次話投稿は未定です。
『先ほどロウリア王国がクワ・トイネ公国、クイラ王国2ヶ国に宣戦布告。両国との安全保障条約に基づき、我々はこれより積極的防衛行動を開始する』
空母あかぎ――国防軍に改変しても、ついに艦艇名は漢字表記にはならなかった――以下イージス艦2隻、駆逐艦3隻、フリゲート4隻からなる第7艦隊の全スピーカーから作戦開始が告げられる。
「対木造装備の攻撃隊、いつでも出撃可能です」
「よし、攻撃隊発艦はじめ」
サーモバリック爆弾を搭載した艦上戦闘機がカタパルトによって順次発艦していく。
艦橋から発艦風景を眺めている士官の1人がぼやく。
「……いい飛行機なのは認めるが、しっくりこないな。いまどきF-4が主力っていうのは」
神々の試練を乗り越えて軍事大国となった日本の空母艦載機主力がF-4――正確にはそれの類似機――というのは違和感を抱くかもしれないが、日本としてもやむを得ない事情があった。日本というより海軍の、だが。
複雑怪奇なる事情と経緯を経て連合国家となった日本。併合、あるいは条約への加盟により共同体となる国が増えるごとに、その国にあった艦載機の製造工場やメンテナンスセンターなどが手元に転がり込んだのだが、その機種に問題があった。
大半がかつての仮想敵国が使っていた陸上機改造の艦載機そっくりで、旧同盟国似の機体は日本でも退役した老兵と金のかかる可変翼の俳優しかなかった。ほぼ同じ設計で三役こなすステルス機なんて試作機しかない。
もう一種、垂直離着陸できる変態飛行機があったが主力としては性能不足として外されている。
維持費用と性能が釣り合ってない俳優は満場一致で外され、財布のひもと軍の手綱を握る連中は改造艦載機を勧め、海軍は老兵で凌いでステルス機の完成まで待つことを望んだ。
金と面子と感情入り混じる論戦の末、機体とそれを扱う人間が最低限は揃っていた老兵ことF-4モドキが当座の空母航空隊主力を務めることとなった。今後は機種転換訓練が進み次第、改造艦載機に置き換えられていく。
ステルス機は艦載機型を第1、垂直離着陸型の開発を第2に優先し、通常型は白紙とされた。理由は、空軍は既に高性能なステルス戦闘機が存在しているため。垂直離着陸型は亜音速ながらVTOL戦闘機があるためだ。
閑話休題。
発艦を終え、編隊を組んだ攻撃隊24機は一路ロウリア艦隊で実地試験を行うべく亜音速で目標まで向かう。
ロウリア王国が用意した4000隻を超える空前絶後の大艦隊。
艦隊を率いる海将シャークンはひとりごちる。
「勝ったな」
慢心からくる言葉ではなく、彼が今持つ情報を基に判断した客観的な事実である。
クワ・トイネ公国、クイラ王国の艦隊全て集めてもこちらの足元にも及ばない。日本という国も参戦しているかもしれないが、新興国家の海軍なぞ戦力になるはずもない。
揺るがぬ自信をもって進軍する艦隊に黒い影が数個降ってくる。甲板あるいは海面に着弾したそれは巨大な火球となり、衝撃波が発生する。
追い打ちをかけるように降ってきた影は無事だった船団を焼き払い、吹き飛ばす。船が無事でも水夫が肺を焼かれるか内臓を潰されるか海に落とされて戦闘不能となるケースが相次ぐ。
「なんだ!? 伝説の神竜のブレスか!!?」
流石に数が多いので全滅は免れたが、今度は上空から光の雨が降り注ぎ船を粉々にする。
空からの攻撃といえばワイバーンのブレスしか知らないロウリア兵たちは右往左往するばかり、ごく一部にバリスタで反撃を試みる勇者もいるが敵が速すぎて当たらない。
こんなとき混乱をまとめ上げるべき将校の内、海将シャークンは最初のサーモバリック爆弾の爆風により戦死。生き残った将校も状況確認に精を出している間に焼肉かひき肉にされるのを繰り返している。
攻撃隊が去った後、ロウリア海軍は1000隻を超える損害を出しながらも前進を続けた。
臨時の指揮官が艦隊の状況把握に追われて撤退命令を出せる状況にないことと、ここで逃げても家族共々殺されるか、海賊に身をやつすしかないことを末端の水兵まで理解していたからだ。
それでも流石に無策で突っ込むほどロウリア王国海軍の将校は蛮勇でも愚昧でもなかった。
「今すぐワイバーンを寄越してくれ! このままでは全滅してしまう!!!」
まだ生き残っていた将校が魔信で本国のワイバーン基地に援護を要請する。
