的な協力をしている様に見える。その話し振りから仲の良さも伺え、だから協力するのも吝かではない、という事なのだろうか。

 

 ――だが、仮に。

 インギェムに敵意なしと判断したとしても、そもそもの発端であり主軸はルヴァイルの方だった。この神がどういう意図であるのか、それを見極める方が余程大事だ。

 

 探り一つ入れて分かる事でもないだろうが、しかし聞かない訳にもいかない。

 ミレイユはインギェムへと向けていた視線をルヴァイルへと移し、詰問するように問う。

 

「インギェムに敵意があったかどうか、それは今更どうでも良い。必要なのは、私に現世へ帰る道を示す事。そして味方であると信じさせ、反故にしないと確約する事だ」

「どちらも出来るとは思えないわね。口だけの証明に意味なんてある?」

 

 ユミルが辛辣に吐き捨て、出来る筈がないと断言する。

 だが、それを一蹴するかのような発言が、ルヴァイルの口から飛び出した。

 

「では、妾と貴女の間に繋属を結びましょう」

 

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