自称天才軍師のチートハーレム主人公活用法   作:はごろも282

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戦闘はむずかしいのでしばらくいいかな…


せんとう!ブレイカーズ!Ⅱ

 流れに身を任せてやってしまってけど、これ本当にどうしよう。

 荒れ狂うスタートンを前に、俺はどこか人ごとにようにそんなことを考えていた。

 

『ちょい!?棄権はどうしたんだ!?』

「まあ、ここで倒せば問題ないでしょう」

『なっ!?……それほど冷静だってことは、何か策があるんだろうね?』

 

 少しの間の後、神妙なトーンになる彼女に、とりあえず不敵な笑みで返す。策だって?おかしなことを聞く。俺を誰だと思っているんだ?

 

「勿論、あるに決まっています」

 

 そう、勢いだけで進んだとは言ったものの、しっかりと策略は練ってある。というか天才軍師的に今、一瞬で思いついた。

 

『なるほどね。確かにここでキミが棄権してもスタートンの安全は保障できない。だがキミが彼女を下してしまえば、上層部も彼女を危険だと認識することはないだろう。周囲に至っては瘴気による暴走だと知覚されることすらない。この一瞬でそこまで考えたのであれば流石天才軍師を自称することはある』

 

 いや、知らない。なんだその緻密な行動。誰が考えたんだ?

 だけど、良いように勘違いされてるなら好都合だ。共犯者の地頭の良さに感謝しながらニヒルな笑みを保つ。

 

『で、作戦ってのはなんだい?』

『はい。まず俺が攻撃を避けてる間に、センセーがスタートンの弱点を見つけます。それで俺が全力で逃げている間に、シオンさんがなんやかんやして彼女を鎮圧します』

『分かった。作戦名は《死んでくれ》で行こう』

 

 これはいけない。にべもなく殺されそうだ。

 ただ、こんなのは照れ隠しに決まっている。こんなに切羽詰まった状況なんだ。間違いない。ここは俺が全幅の信頼を寄せていることを明示しつつ、カッコよく作戦名を告げるんだ。

 

「ふっ、作戦名《ここは任せた》で行こう!」

『作戦名変更だ!《意味もなく死んでくれ》で行く!』

 

 おかしい。頼りのブレインの殺意がさらに上がった。

 

 そうこうしている間もスタートンの禍々しさは進行するばかりだ。とりあえず床に落ちている木刀を拾って戦闘態勢をとる。

 

『あーもうしかたない!とりあえず、彼女の攻撃には絶対に当たるな!さっきまでとは違って砲撃全てに停止の魔力が練り込まれてる!』

「りょうか──待ってマジで?」

 

 ヤバすぎない?もう勝てる気しないんだけど。というかそんなことできるなら最初からやってたらいい良かったと思うのは俺だけだろうか。

 

『なにも固有は万能じゃない。その分一撃が大きいから避けやすいし、魔力の消費も激しいだろうね。近づくことは容易なはずだよ』

 

 なるほど。デカくなったのはそういう仕組みか。しかし、この一瞬でよくそこまで見抜いたなぁ。第三者からだと読み取れる量も多くなるのか、それともただの年の功か。なんにせよ、有益な情報に感謝しなきゃ。

 

「助かります!多分人よりシワの数が倍近いと思います!」

『後で覚悟しておくといい』

 

 頭の回転の速さは脳のシワの数に比例するって言いたかっただけなのに。

 

『とりあえず、まずは防戦だ。その間に分かっていることがあれば共有を頼むよ』

「ふふん、俺の華麗な足さばきが火をふ──あぶなぁ!?」

 

 まさか避けた先に攻撃が置かれているとは。くっ!巧妙な罠にハマりかけた!

