【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~ 作:鉄鎖亡者
しかし、続いて兵の口から出てきた言葉に、ルヴァイルの困惑は更に増した。
「いえ、ミレイユめは、その数日前に都市を訪れ、当日の内に去っております。軍の中に、その姿が無かった事も確認済みでございます」
「確かか……?」
「はい、間違いございません」
「……行き先は?」
ラウアイクスの質問には、少しの間があってから返答があった。
「申し訳ありません、途中で見失っております。幻術による目眩ましも警戒しての監視でしたが、暫くのあいだ東へ移動した後、森を通過した辺りで……」
「なるほど……。東進は確実で、そしてそこから姿を隠した……が、再びオズロワーナへ戻った訳ではないのだな?」
「は、間違いございません。周辺にて、転移による魔力波形も確認できず、一足飛びに戻ったとも考えられません」
「ふむ……」
ラウアイクスは息を一つ吐くと、そのまま黙り込んでしまった。
ミレイユは転移できる術を持っていた筈だし、それを知っている事に今更驚きはない。
そして高度な魔術ほど、マナに多きな影響を与えるものだ。
転移ほど高度な魔術なら、周囲のマナに何の影響も与えないで行使するのは不可能で、これは早く動く物体が空気の抵抗を無視できない状態と似ている。
だから、森やその周辺で強い魔力波形が観測できなかったというのなら、それは転移が行われなかった、と判断できるのだ。
だが、忽然と姿を消したというのなら、何かしらの作為があったと見るべきでもあった。
他の神々も怪訝な表情をしていたが、頭脳役として動くのは、常にラウアイクスとグヴォーリだ。
だから視線も自然と、その二柱に集中する。
全員の視線を受け取りつつ、グヴォーリはそれらを無視して、兵に質問を投げかけた。
「見失ったからと言って、城攻めのエルフ達に合流したって事でもないんだね?」
「ハッ、ございません! まず真っ先にそれを疑いましたので、それについては
「……あぁ、そうだろうね。だからこそ、東進は欺瞞と見るべきだ。本当の目的は別にある」
ラウアイクスは一つ頷き、ルヴァイルに目を向けながらも兵に問うた。
「『遺物』に、何か変化は……? 特別な事情でもない限り、この段階で使うものではないだろうが……足取りを見失ったとはいえ、向かう先は限られてくる」
「申し訳ありません! 森とその周囲の探索、そして都市への潜入を警戒しておりましたあまり、そちらの方面には注視しておりませんでした!」
「あれの監視には、複数人を当てていただろう。それでもか?」
「ハッ! 森まで移動していた速度からしても、それほど速く辿り着けないと見て、周辺や都市内の探索に注力を傾けました。現状でも動きは見られません」
「――移動速度なんて、何のアテにもなるもんか」
グヴォーリが吐き捨てる様に言って、そして実際、兵に向けて蔑む視線で射抜いた。
「全く呆れる……。見られている事を自覚しているからこそ、森での隠蔽工作だろう。視線を切って、どこかへ移動するつもりだった。騙すつもりでいたんだから、それまでの移動速度は誤認させる為に、わざと見せた移動だったに決まってる」
「――では、君はどこへ行ったと思うね?」
ラウアイクスが尋ねると、グヴォーリもまた、ルヴァイルをちらりと見てから声を発した。
「この段階で、『遺物』に行くというのは道理に合わない。ミレイユは現段階で、使用可能にあると知らない筈だからね。それならむしろ、『ここ』を目指して移動している、と考えている方が理屈に合う」
「確かに、オズロワーナから東進すれば大瀑布が見えてくる。だが、越える手立ても無いだろう。仮に越える事だけ出来たとて、水流の対策とて疎かには出来ない。魚であろうと魔獣だろうと、その背に乗って辿り着けるものではない」
「ミレイユ一人なら、辿り着けるかもしれないでしょう?」
それまで黙して語ろうとしていなかったオスボリックが口を開き、誰にも視線を合わせず、手元に固定したまま続ける。
「グヴォーリも、いつか言っていた筈です。自死の危険を悟った時、最後に行うのは自滅覚悟の暗殺だと。ひと柱でも道連れに出来れば上々、という考えの元に攻撃してくる可能性があると……」
「……言ったね。馬鹿でないなら、やらないとも言ったと思うけど」
「君なら分かるのではないか、ルヴァイル。乗り込んでくる無謀を、理解しながら決行しようとするだろうか」
ラウアイクスから水を向けられ、全員の視線が集中する。
この質問は一種の炙り出しだ。
ある程度、答えを予測した上で、ルヴァイルがどう答えるか観察している。
彼はグヴォーリの方へ顔色を伺うような事はせず、ひたりとその相貌を向けていた。
それがどういう心境の表れなのか、向けられる視線から想像がついた。
だが、この程度の質問なら問題はない。
可能性の一つとして挙げるだけだし、信じようとしない神々が多いのは事実だが、嘘を言うつもりもなかった。
神々はミレイユの設計思想を知っている筈なのに、その結果どれほどの力量を持つかを正しく認識していない。一種の傲慢さの現れでもあるのだろう。
愚かだと思うが、だからこそ、付け入る隙が生まれている。
傲慢とは、どれほど肥大しようと限りがあって止まるものではないらしい。
「えぇ、ミレイユは攻め込んで来る可能性があります。大抵はタサギルティスが先走って攻撃し、仲間の誰かを損失させた場合に、そうなりますね」
「俺が……? いや、そいつは別に良いが、だったら何だって止め刺してねぇんだ?」
「逃げられるからです。本気で逃げようとするミレイユは、方法も選ばないので捕らえるのは困難を極めます。仲間の内から、必ず逃がそうと身を挺して庇う者も出ますしね」
「それが……仲間を失った怒りが、それの原動力になっていると? 乗り込んでくる、とはにわかには信じられないが……」
ラウアイクスが訝しげに首をひねると、ルヴァイルはしたり顔で頷いた。
「あくまで可能性の一つとして起こり得る、という話です」
「そうだろうが……しかし、現段階でも不可思議な動きをしているのは事実だ。森から動き出したのは別に良いとしても、前段階では余りに大人しく森に引きこもり過ぎていた。それは思う壺だから文句もないが、移動と同時に姿を眩ましたのは、由々しき事態だ」
「この段階で、どう動くかは理解してるかい?」
グヴォーリから質問が飛んで、疑念に満ちた視線と合う。
嘘を言っていない事は分かっていても、それだけで疑いが晴れるものでもないのは、十分理解している。事実を述べるだけで良いとはいえ、あまりに露骨な情報は別の疑念を生む。
その匙加減が難しいところだった。