【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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新たな騒動 その2

 広げたメニューを見た一同は、それぞれまずその写真に感動した表情を見せた。商品が最も美しく、かつ美味しそうに見えるよう、計算された角度で写された写真は、それに慣れていない面々からすると、まるでその場にあるような臨場感すらある。

 ルチアはそれを指でなぞって絵である事を確認する程で、ユミルはメニューを持ち上げて下に料理がないか見た程だ。

 

 これが見本であると分かると、次々とページを捲って好みに合うようなものを探していく。

 

「色んな物があるのねぇ。こんなに多種多様な料理、本当に用意出来るの?」

「一日の終り際ともなると、品薄になる料理も出てくると思うが、基本的に載ってるメニューは全て用意できる」

「凄いんですね……」

 

 ルチアもまたしみじみとした表情を隠さずメニューを見る。ページを捲ってパスタが見えて、その動きが止まる。

 幾つか種類があるのは見て分かるが、色合いの違いがどういう味の違いを生むかまでは写真からは分からない。難しい顔をして眉根を寄せてしまった。

 そもそも、パスタなる料理はあちら側にはなかった料理なので、その味も食感も想像できないのは仕方のない事だった。

 

「食品ディスプレイを見て気になっていたやつだな。それにするのか?」

「そうしてみようと思ったんですけど、以外にも種類が多くて困惑してしまって……」

 

 そこにアキラが興味本位で口を挟んだ。

 

「これってそんなに多いんですか?」

「味のバリエーションって奴は、そう簡単に増やせないものなんだよ」

「……そうなんですかね?」

「多くの調味料や香辛料をふんだんに使えるなら、そうだろう」

 

 それでアキラは納得する顔つきになると同時に、申し訳無さそうに肩を竦めた。

 

「そうですよね。調味料って現代では簡単に手に入っても、それって実は結構凄いことなんですよね」

「理解が早くて何よりだ。私達が活動していた大陸は、夏になっても雪が残る地方があるほど北国だった。香辛料の自国栽培はされておらず、王侯貴族が口にする貴重品だ。ケチャップのような調味料すら貴重だった」

「それは……なんとも、僕には想像も出来ません」

「それでいいと思う。豊な国にいるんだ、それを楽しめば良い」

 

 ミレイユの表情の見えない発言に、アキラは何とも言えず頷いて、自身も料理を何にするかメニューに視線を向ける。

 ミレイユは未だにメニューに向かって難しい顔をしているルチアに、助け舟を出した。

 

「一番大きな写真で載ってる、タラコスパにしてみたらどうだ。おそらく人気があるからそうしているのだろうし、私も個人的に好きな部類だ」

「では、そうしてみますか」

 

 ルチアは笑顔で頷いて、ついでにサラダも選んでいた。葉野菜とトマトがメインに、小エビが少々乗った値段も手頃なものだ。

 アヴェリンに視線を向けてみれば、やはりこちらも難しい顔をしてメニューを睨んでいる。

 何を選んだものか迷っているのはすぐ分かる。

 ミレイユはこちらにも助け舟を出そうとメニューをパラパラとめくり、一つの所で目を留めた。

 

 パンは彼女たちの主食として外せないものだ。ミレイユ自身もすっかりその食生活に慣れてしまって、口にしなければ気になる程だから、アヴェリンにしても同様だろう。

 そこでこれだと思ったのは、フレンチトーストだった。イタリアンジェラートをオプションで頼むことが出来、甘党の彼女としては満足のいく品だろう。

 これだけでは足りないので、肉も好む彼女の為にソーセージのグリルなどを選ぶ。それにコーンクリームのスープをつければ、まずまず満足してもらえるだろうと思った。

 それぞれを指し示しながらアヴェリンに問えば、満足した表情で頷きが返ってくる。

 

「大変、食欲をそそりますね。それでお願いします」

「うん。他にもプチフォッカを皆が摘めるよう、少し多めに頼もう。私はドリアとサラダにしようか。……ユミルは決まったか?」

 

 最初に数ページだけメニューを捲って、そうそうに目を離していたユミルに訊いてみれば、首肯と共に返事が返ってきた。

 

「ええ。私はステーキとワインね。銘柄だけ見ても分からないし、とりあえずグラスで頼んで少しずつ試してみようかしら」

「……昼からお酒ですか」

 

 アキラが虚を突かれたような顔をしたが、ユミルは表情は楽しげだった。

 

