【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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エピローグ その1

 ――それから、約半年の時が過ぎた。

 アキラは今も日本で暮らしていて、神明学園の寮で生活している。

 

 とはいえ、それも今だけの話で、既に退寮と退学の手続きも済ませていた。

 随分と長引いてしまったのは、引き止めてくれた友人や、実家関係の事もある。

 だが一番の理由は、身辺整理の為だった。

 

 二度と日本の土を踏まないというつもりもないので、色々と残しておくもの、片付けるものを整理しておく必要がある。

 即時退学は考えていなかったので、学生としての本分を真っ当していたら、準備も遅々として進まず、多くの時間が掛かってしまった。

 

 だが、時間が掛かるのは別に問題ではなかった。

 なにしろ、デイアートという異世界への扉は、原則として一年に二度しか開かない。

 それもデイアート側から開ける事になる性質上、取り決め以外で開く事は推奨されない、という約定が組み交わされていた。

 

 火急の用事や、危機的状況を報せる訳でない限り、それが最善として、気ままに孔を開く事はしないと決めたらしい。

 それはやはり、孔に対する国民感情というものに配慮した結果でもある。

 そして万が一、鬼による侵略などがあったなら――取り決め日以外に孔の気配があったなら、それが悪意あって開かれたものと構える事も出来る。

 

 そういった、謂わば防衛措置的な役割を持たせる意味でも、孔を開く日は厳粛に決定されたのだ。

 そしてアキラは、その日に向けて準備していたし、その日から生活の基盤をデイアートに移すつもりでいた。

 

 今日は一年に二度しか無い孔の開く日――開孔日であり、そして同時に孔の向こうから来る客人を迎える日でもある。

 その為に持て成す準備が、今や順調に進められている筈だった。

 

 戦勝記念日は別にあり、その時改めて祝われる予定だが、いずれにしても正式な形で開かれる孔だ。

 この際に、当時共に戦った勇士たちを招けないか、という発案が実った形だった。

 

 だから誰もが敬意ある客人として遇するつもりだし、この際に楽しんで貰いたいと思っている。

 だが、それはそれとして、オミカゲ様の千年に渡る戦い、その終止符を打った戦いは国民の知るところになった。

 

 無論、詳しく一部始終を知られた訳ではない。

 一時の間、結界が破れた事によってオミカゲ様の戦う姿が明らかになった事で、それが知られると共に憶測も多く広がった。

 

 動画も多種多様に出回ったし、ミレイユによる――それをオミカゲ様と誤認する人もまた多いが――無辜の民を助けたい、という言葉は衝撃の光景と共に、全世界へ知れ渡ったのだ。

 

 巨人の出現、大規模な爆発も目撃されており、そこに神による戦いがあったのは明らかだった。

 しかし、神宮や御影本庁はカバーストーリーを仕立て、それらしい説明をしていたので、実際の真相は闇の中だ。

 

 オミカゲ様の鬼退治、それに乗っかった形なのだが、詳しい事は結局何一つ伝えていない。

 ただ、そこに壮絶な何かがあった事だけは理解していて、オミカゲ様が奮戦していた事実だけは共通している認識だった。

 

 実は日本が侵略を受けていて、それを陰ながら護っていた事など知らずにいた方が良い、というのがオミカゲ様の方針だった。

 御由緒家や神宮もそれを受け入れ、だから誰もが口を閉ざす。

 

 噂話ばかりが先行し、都市伝説まで生まれる始末だが、好きにさせるつもりのようだ。

 アキラもまた、知らずにいるのが最善だと思っている。

 

 その様に物思いに耽っていると、自室の扉を叩く音がして開けると、そこには凱人が立っていた。

 少し視線をずらせば、そこには漣の姿も見える。

 

「あぁ、もう準備済んでるみたいだな。すぐに行けるか?」

「うん、大丈夫。行こうか」

 

 部屋から出ながら、アキラは頷く。

 既に正装へ着替えていて、いつでも出発できる準備が万端整っていた。

 

 異世界からの客人とはアキラも縁が深く、そして御由緒家の末席に連なる者として、この歓迎パーティに参加しない訳にはいかない。

 本格的な式典はまた別の日になる予定だが、かの勇士達を饗す為の食事会は本日行われる。

 

 式典当日となると、あちら側の権力者なども来賓として招かれるらしい。

 そちらには参加しない、いち兵士として戦ってくれた者達を歓迎する食事会であり、こちらは礼儀などを気にしない気楽なものだ。

 

 粗野な冒険者などは式典に参加したくないし、美味しい食べ物や酒を飲んで、ただ楽しんで貰う為のものだから、参加する彼らはむしろ喜んでくれるだろう。

 

 車に乗り込み、神宮まで行く傍ら、既に何度か交わされた会話を繰り返す。

 二人としては、アキラの意志を尊重していても、簡単に割り切れないようだ。

 それに、式典が終わればアキラは出立する。それまでのタイムリミットと思えば、言わずにはいられなかったのだろう。

 

