準備期間をおいてから日本国召喚   作:レシプロ至上主義者

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明けましておめでとうございます(なんとか1月に間に合った……)。


カルトアルパスに敵影なし

 魔物除け装置が予想以上の好成績を出し、グラメウス大陸の開拓が順調に進んでいるころ、駐日ミリシアル大使から会談を申し込まれた。

 

 「先進11カ国会議、ですか」

 「はい、貴国にはパーパルディア皇国の滅亡によって空いた席に座っていただこうかと」

 

 列強筆頭神聖ミリシアル帝国が主催する、国際会議。転移初期の段階から大まかな情報だけは日本にも届いていた。

 合法非合法問わず諜報活動を行っていた日本だが、文明圏外国家相手ではあまり情報が集まらず、詳細な情報が入るようになったのは列強であるムーとの国交開設以降のことだ。

 

 「そういうことでしたら、喜んで参加させていただきます。いずれ来たるラヴァーナル帝国との対決に向けて、志を共にする方々とは是非とも友誼を結んでおきたいですから」

 「分かりました、本国にはそう伝えておきます。……これは個人的な言葉ですが、貴国がラヴァーナル帝国を脅威と正しく認識し、ともに立ち向かってくれることを大変喜ばしく思っております」

 

 日本、ミリシアルともに事を荒立てる意思も必要もないがため、日本の先進11カ国会議参加についての会談は、つつがなく終了した。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国領レイフォル州、海軍司令部にて。穏やかな気候のこの時期のレイフォルに似つかわしくない低気圧と寒波が発生している場所があった。

 

 「……日本の軍事力は我々の想定以上だったようだな」

 

 カイザル・ローランド大将の非常に冷え切った声が、完璧な防諜対策が施された部屋によく響き渡る。

 先進11カ国会議にて参加国全てへ宣戦布告することが決まったグラ・バルカス帝国だが、その直前であるこのタイミングで、日本国防海軍に関する情報が限定的ながら入ってきたことで、カイザルを始めとする海軍上層部は慌てふためいた。

 何せ100mmクラスの艦砲を1門載せただけの貧弱な駆逐艦が主力だと思っていた相手が、実は自分たちに劣らぬ空母と戦艦を保有する大海軍だったのだから。

 この情報を持ってくるのが遅れに遅れた情報部は絞め殺さんばかりに絞られたが、それで現実が変わるわけでもなし。グラ・バルカス帝国海軍は急ぎ日本への対策に追われていた。

 

 「宣戦布告の対象から日本だけでも外すことはできないのでしょうか?」

 「無理だろう。既に陛下の裁可は通っている。これを覆すことは不可能だ」

 「……戦うしかないとして、日本軍の戦術などについての情報は?兵器は優秀でも、作戦指導がお粗末ならそこに付け入れば」

 「アルタラスやパーパルディアでの戦いを見る限り、連中の指揮は合理的の一言だ。馬鹿が上にのさばっていることは、期待しない方がいいだろう」

 「潜水艦で沈めればいい。仮に水中防御がグレート・アトラスターと同等でも、長魚雷を片舷に5、6発も食らえば耐えられまい。蛮族どもにまともな対潜能力などあるまいよ」

 「今活動しているものだけでも戦艦は4隻、空母は10隻以上いるんだぞ……漸減ならばできるだろうが、全て沈めるのは不可能だ。……それに連中、潜水艦も持っているらしい。専門の対潜部隊の存在も盛んにアピールしている」

 「空母機動部隊をさらに増やして……」

 「予算と人員が足りん。財務と陸軍が認めると思うか? それに陸軍の連中も、日本のことを知って新しい戦車開発を議会で通そうとしている」

 

 会議は踊り続け、まとまることはない。

 結局、彼らにできたのは、第零魔導艦隊殲滅に派遣する戦力の増強と、その一部をグレード・アトラスターがカルトアルパスに突撃するときに護衛として同行するよう、命令書にねじ込むくらいであった。

 

 

 

 

 

