【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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待望 その10

「そして逃げ出した私を追って、取り戻したは良いものの、言うこと聞くだけの良い子ちゃんじゃないと、その時初めて知ったんだな」

「えぇ、手酷いしっぺ返しを食らった……そういう事になるでしょう。神々は貴女を抑えきれなかったし、遠ざけようと必死だった。そして貴女は神を殺してしまったが故に、もう一度やり直すという手段を、講じる必要に迫られたのです」

 

 ミレイユは重く息を吐いて、緩やかに首を振った。

 額に手を当て、さらりと髪を撫で付け後ろへ梳く。

 

 自業自得だと言いたいが、とはいえミレイユとしても、だから世界も破滅して当然、とは思わない。ミレイユを良いように利用した神はともかく、この世に住まう全ての住人、獣や魔物、植物に至るまで、全てを道連れにするのはやり過ぎだ。

 

 今ならば、それを回避したくて策を講じた神と、それに協力したルヴァイルの気持ちも理解できる。

 だが結局、それは欺瞞に過ぎないのではないか。

 

 ループすることで別宇宙が生まれるとして、そこで新たな平行世界が生まれるとしても、上書きされるものではなく、他にも重複して存在していく訳だ。

 

 ならば結局、最初の世界は――ミレイユによって破滅した世界は依然として救われていない事にならないか。ミレイユの主観としては、そんな事実を知らないが、ルヴァイルはまた別だろう。

 それを彼女はどう思っているのだろう。

 

「座して視ている訳にはいかないとしても、滅んだ世界があったのは事実じゃないのか? それを救えないのは構わないのか」

「滅ぼした張本人が良く言うねぇ」

 

 インギェムは外へ向けていた顔を戻し、それから愉快そうな視線を向けた。

 褒めているようにも、貶しているようにも見える態度だった。どう受け止めたものか迷ったが、インギェム本人は気を悪くしているようには見えない。

 だから結局、挑発するように顔を傾け、笑みを見せながら腕を組んだ。

 

「自業自得の典型だろう。飼い犬に手を噛まれるってのは、一体どういう気分なんだ? 私はそんな経験ないから、ぜひ教えて欲しいんだが」

「良心の呵責も無いってかい? 世界一つ滅ぼすだけじゃ足りないかね」

「私にとっては、知らぬ存ぜぬ事だからな。大体、責任を追求したいなら、もっと相応しい神々がいそうなものだろうが」

「悪びれもしないってか。いいねぇ、流石『魔王ミレイユ』だ。己もその名を広めさせた甲斐があったよ」

 

 軽口の応酬が熱を帯び始めたところで、ミレイユの動きがぴたりと止まる。

 あれはミレイユが行った、デルン王国への苛烈な攻撃が元になったと思っていたが、もしかすると違うのだろうか。

 

 ミレイユだけじゃなく、ユミルやアヴェリンなども、敵意を目元に集めていく。

 剣呑な雰囲気が広がり始めたところで、ルヴァイルが手を挙げて取り成した。

 

「インギェム、貴女一体……何をしてるんです。そんなこと妾も知りませんでしたよ。……てっきり自然発生したものだとばかり……」

「いや、元はこいつがデルン軍を虐殺する様な、大規模魔術使ったのが原因だろ。それをちょろっと耳元で囁いてやっただけだ。本当に誰も何も思ってなかったら、その程度の事で定着なんかするもんか」

 

 そう言ったインギェムこそ悪びれもせず、豪快に言って笑った。顔には快活な笑みが浮かんでいて、ミレイユがやった事も、自分がやった事も悪い事だと思っていない。

 頭痛がするような思いで側頭部に手を当て、傾けていた顔を元に戻した。 

 

「まぁ、今更というなら今更だ……。済んだ事と頭を切り替えて――あぁ、つまりそう言いたかったのか?」

「はぁん?」

 

 今度はインギェムが首を大きく傾ける。

 

「だから、滅んだ世界があろうと、そこは切り替えて救える世界に目を向けろとか、そういう」

「――いやお前、己が一々そんな難しいこと考えてると思うなよ」

「じゃあ、何で広めた」

「後先、考えてないからじゃねぇかな? 単にやべー奴だなって思ったから、誰かに言いたくなった。……強いて言うなら、それが理由か?」

 

 難しそうに頭を捻って、言い出した答えがそれだった。

 遂には自分で言った事に自分で笑い出して、ルヴァイルの肩を乱暴に叩いた。べしべしと音がなる度、当の彼女は面倒そうな顔をしていたが、止める事はしない。

 付き合いが長そうな二柱だから、何を言っても無意味と知っているのかもしれなかった。

 

 どうやら、インギェムとは真面目に付き合うと馬鹿を見るものらしい。とはいえ、今まで重苦しい話題ばかりが続いて気が滅入り始めていたところでもある。

 それを払拭してくれたと思えば、そう悪いものでもなかったが、突付けば幾らでも爆弾が飛び出して来そうで怖い。

 ミレイユはインギェムを努めて無視して、ルヴァイルへと向き直った。

 

