【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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『遺物』と願い その1

 誰からの言葉もなく、啞然とした視線で全員から凝視される事になり、予想と反した反応に、ミレイユは居心地悪く肩を揺らした。

 

 信じられない、信じたくない、そういう気持ちで揺れているのがアキラで、どう反応して良いのか迷っているのがアヴェリンだ。

 

 ルチアとユミルは、それが事実であるかどうか、正誤を判断しようと思考を巡らせているし、ルヴァイル達は喘ぐように口を開閉しているだけだった。

 風を切る音ばかりが場を支配し、居た堪れなくなったミレイユは、首を上げてドーワへ声を掛ける。

 

「どう見る。あり得ると思うか? 私としては、むしろ外れていて欲しい予想なんだが」

「『地均し』か、そうだね……。あれの鎧甲は魔力を完全に吸収する筈だし、あれの内側は完全に遮断されると考えて良さそうだ。魂を保護するには使えるんじゃないかと思うね。そして、あれは八神に模倣できないモノでもある」

「ルヴァイル、『地均し』は長らく封印されていて、表に出た事は無かったか?」

「無かったと思います。勝手に動き出そうとするので、オスボリックが『不動』による封印を担っていたと聞いています」

 

 その部分については、ミレイユもラウアイクスが聞いていた事だ。

 これで整合と確認は取れた。

 

 最初の考えでは、現世へやって来た『地均し』を止めるか、或いは破壊する程度のつもりでいた。

 だが、ラウアイクスの手にも余り、利用する事も難しいからと、適当に暴れさせる意図も兼ねて、体良く別世界に捨てられた形だ。

 

 それこそ、大神が望むものと知らずに。

 忸怩たる思いでいると、思考の渦から帰って来たユミルが、指を立てて疑問を放つ。

 

「世界を越えるにしろ、行き先は何処でも良いってワケじゃないでしょ。依然として、神の在り方ってモンが枷としてあるわ。信徒の居ない神は脆い。その身一つで世界を越えたところで意味がない、そういう話を聞いたばかりじゃないの」

「だから、魔力もマナも無い世界を選んでいるんだろう。飛ぶ世界の候補地は、元からマナのない世界だ。魔術の使用は、夢物語の奇跡と同じに映るような世界をな。力を振るえば神の顕現、奇跡の体現と、持て囃される事になるだろう。信徒の獲得は容易と見るべきだ」

 

 ユミルは頷こうと僅かに首を動かしたが、すぐに止まって見返してくる。

 

「それはこの際、納得するとしても……。マナが全く無くても困るじゃない。最初は『地均し』の鎧甲に溜め込んだ魔力が使えても、それが尽きれば木偶の坊になる。目減りするだけで、補充が利かない。これでは困る筈よ」

「……そうだな」

 

 言われてミレイユも言葉が詰まる。

 マナと魔力が無い世界は、人間に置き換えると、酸素の無い世界へ赴くのと変わらない。

 仮にボンベを用意してあったとしても、目減りするだけと分かっていて、尽きれば死ぬだけと分かっているのに向かえるものだろうか。

 

 そして、それを大神に当て嵌めてみると、マナの確保に当てが有ると考えなければ出来ない行為だ。

 マナの確保――、マナの用意――。あるいは、マナの生成――。

 そう考えて、一つ閃くものがある。

 

「デイアートの神話にあったろう。この世界だって、最初はマナなど無かった。しかし徐々に増えていき、そして最後にはマナが溢れる世界になった。これは自然に発生したものか? それとも、大神が作り変えていったものか? もしも大神が行った事というなら、行った先でも同じ事が出来るだろう」

 

 思わず唸って沈黙したユミルを余所に、ミレイユはルヴァイルとインギェムへ視線を向ける。

 

「お前達も、大神によって拉致されたパターンだろう? 元いた世界に、マナはあったか? 魔術に類する、奇跡を体現する手段は?」

「ありません……。ええ、それこそ夢物語にしかなかった代物です……」

「己も同じだ……」

 

 青い顔をして頷く二柱に、ミレイユも自分の胸に手を当てて頷く。

 

「そして、当然、私の世界も。大神は、渡った世界でマナを作り出すつもりでいる。だから、一時凌ぎになるだけのエネルギーがあれば十分なんだろう」

「そういう世界なら、神として降臨……顕現するように見せるのも、また容易で……。信仰の獲得、願力を得るのもまた、容易であると……」

 