 先進11カ国会議当日、カルトアルパスには世界各国の船がひしめいていた。

 木造船が大半を占める中、それらを圧倒する迫力を持った鋼鉄の艨艟たちがカルトアルパスに現れた。

 日本から輸入したアリュ―シエロン級巡洋戦艦を旗艦とするムー艦隊。日本で手入れされ、塗装も塗りなおされたアリューシエロン級を先頭に、日本から得た情報を参考にしつつ建造された新鋭艦たちが続く。

 これまでのムーの軍艦とは違う、細身で精悍な印象を与えるムー海軍の新顔たちは、カルトアルパスの見物人たちの視線を独り占めしながら、堂々と入港した。

 ムーの水兵たちを優越感に浸らせる視線は、しかし続いて進入してきた戦艦に全て奪われることとなる。

 グレード・アトラスター級戦艦グレード・アトラスター。

 グラ・バルカス帝国の戦場神話、その主役の登場である。その姿を一目見ようと、見晴らしの良い場所では人だかりができ始めていた。

 

 「グラ・バルカス帝国の大和モドキはなかなかの人気ぶりですな」

 

 日本国防海軍所属、戦艦やまとのCICにて副長がモニターに映し出された光景を見て笑う。

 

 「鹵獲して、本土で展示出来たら面白そうなんですが」

 「こら副長、滅多なことを言うもんじゃないぞ。我が国とグラ・バルカス帝国はまだ(、、)開戦していないんだからな」

 

 含みを持たせた口調で副長の軽口を咎める艦長。

 グラ・バルカス帝国の企みは既に暗号解読と偵察衛星で大まかにだが把握している。だがやまと艦長の言う通り、まだ彼らは宣戦布告も武力侵攻もしていないのだ。

 

 「それに、この2隻を見たら連中、ビビッて開戦を中止するかもしれんぞ?」

 

 日本が先進11カ国会議に護衛として持ち込んだ軍艦は9隻。その中で最も目を引くのは2隻の戦艦。

 やまと型戦艦2番艦むさし、ながと型戦艦1番艦ながとの並ぶ姿を見て、カルトアルパスのみならずグレード・アトラスター含む各国護衛艦隊の船上までもが騒がしくなり始めた。

 

 「皇帝の決定らしいですし、メンツ的にも引けんでしょう……そしてやっぱり戦艦は目を引きますねぇ。まあ、だからこそ金食い虫を4隻も維持しているわけですが」

 

 やまとの主砲は42cm3連装砲塔4基12門。ながとは42cm連装砲塔4基8門

 大和モドキことグレード・アトラスターの46cm三連装砲3基9門に前者は口径で、後者はそれと門数で負けるが、投射量と命中精度で優っており、ミサイルを用いずとも一対一で勝てる能力を有していた。

 

 「まあ観客の反応は上々と分かったところで、だ……真の主力の調子はどうかな?」

 

 航空揚陸艦ひように連絡を入れる艦長。公私ともに準備を怠らないことで知られるひよう艦長は間髪入れず返答する。

 

 『システムも搭乗員も万全です。あとはグラ・バルカス帝国がどう出るかですな』

 「了解だ。流石に初日はないと思うが、念のため準備だけは進めておいてくれ」

 

 黒鉄の城たちにただただ感嘆する者、新たな脅威に冷や汗を流す者、迫りくる嵐に備える者。

 各々の思惑をよそに、先進11カ国会議は開催された。

 

 

 

 

 

 「――我が国は、全世界へ宣戦を布告する!!!」

 

 グラ・バルカス帝国から送られてきた外交官シエリアの宣戦布告をこっそり録音しながら、出席していた日本外交官は護衛艦隊へ符丁を送る。

 

 『ニイタカヤマノボル』

 

 符丁を受け取った艦隊は、誤送信ではないことの確認が取れると行動に移る。

 

 『全艦に通達。我が国はグラ・バルカス帝国と戦争状態にはいれり、これより我々は積極的防衛行動を開始する。なお、敵戦艦グレード・アトラスターは外交官を乗せて退去するため、今回は攻撃を禁ずるとのこと。命令があるまで発砲は禁ず』

 

