SP~Bigning of new age~   作:Kyontyu

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最近久しぶりに見たSPECに感化されて書きました。ほとんど原作の形をとどめておりませんのでご注意を。


第一章「人と精霊」

 

 

 闇夜の裏路地に、走る影が二つ。

 前方には体つきの良いスキンヘッドの男、後方には眼鏡を掛け、青い髪をセミロングにした女性用の事務スーツを着ている女性。女性は右手に銀色の拳銃のような物を持っていた。銃身には「SPEC」と刻まれている。

 後ろの住宅街では家が一軒、ゴウゴウと音を立てて燃えていた。

 男は時折後ろを向くと掌から炎の球を女性に向かって放つ。しかし女性は最小限の動きでそれを避ける。女性の端正な顔が炎に照らされ、水晶のような瞳が輝く。そして女性がいきなり加速したかと思うと壁を走って男に追いついた。

「ひ、ヒイッ!」

 男は焦って両手から次々と炎の球を放つが、それは女性に当ることは無くコンクリートの壁を黒く焦がすだけだった。

 女性は壁から飛び上がり、男の前に立ち塞がって銃を構えた。それに驚いた男は腰を抜かしたように尻もちをつく。

「た、助けてくれ……せ、せめて命だけでも……」男は尻もちをついたまま後ろに後ずさる。

 女性は拳銃の狙いを男性の眉間に定めた。

「ああ、命は奪わない。安心しろ」

 そして引き金を引いた。銃口から白い光がバシュッ! という音と共に放たれ男に直撃した。その瞬間、男は一瞬痙攣したかと思うと、白目を剥いてがっくりと崩れ落ちた。

 女性はしゃがみ、男の両手を手錠で固定した。

「こちら士透(しすか)、目標を現行犯逮捕した」

『おっ、お疲れ。SPは?』

 脳に直接響くような声が聞こえた。どうもこれはあまり好きじゃない。

 士透は顔を少ししかめる。

「無効化しました。能力は恐らく「掌から自由に炎を出す」能力かと。これで放火をしていたようです」

 そう言いながら炎上している家を見た。既に消防隊が鎮火活動を行っているが炎が弱まる気配は無い。

『そうか、じゃあすぐにパトカーが着くと思うから少しそこで待ってて』

「了解」 

 士透は眼鏡型ウェラブル端末「C-レンズ」を外した。そしてパトカーが到着する。士透は胸の内ポケットから警察手帳を出して両手を上げた。

 ヘッドライトが明るい。

 士透はパトカーから目を背けた。

 

 西暦、2083年。特殊指定災害生命体『精霊』というヒトの形を持った災厄がその姿を見せなくなって二十年以上の月日が流れ、世界には新たな人類が目覚めつつあった。

 特殊能力「SP」を持つ人類、通称「SPホルダー」と呼ばれる人類達は精霊が消えてから二年後に起きた「精霊光事件」からその姿を見せ始め、現在では一千人に一人の割合で「SP」が発現するようになった。原因は不明で、恐らく多量の霊波を浴びた為にそのような能力に目覚めた、という見解が最も有力である。

 しかし、一部の「SPホルダー」はその力を乱用して犯罪を犯すようになり、日本の警察も対処しきれなくなってしまっていた。

 そこで政府は「SPホルダー」を集め、一つの係を警察内に設立した。

 その名も警視庁公安部公安第五課対特殊能力係、通称「特能係」である。

 これはそんな特能係に配属された祟宮士透の物語である。

 

「祟宮士透、ただいま戻りました」

 警視庁地下22階に特能係の部屋というべき場所、通称「骨董品屋」がある。何故、骨董品屋なのかと言うと、係長の趣味で実に古めかしい物が置いてあるからである。

 例えば、凝った装飾が施されたリボルバー式の拳銃から始まり、一昔前のCR-ユニット――用のワイヤリングスーツ、何処の国の言葉か何かのよく分からない言語で書かれた本。おもしろい物を見つけようと思えば大抵見つかる、そんな場所だ。それに、訪れる人も少ない。国が新しく設立したと言っても、そこまで大量に「SPホルダー」絡みの犯罪が起きる訳でもなく、「暇人集団」とも呼ばれることが多い。

