準備期間をおいてから日本国召喚   作:レシプロ至上主義者

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黎明来たる

 グラメウス大陸の国家、トーパ王国は北方より復活した魔王ノスグーラと魔物の軍勢から侵攻を受けていた。

 圧倒的な力を持つ魔王とその配下の前に徐々に南へ追いやられていく日々。頼ろうとしていたパーパルディア皇国が文字通り解体されたのを境に、かねてより救援を要請していたパーパルディアを解体した張本人……日本に全力で泣きついた。

 日本外交官からの助言を参考に、トーパ王国にて日本が新たに開発した港を999年租借することを認め、さらに領海の海底資源及びグラメウス大陸の調査、開発の際には全面協力することを日本大使との会談にて提案。

 これを受け入れた日本は国防陸軍1個旅団と航空揚陸艦を旗艦とする小艦隊を派遣した。

 

 

 

 

 

 「……我を倒した」

 

 頭部のみとなった魔王が何か話す前に10式戦車改の120mm砲弾が命中し、今度こそ完全に消滅した。

 

 「目標の消滅を確認。各部隊は警戒を続けろ」

 「え、ええ…………?」

 「……? どうかされましたか?」

 「いえあの……魔王が何か言おうとしていませんでしたか?」

 「はい。ですので、速やかに撃破しました。魔法かなにかの予備動作の可能性もありますから」

 

 釈然としない顔をしつつも黙るトーパ王国の騎士。その反応を意図的に無視して指揮官は視線をグラメウス大陸の大森林へと向ける。

 魔王軍の残党は統率を失っているようだが、大陸の奥地にはまだ脅威となる大型の魔物がいるだろう。伝承によれば四足歩行の赤いドラゴンが攻めてきたこともあるらしい。

 内陸には艦砲射撃も届かないから、そういった化け物が出てきたら自前の自走砲か地対地ミサイル、基地ができた後にやってくる空軍の支援に頼るしかない。海軍も巡航ミサイルくらいは、頼めば撃ち込んでくれるだろうが。

 

 「長い任務になりそうだ」

 

 憂鬱な気分から出たため息は、白い水蒸気となってトーパ王国の空に消える。

 空は、指揮官の未来予想が反映されたような曇り空だった。

 

 

 

 

 

 雲一つない晴天な日本の首相官邸。

 今日も現場から精査を経てあげられた情報とともに会議が始まっていた。

 

 「グラメウス大陸ですが、トーパ王国からの情報も併せて考えるに、資源などがほぼ手づかずのまま残っていると考えられます」

 

 魔物の数が非常に多いグラメウス大陸は開発が全く進んでおらず、地下資源などがそのまま残っていると考えられた。

 無論、どこにどれだけの資源があるのかはまだ分からないし、資源地帯を活用するのに必要なインフラ整備にかかる時間と費用などの課題も残っている。

 しかし将来の資源地帯候補に金をケチることなど、“元”無資源国日本からしてみればあり得ないことだった。

 

 「偵察衛星よって発見した大陸奥の国家はそれほど大きくはありません。トーパ王国にも遠回しに確認を取りましたが、大昔に勇者一行を送り出したのを最後に人の集団が大陸奥地に進んだことはないと」

 「極めて凶暴な原生生物……ああ、魔物でよかったな。魔物を追い払う機械の開発はどうなっている?」

 「クワ・トイネ等の友好国の協力もあり、試作品が複数完成しています。そのうちの幾つかは、実地テストのため既にトーパ王国へと輸送中です」

 

 以前から旧ロウリア王国領などで問題になっていた魔物問題。対策として注目されているのは自動で魔物を追い払ってくれる電波のようなものを発する装置であり、魔力さえ用意しておけば日本人でも運用できる点が評価されて精力的に開発が進められている。

 

 「まあ未知の国家も資源開発もまだ先のことだ。準備だけ進めておけばいい」

 「分かりました、何かあればすぐに報告いたします。……続いて、アニュンリール皇国の件ですが、気球による偵察は完全に防がれています」

 「やはり戦闘機があったか。それとも地対空ミサイルかな?」

 「各種機材から送信された情報を分析したところ、戦闘機のミサイル攻撃の可能性が高いそうです。気球の針路上にある、航空基地での航空機の動きが活発になっています」

 

