準備期間をおいてから日本国召喚   作:レシプロ至上主義者

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知る者、講ずるもの

 パーパルディア皇国と呼ばれた列強が歴史の用語と化し、パールネウス自治共和国として再出発することが決まり、日本政府は新たなる友邦パールネウスの門出を祝う、という名目も追加された海賊支配地域解放記念パレードが、エストシラントにて開催された。

 日本に参加を申し入れたムー、神聖ミリシアル帝国などの列強国に加え、勢力拡張の著しい日本国の力を見てみようと文明国、文明圏外国家も見学を希望した。

 73ヶ国連合と辞退したアルタラス王国を除く、日本勢力の軍勢。これまで謎に包まれていた軍隊を、世界は目の当たりにする。

 

 

 

 

 

 クーズ共和国軍を先頭に、パーパルディア皇国の属国だった国々の軍隊が足並みをそろえてエストシラントの街道を進んでゆく。

 燦々と日が照らし、紙吹雪が舞う道は花道と呼ぶに相応しい光景だった。

 汚れひとつない日本製の軍服をまとい行進する73ヶ国連合軍を、エストシラントの住人たちは複雑な顔で見ている。

 それに気が付いた73ヶ国連合の人間は優越感で笑みを深め、日本人は眉一つ動かさない。

 

 「ほう……後装式のライフルが行き渡っている。あれではリントブルムでは歯が立ちませんな」

 「武器はミリシアルよりも、ムーのものに近い……。ということは、日本はやはり科学文明国なのか」

 「なぜ……なぜ、我が国のマスケット銃よりも高性能な銃を蛮族ごときが……」

 

 来賓席に並ぶ各国の大使たちは、属する国家ごとに見事に反応が分かれている。

 余裕のある列強、冷静に分析する中立国、日本を敵視ないし蔑視する国。それぞれの国の大使の発言を小型高集音マイクで収録しながら、外交官の東雲はにこやかに参列者に語り掛ける。

 

 「いかがですか、我が同盟諸国の雄姿は?」

 「見事です。あの一糸乱れぬ行進、よく訓練されているのが分かります。教育は日本が行ったので?」

 「ええ、我が国が派遣した教導団による訓練の賜物です。もちろん彼ら自身の高い志とたゆまぬ努力もあってのことですが」

 

 同盟国を持ち上げつつ、自分たちの成果を強調することも欠かさない。

 外交官として模範的な回答をした東雲は、大使たちの視線を誘導するように手を街道へ向ける。

 

 『続きまして、クワ・トイネ公国陸軍の行進と同国空軍戦闘機隊による展示飛行となります』

 「この2ヶ国は我が国と強い信頼関係で結ばれており、軍隊は我が国の影響を強く受けております。規模はまだ小さいですが、いずれは我が国、そして列強と肩を並べられる日が来るでしょう」

 

 自信ありげな笑みで宣言する東雲。

 それ対する反応は、またもや三通り。関心、疑念、嘲笑で分かれた大使たちを素早く脳内でグループ分けし、それぞれへの対応を決める。

 

 「我が国の支援を受けた、文明圏外国家がどうなるか、どうぞご自身の目でご確認ください」

 

 勇ましい音楽に合わせて、大使たちの目の前を歩いていく軍勢。全体としてエルフが多く、73ヶ国連合と違い、角ばった車両が随伴している。

 

 「クワ・トイネ公国陸軍です。彼らは陸軍にあまり力を入れていませんが、それでも自動小銃と軽装甲車両を保有しているので、海賊が保有していたワイバーンオーバーロード、リントブルムを圧倒できる力があります」

 

 日本とクイラからみればやや軽武装の機械化歩兵部隊だが、ここにいる大半の国から見れば重武装の軍団である。

 全ての兵士に連射銃を配備し、車両に乗ることが前提の、世界の常識を覆す機動力と火力を備えた部隊。ムーやミリシアルの陸軍でも、今のクワ・トイネ公国陸軍に勝てるとは、両国の大使含めて誰も思わなかった。

 呆然とクワ・トイネ陸軍の隊列を見ていた彼らの耳に、聞き慣れぬ轟音が聞こえ始め、音を追って空を見上げた。

 

 「うおっ!?」

 「な、何だっ、あれは!!?」

 

 大使たちは驚愕する。彼らの見慣れたワイバーンが小鳥に思えるサイズの飛行機械が、信じられない速さと動きを見せているからだ。

 醜態を見せる各国大使に、勝ち誇った笑みを浮かべながらクワ・トイネ公国大使は説明する。

 