「なぁ、どうしても行くのか? いや、あちらを決して悪く思うものじゃないんだが……。二つの世界を知っているアキラなら、どちらが過ごし易いとか知ってるんだろ?」

「そうだね、文明レベルで言えば、こっちの世界の方が、ずっと高いし過ごし易いよ。でも、あちらにはミレイユ様が御わすからね……」

「御子神様か……。そりゃあ、お仕えしたい気持ちは分からないでもないけどな……」

 

 漣が唸るように同意して、それから重く溜め息を吐く。

 

「それに、鬼はもうあれから一度も出てないでしょ。警戒だけは今も続けてるけど、平穏がずっと続けば隊士達のお役は御免になる筈だ」

「別に隊士の仕事は、鬼退治ばかりでもないけどな……」

「でも、大部分はそうだった。そりゃあ、頭を使ったりする仕事も、沢山あるんだろうと思うけど……」

 

 凱人も腕を組んだまま、大いに頷いて同意する。

 

「あぁ、結希乃さんとかな。……とはいえ、あの人はまぁ、その中でも選りすぐりのエリートだから、同じ様に考える事も出来ないが。犯罪捜査の協力に駆け付けたりする事もあるようだ……」

「それに御由緒家は、それぞれオミカゲ様から預かった仕事ってのがあるからな。一戦から身を引いた当主は、必ずその家業を引き継ぐもんだし、俺も今からそれ学んでるんだよな……。鬼退治がめっきり無くなっちまったから。全くよ、もっと後で済むと思ってたのに……」

 

 漣は元々、身体を動かす方が得意で、勉学に対して熱心ではない。

 鬼退治は丁度よい逃げ口上、逃避先ですらあったのだろう。それを突然奪われて、どうにも参っているらしい。

 

 漣がむっつりと眉間に皺を寄せると、同じように凱人も眉間に皺を刻んだ。

 

「ウチも似た様なものだ。外交は由衛の取り仕切るところ……。神宮勢力より外との折衷という役割があるんだ。海の外という意味だけでなく、神宮の外、という意味合いも込みでの外交だな。昨今は更に面会希望が増えている」

「あー、やっぱり、それって……」

 

 オミカゲ様は本物の神だ。

 それは日本国内では真の事だと信じられて来たが、鬼退治については懐疑的な部分が多かった。

 その昔、何かの教訓めいた逸話が、そうした形で現れただけだろう、と思っていた者は少なくなかったのだ。

 

「メディアからの接触も多いし、これらを上手く制御することを求められる。……いっそ、鬼と戦う方が遥かに楽だぞ。オミカゲ様の御威光を損なわず、しかし蜜を吸いたいだけの者どもを、上手く捌いてやらねばならない」

「あぁ、それは……大変だ」

「だから、掛け値なしに信用できる、お前の様な者がいてくれると有り難い。中にはオミカゲ様を暴こうとか、貶めようとする不遜な輩だっている。これもまた、あるい意味で邪な鬼と変わらん連中だ。そういう鬼から、共にオミカゲ様をお護り出来ないか」

 

 凱人の真摯な瞳、真摯な熱意を聞かされると、それに頷きたくなる衝動に駆られる。

 アキラもまた、オミカゲ様に対する尊崇の念を持っていて、今も消えた訳ではいない。

 かつて抱いていた信仰に陰りはなかった。

 

 ――しかし、それでも、なのだ。

 オミカゲ様には千年の間に築いた信頼と、そしてオミカゲ様からも信頼できる家臣がいる。

 ミレイユにも信頼できる仲間と、これまでに築いた信頼はいるだろう。

 だが、双方を見比べて、よりどちらへ助力したいかとなれば、盤石とは程遠いミレイユを助けたく思ってしまう。

 

「申し訳ないけど、僕の気持ちは変わらないよ。僕は僕で、御子神様を……ミレイユ様をお助けしたいと思う」

「……そうか」

 

 小さく頷いて息を吐き、それから凱人はカラリと笑った。

 

「ま、何度止めても駄目だったんだ。この土壇場でも、やはり駄目だったとなれば尊重するしかないな。……あちらでは苦労もきっと多いんだろうが、応援するよ」

「……だな。寂しくなるがよ、男が決めた道だもんな。応援しない訳にはいかねぇよ。アキラは俺らと違って、しがらみなんかもないしな……」

 

 もしもアキラの父が順当に当主として収まっていて、そしてアキラも次期当主として目されていたなら、このような自由は許されなかっただろう。

 ある意味で、父が残した置き土産として捨てた地位が生きていて、今だけはそれに感謝したい気分だった。

 

 アキラは一度頷いて、それから窓の外へと目を向ける。

 そこには見慣れた――ごくごく見慣れた、日常の風景があった。

 

 アスファルトの地面、規則正しく並ぶ電柱と、そしてビルや家屋……。

 どれも有り触れた、しかし今後は見る事が出来なくなるかもしれない光景だった。

 

 アキラはそれをしっかりと目に留め、故郷である自覚と、ありふれた光景を胸に刻み込もうと眺め続けた。

 

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