自称天才軍師のチートハーレム主人公活用法 作:はごろも282
魔闘祭当日のことだ。バカみたいに人通りの多い大通りの入口でひとり立っているのにも流石に辛いものがある。
王国の催しであるこの魔闘祭には当然ながら古今東西から人が押し寄せる。もちろん、田舎から遠路はるばる遊びに来る人だっているし、今俺がこうしてこんな人混みにいるのもそういう類の待ち人がいるからだ。
随分長いこと入口に立っているような気持ちになっていると、視界の隅でようやくお目当ての人物を捉えることができた。どうやら人の多さに圧倒されているらしい。
「わっ!」
「ふひゅいっ!?」
後ろから忍び寄って脅かしてみると、なんとも面白い反応が帰ってきた。どこか小動物のような雰囲気を漂わせるこの少女こそ、エニュミーの妹にして俺の待ち人である《ナギニ・KK・ゼンノート》。エニュミー譲りの小柄さとプレートよりも平らな胸は一年ぶりでも全く変化はない。
「久しぶりだなナギニ。元気してた?」
「げげっ!この声はルノくん……。ど、どうしてここに……」
「エミュミーに頼まれたんだよ。なんか忙しいらしくて」
「忙しいって、兄さんはまた何かに巻き込まれたんですか!?」
ずいっ!と身を乗り出して詰め寄ってくるナギニ。クソッ!至近距離なのに胸が貧相なせいで体に当たらないっ!
「違う違う。アイツ今年はイベントに出るらしいからその関係」
「な、なんだ……。そうなんですね──って、イベント!?」
「ん?ああ」
「それって、ストラグルバトルですか!?」
「そうだけど……お前詳しいな」
「うそ……。だって今年は出ないはずじゃ……そもそもそうなったら外門の──」
会話の途中で急に自分の世界に入ってしまったナギニ。小声で何言ってるのかよく聞こえないけれど、怖いからやめてほしい。
「と、とりあえず歩こう!な!」
「はっ!?そ、そうですね!ここにいても仕方ないし……あれ待って?兄さんが忙しいなら私は誰と一緒に──」
「俺だよ俺。もしかして見えてない?」
「えー……。なんでルノくんなの?チェンジ、兄さんにチェンジしてくださーい」
小さな身体を目一杯動かしてバッテンを作るナギニ。う、ウザい……。
「あのなぁ。俺だってイヤだよ」
これは本心だ。俺だって友だちの妹とふたりなんて居心地がいいわけがない。できることなら人がたくさん集まる今日という日に出会いを求めたかった。男なら当然だろう。
「……やっぱりルノくんは失礼。レディにそんなこと言っちゃダメなんですよ」
「何言ってるんだナギニ。レディなんて何処にもいないよ」
「いますよ!?アナタの目の前でなんなら今話してる!」
「レディ扱いされたかったらもっと俺に優しくして?」
「私は優しいもん。ルノくんと話してあげてるし」
「会話してくれることが既に優しさだったんだ……」
どうしよう。再会早々に心が折れそうだ。自分よりも年下の15歳に泣かされるなんて恥ずかしいぞ?
「とは言っても、俺もストラグルバトル出場するからずっとじゃないけどね」
「え、ルノくんも出るの?」
「やむを得ずね。本当に心の底から切実に遺憾だ」
「め、めちゃくちゃ不本意なんだ……」
心なしかナギニとの物理的距離が2歩程度離れた気がする。
「でも、同じ条件なのにどうしてルノくんは暇なの?」
「別に暇じゃないが?」
「私のお世話任されるくらい予定ないよね。兄さんは大変らしいけど」
彼女の鋭い発言に、思わず口をつぐんでしまう。
「──まあ、ルノくんがハブられてるのは想像つくけど」
「引っ叩いてやろうか?」
会話を打ち切って、俺はナギニを引きづって進みだした。
☆
「ルノくん。あの射的がやりたいです」
「いいけど、ちょっとはしゃぎすぎじゃない?」
俺の服の袖を引っ張って自己主張する少女には既に綿あめとお面が装備済みだ。入口でチェンジを要求していた人物と同一とは思えない。
「あの景品ならとれたら2万は得します。やり得です!」
目をキラキラさせて俺の顔を見るナギニ。うーん、とは言ってもなぁ……。
「ああいうのって取れないようにしてあるもんじゃない?」
「私は『当たりのないガチャ』、『何故かすり抜けるアーム』がこの世で一番嫌いです。そんな悪徳な輩はおおごとにして成敗してやりますっ」
「絶対にやめようね?」
それに付き合わされる俺の身にもなってほしい。
というか無駄に実感の籠もった台詞だけど、そんな経験ができるような場所村にあったっけ?
