【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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orangeflare様、えりのる様、誤字報告ありがとうございます!
 


招待 その8

「――でもま、理屈としてはアヴェリンと同じよ。点穴を開けなければ自己生成力で潰れそうになったのと同様、少々の点穴じゃ、この子の生成力を抑えられなかった」

「でも……、それで三百ですか? あまりに規格外といいますか……」

 

 そうね、とユミルがちらりと笑って、ミレイユに顔を向けた。

 

「最初からエルフ並に点穴を作ってはいたのよ。その時点で規格外だったし、それに応じた魔力も魔術も会得していた。だから、この子は『耳を丸めたエルフ』とも呼ばれた」

「耳を……丸めた」

 

 口から言葉を零しながらミレイユの耳を見つめても、そこには自分同様、特に代わり映えもしない耳があった。こんなところまで形がいいんだな、という感想は出るものの、しかしそれは普通の人間と変わらない。

 エルフが器用に耳を丸めている訳でも、あるいは切り落として人間の耳のように見せている訳でもなさそうだった。

 

 ユミルの説明に、ルチアが補足するように一言加える。

 

「呼ばれた、というのは間違いです。今でも間違いなく呼んでいます」

「あら、そう? 相変わらず意固地なのね」

 

 二人のやり取りは抽象的で、アキラにはよく理解できない。

 

「結局、ミレイユ様は人間なんですか? それともエルフなんですか?」

「エルフではないわね」

「でも、エルフである、という事にしておきたいんです」

「それはまた……何故?」

 

 アキラが首を傾げると、ユミルが溜め息をついてルチアを指さした。

 

「エルフ族っていうのは、魔術に秀でて、そしてそれを誇りに思ってるって言ったでしょ? それに只の人間に負けたと思われたくないからよ」

「それだけ聞くと、単なる狭量な種族としか聞こえないので止めてもらえます?」

 

 不機嫌そうに言って、ルチアは手を振ってユミルを遠ざけるような仕草を見せた。それから取り成すように、アキラに顔を向けた。

 

「我らの一族は、ミレイさんに深く感謝してますし、神のように崇めています。我らの一族だけではなく、多くの氏族が」そして僅かに顔を歪める。「ただ、人間に対し思うところがあるので、人間を祀り上げるような、深い感謝を示すような行動は障りがある。でも感謝を示さない不義理もしたくない。そこで思い付いたのが、ミレイさんをエルフという事にする、という案です」

「ほら、馬鹿げているでしょ?」

 

 ユミルがルチアを指さしたが、その指を叩かれた。

 頓着せずに笑いながら、ユミルは続ける。

 

「結局プライドが邪魔して、素直に感謝できなかったっていうだけの話じゃない。それで耳を丸めたエルフと呼べば良し、っていうのは、やっぱり馬鹿げた話よ」

「素直に頭を下げられない、エルフ族の歴史も考えて下さいよ」

 

 苦笑したルチアに、ユミルは肩を竦めて応え、それからアキラに言う。

 

「まぁ、最初は実際その強い魔力が、エルフだと誤解させた要素だったと思うのよ。人間では有り得ない魔力総量を持つし、その若さで身に付けられない魔術も使うし」

「修得に十年かかる魔術も使ってたら、それは確かに、外見通りの年齢じゃないと思いますよね……」

 

 だからつまり人間じゃない、と思うのは自然な事だったに違いない。

 しかし、交流を深めるにあたって人間だったと気づいたが、今更それを人間だからという理由で排斥できない事情があったのだろう。

 感謝しているというからには、エルフ族を救う何かをしたと予想できる。だが掌返しも出来ずに困ったところで、エルフに認定すれば解決だと思ったのかもしれない。

 

「エルフの気持ちも分かりますし、でもユミルさんの気持ちも分かるような……。だって結局エルフじゃないんでしょう?」

「そうね、それは間違いないわ」

「でも、人間じゃないって言われても納得できそうですけど」

 

 言ってアキラはミレイユを見つめる。

 その美貌は、むしろエルフと言われた方が納得できてしまいそうだった。魔力量だけの問題じゃなく、そういった部分もまた、エルフと思われた原因にあるのかもしれない。

 

 しかしそうなると、彼女は一体どういう種族なのだろうか。

 アキラの疑問はミレイユの苦笑と共に振り払われた。

 

「何かを期待しているようで申し訳ないが、私は人間だ。……だと思うがな、多分」

「いや、何で自分自身で自信ないんですか。余計怪しいじゃないですか」

「そうは言っても、親の顔を知ってるわけでもない。私自身は割と確信を持ってそう思ってるが」

 

 軽い口調の言い方だったが、アキラはまたもしてしまった失言に自己嫌悪を重ねた。アキラ自身も現在親を亡くして独りだし、それと全く同じとも思わないが、それでも親のいない幼少期はきっと辛かったに違いない。

 

 アキラの表情を見て、その気持ちを吹き飛ばすようにミレイユは笑った。

 