 ルヴァイルが唸るように頷くのを見て、ミレイユも頷く。

 

「……だから、大神の計画を模倣したという『神人計画』でも、やはりマナのない世界を対象に拉致がされていた。魂の拉致は移住先の選定も兼ねていて、だからその先で魔力と神など存在しない筈だった。だが、意外な事に、そこにはオミカゲの存在があった。奴らからすると、実に邪魔で不都合な存在として映ったに違いない」

 

 あぁ、とアヴェリンが感慨と恨みを綯い交ぜにした様な声を上げる。

 

「あの時、執拗にオミカゲ様を狙っていましたね……。ミレイ様を拉致するのに邪魔だから、攻撃していると思っていましたが……」

「今の今まで、私もそう思っていた。だが、『地均し』は――大神は、私の拉致計画とは無関係なんだ。どこへ落ち延びようと関係なく、むしろ邪魔者が一人減ったくらいの感想だろう。それを積極的に邪魔する意味があったか……?」

「どこへ逃がすつもりか不明であるなら、とりあえず潰しておこう、とした可能性もあるのでは?」

「……そうだな、確かに。それもまた考えられる」

 

 誰かに意見を貰おうというより、自分の考えを整理するつもりで口に出す。

 眉間に皺を寄せつつ、握った拳を顎先に当てた。

 

「『地均し』があくまで恣意的に敵を選ばないなら、単に邪魔者を排除しようと攻撃したに過ぎない可能性はある。オミカゲは穴を作るのではなく、あくまで便乗する様な形で利用したに過ぎないから、自ら生成する事は出来ない筈だが、相手からすればそこまでは分からない」

「孔を作れる事は、世界から弾き出せる事を意味するものね?」

 

 ユミルがそう言って小首を傾げた。

 

「だから、まず攻撃するのは妥当に思えるわね。……でも、もしそうじゃなかったら……。最初から眼中にあったのはオミカゲサマ……というか先住神で、それを排除する事が目的だったとしたら……」

「あるいは、単に皆殺しが目的で、最も危険と思われた者から率先して攻撃しただけ、とも取れるがな……」

 

 アヴェリンからユミルへの反論があって、ルチアもそれに同意する。

 

「神だからという理由でなくとも……、ほら、『地均し』は孔を生成できる訳じゃないですか。それを邪魔される事を懸念して、率先して潰しに掛かったとも考えられます。あるいは、生成しても即座に閉じられる事を嫌がったとか……。それを危険と判断して攻撃しただけ、とも取れますが?」

「それもまた然りだな……。ここで結論を出す事は出来ないか……」

 

 その意見を認めない訳にはいかなかった。

 『地均し』は依然として神造のゴーレムで、単に命じられた内容に沿って動いていただけに過ぎないかもしれない。

 

 自らの発想が突飛である事は理解している。

 だから、自分が欲しい結論の為に、辻褄合わせで考えては意味がない。

 

 ただ、どうしても、もしもを考えてしまうのだ。

 『地均し』は八神の手先であったかもしれないが、その意思を明確に理解して行動していた訳ではない。

 むしろ、八神でも手に負えないからと、放逐されたゴーレムだ。

 

 それが暴れる事を期待して、そしてミレイユが手傷を負うなり、打ち倒される事を期待して投入されたに過ぎなかった。

 気絶でもすれば、そこから拉致する事は容易い。

 だがそれは、『地均し』自身に、ミレイユを拉致する意図が全くない事を意味する。

 

 オミカゲ様を邪魔する意図は持っておらず、単に隙だらけの脅威に対して、攻撃しただけ、と見る事は出来た。

 しかし、同時に神を積極的に排したいなら、絶好の機会でもあった。

 それがまた、一層ミレイユの推測を裏付けるように感じてしまう。

 

「……私の考え過ぎか? 穿ち過ぎ、被害妄想、単なる間違いであるなら問題ない。むしろ、そちらの方が嬉しいんだが」

「いや、まぁ、うぅん……」

「そうですね……。現時点で、キッパリと間違いだと断言する事は出来ないようです」

 