 士透は部屋の奥にいる係長、斎藤皇羅(さいとうかみら)の前に立った。ここで一度基本情報を整理してみる。

・名前:斎藤皇羅

・年齢:不明

・好物:水餃子(彼曰く焼き餃子は邪道らしい)

・SP:不明

 こう整理してみると謎の多い男だ。

「おっ、お疲れちゃん。士透ちゃん」そう言ってニッ、と笑った。

「それはさっき聞きました。で、用件とは」

 「あ、そうそう」と皇羅は自分のデスクの引き出し――中はかなり乱雑だ――の中から大きさは掌ほどの黒い直方体を取りだし、士透に差し出す。

「これ、新しいASWW」

 士透はそれを受け取った。見かけよりかなり重い。

――ASWW、それは霊波の研究から生まれた新たなるエネルギー、反霊波を応用した武器だ。人体には影響は無いが、「SPホルダー」の体内に存在する霊波の塊――力の根源――である核にこのエネルギーを照射すると核のエネルギーは四散し、能力を失ってしまう。これを受けた能力者は精神に一気に負担がかかる為に一時的に昏倒してしまうが、命にかかわるような問題にはならない。特能係はこれを使って犯人の能力を解除してから逮捕するのだ。ちなみに、士透の持っている銃もASWWの一つである。

「開発コード『エクスカリバー』、小規模の随意領域(テリトリー)を刃状に展開し、その中を反霊波で満たす。つまり、能力者に対する切り札がまた一つ増えた訳だ」

 士透は『エクスカリバー』をまじまじと見つめる。柄には「SPEC」と彫られている。

「これも、あの研究所で?」

 「ああ」皇羅は椅子でクルクル回りながら小さく首肯した。

「まぁ、どんな実験の結果がそれになったのか、知りたくはないけど」

 確かに、と士透も思った。

「じゃあほら、仕事に戻った戻った」

 皇羅は追い払うように手を振った。

 士透は自分のデスクに座り、パソコンの電源を点ける。これから先ほどの報告書を作成するのだ。

「おい、祟宮、今回はどんなSPだった?」

 すると隣の男性から声を掛けられた。

・勘橋斉京(かんばしさいきょう)

・年齢:23歳

・好物:コーヒー

・SP:物体の記憶を読み取るSP

 一応士透とバディを組んでいる相棒だが、士透はどうもこの人は好きになれそうもない。(もちろん人間的に、だが)

「……掌から自由に炎を出すSP」

 と、言うと斉京は「おお! かっちょえー」と目を光らせた。

 ――この人、筋金入りのSPオタクなのである。それもそのはず、彼はSPを研究する施設、ASWWも研究、開発している「SPEC」からここに配属されたのだ。

 はぁ、と士透は溜息をついて報告書の作成を始めた。

「士透さん、お茶飲みます?」

 作成し始めようとした時、後ろから女性の声と共に湯気を出す湯のみが差し出される。中身は緑茶だ。

「ああ、ありがとう、二葉さん」

・神無二葉(かんなしふたば)

・年齢:20歳

・好物:トマト

・SP:非常に高度な計算が暗算でできるSP

「はい、斉京さんもどうぞ」微笑みながらお茶を差し出した。

「どうも」

 本当はコーヒーが良かったのに……という斉京の呟きを士透は目線で封殺した。

「あ、はい。サーセン」

「ん? どうしたんですか?」

「い、いやなんでもないですよ」

 斉京はハハ、と冷や汗を流しながら笑った。

「おーい二葉ちゃん、僕のは?」

 それを聞いて二葉ははっとした。

「あ、すいません。忘れてました」

 どうやら皇羅の事を失念していたらしい。二葉はパタパタとお茶を入れに戻って行った。

 これが、「特能係」。

 士透はお茶を一口含んで報告書を作成し始めた。

 