 敵となったグレード・アトラスターを見送るやまととながと。

 日本最強の戦艦とグラ・バルカス帝国最強の戦艦。どちらの砲口も火を噴くことはなくグラ・バルカス帝国の使節はカルトアルパスより去っていった。

 

 

 

 

 

 『ミリシアル艦隊、グラ・バルカス帝国艦隊により全滅。なお通信傍受と無人偵察機のカメラ映像解析の結果、全滅した艦隊は第零魔導艦隊と判明せり』

 

 グラ・バルカス帝国からの宣戦布告の翌日。カルトアルパスに来ている日本人の気分を憂鬱にさせる一報が電子諜報艦つがるを通じて本土から届く。

 世界最強の国の、最精鋭の艦隊が自国から見れば100年近い骨董品の集まりに負ける。

 事前の諜報活動から導き出された、ミリシアルの戦力評価から予測はされていた。が、それでも実際にその通りになると嘲りの感情も浮かばない。

 

 『敵空母は待機していた潜水艦により全て撃沈。敵戦艦グレード・アトラスター並びに旧式と思われる戦艦複数隻がカルトアルパスに向け航行中。現速度を維持した場合、到着日数は2日』

 

 既に宣戦布告が行われている以上、攻撃をためらう理由は誤射以外にはない。

 ミリシアルの魔導艦の音紋採取も兼ねて周辺海域で潜行していた潜水艦隊は、実に久方ぶりに魚雷を敵艦に撃ち込んだようだ。

 残った戦艦部隊も空母を失ったことで退くかとも思われたが、敵は突撃して死ぬことを選んだらしく、カルトアルパスに向かっているという。

 

 「潜水艦で沈められないのか?」

 『向かえる位置にいる艦は魚雷の消耗が激しい。対艦ミサイルも駆逐艦と巡洋艦にほとんど使っている。護衛艦隊で排除されたし、以上』

 「了解した。やまとよりひよう、敵戦艦3隻へ航空攻撃を実施せよ」

 

 舷側エレベーターからずんぐりむっくりな胴体と精悍な機首という、なんともちぐはぐな印象を持つ戦闘機が飛行甲板へ上げられていく。格納庫では次のエレベーターに乗せる3番機と4番機の出撃準備が進められていた。

 蛇足だが、航空揚陸艦であるひようはE-38Aを運用できないので、代わりとなる早期警戒ヘリコプターを搭載している。

 

 「艦長、ミリシアルがこちらの行動について説明を求めております。なぜ空母から艦載機を発艦させようとしているのかと」

 「昨日、宣戦布告してきた敵国グラ・バルカス帝国の戦艦を沈めに行くと言っておけ。それと貴国最強の第零魔導艦隊とやらをカルトアルパスの警備に連れてくることをお勧めします、ともな」

 

 ミリシアルを煽りながら、編隊を組んだ4機のFAV-1が南の空へ消えていく。

 グラ・バルカス帝国の力の象徴たるグレード・アトラスター。

 カルトアルパス港に向け舵を取る大戦艦に、次の時代を行く航空兵器がぶつけられようとしていた。

 

 

 

 

 

 空母含む艦隊の大部分を沈められながら、否、あるいはそれ故に引けなくなったからなのか、金剛型や長門型と酷似した戦艦を従えて北進するグレード・アトラスター。現在地は第零魔導艦隊全滅地点から100kmも離れていない。

 その後方では駆逐艦が忙しなく動き回り爆雷で海面を沸騰させている。居場所の分からない潜水艦を脅かすためにばらまいているのだろうか?