 少し前から行われていた気球による偵察は、アニュンリール側の努力もあって完全に防がれていた。だがその代償として手の内の幾つかを日本に把握されることとなった。

 

 「現在、この星に存在する国家の中で一番の脅威はアニュンリール皇国だな。技術レベルもそうだが、怪しい点が多すぎる」

 「尻尾はまだ掴めませんが、影と足跡は発見済みです。グラメウス大陸でも動いているようなので、特殊作戦群と諜報組織の総力を挙げてトカゲの尻尾を捕まえます」

 「頼むぞ」

 

 グラメウス大陸にいるアニュンリール工作員の未来が決まった次は、友好国関連の議題へと移る。

 

 「ムーへの兵器売却は順調です。この前のパレード以降、技術供与の打診が強くなっています」

 「追加の兵器購入を条件に、いくつか提供してもいいかもしれんな。特に場所を取る艦艇は積極的に売りたいところだ」

 

 クワ・トイネ公国とクイラ王国も多くの鹵獲兵器を買ってくれているが、大抵は戦車と航空機。艦艇は護衛駆逐艦とフリゲートが中心であり、大型艦は両国とも保有する気はないらしく関心を示さない。

 処分に困っていたそれらを大枚はたいて買ってくれるムーはありがたいお客様だった。

 ちなみに同じく大きい船でも、輸送船やタンカーはクワ・トイネとクイラも積極的に購入している。

 

 「フェン自治区議会が我が国の後押しのもと、民主主義国家として再出発することに同意しました。港と飛行場の権利はそのままという条件で、経済支援を求めています」

 「それはまあ、いいが…………釘を刺すのは忘れないようにな?」

 「もちろんです。既にマニュアル化されているくらいには、結果が出ている方法ですから」

 

 受け取った金を正しく使わなければ、日本を舐めればどうなるか、大きく太い釘を刺しておく。

 血縁、縁故主義の強い土地でよく使う手である。

 

 「パールネウス独立委員会もようやく安定して仕事ができるようになりました。領内の安定化も進み、10年後には独立の目途も立つかと」

 「駐留国防軍の規模も小さくできるな。それに我が国の企業もより進出できるだろう」

 

 今でも少なくない数の日本企業がパールネウス領内復興のために活動している。そこに安定化に伴う中小企業の大進出が起きれば、パールネウス市場の独占。そして経済の植民地化が完了する。

 独占と言っても、クワ・トイネやクイラ、ムーなどの友好国の企業が参入できる余地は残しておくが。

 

 「最後の報告ですが……皆様、お喜びください。広島計画の第1次実験が成功しました。これにて、我が国は晴れて核武装国です」

 

 その場にいた者は皆、悪魔のような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 転移から続けられてきた気象と海洋の調査。2年以上かけて続けられたそれによれば、新内地の一部ならば放射能汚染が周囲に拡散する心配がないと結論付けられた。

 

 ――そして、深夜。観測機器が見守る無人の大地に、人工の太陽が生まれた。

 

 広島計画の成果にして戦後日本最大の挑戦。核の起爆実験が成功したのだ。

 

 

 

 

 

 核実験が行われた場所は新内地の大陸、その内陸部にある砂漠だった。

 大陸全体でみて人口分布は一部地域に極端に集中しており、実験場から1000kmは離れているので、情報管理は容易。気象条件も、指定地なら日本と友好国への影響はほぼない。

 日本が求めていた条件、その全てを満たしていた。

 観測所では多くの人間が、試練以後の日本史上最大の快挙に湧いている。

 

 「ああ、やっとだ……やっと日本も核武装できるのだな」

 

 科学者の男が滂沱の涙を流しながら、感極まった笑みを浮かべる。

 男の妹夫婦は、試練の時に訪れた新婚旅行先で敵国の先制核攻撃に巻き込まれ蒸発。国防陸軍の兵士であった兄はその敵国の首都攻防戦の最後に行われた自爆核攻撃によって戦死。どちらも遺骨の一欠片も残らなかった。

 だからこそ、もう2度と日本人が自分と同じ目に合わなくて済むよう、この場の誰よりも熱心に核開発に打ち込み、その必要性を多くの人々に訴え続けた。核の抑止力があれば、報復を恐れて先制核攻撃も自爆核攻撃も防げると信じて。

 その努力が今、報われたのだ。

 

 (いや、まだだ。まだ日本はスタート地点に立ったところ。むしろ、ここから始まるのだ)

