【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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幕間 その6

「時期は前後しますが、動き出すのは大抵、タサギルティスかブルーリアが仕掛けた場合です。お二柱が何をしたしたかで、結果は変わりますね」

「ほぅ? ……という事らしいが、何かしたのか?」

「いやいや」

 

 ラウアイクスから顔を向けられ、二柱の神は同時に首を横に振った。

 

「ミレイユについては、色々ゴタ付いているのは知ってるんだ。あんた主導で動かしている計画だ。それを知ってて、勝手に動いたりするかよ」

「先程は、先走りしそうな雰囲気がありましたけどね」

「雰囲気だけだろ、何もしてない。それに、信徒をけしかける程度は、例えそうであろうと物の数には入らねぇだろ?」

「……したんですか?」

 

 オスボリックから蔑むような視線を向けられ、タサギルティスは手の動きまで加えて否定する。

 

「いや、例えだ、物の例え。やろうとしてたし、止められてもやろうとしてたのも事実だけどよ……でも、それぐらいなら許されるだろ?」

「神使を無駄にしたいだけ、というなら止めはしないが……。実際、神使ごときでは、十人揃えたところで太刀打ち出来まいしな。だが、未だ(けしか)けていないというのなら、やはり動きに不自然さは残る」

 

 そう言って何かを疑う仕草で顔を向けてくるが、ルヴァイルは何処吹く風という態度を取った。

 というより、他の反応を見せる訳にはいかない。

 疑われる事を不本意に思いながらも、出せる情報は出す、と思わせなければならなかった。

 

「とはいえ、まずはその動きを捉える事から、始めなくてはならないか。――おい、ミレイユを見失ったのは何日前からだった」

「四日前からでございます!」

「そして、今の今まで再補足できていない……。『箱庭』を持っていない今、場所を特定するのは簡単ではなかろうが……。まだ四日目でもある、それで何を出来る訳でもない。少し腰を落ち着かせてやれば、間もなく見つかるだろう」

「というか、四日も前に見失って、報告なしの方が問題だと思うけどね」

 

 グヴォーリが兵を睨み付けると、恐縮しきって頭を下げる。

 身体が僅かに震えているのは、神の勘気に触れれば、容易く命を落とすと知っているからだ。

 そして、だからこそ、報告がなかったとも言える。

 

 その詳細を尋ねられるより前に再補足してしまえば、見失っていた事実を無かった事にも出来ただろう。

 叱責を恐れるが故の事だと分かるが、そこに同情する神などいない。

 

 ルヴァイルが、そう胸中で考えを整理している時だった。

 先程の焼き増しの様に、慌ただしい足音が響いたかと思うと、開かれた扉に兵が駆け込んでくる。

 

 礼儀を弁えているので、入室するより前に膝を付き頭を下げていたが、その口からは煩わしい程の息切れが聞こえて来ていた。

 

 流石にその様な態度を見せられては、いち兵士の糾弾など後回しだ。

 何事かとラウアイクスが尋ねれば、顔を上げた兵が泡を食った表情で告げた。

 

「ど、ドラゴンです……! ドラゴンが、ここまで!」

「なに……? あの大瀑布を、滝登りして来たと? 有り得ん話だが……」

 

 その報告は、ルヴァイルからしても耳を疑う程のものだった。

 ――早すぎる。

 ミレイユにドラゴンを味方にする事が、打開策の一つだと告げてはいた。

 しかし、出発日時や消息を把握できなくなった日数などから、まだまだ多くの時間が必要だと思っていたのだ。

 

 何をするつもりであるにしろ、それより前に発見できると思っていた事だろう。

 それはルヴァイルからしても同感で、動向の完全隠匿は不可能だと思っていた。

 

 城攻めについてもそうだ。

 短時間で攻略せしめたからこそ、そこにミレイユがいる事を疑う要因になった。

 だから、きっと現場にいる筈だ、と注力するのは当然だったろう。

 

 まさか、その四日間で『遺物』まで辿り着き、そのうえ踏破しただけでなく、竜の谷を越え味方に付けたというのはどういう事か。

 

 ルヴァイルはまさに混乱の極致にあったが、いや、と改めて思い直す。

 まだ、兵の報告全てを聞いていない。

 本当に滝登りをして到達した、何かのドラゴンが出ただけかもしれないのだ。

 