「ルノくん?」
「ん?ああごめん。なに?」
「いや、だから急に立ち止まるのはやめてって」
「あ、ごめん」
考え事に夢中になって周りが見えなくなっていたようだ。歳下に諭されるなんて情けない、もっと気を引き締めないと。
「じゃ、学園まで行くか」
「……もう少しみたいです」
「後で良くない?エニュミーもその時なら暇だろ」
「ルノくんはついてこないの?」
「ああ。お守りは二人もいらないだろうし、俺とエニュミーが一緒にいると面倒だ」
それと、保険医であり俺がストラグルバトルに出場することになった原因であるシオンセンセーのもとにも行かなきゃならない。まあ、そんなことはナギニには言わないけど。
「面倒?」
「ああ。エニュミーは夜の電灯みたいなヤツだからな。悪いものを惹き付けやすいんだ」
「悪いものっていうと、エミリアスとか?」
「う〜ん、ある意味ではそうかも」
エニュミーに関わったときの女の子を思い出す。代表格で言うもクラスメイトの赤髪の少女。俺への当たりの強さ、エミリアスと比類してなんら遜色ないだろう。なんなら勝っている可能性すらある。
「おーい、ルノくん?」
「っと、ナギニは今のまま優しい子でいてね」
「え、うん。わかったけど……?」
困惑したように小首を傾げるナギニ。うんうん、ナギニはいい子だなぁ。エニュミーの妹じゃなかったら良かったと心底思う。
☆
「あ、いた!おーいナギニー!」
学園へ続く大通りを歩いていると、遠くからそんな声が聞こえてきた。俺にナギニの面倒を押し付けた友人、エニュミーだ。予定が片付いたのか、小柄な体躯を活用して人混みをかき分けて近づいてくる。
「ナギニ。お迎えが来たぞ」
「ほぇ?今日は母さんたちはいませんよ?」
「じゃなくてさ、ホラあそこ。豆粒が走ってくるだろ?」
「豆粒……?あっ、兄さん!」
どうやら小さすぎてエニュミーのことが認識できていなかったらしい。確かに遠くにいるヤツは本当に見つけづらいからな。すりごまと比較してもギリギリすりごまが勝つかもしれない。
「久しぶりナギニ」
「うん!兄さんも元気だった?」
「まあね。道中ルノに迷惑かけなかった?」
「かけたことないよ。むしろお世話してるもん」
「なあエニュミー。今の台詞に違和感を覚えないか?」
「さすがボクの妹だ」
「えへへ〜」
どうしてこいつ等は幼馴染の尊厳をボコボコにした上でニコニコと兄妹の団欒を楽しめるんだろう。
「ルノもありがとね。助かったよ」
「2万でいいぞ」
「そういうところに君への対応のすべてが詰まってるよ」
「ルノくんは残念さんだから仕方ないよ」
「???」
二人が口々に罵倒してくる。酷い扱いだ。俺がこの場で泣いても責任が取れるんだろうか?
「まあ、立ち話も何だし喋りながら歩こうか」
「そうだね。でも兄さん、用事はいいの?」
「あ、それは俺も知りたい」
と、思わず口を挟んでしまう。俺がここにいる理由はエニュミーの用事がどうとかだったから、それが片付いたなら役目は終わりだし。
「あー、まあね。一段落ついたって言えばついたんだけど……」
目を逸らし歯切れの悪そうに言うエニュミー。いったいどうしたんだ?
「いや〜、なんて言えばいいのかな。一難去ってまた一難っていうか……」
「また厄介事かよ。あんまり持ってくるなよな」
「ルノくん。兄さんを疫病神みたいに言わないで。本人は気がついてないんだよ?」
「ナギニ?お兄ちゃんオーバーキルされちゃったよ」
「え?」
「無自覚か……やはり兄妹だな」
的確な言葉で人を傷つける才能がある。
「と、とりあえずさっきまでボクはストラグルバトルの1回戦に出てたんだけどっ!」
と、多少強引に話を進めようとするエニュミー。にしてもそうか、予定ってストラグルバトルのことか。
確かにそれなら俺と入り時間が全然違うことだって理解ができるというものだ。俺の出番は昼前最後の試合。開始が10時で今が10時半だからまだまだ──って、あれ?
