【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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天の川(・・?)様、誤字報告ありがとうございます!
 


一つの決着 その7

 ここで裏切るつもりか、とアヴェリンなどは真っ先に身構えたのだが、インギェムは返って来たその態度にこそ、驚いていた。

 そして、自分の発言を思い返すように視線を上げ、しばらくすると必死に手と顔を横に振る。

 そこへ横から割って入ったルヴァイルが、謝罪とともに釈明した。

 

「言葉が足りず申し訳ありません。ですが、何事にも限界というものはあります。筋力しかり、体力しかり、魔力しかり。そして、神力もまたしかりなのです」

「権能を使うにも限りがあり、だから孔を作る数にも限りがあると?」

「はい。ですが、それはもちろん、体力、魔力同様、時間の経過で回復するものです。でも、悠長に待つ事が許されない状況でしょう? 最後の一仕事が残っていますし、それに何より……」

 

 論より証拠、と言わんばかりに、両手を胸の前で組み合わせ、指を伸ばして菱形のように合わせる。

 目を閉じ、その手元に力を集中しているようで、力の奔流とも言うものが菱形の中に圧縮されていった。

 

 一際大きく輝くと、そこにはミレイユにとっても見慣れた神器が生まれている。

 ルヴァイルがインギェムに目配せすると、同様の手順を踏み、そしてやはり手の中に神器を生み出した。

 

 終わった後の二人は肩で息をしていて、額には汗も浮いている。

 そして、それまで変わらず感じていた威風の様なものが、幾らか削がれているようにも感じられた。

 

「これもまた、必要となるでしょう。ドーワが言っていた、()()()という計算には、これも含まれているでしょうから」

「分かるだろ? そうなると……孔を作れる回数も、これでガクンと落ちた訳だ。これから後、何回使えばいい? 一回で済むなら、それでも良いさ。でも、残り回数にも余裕は持たせたいもんじゃないか? だが、いらないと断言するなら、今から『遺物』へ送ってやれる」

「具体的に、あと何回だ?」

「ここまで疲弊した状況で、使った事なんてないからな……」

 

 それはそうだろうな、と他人事のようにミレイユは思った。

 そもそも、真面目な戦闘など、神へ至ってからした事もないだろう。

 

 残り使用回数が逼迫するまで消耗した事も、また同様に無かった筈だ。

 インギェムは疲れを滲ませた顔で思案し、眉間に皺を幾つも刻んでから答えた。

 

「二回……、あるいは三回ってところだ。確実と約束できるのは二回までだな」

「……なるほど。じゃあ、残して貰っていた方が良いようだ」

 

 最低でも一度は現世へ渡るのに使いたいし、他にも何かで使用するかもしれない事を考えると、貴重な一回をここで使ってしまうのは気が引けた。

 

「では、急ぐしかない。ここから『遺物』までは、結構距離がある筈だから……」

 

 ミレイユがちらりと瘴気へ目を向ければ、もう幾らも時間は残されておらず、三十分と経たず滝口へと到達するように思われた。

 滝口へ落下したとしても、更にそこから陸まで距離があるとはいえ、楽観は出来ない。

 そこへドーワから首をもたげて声が掛かる。

 

「ならば、移動はこちらで受け持とうかい。どのドラゴンよりも、早く到着できるだろう。わたしが残った理由は、それを見越していたものだしね」

「それは有り難い。……だが、神々はどうする?」

「飛べるのだから、勝手について来いと言いたいけどねぇ……。こっちと同じ速度は出せないだろうさ」

 

 ドーワは大きな眼球をギョロリと動かし、二柱を見定めるように強く見つめる。

 

「何かあった時の為の事を考えると、置いておく訳にもいかないね。それに、目を離したところで何をするつもりか気が気じゃない。連れて行くしか無いだろうね」

「事ここに至って、裏切るつもりなど無いのですが……」

「それを判断するのは、お前じゃないんだよ」

 

 一際強く視線を向けられて、ルヴァイルは眉間に皺を寄せ、身を固くする。

 不快と思っている様子ではなかった。

 ただ、悔やむような気配は伝わって来る。

 信頼関係を築くには、既に互いの間柄に亀裂が入り過ぎていた。

 