「別に同情してもらうような話じゃない」

「そうだ、お前ごときが同情なぞ、百年早い」

 

 アヴェリンが鼻息荒く言って、叱りつけるように睨みつけた。

 ミレイユがちらりと見せた苦笑は、そういう意味ではないように映ったが、ともかくアキラは頷いて謝罪する。

 

「は、はい、失礼しました……」

 

 それでアヴェリンは納得して腕を組む。また話を静観するつもりになったのだろう。

 そして再びユミルが口を開く。

 

「まぁ、とにかく、随分話が逸れちゃったけど……。点穴の多さは、その魔力の生成力が原因の一つね。これのせいで確実な格下殺しになっているのも酷い話だけど」

「格下……殺し? 自分より弱い相手に必ず勝てるって意味ですか?」

 

 弱い相手なら別に勝てて当然だし、苦戦しないというのも意味が通じない気がする。

 アキラの疑問に、ユミルは鼻で笑って否定した。

 

「文字通り、相手にならないのよ。相手にしないって意味じゃない、するまでもなく、勝負の土台にすら立てないって意味よ」

「そんな事あり得るんですか……?」

 

 アキラの胡乱げな疑問には、身を持って知る返答が返ってきた。

 ミレイユが深呼吸するように大きく肩を上げ、そしてゆっくりと下ろすと、蒼い光が立ち昇った。煙のようにも湯気のようにも見えるそれが、次の瞬間膨れ上がり辺り一面を包む。

 

 まるでミレイユを中心に、爆発が起きたかのような錯覚を覚えた。

 視界を一瞬で蒼く染め、目を瞑ってやり過ごし、手を突き出して光から身を守る。瞼の裏からでも見える光が収まった頃、手を下げながら目を開けようとして、身体が横に傾いた。

 

 咄嗟に横からアヴェリンが肩を掴んでくれたお陰で倒れずに済んだが、未だ視線も定まらず、身体に力も入らない。声を出すことすら出来なかった。

 一瞬にして身体中から血を抜かれたかと思った程で、身体は寒く感じるのに震えは出ず、力が出ずに首も据わらない。

 

 助けを求めようにもそれが出来ず、ただ時間が過ぎるのを待つしかないと思われたところで、誰かが背中に触れたお陰で、劇的に体調が良くなる。

 それにつられて身体が震えだし、首も据わって、それでとりあえず背中を椅子に預けた。

 たったそれだけで身体が楽になり、肩を掴んでいたアヴェリンも手を離す。

 

 気遣うような視線だったが、特に何をする訳でもない。

 ユミルが自分の席に座るのが視界の端で見え、それで助けてくれたのが彼女だと分かった。

 感謝の言葉を伝えたくても、今はそれが到底出来そうにもない。喉の奥で唸り声を出すのが精一杯だった。

 

 体調が戻るまでの時間は早く、それから一分もすれば元に戻った。

 別に動悸が激しい訳でもないのに息切れして、そうしながら目の前を恨めしそうに睨む。心は冷静のつもりでも、声まではそうはいかなかったようで、低い声で誰何するように問い質す。

 

「……なんであんな事したんですか」

「口で言っても説得力ないだろう。身を持って味わった方が、よりよく理解できる」

「口で言っても、僕は疑ったりしませんでした! あんなに辛い思いするぐらいなら、素直に説明だけにして欲しかったです……!」

 

 アキラの声には泣くような響きすら混じっていたが、そんな事を気にする人はこの場にいなかった。ミレイユもさもありなんと頷くものの、それに対する謝罪などはない。

 最初からそれは期待していなかったが、しかしこの理不尽には一言いってやらねば気が済まなかった。

 しかしそれより先に、いつもの笑顔でユミルが口を挟む。

 

「――ね? 凄いでしょ」

「なんでユミルさんが自慢気なんですか! 死ぬかと思いましたよ!」

「死ぬ思いをするだけで、死にはしないわよ。そういう手加減していたんだから」

「それ手加減しないと死ぬって意味じゃないですか!」

 

 だから、とユミルは更に笑みを深くした。

 

「格下殺しっていうの。遠くからあの子の防御と回避を抜けるならいいんだけどね。それが無理なら接近しないと倒せないんだけど、じゃあ近付いたらどうなるかっていうと、さっきのアンタみたいになるワケよ」

「えぇ……。ミレイユ様って、そんなに回避が上手なんですか?」

「盾を使わず、盾より上手く攻撃をさばくわよ」

 

 よく出るミレイユ伝説にまた一つ謎が加わって、アキラはげんなりした表情で言った。

 

「なんですか、その盾を使わずっていうのは……」

「ま、そこはいつか見せて貰ったら良いわよ。問題はね、さっきのあれが単にマナが漏れ出しただけっていうトコロにあるのよね」

「ん? マナ……? 魔力ではなく?」

 

 アキラが眉根を寄せて尋ねると、ユミルは頷く。

 