 「あれこそが我が国が友邦日本より導入した新型戦闘機、F-30です。ワイバーンや火食い鳥はもちろん、マリンやエルぺシオを圧倒する性能を持っています」

 

 F-30艦上戦闘機。

 クワ・トイネ公国海軍航空隊が導入したばかりの、日本国防海軍空母航空隊の次期主力戦闘機である。

 優れた航空力学がもたらした流麗な機体ラインと2基のターボファンエンジンによる、変態的な機動性とF-15GJにやや劣る程度の武装搭載量。本機ならば古の魔法帝国――ラヴァーナル帝国の戦闘機、天の浮舟が相手でも勝てると国防海軍は太鼓判を押し、クワ・トイネ公国海軍は主力戦闘機に選定した。

 ちなみにクワ・トイネの保有するF-30は、エストシラント上空を飛んでいる4機と訓練機を兼ねた複座型2機の計6機だけである。

 この6機を導入するために、クワ・トイネ空軍はCF-1Bの追加調達を打ち切られ、秘密裏に進めていたF-15輸出仕様の導入計画を凍結することになった。空軍と海軍の仲が険悪になったのは言うまでもない。

 

 「ありえん!!! 我が国の天の浮舟に勝る飛行機械があるわけがない!!!!」

 

 のどが裂けるのではと思うほどの声で、現実を否定する言葉を吐くのはミリシアル大使。

 世界最強だと疑わない祖国、神聖ミリシアル帝国。その祖国にない高性能を目のあたりにして、彼の精神が限界を迎えたのだ。

 

 「落ち着いてください。魔法文明にもあるではありませんか、F-30とも張り合える戦闘機が…………魔帝の、ですが」

 

 東雲の煽りに顔が赤を通り越して黒に染まったミリシアル大使を指さし、それを見て冷静さを取り戻した周囲の大使たちはひそひそと話し合う。

 

 「あのミリシアルがこうも狼狽するとは……」

 「世界最強の国の大使を相手に、日本の大使のあの態度……。やはり、古の魔法帝国に匹敵するという噂は真実だったのか」

 (科学文明を見下す相手に軽くジャブを入れたつもりなのだろうが……あまりやりすぎると、こちらにも飛び火するからほどほどにしてほしいところだ)

 

 声を抑えた会話の輪から一歩離れた位置でムー大使は東雲に軽く釘を刺すことを決心する。

 同時に事前情報になかった、頭上を飛んで行った未知の飛行機械。それがクワ・トイネ公国に配備されたことに思案する。

 

(それはそうと、あんな戦闘機を同盟国とはいえ、文明圏外国家に輸出するとは……日本についてもっと調べることがあるな。情報部の尻を叩くか)

 「そこまでにしましょう、東雲殿。彼も慣れない異国の地と驚きで疲れているのでしょう」

 「確かにそうですね……。休憩室は用意されておりますので、すぐに案内させます」

 「っ……! お気遣い、感謝します。ですが結構。この程度で倒れるような外交官など、我が国には存在しませんので」

 

 キッと東雲を睨みつけながら拒絶するミリシアル大使。

 彼の中の外交官としての矜持が、理性を取り戻させたようだ。

 

 『続きまして、クイラ王国陸軍の行進です。先ほどと同様、戦闘機による展示飛行が行われます。ご注意ください』

 「どうやら次の演目の時間のようです。……海のクワ・トイネに対となる、陸のクイラ。その雄姿をどうぞご覧ください」

 

 勇壮な音楽に合わせて現れたのは、日本勢力圏における陸軍の顔役となったT-1戦車の車列。それに続いてクワ・トイネ陸軍とよく似た装備を身に着けた獣人たちが行進してくる。

同じ日本の同盟国のクワ・トイネ公国陸軍と大きく違うのは、装甲車両の比率だ。

 クワ・トイネ公国は装甲車だけだったが、クイラ王国はそれに加えて主力戦車T-1を先頭に立ててパレードに参加している。

 

 「おお……」

 「なんと厳めしくも、恐ろしい……日本は、あんなものをいくつも有しているというのか」

 

 比較的軽武装のクワ・トイネ陸軍を見た後だからこそ分かる、クイラ陸軍の重装備ぶりに慄く大使たち。

 そこで聞こえる空からの轟音に、大使たちは先ほどと同じように顔を上げる。

 

 「あの飛行機械は……クワ・トイネのものと同じ」

 「翼の紋章と模様が違う程度ですな」

 