「あー……、それで……。一度は滅びを回避した世界だが、それで満足した訳でもない、と。むしろ、始まりか……」

「えぇ、貴女に付き合わせる形になってしまったのは申し訳なく思いますが、他に手も無かった。犠牲になった世界を知ればこそ、尚諦める訳にはいかなかった。今ここで、改めて謝罪しておきます」

 

 そう言って、ルヴァイルは深々と頭を下げた。

 インギェムから礼は無かったが、本当にやりやがった、という表情だけは伺える。ミレイユは神人であり、人ともいえないが神でも有り得ない。それに頭を下げたという事実は、意味が大きい。

 ミレイユも素直に謝罪を受け入れ、鷹揚に頷いた。

 

「軽い頭じゃないと分かっているが、それ一つで何もかも帳消しに出来るとも思って欲しくない。そして、それ一つで信頼を向けられるとも。これまでの話に齟齬は無いように見えた。だから、その分については信用してやっても良い」

「えぇ、今はそれだけで十分です」

 

 ユミル達にも、それで良いか、と確認するつもりで顔を左右に向ける。

 アヴェリンとルチアは目を向けると同時に頷き、ユミルは躊躇いを見せながらも、とりあえず頷いた。全てを疑っては前に進めないが、疑う事を疎かにも出来ない。

 

 そして神々の奸計とは、どこに罠が潜んでいるか分からないものだ。

 この二柱すら、その策略の一部とは思いたくないが、頭の隅には残しておく必要がある。そしてそれは、ユミルにとっては当然の事だ。

 

 一々、意思疎通を取らなくても、彼女はミレイユが見過ごした穴を見つけてくれる。

 だからミレイユは、自分の勘を信じつつ、仲間を頼りに話を聞くだけだ。

 

「ループの始まりや、その発端については理解した。計画に穴が見えるように思えるのも、結局神々の中でも意志の統一が出来ていなかった故か。……いや、そもそも重大な裏切り者がいる為に、計画自体も遂行できない様になっている」

「えぇ……。昇神させて贄にしたいもの、鍵としての役割を望むもの、ループの牢獄に閉じ込めたいもの、そして妾。多くはループ牢獄が成就するものの、他が成功しそうになれば妾が邪魔をする。そして、妾の計画が遂行できなくてもループする」

「それが、円満な解決を見るまで、際限なく繰り返されて来た……」

 

 息を吐くようにそう締めると、ルヴァイルはゆっくりと頷く。

 正直言って狂気の沙汰だ。

 

 それが億を越える回数繰り返されているというのが、何より常軌を逸している。

 ルヴァイルが言う円満な解決には、大神……本当の意味での大神を助け出す事、世界の崩壊を避ける事、そしてミレイユの望みを叶える事が含まれている。

 

 ミレイユの望みが入っているのは、自発的な協力を仰ぐしかないからだろう。その確約か、あるいは解決を見た後でなければ、ルヴァイルの望みは叶わないと自覚している。

 

 そして、神を弑せねばならないというのに、世界の崩壊を防ぐというのは、難事という言葉だけでは到底足りない。

 ルヴァイルの想定では、果たして何をすれば解決へ導く事になっているのだろう。

 

「まず、聞かせてくれ。私に何をして欲しいんだ?」

「それは当然……、八神の相手を」

「お前達もか?」

 

 ミレイユが片眉を上げて尋ねると、ルヴァイルは苦笑して顔を振った。

 

「えぇ、勿論私達は除外です。気が済むのなら、妾を手に掛けても構いませんが、それは全て終わってからにして下さい」

「おい、ルヴァイル」

 

 インギェムが咎めるように口を挟むも、やんわりと笑みを浮かべて頷いた。

 

「彼女には、その資格がある。恨み辛みもあるでしょう。当然、それをぶつけるべきは計画を講じた神だけでなく、私でもある筈です」

「それにしたってな……」

「それが彼女に協力を取り付ける条件であるなら、願ってもない事です」

 

 ルヴァイルが毅然とした態度で言うと、インギェムはそれ以上何も言わなくなった。

 ただ拗ねたように唇を尖らせ、ルヴァイルとは正反対の方へ顔を向ける。

 

「お前の覚悟は分かった。ところで聞きたいんだが、ゲルミルの一族へはどれほど関与していた?」

「大枠では余り……。ただ、ミレイユを使う事には進言しました。非協力的過ぎると反感を買いますし、その意見はどちらの派閥からも歓迎される意見でしたので」

「ふぅん……。まぁ、それについては良いわ。アタシにとっては、計画立案者の方が大事だから。後で教えなさい」

 

 ユミルの居丈高な発言にも、ルヴァイルは快く請け負う。

 今更隠し立てするものでもないのだろう。ここまで来れば一蓮托生、信頼を得たい上に、裏切りを前提としているルヴァイルからすれば、易い取引でしかないのだろう。

 

 それは実に妥当としか言えないが、だからこそ念を押しておかねばならない。

 言葉一つで牽制にはなる相手でもないだろうが、しかし言っておく事に意味がある。

 

「ルヴァイル、私はお前の計画に乗り気でいる。敢えてその手を叩き落とすメリットが無いからだ。しかし、私を裏切ろうとしているなら注意する事だ。例え失伝する事になろうと、必ずそれを次に繋いでやるからな」

「心配するには及びません。妾に次は無い」

 

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