 それにしても、情報共有ときたか。俺の持っている情報なんて大したものにはならないだろうけど。

 

『えっと、スタートンの攻撃は魔弾ばかりです』

『うん。魔法メインで近接は苦手なんだろうね。加えて攻撃中は固定砲台になる傾向があった。ナメられている証だね』

 

 俺の発言に、さらに付け足されたうえでの高速レスポンス。どうやらこの情報は既知らしい。

 

『あー、魔法攻撃の軌跡はスタートンの腕とか指で分かるとか?』

『それはキミの避け方で分かってるよ。今は必要ないかな』

 

 これも違うようだ。

 

『あっ!停止の魔法は咄嗟の攻撃にはオートで使用されるから──』

『停止の対象はこっちで誘導ができるね。加えて至近距離での連続使用は困難でオート使用以外では明確に当てるという行為が必要になる。今回に限っては攻撃へのリソースが大きいからオートカウンターはないと考えていいだろうね』

「……」

 

 どうして俺が木刀を使って作り上げた画期的な策略をここまで詳しく説明できるんだろう。

 

『どうした?なんでもいいんだ。今は少しでもキミの頭脳を貸してもらいたい』

 

 痛い!いつもと違って邪心のないセリフが今この瞬間滅茶苦茶痛い!言えないよもう特にありませんなんて!俺にだってプライドがあるんだ!頑張れルノクス!ここはなんとしても情報を捻り出すんだ!!

 

「あーっと、えーと──」

 

 まごついていてもしかたない。とりあえず何か印象に残ったことを口に出せば深読みしてくれる。さっきまでの決闘で印象に残ったこと、残ったことは……。

 

 ヒトが本当に窮地に瀕したとき、世界がスローに見えるらしい。なんでもこれは窮地を脱するための本能的なモノなんだとか。

 俺は今、その世界を体感していた。極限状態に陥った俺の灰色の脳細胞はそんな中、一筋の光を見出す。

 

 そしてコレは余談だけど。極限状態で導かれた答えは本人の中で最も根強く残った記憶に近い。

 

「──ピンク」

『え?』

 

 最悪だ。よりにもよって足払いするときに見えたスカートの中の光景が出てくるなんて。

 ……というかアレほどの激闘、必死で隙を探していた状況で最も印象に残ったのがスタートンのパンツの色ってどうなんだろう?確かに一瞬の天国ではあったけれど、ちょっと自分の脳に自信がなくなってきた。

 

『ピンク、ピンクってなんだい?』

「い、いや咄嗟に出てきただけ……」

『戦っていたキミが咄嗟に出てきたのなら重要なキーパーツなのかもしれない。もう少し思い出せないか?』

 

 終わりだ。おそらく過去最低の深読みがはじまってしまった。この状況で『パンツの色ですっ☆』なんて言おうものならいよいよ俺の命は散ることになるだろう。こうなった以上、なんとか有耶無耶にするほか道はない。

 

「思い出すって言われても……」

 

 正直に言えばもう詳細まで完璧に思い出している。ただ、何を言えばいいんだろう。見えたときの感動?それとも匂いとか?

 

『何でもいい。そうだな。それはいつのことだ?物質なのか?』

 

 パンツだ。まごうことなき物質である。

 ……にしても、いつのことっていうのは見えたときのことだよな?見えたときをいい感じに濁して言えばセーフかな?えーっと、アレは──

 

「スタートンに近づいて停止を木刀で誘導したとき……?」

『ふむ、では一度目のもろにカウンターを受けたときは?』

「見てないっすねェ……!!」

 

 なんたって屈んでないからね。見えるわけがない。

 

「……拉致が、あかない!」

「ヤバい、怒ってる……!?」

『デカいのが来るぞっ。前方に囮となる障害をだせ!今すぐ!』

 

 はぁ!?急にそんなこと言われても──!!

 

「……くたばれっ!」

「でぁっしゃぁあい!!」

『──レジスト!』

 

 咄嗟に地面に斬り込んで岩盤を隆起させ壁にすると同時にセンセーによる魔力反射の詠唱。直後、岩壁越しでも分かるほどの爆風。障壁の裏に隠れることで難を逃れたが直撃していたらひとたまりもなかっただろう。

 

「おいおいおいおい何だコレ……!!」

『全範囲攻撃だ。おそらく大技だろうね。固有魔力もふんだんに練り込まれてる』

「なんだそれ!インチキじゃないか!」

『落ち着け。そう何度も使えるものでもないハズだ。むしろこれは好機』

 

 少しでもこの愚か者を信頼していた自分を恥じた。どうやら俺の共犯者は頭がおかしいらしい。このどうしようもない状況のどこに好機となる要素が──いや、そうか!