 ミレイユが仲裁したところで、この場の諍いを沈める事は出来ても、根本的解決は不可能だ。

 だが、私情は抜きにして、ドーワは背中に乗せても良いと言っているのだから、一つ譲っているような気持ちだろう。

 

 だから、ミレイユも敢えて口にする事なく、アヴェリン達に目配せする。

 乗り変える準備をしろ、という合図を送ると、それまで乗せてくれていたドラゴンが機敏に察知し、ドーワの背中直上へと移動してくれた。

 

 元より大きな姿だと理解していたが、こうして見るとやはり最古の竜とは他と隔絶するのだと実感する。

 このドラゴンもミレイユ達全員を乗せてもまだ余裕のある背中だが、ドーワはそれより更に三周りは大きかった。

 

 ドラゴン自体がドーワの背に降り立ってくれたので、ミレイユ達も降りるのに苦労はない。

 風の抵抗自体弱まったように感じるのは、その巨体に遮られているからではなく、持つ魔力量による違いなのかもしれない。

 より大きい魔力が、そういった抵抗を、より弱めてくれるのだろう。

 

 速く飛べる理由の一端を知った気がしつつ、ミレイユは首の根部分に降り立った。

 当初乗せてくれた部分と同じ場所に立つと、背棘を握って背後を窺う。

 そこにはアヴェリンを始め、次々と乗り換えては背棘を握る姿を確認でき、体勢を戻して顔を上げるとドーワとも目が合った。

 

 鎌首をもたげて確認していたドーワは、全員が乗り代わった事を確認すると前を向く。

 一度大きく翼で空気を叩くと、追い出されるようにドラゴンも離れて行った。

 いや、あれは事実追い出されたのだろう。スピードを出すのに――そして風に巻き込まれないよう、遠ざけたのだ。

 

「しっかり掴まっておいで。風より速く連れてってやるよ」

「――う、ぉ……ッ!」

 

 言うや否や、物理法則を無視した急加速が巻き起こり、身体が背後に持っていかれそうになる。

 たたらを踏みそうになり、慌てて両手で背棘を握って、振り落とされた者はいないかと確認した。

 アキラが必死の形相で掴まっている事以外問題はなく、それでミレイユも周囲に目を向ける余裕が出来た。

 

 言うだけあって、ドーラが本気で飛ぶ速度というのは、ミレイユの知るどの乗り物よりも速かった。

 恐らく、音速は超えていると思われるのに、頬に当たる風の強さは強くない。

 これも全て、ドーラが纏う魔力による恩恵だろう。

 

 神域から一度飛び立てば、遠く眼下に大陸が見える。

 だから歪な世界もまた、良く見えた。

 二段重ねのホールケーキを半分に縦割りした様な、もはや惑星としての姿すら保っていない世界。

 

 古代――、天体と宇宙を想像の中で思い描くしかなかった時代では、世界は平面だと信じられていた。

 神によって切り取られたその平面世界が、神の損失、神力の喪失を経て、維持が不可能になっている。

 ケーキの端から虫食いのように穴が空き、ボロボロと崩れては消えていくのが見えた。

 

「これが……無理に維持して来た世界、その終焉の姿か……」

「もしも、を考えても仕方ないけどさぁ……。こんな瀬戸際になる前に、もっと上手いコト出来なかったワケ?」

 

 ユミルが多いに皮肉を含んだ笑みを向けると、ルヴァイルは苦り切った顔で目を背けた。

 

「そうするつもりではあったのですが……」

「そりゃ、アンタはね。でも、ここ二百年の短い間隔での話でしょ。神を失っただけで、綿菓子の様に崩れ去る世界なんて、全く健全じゃないわよね」

「ですが、その崩壊を止めていたのも、また神々だったのですよ」

「アンタらが大神を裏切ったからでしょ? 自由を許さず、狭い空間に封じて、世界から切り離して……。いや、ちょっと待って。これって、そういうコト?」

 

 ユミルは自分で自分の言った事が信じられないようで、その僅かな気付きが、真相を言い当てたのではないか、と混乱している。

 そしてミレイユも、それが一つの真実ではないかと頷ける思いだった。

 