「そう、この子、体内からもマナ作るから。基本は外にあるマナを吸収して、体内で魔力を生成するけど、この子は自分自身からもマナ生成するから」

「えっと、意味が、よく……。それってやっぱり人間ではないのでは?」

 

 アキラの指摘にユミルが笑い、ルチアが苦笑し、ミレイユが憮然とした。

 

「マナは万物に宿るからね。当然、人にも宿っているんだけど……」

「僅かながら、って事ですか?」

「そうね、マナから魔力へ自己完結できるようなら、それはもう神の領域よ。あの子は人だと言い張るつもりみたいだけどね……」

 

 ちろり、とユミルが視線を向けると、ミレイユは外を向いてわざとらしく花々を愛で始めた。

 だが確かに、ここにある花々がマナの含有量が多いという話でも、気分が悪くなるような事にはなっていない。しかしミレイユ一人が生み出したマナは、アキラを行動不能にした。

 

「あれ……? マナって一度に多く吸うと危ないんですか?」

「そうね、水と一緒よ。あるいは塩でもいいけど。生きるのに必要なものだけど、一度に多量を吸収すると危険なの。そんな状況、普通は起きないけどね。でもそれをされて、アンタは溺れたような状態になったのよ」

「それで……」

「別に単にアンタを虐めるつもりでやったワケじゃないと思うわ。現に今、アンタ自分の中が魔力で満ちているのが分かるでしょ?」

 

 言われて改めて自分の身体を見つめてみれば、最初に呼吸をしていた時は僅かにあったと感じられた魔力が増えている。驚くような気持ちでミレイユを見返すと、困ったような苦笑を返された。

 

「まぁ、申し訳ないと思ってるが。こんな事、普通はしないしな。言ったように格下にしか利かないし、しかも回数を重ねれば慣れる。だから基本的に、外へ魔力を逃がす為に点穴の数が多くなければ、私が潰れる」

「それで三百ですか……」

「あとは普段から、無駄に魔術を無駄なく無駄に使って消費したりな……」

「なんですか、それ。どういう意味ですか?」

 

 ミレイユは少し考える仕草をしてから、空いている椅子に手を向ける。

 その掌が光に包まれた後、雑に握る動作をすれば椅子が持ち上がる。そして二歩ほど離れた場所に着地した。

 一部始終を見てからミレイユが顔を戻してくるが、アキラとしては首を傾げるしかない。

 

「どう思った……?」

「えぇと……、浮いて動いたなぁ、と」

 

 アキラの拙い感想に、アヴェリンから叱責が飛んだ。

 

「――馬鹿者。お前はもう今日から魔術士として生きるのだろうが。だったら魔術的に物を見ろ」

「と、言われましても……。何をどう見たものか……」

 

 困惑した表情にミレイユが頷く。

 

「基礎はこれからだし、それでもいいさ。お前に分かり易く言うと、十の労力で済むものを、わざわざ百使って動かした。そういう感じだ」

「少なく済むものを、わざわざMP100使ったんですか……?」

「ああ、そう。正にそれだ。だから無駄に無駄なく魔力を浪費したという事になる」

 

 そこにルチアが呆れた声を滲ませて、ミレイユに向かって言った。

 

「普通は出来ませんけどね。少なく効率的な魔力制御を学ぶと、むしろ多く浪費するような制御はできなくなりますから。応用が上手いといっても、限度がありますよ……」

「そうなんですか……?」

「魔術の制御は繊細で、それ故に最短、最効率を目指すものです。わざわざ自分で破綻しかねない綱渡りをして、それでも同じ結果を生み出すというのは、口で言うより簡単じゃないんですよ」

 

 ルチアにしても分かり易く精一杯の説明をしてくれたのだと思うが、やはりそれだけではアキラには今一ピンと来ない。

 だがとりあえず、とんでもない無茶をした行動なのだとは分かった。

 

「分かりませんけど、分かりました。とりあえず――」

「ちょっと待って……!」

 

 アキラが言い掛けた時だった。

 ルチアが緊張した声を出して、ミレイユに目配せする。頷き返してアヴェリンを見て、それで彼女が立ち上がった。

 

「え、なに……急にどうしたんです!?」

「結界が出現した。これから対応する」

 

 アヴェリンの簡潔な返答に、アキラは緊張で身を固くした。

 ならば、アキラ自身も準備をして向かわなくてはならない。ミレイユから下賜された刀と、初戦から借り受けている防具、それらは自分の寝室に隠している。

 

 そこにユミルから軽快な声をかけられた。

 

「良かったわね、魔力を満たしてくれていて。実践で魔術士としての戦い方が学べるわよ」

 

 実に気軽な申し出だったが、今のアキラは一度も使った事のない武器を手渡された状態に等しい。

 弾丸の装填も引き金の位置も分からない筒を手渡されたような気分で、だからそれを素直に喜べない。むしろ不安の方が大きかった。

 

 ミレイユも立ち上がって準備をするため邸宅へ歩いていく。その背中を見ながら、アキラも覚悟を決めて拳を握った。

 

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