 

 唇を一文字に結び、気を引き締めなおす。

 今回の実験で日本製核が起爆することは証明された。だが兵器に弾頭として搭載され、実戦と同じ条件で使用されて起爆したわけではない。まだまだやらねばならない試験は多くある。

 それに、鉾の開発に成功しても盾の開発に失敗しては意味がない。弾道ミサイル迎撃システムや日本各地の防空システムもセットで配備しなければならない。

 そちらは核開発者に過ぎない自分にはどうしようもないが、転移後も国防に手を抜いたことのない国政に期待するとしよう。

 

 「一歩一歩、できることから、だな」

 

 噛みしめるように呟くと、核開発者は決意を新たに今後行うべき試験について思考をめぐらすのだった。

 

 

 

 

 

 ロデニウス大陸より南東に3000km以上進んだ海域。

 日本国防海軍の無人機母艦ちとせより発艦した大型偵察無人機RQ-4が甲高いターボプロップエンジンの音を響かせながら360°見渡す限り水平線の世界を孤独に飛ぶ。人間ならば恐怖や不安でおかしくなりそうな旅程も、操縦者はクーラーの効いた部屋で仲間と共にいるので問題にはならない。

 決まったコースを飛ぶ自動操縦モードに入り、優雅にアイスコーヒーを飲んでいたところ、先に発艦した無人警戒機のレーダーが目的の物体を捉える。

 

 『ワイルドギース3、所属不明の飛行物体を検知。反応強度、速度、高度から捜索目標の可能性大なり。付近の無人機は接近し、目標を確認せよ』

 「ノーマッド5、了解。ただちに確認に向かう」

 

 エンジンが唸り、大型ドローンが時速500kmを超えて電子の目がとらえた目標へ接近していく。

 ワイバーンなどの出迎えなどと出くわすこともなく、ドローンは偵察用カメラで視認できる距離へ来た。

 

 「ワイルドギース3,こちらノーマッド5。目標は空飛ぶ木造船、当たりだ」

 

 こちらに気づいているのか、甲板上の兵士たちが慌ただしく兵器にとりついていく姿がカメラを通して母艦のモニターに映し出される。

 

 「目標は何か、防空兵器と思われる物を操作している。一時退避するか?」

 『不要だ。触接を継続せよ、ノーマッド5。万が一撃墜されてもノーマッド3が任務を引き継ぐ。……掃除屋も出発済みだ』

 「了解、さらに接近し目標の周囲を旋回する」

 

 撃墜されても代わりはいること、暗に対艦ミサイルを搭載した大型無人攻撃機が、既に発艦していることを伝えられたノーマッド5のオペレーターは、撃墜覚悟で肉眼でも識別できる距離まで近づいて、より詳細な映像を母艦へと送る。

 地球では絶対見られない、空飛ぶ木造船。木材の継ぎ目から船上で走り回る水兵の顔まで余すことなく母艦へ、そして本土へ映像は途切れることなく送信されていく。

 

 「ワイルドギース3、燃料切れが近い。帰還する前に船の真上を飛んでみるか?」

 『ノーマッド5、却下だ。それはさすがに言い訳が効かん。外から見えるものはだいたい撮れた、あとは我々に任せろ』

 

 翼を翻し、帰路につく無人機。肉眼からもレーダーからも姿を消したところで、艦隊の兵士たちは安堵した様子で兵器から離れる。不審な電波は確認されているが、ここ最近はいつものことだったので誰も気にしていない。

 この後、クルセイリース大聖王国の飛空艦隊はレーダーで遠くから、母港に帰るまで見張られることとなる。

 

 

 

 

 

 自国近海で起き始めた異変に、クルセイリース大聖王国の行動は早かった。

 クルセイリースでは主役ではないワイバーンで接触を試みたり、飛空船に対し至近距離まで近づいてきたドローンを撃墜し、残骸を回収するなど、様々な方法が考案され、実行された。

 結果、ワイバーンではまったく追いつけず、撃墜に成功した飛空船は謎の爆発事故で残骸ごと海に沈んだりと、成功と言えるものは皆無だった。

 

 「……一体、我が国の周りで何が起こっているのだ?」

 

 クルセイリース大聖王国では、上は報告を受けた国王から下は遺留品が網によく絡まるようになった漁民まで、揃って頭を悩ませることとなる。

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