 

 「各機、“プレゼント”の動作確認を行え。まもなく敵をレーダーで捉える距離だ」

 

 その様子を無人偵察機から送られてきた映像で確認していた剛山大蔵大尉は、編隊に命令しつつ自身も機器を操作して主翼にぶら下げたグラ・バルカス帝国艦隊への贈り物の状態を確かめる。

 

 (まさか俺がこいつと、この戦争における航空機での一番槍を務めることになるとは……)

 

 FAV-1は日本が鹵獲した中で、唯一実用的かつ早期に戦力化可能な垂直離着陸機であったが、搭載量に不満があり国防海軍の主力戦闘機候補から早々に外された。

 それでも他に替えの効かない航空揚陸艦で運用可能な戦闘攻撃機として、鹵獲運用にとどまらず、いくつか改修ののち新規製造も行われ、現在運用されている機数は100を超える。

 国防海軍航空機搭乗員の選択コースで母艦航空隊を選び、実機に乗り込んで以降、剛山はFAV-1に惚れ込んでいた。

 水平飛行で音速を越えられないのは物足りないが、対地攻撃には何ら支障はなく、空戦性能もF-30やF-15に勝てるポテンシャルはある。

 実際に剛山は空軍も交えた模擬戦闘で、前述の2機種に勝利したことがあるのだ。

 

 「敵艦隊、レーダーで捕捉。念のため距離100まで詰めてから22式を投下する」

 

 22式空対艦誘導装置。過去に敵重防御艦に悩まされた日本が、効率的に撃沈するために旧敵国で見つけた構想を現実にした兵器である。

 その攻撃方法は魚雷に近く、敵艦のすぐそばに着水後、艦底に潜った瞬間起爆。艦底から爆発で突き上げる。

 その威力は駆逐艦くらいなら真っ二つにへし折るほどだ。

 それだけでなく、この22式は国防軍主力空対艦ミサイルASM-3と比べて圧倒的に安く、JDAM、LJDAM同様既存の航空爆弾に改造キットを取り付けるだけで済む。

 射程も従来の対艦ミサイルに匹敵する150Kmと、非の打ちどころのない兵器なのだ。

 

 「とはいえ、こいつに2000lb2発はキツいな」

 

 垂直離着陸機能を優先した設計であるFAV-1のペイロードは2・5t。

 翼の下には2000lbの22式と短距離空対空ミサイルに増槽が、それぞれ2発。FV-1の搭載量ぎりぎりである。

 余裕を持たせて半分の1000lbにしてはどうか、とも飛行長と議論したが、やはり撃沈の確実性を優先して2000lbが選択された。

 モドキとはいえ、あの大和型戦艦を沈めるならばこれぐらいの無理はしないと駄目だろうというのが、2人の結論だった。日本人の精神に根付く大和信仰は健在である。

 

 「投下用意」

 

 敵潜水艦はいないと判断したのか、爆雷を落とすのをやめた駆逐艦が戦艦隊に合流すべく舳先を北へ向ける。

 迫りくる次なる脅威への備えを、彼らは用意できなかった。

 

 「投下」

 

 100kmの距離を22式が取り付けられた2000lb爆弾が滑空していく。

 途中で気づいたグラ・バルカス帝国艦隊が慌てて対空火器を発砲するが、全ては遅すぎた。

 ほとんど間を置かずに、5隻の戦艦の真下で8発の22式が起爆。水柱を両舷から噴き上げながら、艦底部とその直上を破壊しつくした。

 金剛型そっくりな戦艦は、本家同様老朽化が進んでいたのか、前後に真っ二つとなって破断面から海に没していく。

 長門型に似た戦艦が1隻、砲塔を打ち上げながら沈んでいくのが画面に映っている。弾薬庫に誘爆したのだ。

 そして本命の大和モドキは、誘爆はしなかったようだが、浮力を失ったのか喫水線が下がっている。この様子なら遠からず甲板に海水が浸るだろう。

 

 「シーホーク、こちらレイブン。どうやらお前さんらはオーバーキルになりそうだぞ?」

 「こちらシーホーク。なに、まだ駆逐艦は残ってるんだろう?余ったらそっちにくれてやるさ。それより、帰り道でミルクをこぼすなよ」

 

 遅れて発艦してきた第2次攻撃隊と軽口をたたきながらすれ違う。

 剛山たちは帰還途中で無人空中給油機に給油されたのち、ひように戻ることになっている。

 異世界産の大和。その最期の目撃者になれないことを残念に思いつつ、剛山は部下たちを引き連れてカルトアルパスへ去っていく。

 グレード・アトラスターが完全に海上から姿を消したのは、それから30分後のことだった。

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