 神奈川県の海岸沿いにあるとある倉庫。そこに男の死体があった。髪の毛が薄くなりかけた頭部にやや恰幅のよい身体、もろに何かの幹部といった風体だ。しかし、男は服を着ておらず白目を剥いていた。そして頭部からは血が流れていた。

 士透は思わず顔をしかめる。

「酷いというか……グロいですね」

「おいおい、率直に言うなよ。これも仕事なんだから、我慢しろ」斉京は士透の肩ををどつく。

 士透と斉京は写真を撮られている死体の横に立っていた。周りでは鑑識や、刑事達が慌ただしく動いていた。

「斉京さんの能力、ここで使えないんですか」

「んー、ホトケさんはまた何にも着けてないようだし、周りにも読み取れそうな物は無いしなぁ」

「やはりこちらのSPを警戒したのでしょうか」

「分からないけど、そうかもしれないな」

「………」

 士透はおもむろに手袋をつけ、死体の髪の毛を丹念にかきわけていった。すると小さな孔が見えた。直径は約5mmで、どうやらここから血が流れていたようだ。

 この他にも頭部に四つの孔が空いていた。その孔を指で押さえるようにして重ねてみると、ちょうど左手の指の配置とぴったり重なった。

 そこで一人の女性が頭をよぎった。が、士透はかぶりを振った。自分の身の回りで犯人を判断するのはおかしい。それに左手の人なんてこの地球にごまんといる。

「二か月前のSPホルダー……」

「え! 脳みそを抜き取るっていうあの!?」

 士透は小さく首肯する。

「これで二度目、しかも同じ研究室の研究員……」

(でもどうやってここに呼び出したのだろうか……?)

 士透は顎を撫でて考えた。が、いい方法がうまく考えられなかった。

「ここでは情報が足りない。一度戻ろう、斉京さん」

 士透はさっさと踵を返して倉庫から出て行った。

「まーた始まったよ。全く」

 斉京は頭を掻いて、小走りで倉庫から出て行った。 

 

 士透は自分のデスクで情報を整理していた。

 今回の被害者は瀬染蕪(せじみかぶら)。

・瀬染蕪

・年齢:53歳

・研究分野:霊力と魔力の関連性

・SP:透視するSP

 彼は元DEMの研究員だったが、倒産と共に日本に渡り、AST(現SCRAMP)に入った後、日本で顕現装置(リアライザ)の研究をしていたようだ。まぁ、SPの事もあって、かなりの変態オヤジだったようだ。もちろん研究所の中での評判は良いとも言えなかったが、研究に対しては真剣に取り組んでいたようだし、そこまで恨みを買うような人物にも思えない。と、ここで先月に同じ研究所の研究員が殺された事件についても整理しておこう。

・陸抜矢羽(おかぬきやばね)

・年齢:43歳

・研究分野:霊力と魔力の関連性

・SP:物体の温度を奪うSP

 殺害方法は今回の同じだから犯人も同じと見ていいだろう。この時も人気の無い廃倉庫で殺されていた。しかし、この場合は神奈川ではなく、東京だった。

 この男性も被害者と同じ研究をしていたようだ。性格には難は無し、態度も良く、熱心に研究していたという。

 彼も恨みを買いそうな人物には思えない。

「んー、神奈川、かー」

 士透は大きく伸びをする。

「祟宮、そういえばその研究所って、神奈川にあったよな」

「そうだ、それだ!」 

 士透は立ち上がって椅子に掛けてあったコートを羽織った。

「お、おい、何処行くんだよ!」

 士透葉何も言わず「骨董品屋」から出て行った。

 