 ルヴァイルが早合点を自省しながら、しかし事実とは異なると半ば予想していた。

 意味不明と頭を混乱させているのは他の神々も同様で、兵の口から出る言葉を待っている。

 

「違います、ドラゴンが……空を、空を飛んでいるのです!」

「馬鹿な!」

 

 発言したのはグヴォーリだったが、誰もが同じ気持ちだったに違いない。

 ルヴァイルもまた同意見で、何が置きているのか見当も付かなかった。

 

 最早、自分が知っている時間の流れにないとはいえ、ここまで何もかも違うと面食らうだけでは済まない。

 何が置きているのか予想しようと頭を働かせたが、結局それは形にならず、単に思考が停止してしまった。

 

「それで……まさか本当に、ドラゴンが飛んでいるだけか? 違うよな、他にも何かあるだろう?」

「ハッ! 目についた神処を手当たり次第に襲っております。数も多く、地上にいる神使達だけでは太刀打ちできません!」

「何を馬鹿な……! 空を飛ぶというなら、『遺物』を使われない限り不可能だ! まだそんな所まで行ってないんじゃないのか? 四日前にはオズロワーナ周辺に居たんだろう!?」

「事実だけを考えなよ。ミレイユの動向を見失っていた上、視線すら外れていたんだ。その間に何かしていたんだとしても不思議じゃないね」

 

 神々の阿鼻叫喚とも言える混乱が、議場に吹き溢れた。

 無理もない。ルヴァイルもインギェムと顔を見合わせ、呆然としてしまっている。

 ルヴァイルは確かに道を示した。最も成算の見込みがある方法は、ドラゴンを活用することだと伝えた。

 

 だが、これほど素早く達成し、これほど鮮やかな奇襲を仕掛けられるなど、夢想だにしていなかった。

 最古の四竜も共に来ている事は想像に容易く、そしてそのアギトで食い潰してやろうと、憎悪を煮え滾らせているのも間違いない。

 

 それが分かるから、戦闘が得意でない神などは顔面を真っ青にさせてしまっている。

 鳥以外から空を奪った過去が、ここにきて兵たちも反抗する手段を奪われているのは皮肉な話だ。

 ラウアイクスにも僅かな動揺が見られて、その彼が傍らのグヴォーリへ声を掛けた。

 

「どう思う、グヴォーリ」

「何があったにしろ、ルヴァイルは違う。インギェムもだね。あれは取り繕った感情でも表情でもない。あいつらも知らなかったのは確かだよ」

「シロと断言できる材料ではないが、何れにしろ――ここで座視している訳にはいかないか」

「アイツらの目的は明白だ。暴れまわりたいだけだね。そして復讐を果たそうしている。神処自体はどうでも良いが、落とされる場所次第じゃ、ちょいと困った事になる」

 

 オスボリックは既に動き出していて、己の神処に引き籠もろうとしているのが分かった。

 彼女の権能は防衛戦に向いているし、何よりグヴォーリが言った、落とされて困る場所の筆頭だろう。

 ルヴァイルとしては、素直に帰らせる事も防ぎたいし、他の神々が協力して戦う状況も防がねばならない状況だった。

 

 インギェム、と声を掛けて、頷きを一つ見せるだけで、彼女も即座に理解を示す。

 それ一つで意思疎通できるほど、ミレイユが攻め込んで来た場合の話合いは済ませてあった。

 現在は予定と違う様相を呈しているものの、その時の作戦は流用できる。

 

「ラウアイクス、これを迎え撃つ形で動く、という事で構いませんね」

「あぁ、そうするしかないだろう。……が、ルヴァイル。ここで君を自由にさせるのは怖いのだがね?」

「言ってる場合ですか? 手が足りる状況とも思えませんが」

 

 ラウアイクスは暫し考える仕草を見せてから、ルヴァイルから顔を背け、別の神へと言葉を投げる。

 

「タサギルティス、ブルーリア、一先ずお前たちが先行してくれ。特に射術と自在の権能を持つタサギルティスには、やりがいある相手だろう」

「その様だな。――勿論だ、任されよう」

 

 獰猛な笑みを見せながら、胸を張って答えたタサギルティスだが、身内の中にある毒の味というものを知らないらしい。

 それをとくと教えてやる、と最後にインギェムと視線を合わせ、ルヴァイルは胸に抱いた右手を握る。

 

 今も掌の中に残る温かな感触が、ルヴァイルに勇気を与えてくれていた。

 

 

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