 各国大使の頭上を旋回するクイラ王国の2機のF-30。かつて結ばれた日本との協定に基づいて、次期主力艦上戦闘機となるF-30がクイラ王国でも採用されたのだ。

 蛇足だが現在、クイラ王国に艦載機乗りのライセンスを持つパイロットはいない。もっと言えばパイロットがいない。だがクイラ王国は今回のパレードで最新鋭機を飛ばしたがった。

 そこで複座型F-30に日本人パイロットとクイラ人訓練生を乗せて、パレードに間に合わせることにしたのだ。無論、燃料と整備代はクイラ王国持ちで。

 

 「クワ・トイネ公国とクイラ王国……どちらもあれほどの戦闘機を購入しているとは。羨ましい限りです」

 「ムーには、いずれ販売許可が下りる可能性は高いでしょう。同じ科学文明国であり、信用に値する“文明国”ですから」

 

 暗に「兵器売ってほしいなら、相応のもの示せよ?」と伝える東雲。

 地球時代とは、違う意味で兵器売却に慎重となっている。

 

 『次は最後となります、日本国防軍の行進です』

 

 アナウンスを聞いてつばを飲み込んで街道を見つめる大使たち。

 ついに始まる表舞台に出てから圧倒的な武力を示し続けてきた日本軍のパレード。ここにいる大使はみな、これを見るために来たと言っていい。

 重々しい音を響かせながら、第3文明圏の新たなる覇者も軍勢は姿を現した。

 

 「あれが……」

 

 クイラ王国の丸っこい砲塔とは大きく異なる、直線が目立つ砲塔の戦車が先陣を切る。

 緑色の迷彩が施されたこの戦車の名は10式戦車改。試練前より運用されている10式を改修した日本国防陸軍主力戦車である。

 地球時代からの主な変更点は、目に見える点で砲塔上面に車内から操作できるリモコン式の12.7mm機関銃と、側面に対人地雷発射機を搭載していること、全体に追加装甲が取り付けられている点だ。

 もちろん内部の電子機器なども最新のものに変更している。

 

 「10式戦車は正式化されて以来、度重なる改良を経て、我が国の国土を守り続けています。遠からず数の上での主力の座は譲るでしょうが、質的主力ではあり続けるでしょう」

 

 日本国土に合わせて設計された10式戦車を試練で培った戦訓を反映した改修により、ラヴァーナル帝国相手でも十分通用すると陸軍は考えている……が、如何せん1台当たりのコストが元の4割増しでは、現状の敵に対して費用対効果が悪すぎた。

 なので安価であり、なおかつ日本基準で主力戦車として最低限の性能を有する鹵獲戦車の改修及び配備が決まり、接収した製造ラインはフル稼働中である。

 

 「来ましたな」

 

 東雲がつぶやくと、上空から本日三度目となるジェットエンジンの咆哮が聞こえてきた。

 F-15GJゴールデンイーグルが編隊を組んで旋回し、その逞しいフォルムを眼下の人間たちに見せつける。

 

 「ロウリア、パーパルディアの空を制した第3文明圏の空の王者の登場ですな」

 (先ほどまでのF-30よりも直線的だな……陸上機と艦上機の違いゆえか?)

 「あれが日本空軍の主力戦闘機か……!」

 

 素直な感心。冷静な分析。そして畏怖。

 三者三様の反応を示す大使たちに東雲は微笑みながら問いかける。

 

 「いかがですかな? 我が国の軍は?」

 

 自信に満ちた、陰りのない笑み。それはまさしく、覇者の笑みだった。

 

 

 

 

 

 『飛行物体検知、速度からしてまた気球だ! 急いで撃墜してこい!』

 「またか! これで8回目だぞ!?」

 

 アニュンリール皇国本土の飛行場から、他国の認識から著しく乖離した文明の産物――戦闘機がエンジン全開で空へ飛び立つ。

 アニュンリール皇国に流れてくるようになった謎の気球。特定の季節に発生する風によって運ばれてくるこの気球には、明らかな人工物が搭載されており、撃墜されたものを分析すると何らかの撮影機材だと判明した。これを見逃せば、鎖国政策と徹底された情報遮断によって隠してきた真実――自国の発展ぶりと、ラヴァーナル帝国の末裔であることが露見しかねない。

それを防ぐためには、アニュンリールにとって望ましくない針路をとる気球を全て撃墜するしかないのだが、不規則に表れる気球相手に現場の負担は増し続けていた。

 

 『急げ、今日は風が強い! このままでは1時間もしないうちに本土に到達する!』

 「……っ! 気球を捕捉した! 撃墜する!」

 