神奈川県 天宮市 

 陸自の天宮駐屯地の近くに研究所はあった。士透はインターホンを押して警察手帳を掲げた。するとほとんどノータイムで門が開いた。

 エントランスは白を基調としており、清潔さを感じさせる。

 と、エントランスにはもう一人立っていた。自衛隊の服を着て、肩をくすぐる程度に伸ばした白い髪。それもほとんど直立で。士透はその人をどこかで見たことがあった。

「……折紙さん?」

 士透は後ろから声を掛けた。

「! あなたは士道の……!」

「あ、ああ、覚えていてくれていたんですか」

 折紙はSCRAMPの部隊長で一度家に来た時に会った時がある。まだ小学生くらいのころで、その時の事はあまり覚えていないが、一つだけ忘れられないことが――

「もちろん、どう? また私の家に――」

「――お断りしますッ!」

 ここは断っておかねばならない。家に行った時、いろいろあったのだ、いろいろと。

 折紙はしばらく残念そうな顔をした後、言葉を継いだ。

「どうしてここに?」

「殺人事件の捜査です」

「……瀬染さんね」

「知ってるんですか!」

 士透はバッグからメモ帳を取り出す。

「ええ、私のCR-ユニットを作った人。そしてホワイト・リコリスの開発主任」

 ホワイト・リコリス、彼岸花か。

「彼について他に何か知ってますか?」

「いえ、他は知らない」

「そうですか、ありがとうございます」

 士透は礼を言って所長の元に向かった。

 

「うーん、彼らについてはそこまで恨みを買うような人柄ではないような気がするんだがなぁー」

「……そうですか、ありがとうございました」

 士透は礼をして所長室を出た。特に目新しい情報は手に入らなかった。そして帰途に帰ろうとした時、ある事を思い出した。

 

 ガチャリ

 久々に実家のドアを開ける。母にはしばらく会っていないが、健康に暮らしているのだろうか、またゲームばかりやっているようであれば娘として何か言ってやらねば。

「……ただいまー」

「おお! ただいまなのだ!」

 奥から元気な声。どうやら健康そうだった。

「うん、ただいま」

 士透はリビングに入ると母が抱きついてきた。やはり母は変わらない。夜色の長い髪に水晶の瞳、正に絶世の美女だ。

「おかえりなのだ! おかえりなのだ!」

「わ、分かったからさ。とりあえずちょっと、苦しい」

「おかえりなのだ! おかえりなのだ!」

 十香が思いっきり抱きながらエンドレスにおかえりを連呼し始め、士透は少し苦しそうにもがいた。

……なんとなく、幸せだった。

「大きくなったのだな。シズ」

「え?」

 あの後、どうにか十香ホールドを抜け出し、十香をなだめた後、テーブルに座って話していた。

「最近は家に帰って来なかったではないか。心配だったぞ」

 士透は肩をすくめる。

「ああ、ごめん、母さん。ちょっと忙しくてね」

「これからは定期的に帰ってくるのだぞ」

「ああ、分かった」そう言って小さく頷いた。

「それにしても母さん、昔と全然変わらないね」

「ま、まぁ、私はシドー達とは違って、老化が遅いからな……」

 そう、十香は過去に現れた特殊指定災害生命体『精霊』だったのである。十香はこの世界に現界した後、父さんと出会い、父さんの力によってその力を封印されたのだという。初めて聞いた時には大いに驚いたものだが、今となっては普通の人間と何も変わらない。ただ、外見を除いては。

 士透はカウンターに置いてある写真を見た。まだ学生だった頃の士道と十香、当時の友達が写っている。十香は成長したものの、当時と殆ど変っていなかった。

「母さん、ちょっとお風呂入って来る」

 

 

「お、おお」

 目の前のテーブルには夥しい量の食事が並べられていた。

「むふふ、今日は腕によりを掛けて作ったぞ!」

 そう言って鼻息を荒くした。

「……ありがとう」

 士透は静かに微笑んだ。




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