「ワインに昼も夜もないでしょ。飲める時に飲みたいだけ、飲めるだけ飲むものよ」

「え……そうなんですか? これも文化の違いってやつなんですか、ミレイユ様?」

「いいや、それはユミルの勝手な持論だ。……が、好きにさせるさ」

「……いいんですか」

 

 アキラの声が一段低くなる。酔っ払いを連れて歩く困難さを予期したのだろうが、ミレイユの返答はあっさりとしたものだ。

 

「構わんよ。コイツはどうせ酔わない、そういう体質だ」

「へぇ……」

 

 思わず呆けてユミルの顔を見返したら、悩みを全て吹き飛ばすかのようなウィンクを送った。ユミルはこういう表情が実によく似合う。

 

 それはともかくアキラのメニューは決まったのか窺えば、既に何にするか決まっていたようだ。メニューを閉じてまとめて、元あった場所に戻しては、手慣れた様子で呼び出しボタンを押していた。

 ここは流石に高校生、こういう場所に来るのも利用するのも慣れたものだ。どういったメニューがあるかも既に把握済みだったかもしれない。

 

 注文を取りに来た店員が、ツバの広い帽子を未だに被り続けるミレイユに怪訝な表情を見せたのも束の間。座る一同の美貌に充てられて怯むような一面はあったものの、恙無く注文も終わり、ドリンクバーを頼んだアキラにつられて、全員分も頼む。

 席を立って飲み物を取りに行くアキラに、設備に興味を惹かれ続けているルチア達が放って置く筈もない。

 

 ジューサーの前に立って、備え付けのコップにコーラを注ぐアキラを見て、ルチアも真似してジュースを注ぐ。選んだのはオレンジジュースで、ミレイユからは烏龍茶を申し付けられている。アヴェリンも同様で、コップを押し当てると出てくる飲料水に、二人は興味津々だった。

 特にルチアは中を分解できないかと言い出した程で、流石にアキラも黙っていられず力づくで引き離す羽目になった。

 

 席に戻ったルチア達は、それぞれの前にたっぷりと注いだ飲料を置き、自慢げな顔をして宣言する。

 

「これから飲み物が欲しければ私に言って下さいね。持ってきますから」

「そんなに気に入ったのか?」

「外から見ても分かる事はあると思うんですよ」

「……中を見ない限り、分かることには限りがあると思うが」

 

 器物を破損させない限り好きにさせよう、とミレイユはルチアの表情を見て決めた。

 他愛のない話をしながら待っていると、次々と料理が運ばれてくる。

 

「案外、時間かかったわね」

「あちらの食堂とは違う。既に出来ているスープを出して終わり、という訳じゃないからな」

「そんなに違うものなんですか? 味付けのバリエーションが無くても、他の料理が豊富とか、そういうのはあまりなかった感じですか?」

 

 何かとあちらの世界に興味を持つアキラは、こういう事に関する質問に遠慮がない。特別隠す事でもないので、配膳が終わるのを待ちながら簡潔に話した。

 

「食堂で提供される料理は、多くても三種類程度だ。それも昼ともなれば、どこも大抵一つと決まってる。だから食堂の数は多くあったし、客も好みの店を見つける遊び心もあった。そして、そこに通いつめるようになれば、それを指して『(つう)』と呼ぶ」

「へぇ……! それで店に詳しい客を、あなた通だね、とか言う訳ですか」

「そうだな。基本的に家庭料理を出すようなものだから、味も様々で値段も手頃だ。独り身なら、自分で作るより食堂で食べた方が安上がりになる。家が五軒並べば一つは食堂、なんて言われる程だった」

 

 アキラが目を輝かせて話を聞き、更に質問を重ねようとしたところで、全ての配膳が終了した。それを見て、備え付けてあったフォークなどを配っていく。

 

「さぁ、少し遅くなったが、食事にしよう」

 

 自身の前に並ぶ料理を見て、一同が目を輝かせる。

 ルチアはいざ食べようとしたものの、次々とフォークの隙間から麺が落ちていって憤慨した気配を見せた。ミレイユが苦笑しながらパスタを器用に巻いてやって、食べ方の説明をしてやる。

 よくよく考えてみれば、初見で上手く食べられる筈もない。そこに気が付かなかったミレイユが悪かった。

 上手くパスタを巻けるようになったルチアは、口に運んで驚きの表情と満面の笑みを浮かべる。

 

 満足した様を説明される事なく理解して、ミレイユも自分の料理に取り掛かった。

 

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