 ユミルは口ごもって目を逸らし、顎先を摘んだままだったルチアは、その手を離して息を吐いた。

 長い長い溜め息で、相当な苦労を偲ばせる。

 

 そのあと鋭い視線で二柱を見つめたものの、そちらからは困惑と気不味そうな表情が返って来るだけだ。

 直接関与してないのに、そんな事言われても困る、という態度に見える。

 

「考える程に、不都合な真実ってものが顔を出すかのようですよ。今のところ、ミレイさんの仮説を否定する事が出来ません。……でも、一つ思い付いた疑問がありまして」

「聞かせてくれ」

「一先ず『地均し』は置いといて、この場合、後継者とやらの入る隙間がなくありませんか? 何の為に用意しようとしていたんでしょう?」

 

 それは確かに、不可解な疑問だ。

 大神の計画に、八神――或いはもっと多く――の存在は不必要に思える。

 後継者を造る前に、失敗作が出来た事は仕方がない。そういう事もあるのだろう。

 

 だが、反逆を受けずに真の後継者を造り出せたとして、その者が担う役割とは何なのだろう。

 大神はやろうと思えばその時点で、『地均し』を使い、移動する事だって出来たのだ。

 

「滅びかけた世界を、次代に再生と守護を託して自分は旅立つ、というのなら理解できる。しかし、それなら世界を越える必要も無くならないか。それとも、それこそが目的なのか? ……つまり、新たに大神を世界に据えて、自分は次なる世界へ旅立つ、という様な……」

「滅びを待ってからやる必要ある? むしろこれって、樹の実を食い尽くしたから、次の樹に移るって感じじゃない? 剥げた樹に子を残して、親は他の樹に移るって? 嫌がらせでしょ、そんなの」

 

 ユミルの意見は敵意を存分に含んでいたが、それが中々に的を射ていた。

 自分で言った事ながら、その線は薄いと思って、嘆息しながらそれに頷く。

 

 大体それだと、わざわざ後継者たる存在を用意する必要がない。

 再生を願って、あるいは事後の後始末を押し付ける意図があったにしろ、やはり嫌がらせという、ユミルの指摘が妥当の様に思える。

 

 この線で考えるのは無理がありそうだ。

 ならば、他に考えられる事としては、前提からして間違っている、という点だ。

 ここまでの推論をまとめると、どうにも大神は殊勝な性格をしているようには思えない。

 

 その大神が、小神を作っていたのは事実として、何を目的として必要としたのだろう。

 ――そもそも、本当に大神は後継を求めていたのか?

 ミレイユは、またしても顎を大きく反らしてドーラに声を掛ける。

 

「なぁ、ドーワ。大神は後継を求めていたというが、それは間違いなく、その口から出た言葉だったのか?」

「ふぅむ……。これまでの話を聞いていると、どうにも皆と我らの知る大神には、大きな隔たりがあるようだねぇ……。思い返してみると……後継、という言葉は使ってなかった気もする」

「おい、頼むぞ……。じゃあ、何と言っていた?」

「必要だから、という言葉だった気がするね。……あぁ、そうだ。必要……と言っていた。後継だと思っていたのは、勝手な思い込みだったか」

「ちょっと待て……。思い込み? お前の……お前が見て、勝手にそう思った、って事か?」

 

 もしかしたら、前提に何か齟齬があるかもしれない、と軽い気持ちで聞いてみたのだが、まさか本当に根底から違うなど思っていなかった。

 ドーワは一時、眦を閉じて過去に思いを馳せ、それからゆっくりと鎌首をもたげて申し訳なさそに言った。

 

「うぅむ……、やはり後継者、とは言ってなかったね。だが、自分を模した存在、権能なんて能力を持つ小神なんてものを作っていたんだ。それなら、後継者を望んでると思うだろう?」

「……なるほど。まぁそうだな……、お前もまた外野から見ていただけの存在だったな。無理もないと思える。必要だから、という言葉からも、死期が迫りかけていたという事実からも、そう受け取っても仕方がない」

 

 ドーワは申し訳なさそうにしつつも、ミレイユの返答へ満足そうに頷くと、首を戻して飛行に集中する。

 その動きを見守ってから、ミレイユはゆっくりとルヴァイル達へ、順に視線を向けた。

 

