【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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ayuzaka様、誤字報告ありがとうございます!
 


目眩まし その8

「でもですよ、この世界が歪と言われても、具体的にどういう事なんでしょうか? それ一つだけ聞いても、今一ピンと来ないと言いますか……」

 

 ルチアが首を撚って尋ねて来るが、それは実際に確認しないと分からない事だ。

 それこそ、現世では可能世界論として知られていた、地球平面説の様な形であるのかもしれないし、実は全く違う形なのかもしれない。

 

 それがどういった形であるにしろ、ミレイユが知る様な球体ではないだろう。

 だがそれも、所詮、予想は予想でしかない。

 

「それがどういった形かは、今ここで口にしても、単なる予想大会にしかならないだろうな。だが、陸地が永遠に続かないように、海もまた何処かで途切れてしまう……という気はしているが」

「仮にそれが事実として、ですよ……?」

 

 ルチアは更に首を傾け、可愛らしい柳眉に小さく皺を寄せた。

 

「羊皮紙に絵を描いた様に、世界の四方がスッパリと途切れているとしましょう。それを見られたら神々は困るんですか? 大瀑布がある以上、全くの平面じゃないのも分かりますが、結局のところ、世界とはそういうものだと知られて終わりなのでは?」

「……確かに、比較対象がない以上、それが不自然とは思わないだろうな。どういう世界が広がっていようと、不思議と思いこそすれ、可笑しいと感じない気がする」

 

 冒険者が海の先へと船を漕いだとして、真実の姿を持ち帰えって広めようが、神々に不都合があるとは思えない。

 だが技術の発展に対し、監視を行い阻害している事を思えば、自分達にとって不都合になる事、なりそうな事を予め潰していると見る事ができる。

 

 小神の真実を隠し、その上で拝めさせている事を考えても、基本的に真実は別の事実で隠蔽する傾向があるのだ。

 ならば、大瀑布という事実の後ろに、何か別の真実が隠れていると考えて良い気がした。

 

「大瀑布は神々の住処を隠す為、辿り着けない安全地帯構築の為、そう思っていたが……」

「事実ではあるんでしょ。ルヴァイルもそう言ってた。……でも、それ()()じゃなかった、という話なのかもね」

「……意図的に隠したと思うか?」

 

 さて、とユミルは遠く東へと視線を向けた。

 ここからでは僅かに海面らしきものが伺えるだけで、大瀑布があるかどうかまでは見えない。

 しかし彼女の視線は、大瀑布より更に奥を見つめている気がした。

 

「あの時は詰め込む情報も多かったしねぇ……。何もかもを伝えるには時間が足りなかった。それは分かるもの」

「おや、意外に好意的なんだな」

「別に好いように思ってやってるワケじゃないわ。単に効率の問題でしょ。……時間には限りがあった、渡すべき情報は幾つもある。その中で、世界の()()()はそれらを差し置いてまで、伝えるべきものじゃなかった、っていうだけで」

 

 ユミルの言い分には、一定の理解が出来る。

 ルヴァイル達も、己の立場を危険に晒して姿を見せた。

 

 自分の行為が疑いの目で見られる事を承知の上で、敢えて渦中に身を投じた。

 抜け出す隙を見つけたからには、誤魔化す自信もあってやった事だろうが、絶対に安全という保障でやった事でもなかった筈だ。

 

 ミレイユの邸宅に長く留まれば、その時間だけ身を危険に晒す。

 伝えるべき情報には取捨選択があったのは当然で、そして世界の造形など、その場で敢えて伝えるものではなかった、という事なのだろう。

 

「それに、ルヴァイルはドラゴンを使えと言って来たんだ。戦力の一つとして、味方に付ける利を考えてのものだが、何より翼を持って急襲するメリットを考えての事だと思う」

「それを思えば……その気があろうとなかろうと、世界のカタチが見える事になるのかしらね」

「だからこそ、敢えて貴重な時間を割いてまで伝える意味がなかった、というだけの話か……?」

 

 ユミルは何気ない動作で頷いて、皮肉げな笑みを浮かべる。

 

「何より、アタシ達がそこに関心を向けるとは思わなかったんじゃない? あの時そんなコト教えられても、だから何よ、って言ってた自信あるし」

「それもそうだな」

 

 そう言って微かに笑い、ミレイユは小さく周囲を見渡す。

 相変わらず代わり映えのない光景だが、同時に魔獣や魔物の気配もなかった。

 

 幻術を使い夜闇に乗じて走っているとはいえ、馬が三頭、馬蹄で地を蹴り、巻き上がる土やその音までは消せない。

 それを不審に思い、匂いを探って何かが通過しようとしている様を、感じ取る外敵はいる筈だ。

 

 魔獣、魔物問わず、夜行性の生態を持つものは多い。

 今この瞬間も、岩陰に隠れて飛び掛かる隙を窺っていても可笑しくなかった。

 

「……しかし、何とも緊張感のない事だ。お前達が、周囲の警戒を疎かにするとは思ってないが……、一応逃げ隠れしている状況なんだがな」

「ただ緊張させているだけじゃ、疲れるだけだもの。馬を疾走らせているのも飽きるしね。大体、良い暇つぶしになったでしょ?」

 

 緊張感がない、と言った瞬間、アキラだけは背筋を伸ばしたが、それ以外は普段と何も変わらない。

 アヴェリンは言わずもがな、最初から警戒を解いたりしていないし、ルチアも魔力波形を最小限にした上で感知を継続させている。

 

 その上で見せる余裕だとはいえ、一つ躓けば全てご破産という状況で、するべき会話ではなかったかもしれない。

 自分から言い出して思う事ではないが、もう少し、いざという時に備えておく必要がある。

 