「神は世界に根差すもの、という話だったか……。それが創造神ともなると、世界の維持そのものと不可分だ、と言う話でも当然という気がする」

「そして創造神は既に死んでいたから、必要な分だけ削って閉じ込め、延命を図った結果が今ってワケ……。上手いコトするっていうなら、そもそも、どう足掻いても無理だった……って話になりそうだけど」

 

 ユミルから向けられる視線に、ルヴァイルは目を合わせようとしない。

 インギェムもまた同様で、険しい顔のまま外を向いている。

 ミレイユ同様、かつて拉致された上で昇神した者たちだ。

 

 その役目が贄と知り、抵抗したくなる気持ちは分かる。

 まず自らの命が優先で、その後の事、世界の理まで目が行かなかったのは当然だと思った。

 

 ミレイユにしても同じようなものだ。

 ループから脱却する目的が第一だった。

 何の助けも、知識もなしに成功したとして、そこから世界の崩壊が始まるなど、果たして想像できただろうか。

 

 ルヴァイルの助けも、ドーラから真相も知らされず、ただ神々を殺して回るという、当初の発想どおり事を為していたとしたら……。

 その後に待つのは世界の崩壊だったに違いない。

 

 巻き込まれて諸共死ぬか、『遺物』を使った回避を選ぶ事になるだろう。

 そしてそれが、その場しのぎにしかならず、継続して『遺物』による回避をし続ける必要があるのだとしたら……小神を作っては薪のように焚べる以外に、方法などあっただろうか。

 

「ユミル、あまりそう責めるな。やった事は許せないし、私の怒りも正当なものだとも思ってるが、他に方法があったかと思えば、ちょっと思い付かない」

「そりゃ神々にだって、事情は様々あったでしょうよ。自分の行いが、ふとした事で他人の迷惑になってた、なんて良くある話だわ。でも、これはちょっと擁護できない規模の大きさじゃないのよ。犠牲の数も含めてね」

「あぁ、私が生まれた世界、そしてお前の一族、エルフを始めとした他種族を、思う様利用してきた。だから、その怒りは正当だ。だが同時に、自己の終焉に抵抗するのは、生命としての(サガ)だろう」

「だから許せって?」

「そうは言わない。犠牲にして来たものが大き過ぎるし、多すぎる。だが、犠牲を出さずに生きる生命というのも、また無いものじゃないか」

 

 ユミルは自分の興奮を抑える為に、固く目を瞑って息を吐く。

 ルヴァイル達は、そうして話し合うミレイユ達の様子を、固唾を呑んで見守っていた。

 

「その理屈も分かるわよ。でも、どうしてそんなコト言うのよ。怒りが正当っていうなら、許せって話でもないみたいだし……」

「そもそもの原因を考えると、大神が諸悪の根元に思えてならなかったからだ。悪事を為した事の根本を、どこまでも遡るものじゃないが、これに関しては大神に全くの咎なしと見るのも不可能だ」

「まぁ、上手くやれって話なら……。そもそも大神こそが、もっと上手くやっとけ、と思わないではないわね……」

 

 仕方ない、と言わんばかりに首を振り、ユミルはもう一度大きく息を吐いてから目を開ける。

 そこには諦観のようなものが感じられたし、ルヴァイル達へ向ける目には、一抹の憐憫も浮いていた。

 ルヴァイルはそれを受け止めながら、殊勝そうな態度で、傾ける程度の礼をする。

 

「妾たちも、ラウアイクスに付いて行くしか無かった身……。それを今更、言い訳にするつもりはありませんが――」

「いいわよ、別に謝罪めいたものは。別にこれは、許すって話じゃないんだから」

「……そうですね。最初は命が惜しいという、それだけの動機でした。それがここまで肥大した大きな問題になるとは……思わなかったのも事実ですが、謝罪の一つで済む問題でもないと、理解しています」

「当然でしょ」

 

 ユミルの返答には、にべも無かったが当然の返答でもあった。

 だからルヴァイルが悲しげな笑みを見せても、ミレイユからは何も口を出さなかった。

 

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