「さて……、こうなって来ると、お前達の前言にも撤回する部分が出てきそうなんだが……」

「いや、己らは何も嘘言ってないぞ! ちゃんと感じるままに……!」

「その感じるままってのが、いかにも危うい。さっきのドーワを見ただろう。客観的に見て、そうとしか感じなかったから、そうだと決め付けていたものが、お前達にもあるかもしれないだけだ」

 

 ミレイユが厳しい視線で言うと、一理あると思ってか、それ以上の反論はして来なかった。

 しかし、そう言われても、と苦り切った顔で、ルヴァイルと互いに顔を見合わせている。

 

 嘘を言っていないのは確かだろう。

 彼女らとしても協力を惜しむつもりはなく、意図せぬ方向に誘導しよう、という画策はないと理解している。

 

 だが、やはりドーワの件を考えると、何かしらの誤解があったかも、という懸念を拭い切れないのだ。

 しかし、嘘を言っていないつもりの相手に、何か嘘を言ったか、と詰問しても意味がない。

 

 そこでミレイユは、誤解があると困る部分を想像してみた。

 頭の片隅に浮かんだものを膨らませていくと、嫌な方向に想像が膨らみ、みるみる眉間に皺が寄っていく。

 

 小神は大神の後継たるを望まれて作られ、そして失敗作の烙印を押された存在だ。

 ミレイユはそう聞いているし、ルヴァイルの口から直接話された内容でもある。

 だが、事の本質を良く知っているラウアイクスから、その単語を聞いていない事を思い出した。

 

 彼は用済みと、言っていた。

 戦闘の最中、時間稼ぎのつもりで問い掛けた時に聞いた話だ。

 ――もう用済みと断じられ、破棄される者の気持ちも汲んで欲しいものだ。

 

 ミレイユはその時の一言一句全てを思い出し、眉間にしわを寄せる。

 その下手な想像が外れていてくれと思いながら、ムッツリとした不機嫌な顔で二人に問うた。

 

「私が一番何の誤解を恐れているのか……、それが何か分かるか?」

「分からん。だから……、聞くのは怖いが、是非とも教えて欲しいね」

「――お前達が失敗作で無かったパターンだ」

「は……?」

「勝手に失敗作と思い込み、それで反旗を翻した……んじゃないかと思うんだが。……お前達は直接、その言葉を聞いてるか?」

 

 そう尋ねると、明らかに狼狽した様子で、ルヴァイルとインギェムは互いに顔を見合わせる。

 互いに言葉無く、どうなんだ、というジェスチャーで指を差したり、違うと手を振ったりで、何を言わないでも何を言い合ってるのかは理解できた。

 

「その様子だと、聞いていないようだな……」

「そもそも、直接的関与が多かったのは、ラウアイクスだと話した筈です。私は詳しく聞いてませんし……でも、彼がそんな聞き間違いで反逆すると思いますか?」

「アイツは頭がキレる。だから、下手な間違いはしないと思う。だが、そもそも聞き間違えじゃなく、明確に処断される理由を聞いた時、反逆を企てたんじゃないか」

 

 それだけ言っても、二人は全くピンと来ていないようだ。

 確かに少し抽象的過ぎて分かり難かった。

 自省しながら、ミレイユは少し考えて言葉を改めた。

 

「例えば、もう用済み、といった発言をされた場合だ。自分以外にも多くいる小神、そして先の台詞を聞かされたら、大神にどういう意図があるかは明白だ」

「それは……えぇ、状況と言い方次第で、ラウアイクスがどう判断するか分かって来ますが……。しかし、どうしてそう思うのです?」

 

 ミレイユはそれに答えず、無視するように問いを重ねる。

 

「もう一つ。『地均し』に、お前達の権能を使える機構があるって本当か?」

「それもラウアイクスから聞いたのですか? ……えぇ、だから貴女を追うのに自動化出来ていたのです。労が余りに大きいなら、ミレイユという素体が惜しくとも、途中で諦めていたのではないでしょうか」

 

 ミレイユは天を仰いで瞑目した。

 固く閉じた目と、きつく結ばれた口から、何を思っているかは察せられるだろう。

 

 また一つ、不都合な真実が見つかり、仮説を強める結果になってしまった。

 ミレイユは息を吐いて顔を戻すと、自分を落ち着かせる事もかねて、ゆっくり目を開きルヴァイルを見つめた。

 

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