「確かに良い暇つぶしにはなった。今はもう、監視網からも抜け出せたと思っているが、再発見は時間の問題だろう。……だとしても、それは可能なだけ遅らせたい」

「その為の本作戦です。誰もが、それを理解しております」

 

 アヴェリンが代表して答えて、ルチアとユミルも続いて頷く。

 それから分かっていないアキラも、とりあえず周りに合わせて首肯していた。

 

「戦闘も極力なしだ。進行方向にいる敵なら、多少遠回りだろうが迂回する。そのつもりで警戒してくれ」

「――お任せを」

 

 アヴェリンが応え、ユミルも同意を示しながら肩を竦めた。

 ルチアも感知により強く意識を向ける為、ユミルの腰に手を回しながら目を閉じる。

 

 アキラも忙しなく顔を動かす様になり、ミレイユもまた前方に意識を向けた。

 樹海の様なものが近くにあれば、それを屋根代わりに姿を隠して移動したかった。

 

 しかし荒野の中に、木々はあっても森などない。

 それに森を移動する事は、荒野で移動するより多くの痕跡を残す事にもなる。

 

 そして何より、移動可能距離の差は歴然としている。

 あちらが立てば、の典型だし、何より選ぶ事さえ出来ないのなら、無い物ねだりと諦める他なかった。

 せめて敵の目が感知できれば、他にやりようもあっただろうに、再捕捉されたかどうかすら分からない状況は心臓に悪い。

 

 だが、ユミルが言うように、常に緊張していても身が持たないのは確かなのだ。

 一度見失ったと仮定するなら、夜明けまでにどれだけ消失地点から離れられるかが鍵だし、探そうと思えば明かりがなければどうにもならない、とも考えるだろう。

 

 どれ程の短時間でドワーフ遺跡まで辿り着けるかが、全ての明暗を分ける。

 その事は、アキラ以外全員が理解していた。

 だが同時に、これまでと纏う空気が切り替わった事は、アキラにも理解出来たようだ。

 

 端から見るとアキラは肩肘張った警戒をしているように感じるが、集中している分に文句はない。

 真剣な目で近付き通り過ぎていく障害物、遮蔽物がありそうな部分へ注視している。

 何かとアヴェリンと比べてしまうから頼りなく感じるが、アキラとてギルドの中で揉まれて確かな実力を付けてきた戦士だ。

 

 今はそれを信じよう、とミレイユも無言で警戒を続けながら馬を疾走らせる。

 暫く走れば、前方に魔物の気配を感じ取った。

 それに逸早く気付いたのがルチアで、それから一拍遅れて、アヴェリンとユミルも同時に気付く。

 

 それぞれから小さく声が上がり、ミレイユが左腕を振り上げ、進行方向から逸らす形で指先を向けた。

 左方向へ進路を大きく湾曲する形で変えると、唸り声を上げた魔獣が横に見える。

 猪形をして、立派な牙を生やした魔獣は、姿を確認できない事を不思議がっていた。

 

 だが、その大きな鼻は獲物を捉えているようで、それを鼻頼りに位置を探ろうとしている。

 頭上へ掲げるように鼻をヒク付かせていたが、その鼻先へとルチアの魔術を飛ばす。

 

「ピギィ!!」

 

 大きく広げていた鼻の穴が凍り付き、悲鳴を上げて仰け反った。

 初級魔術を使った以上、ダメージを与える事は最初から期待したものではなく、目的は別にあると分かる。

 

 魔獣を見れば、その鼻先を必死に地面へ擦り付け、取り除こうとしているし、そのる隙にミレイユ達は悠々と通り過ぎて行った。

 

 アキラも大きく息を吐いて、緊張を解く。

 叱責するつもりで目を向けると、何かを言うより早く意識を切り替え、また索敵へと戻っている。

 やるべき事は分かっていると見え、開きかけた口を閉じて、小さく笑む。

 

 その代わりとして、一応後方を確認する。

 追って来る気配もなく、安全距離まで引き離した事が分かると、再び進路を元に戻した。

 

 そういった事を何度も繰り返し続けていると、空が白み始めて来た。

 夜通し走って来た事になるが、遠くに見える峻峰を思えば、未だ到着は遠いと告げている。

 

 馬に乗り続けるという事は、存外に体力を消耗するものだ。

 実際に感じる疲れより尚、消耗は激しい。

 特に乗り慣れていないアキラは、絶えず続く上下運動に辟易する表情を見せているし、そろそろ休憩が欲しいところだろう。

 だが、ここは心を鬼にして告げねばならない。

 

「途中、小休止を取る事もあるが、基本的に移動を続ける。食事も馬上でだ。最低でも二日は保存食を齧って凌いで貰う」

「それは……! いえ、仰せのとおりにしますけど、僕らはともかく馬が潰れませんか?」

「見た目からして同じ動物だから勘違いしてしまいがちだが、馬とて魔獣の一種だ。現世の馬とは根本からして違う。魔力を扱う馬は、走るだけなら七日続けて行える。体力、スタミナの消耗、睡眠解消などは、魔術や水薬でカバーできるしな」

 

 ミレイユの返答に、アキラは顔を一瞬引き攣らせたが、すぐに表情を引き締めて頷いた。

 

「分かりました。それだけ時間が大事、という事ですね」

「お前も分かって来たじゃないか。ドワーフ遺跡がある峻峰の根本まで、まず大休止は取らない。馬に水を与える時間程度だ。相当な苦労を伴う……が、悪いな。苦労してもらう」

 

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