「兄さん、ストラグルバトルの開会式って10時からですよね?」
言いながら小首を傾げるナギニ。
そう、パンフレット通りならまだはじまって30分、試合開始はさらに後になるはずだけど。
「うん、巻いたよね普通に」
「お前対戦相手の晴れ舞台なんだと思ってるの?」
対戦相手はおそらく今日最も不幸な生徒だろう。
「でも、それなら難題って一体……あ、輪投げ」
鋭い質問を投げかけるナギニ。途中から輪投げに持っていかれてなければ完璧だった。
彼女の意識は既に通り過ぎる出店の数々でいっぱいだった。
これほど隣で物欲しそうにキラキラされると俺まで欲しくなってくる。あそこにあるチョコバナナとか買っておこうかな?
「あれ?ボクへの興味出店以下?」
そんなエミュミーの声で今の状況を思い出す。あぶないあぶない。まんまとエニュミーに騙されるところだった。ここはしっかりと軌道修正しないと。
「そんなことないって。ナギニだって都会が珍しいだけで──あ、チョコバナナください。青いので」
「むむ。兄さんもルノくんも私を甘く見すぎ。私はもう屋台で浮かれるような年齢じゃない。ピンクのください」
「うん、間違いなくふたりとも浮かれてるし無理があるね。あ、ボクは普通ので」
「まいど!合わせて2000ミングルね!」
結局欲に負けて買ってしまった。にしても、2000ミングルか……。
よし!
「ルノ」「エニュミー」
同時に隣から、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
咄嗟のことに驚いて横を見れば、同じようにこちらを見るエニュミーと目が合う。まさかコイツ、俺に奢らせる気か?なんて図太いヤツなんだ!
「ルノが最初に買おうとしたんだからルノ持ちでしょふつう?」
「は?まず頼み事聞いてもらってるんだからお前が払えば良くないか?」
「「──!!」」
お、ま、え、が、は、ら、え……!!
「あ、私が払います。ごめんなさいお店の前で」
「お、おう。若いのに大変だねぇお嬢ちゃん」
「お恥ずかしい限りです。はしゃいじゃってて。小さい方は普段ならもっとしっかりしてるんですよ?」
メンチの切り合いの傍らで聞こえる声。歳下にお金を出させた挙げ句フォローまでさせているようだ。なんて惨めなんだろう。
睨みつけるように元凶を見れば、やはりエニュミーも俺のせいと言わんばかりに俺を見ていた。コイツとは一度白黒ハッキリつける必要があるみたいだ。
「ボクが白でもうずっと結論づいてるだろ。つけるまでもなく」
「……」
ぐうの音もでない正論で殴るのはやめてほしい。
「もう、ふたりともじゃれ合いも程々にして」
と、ちょうど僕らの争いが終わったタイミングでナギニが合流する。その手には4本のチョコバナナが。小さな手にいっぱいに持っていて今にも落としそうだ。
「ごめんねナギニ。この通りルノがバカで」
「そうだな。阿呆のエニュミーが申し訳ない」
「学んでくれるかな?」
どうしようもないなこいつら、みたいな目で見てくるナギニ。なんて扱われようだ。
チョコバナナを受け取って(結局エニュミーとのじゃんけんで負けた俺が全額支払った)食べながら再度目的地へ進み出す。
そういえば、さっきまで話の途中だったような気がする。えっと、確か──
「それで兄さん。結局予定は大丈夫なの?」
っと、そうだった。エニュミーがこの後暇なのかどうかだったな。すっかり忘れてしまっていた。
様子を見るに、エニュミーも今思い出したようだ。あっ、とか言ってるし。
「あー、もしかしたらもう遅いかもだけど。ちょっと女の子に追われてて」
「よしエニュミーここでサヨナラだ。ナギニも気をつけるんだぞ?」
「賢明な判断だけど親友を見捨てるのが早すぎないかな!?」
「???」
昔からずっとそうだから今更言うのもどうかと思うけど、エニュミーを見捨てることに関して俺はなんの躊躇いもない。
それに、本当に女に追われているのなら早く離れるに越したことはない。相手はただでさえ性別の壁を超えて嫉妬する恋する暴走特急ラブモンスターなんだ。まして今日みたいなイベントごととなればいつもの5倍は見境ないとみていいだろう。