 

「大技のあとは、クールダウンだ!」

『その通りだ!』

 

 そうだよ!何が大技だ!相手の大技を回避したあとはこっちの攻撃フェイズになるのは常識じゃないか!

 そういえば昔、ルノクス以前の世界で担任も言っていたじゃないか!『必勝法は避けて殴る。必殺技はスタンのチャンス』って!あの時はこどオバ厨ニの戯言だと思っていたけど、まさか役に立つときがくるとは。

 

 よし!そうと決まれば行動だ!弱まりつつある波動が収束した瞬間に飛び込んでやる!

 深呼吸で心を落ち着かせる。神経を研ぎ澄ませ、大きく息を吸って──今だ!

 

 ダッ!(俺が物陰から飛び出す音)

 ドガッ!(間髪入れずにスタートンが攻撃する音)

 

 おかしいな。前髪が持っていかれた。そして冷や汗が止まらない。

 

『なにぃ!?次はこちらのターンでは!?』

 

 念話越しに驚愕の声。声色的に本当に想定外らしい。もちろん、俺にも想定外だ。

 

「くっ!す、スタートン!ルールを守れ!次は俺の番だ!」

「……無法地帯!」

「なっ!『無法地帯たる戦場にルールなんてない、むしろ私がルールだ跪け』だって?なかなか言うじゃないか……!」

『本当にそこまで言っていたか?』

 

 なんにせよ、大技はそう何度も使えないはず!袋叩きのプランは消えたが、まだやりようはある!

 幸いスタートンによる攻撃できれいなフィールドは荒れ果てた。つまり地面は抉れて瓦礫だってたくさんできているのだ。

 

「とうっ」

「……邪魔!」

 

 だからこうして手頃な石ころを投げつけて注意を逸らすなんてことも出来てしまう。そしてその隙に急接近。

 

『いいぞ!ダメージにならない嫌がらせなら君の右に出る者はいない!』

 

 なんて不名誉な褒め言葉なんだろう。

 まあいい。今に見てろよ……!

 

「てりゃっ」

「……何度も通じない」

「かかったな!《キューブ》!」

 

 指先でクイッと指示をすれば、スタートンの背後の瓦礫片が俺の投げた破片目掛けて急速接近をはじめる。まさに不可視の一撃だ。

 

「……ふん!」

「ああっ!俺の不可視の一撃!」

 

 歯牙にもかけられずに対応された。流石の一言だ。こうして対峙していなければ褒めちぎっていたに違いない。

 

『よし、待たせたね!少々想定外のこともあったが策は整った!』

 

 ようやくか!やっと降ってきた救いの声に人知れず感極まる。

 解決策があるのならもうスタートンなんか怖くない。

 

「スタートン、君は強かった。だがここまでだ」

 

 堂々たる様で俺の勝利を宣言す──うわぁ!無言で攻撃してきた!

 

「こ、このっ!ああいいさ終わらせてやる!」

 

 話を聞かないのならこっちもそのように動くだけだ!

 

『さぁ!やっちゃってくださいなセンセー!』

『ああ。まずは観客の注意を全力で一点に集めてくれ』

 

 ……ん?

 

『えっと、どうやって集めるんです?』

『え?』

 

 返ってきたのは素っ頓狂な声。これは──もしかして自力?

 

「お、終わったー!?」

『待って無策ならどうしてあんな勝利宣言したんだい!?』

 

 だって、策は整ったとか言うから……!言われた通り動くだけだと思ったから!

 

『キミは軍略タイプじゃないのかな!?』

『ばか!前線で自分より強いヤツ相手に別のこと思考する余裕なんてあるか!』

 

 避けるのに精一杯だよずっと!スタートンの情報も少ないから何してくるかも分かんないし!

 

「……まだ、終わらないね?」

「なぁっ!?」

 

 念話で互いに惨めな言い争いをしていると、そんな台詞が耳に入る。発信源はスタートンだ。

 こ、こいつ……!ここぞとばかりに煽ってきたぞ!