 高度10000mをふわふわと、クラゲのように漂う気球。一見、何の脅威も感じないがそれの下には彼らの祖国にとって爆弾よりも危険な物が吊り下げられているのだ。

 

 「発射!」

 

 誘導魔光弾が翼下のランチャーから飛び出し、風に流されるだけの気球を木端微塵に吹き飛ばした。

 撃墜の喜びはない。ただ無事に任務を果たしたことに対する安堵だけがある。

 一息ついた瞬間、レーダーが新たな目標を探知したことを知らせてきた。

 

 「管制塔、新たな目標を発見した! これより迎撃する!」

 『頼む! 待機してたやつは機体に不具合が見つかって上がれる状況じゃない!』

 「なんでこんなときに……」

 『上の連中の派閥争いで部品が回っていないんだ、分かっているだろう!』

 「くそったれが! 連中残らず気球に吊るされちまえ!」

 

 特定の基地だけ特別扱いはできないという、ふざけているとしか思えない理由で迎撃態勢が崩壊している。上層部の無能ぶりを罵りつつも再びスロットルを押し込んで機体を目標へ向けて急加速させる。

 本日2機目の撃墜を記録したパイロットのもとに管制塔から新たな指令が下る。その口調には苦々しさがあふれ出ていた。

 

 『……司令部から命令が来た。燃料の続く限り迎撃を続けろ、だそうだ』

 「管制塔、それは単機でか?」

 『単機で、だ。よその基地の連中は尻でコクピットの椅子を磨くのに忙しいとさ』

 「了解。くそったれどもに、くたばれと伝えてくれ」

 

 荒れ狂う心情のままに操縦桿を操作する。

 次来る気球に爆弾が付いてて、お偉方の頭上に落ちるのなら全力で見逃してやるのに。そんな不謹慎なことを考えながら、昨日よりも状況の悪い任務へ没頭していった。

 

 

 

 

 

 現時点でアニュンリールがもっとも警戒しているのは、世界最強と呼ばれる魔法文明国の神聖ミリシアル帝国だ。魔帝の生き残りと遺産を取り込んで生まれ、魔帝を強く敵視するミリシアルに秘密がばれたら間違いなく潰しにかかってくる。

 ミリシアル一国だけならともかく、魔帝の子孫ともなれば他の国々も全力で攻め込んでくるだろう。それだけラヴァーナル帝国のトラウマは根深い。

 それが分かっているからこそ、強固な鎖国政策で外界との接触を減らし、裏から魔帝復活のための各種工作を行ってきたのだ。

 いつか来る魔帝復活の日、同胞として迎え入れられるために。

 

 「ミリシアルの諜報部が仕掛けてきたのではないか?」

 

 アニュンリール皇国、特に魔帝復活管理庁関係者の間では連日の気球騒ぎに関して、そう勘ぐる者が増えていた。

 気球に搭載されていた機材は明らかに文明圏外国家の技術レベルから大きく外れている。これだけの工業製品を自前で用意できるのは、自国を除けばミリシアルしかいない。

 文明圏外国家が機材を密輸入して送り込んでいる……にしては数が多すぎるし、何よりそのような大きな動きを諜報部が何もつかめないとは考えにくい。

 必然的に、容疑者となるのはミリシアルであった。

 なおムー、グラ・バルカス帝国や日本といった科学文明国は、技術の違いによる無理解や科学蔑視の風潮もあって、注目されていない。

 状況証拠と消去法、この世界の常識から容疑者となったミリシアルに対し、各方面から調査と併せて気球に対する対策も専門のチームを組織して行われることが決定した。

 

 「どうしろというのだ……」

 

 会議室にて、気球対策班の班長に任じられた男は頭を抱えていた。

 早期の解決を求められているが、気球の放出地点や生産拠点が特定できれば、破壊工作を仕掛けることもできるが文字通り何一つ情報がないのだ。これでは手の出しようがない。

 かといって気球の情報を得るために工作員を派手に動かして、ミリシアルに殴りかかる口実を与えるわけにもいかない。八方塞がりだ。

 

 「…………地道にやっていくしかない、か」

 

 うんうん唸ること10分、出た結論にため息がこぼれる。

 気象学者への協力の取り付け、ミリシアル国内の物流の再調査、怪しい海域への漁船や商船に扮した監視船の派遣……。部下がいるといっても、稟議書までもっていくのにどれだけかかるやら。

 

 「家に帰れるのは、いつだろうな」

 

 月の末に娘の誕生日が控えている班長は、憂鬱さを感じさせる動きで筆を手に取った。

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