唯一の心配はナギニだけど、流石にあのヌーの群れも獲物の妹を邪険にはしないだろう。
不思議そうな顔をしているナギニには悪いけどどうにか生き抜いてほしい。
俺は早急にその場を離れた。
☆
医務室の扉を開くと、そこにはいつもと同じ光景が広がっていた。
「おや、こんな日に急患──なんだキミか」
開口早々から酷い扱いだ。
「失礼だなぁ。一応お土産もあるのに」
「ほう、それは悪いことをしたね。生徒がそんなことしなくてもいいのに」
「老人は敬うものなので。大したものじゃないですけど」
「シバかれたいのかい?」
それにしても意外だ。この人にそんな殊勝な心がけがあったなんて。てっきり貰えるものは貰うどころか貰えなくても貰うような人だと思っていた。
とはいえそうだよな。仮にも教師なんだし、俺が見ている姿がいつもの彼女というわけじゃないなんて当然か。
「へぇ、チョコバナナか。久しぶりに見たな」
物珍しそうに手渡したチョコバナナを見つめるシオンセンセー。毎年出店で売られてる品のはずだけど、この時期はあまり外には出ないのだろうか?教師は忙しいとかそういう感じなのか、それとも単にこの人が出不精なのか。なんにせよ、喜んで貰えてるみたいだし選んだ側としても嬉しい限りだ。
「──これは一種のセクハラなのかな?」
今すぐに返してほしい。
「それで、一体なんの用だったんだい?」
と、チョコバナナを口に運ぶセンセーの台詞で本来の目的を思い出す。いけない。大事な本題を忘れるところだった。
誠意を伝えるためにもしっかりとした佇まいにするべきだろう。
「僕の試合が近いのはご存知ですよね?」
「……久々に食べたが案外イケるな」
「あ、それは良かった──って違う!俺の話は500ミングル以下なの!?」
これから死地に赴くかわいい教え子になんて仕打ちなんだ!この教師の恥!生きおくれ!年齢不詳!
「聞いているよ。奥の手はもう渡したろ?」
「軽いっ!もっと心配してくれてもよくない!?」
「えー。なにその面倒なカレシカノジョみたいな感じ」
心底面倒そうにこちらを見るセンセー。誰のせいでこうなったと思ってるんだ!
「安心するといい。策は万全だし、なによりキミは天才軍師なんだろう?何も心配はいらないよ」
「それは……そうかもしれないな」
諭されて冷静になった。どうやら相手が化け物だからって過度に神経質になっていたらしい。いや、待てよ?
「確かに俺は他の追随を許さない天才ですけど、シンプルな地力が出る試合じゃ劣勢だと思うんです」
「キミは清々しいくらいに自分を持ち上げるね。好きだよそういうとこ」
おっと、惚れられてしまった。知らぬ間にフラグを重ねてしまったかな?
「確かにキミは敗北続きだけど、ソレは相手が人外だからだ。キミはキミが思っているよりもずっと強い。胸を張って挑みたまえ」
「!!」
センセーの言葉に胸を突かれた。考えたこともなかったが、確かにエニュミーに負け続けなことと俺が弱いことはイコールじゃない。
アイツが化け物なだけで俺だって結構強かったりするのか……?なんかそう言われたらちょっとそんな気がしてきたぞ。
「いや、でもなぁ……」
「私を信じて。ここは騙されたと思って進んでほしい」
俺の肩に手を起き真摯に言うセンセー。
ここまで真剣に言われてるんだ。信じなきゃ男がすたるってものだろう。
「……分かりました」
「よし!じゃあ往ってこい!」
「はい!」
「奥の手はギリギリまで使わないようにね!」
「はい!!」
激励を背に、俺は試合に臨んだ。
☆
「『騙されたぁッ!!』」
数十分後、試合開始と同時に叫びながら奥の手の一つを使用する。魔力パスの接続だ。効果は魔力の共有とか念話とか。
『ふむ、やはりか』
なにが『やはりな』だ殺すぞクソアマァっ!!
俺の視界一面には大量の弾幕が広がっていた。
みなさんの温かい感想、評価のおかげです。感謝
とりあえず今は赤に戻したいところですね