 

「減らず口も今だけだぞ……ッ!!」

『嘘だろ流石に高反発すぎないか?』

 

 こうなった以上注意をそらすでもなんでもやってやる!

 古今東西あらゆる状況で相手の気を引く常套手段というもがある。これはいわば先人の知恵。賢人は歴史に学ぶってね。

 俺は息を大きく吸ってから明後日の方向に指をさしながら叫ぶ。

 

「あそこであのゼンノートが逢瀬をしているっ!!」

 

 シンッ──

 

 一瞬の沈黙が、俺とスタートンを、客席を包む。俺とエニュミーの目が合う。突然のことに動揺しているようだ。

 

「──え?」

 

 沈黙の中で、その少年の声はよく響いた。だからこそ、その一点に注目が集まる。少年の隣には、ある少女(妹)の姿。

 ……すまないエニュミー。俺のために犠牲になってくれ。

 

『『『な、何ぃいいい!?』』』

 

 360度どこからでも聞こえる驚愕の声。流石は古くから伝わる黄金戦法、効果は絶大だ。フィールドを囲うようにできたアリーナの注目は、学園で最も名を馳せるエニュミーのスクープに集中していた。

 

「今だっ」

『つくづくキミは最悪で最高だなっ!』

 

 そして、俺の共犯者は絶好のチャンスを逃すような女ではない。

 突然の事態に気を取られているスタートンの意識が戻る前に急接近する。

 

「……っ!?」

 

 自身の危機に気がついたのか即座に反撃の構えを取ろうとするスタートン。だけど、既に俺のほうが速い。最速でスタートンに木刀を当てる。

 

「これぞ魔剣の一撃ってね…!」

『先生の大技だ。《強制的な矯正(レメド・コアクティオ)》』

 

 詠唱と同時に、スタートンに変化が。これは、彼女の放つ瘴気が収まりつつある……?

 

「……ぁ」

「ん、正気に戻った?」

 

 瘴気だけに。

 

『瘴気を無理やり変性させた。流石に大規模だからバレないようにやるのは困難だけど、今はゼンノート君の件でアリーナが荒れてるからね』

 

 よく分からないけと、センセーの謎技術でいい感じにどうにかなったと見ていいだろう。ここから見える限りエニュミーは修羅場ってるけど、瘴気が消せたのなら良かった良かった。

 

『そしてこれはデメリットなんだけど』

 

 ──ん?

 

『キミを通じて魔法を放ったから、操作が難しくてね?外に放出されてた瘴気のエネルギー、暴発しちゃいそうだ』

 

 んん!?

 

『正直、申し訳ない』

「シンプル謝罪!?ちょっ、スタートン!君の瘴気イジったら爆発しそうなんだけどどうにかできない!?」

「……!?」

 

 突然話を振られて困惑からか目を見開くスタートン。かわいい。けどそんな事言ってるタイミングじゃない!

 

「く、くそっ!こうなったらスタートンガードしか──!」

「……え、あっスタートンガードって……?」

 

 スタートンガードは名前の通りスタートンでガードする技だ。俺がスタートンの背後に隠れる。ソレだけ。

 

「……お、おかしい!男の子が盾になるべき……!」

「レディファーストって言葉を知らないのか!?」

「……それそういう意味じゃない!」

 

 ええい往生際の悪いヤツめ!大人しく言うことを聞け……!

 

『このタイミングで取っ組み合いなんて頭おかしいんじゃないか?』

 

 以外にもスタートンは力が強かった。おそらくは魔力でフィジカルの底上げをしているんだろうけど。

 無謀な争いが続くその時だ。突如として突風が巻き起こる。

 

「「あっ」」

 

 おそらくは暴発の予兆だろうその突風に対して、逃げるなんて発想はまるでなかった。むしろ俺は今、突風に感謝さえしていた。

 今、俺の目の前には顔を赤らめてスカートを抑えるスタートンの姿。つまりは、そういうことだ。

 

「……っ!」

 

 キッ!と俺をにらみつけるスタートン。ふっ……。

 

「パンツにさ、2度目とかないよね」

「……ほ、ホントにしねっ」

 

 そんな台詞を最後に、俺とスタートンは光の奔流に包まれた。

 




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