彼自身、さっきまで頭上を飛び回っていた怪物にワイバーンで太刀打ちできるとは思っていない。敵がワイバーンを相手にしているうちに少しでも敵地か敵艦隊がいるところに近づければいい。そう考えていた。
かくして日本の狙い通り、ワイバーン24騎が艦隊上空援護のために派遣される。
ロウリア艦隊から120Km離れた位置を周回するその機体は、ターボプロップエンジンで6翅のプロペラを2つ回しながらロウリア艦隊と援護のワイバーン編隊をレーダーで監視する。
監視者の名はE-38Aレッドアイ艦上早期警戒機。
転移以前に導入されたE-2C早期警戒機の後継機として採用された本機は当然のごとく(嫌々ながら)併合した他国の航空機であり、艦載機としても運用できる。レーダーの探知距離はE-2Cとあまり変わらないがデータの処理能力などが向上しており、また電子機器以外ではキッチン・トイレ・仮眠室の設置など乗員の負担軽減に力が注がれている。
「敵編隊補足、数24。間違いありません、ワイバーンです」
「データ送信は?」
「問題ありません」
データリンクによりE-38Aが得た情報は即座に第7艦隊に送られ、空母から準備していたF-4が4機発艦する。
敵は現代航空戦の基準では目と鼻の先にいるため増槽は積まずに試験用の対空ミサイルのみを搭載し、間もなく自機のレーダーでワイバーンを補足する。
「これよりミサイルの実戦における動作試験を開始する。各機、事前の打ち合わせどおりに行え」
搭載されたミサイルは2種類。レーダー誘導の中距離用と赤外線探知誘導の短距離用。
ミサイルの数は十分にあるため、12発ずつ撃ち込むことが決まっている。
「FOX1」
発射命令と同時に中距離ミサイル――誘導装置のみ取り換えた在庫処理用の旧式――がパイロンから切り離され、ロケットモーターで加速しつつ目標へと飛翔していく。
1分も待たずに、空に12個の黒煙の花が咲いた。
「次、FOX2」
半分となった敵に再び期限切れ間近の12本の白線が向かっていく。
結果は先ほどと同様。整備と幸運に支えられたミサイル、故障による不発などは一切なし。
「全弾命中、試験終了を宣言する! ……今年の漁獲量には期待できそうだ。全機、帰還するぞ」
下界では焼けた肉と焦げた肉、そして空から降ってきた生肉という恵みに肉食魚たちが食らいついているのを気にもせず、彼らは母艦へと帰っていく。
片道30分もかからない距離を戻った彼らは、旧式ゆえに自動着艦装置もないF-4を見事に操り、最後にあかぎに降りた隊長は格納庫で整備長に声をかけられた。
「おかえりなさい。上の連中のわがままにつき合わされて、ヒヤヒヤしたでしょう?」
「なーに、整備の連中がしっかり仕事してくれてたから怖くはなかったさ。それに最後のご奉公にはよかろう。なあ爺さん?」
隊長は愛機をポンと叩く。
いろいろと不便なところは多いが、それでも長年つきあってきた飛行機だ。
『しののめ、あきぐもによる対地攻撃開始。第2次攻撃隊の攻撃が終わり次第、本隊のフリゲートと駆逐艦を一部分離し、敵艦隊への追撃を行う』
「おっ、始まったか」
駆逐艦のVLSから巡航ミサイルが発射されたことが全員に知らされる。
白煙の尾をしばらく引いたあと、設定されたコースのとおり低空を飛んで水平線へと消えていく。
クワ・トイネ公国並びにクイラ王国の間諜、そして日本の諜報網が集めた情報からロウリア国王の居場所の見当はついている。
発射された巡航ミサイル、8発。王城を含めた重要な軍事施設を破壊するのに十分な数だった。
開戦したとはいえ、戦禍から離れた王都は活気があるものの、概ね平穏な空気で満たされていた。
突如鼓膜に響く、王城と飛竜基地から轟いた雷鳴の如き爆発音。
「な、なんだぁっ!!?」
「城が……! 火に包まれてる!!!」
「あっちには飛竜厩舎が! 俺の息子があそこで働いてんだ!」
平和な後方から一転、戦場とかした王都は怒号と悲鳴が飛び交う。衛兵たちが混乱を収めようと動くが、王都全域が動揺しつつあるなかでは意味をなさない。恐怖と混乱は無秩序な暴動へと発展し、落ち着きを取り戻すころには爆撃よりも暴動のほうの被害が大きいほどだった。
開戦から1日も経たずに、ロウリア王国は崩壊への一歩を踏み出した。
「――ロウリア王国への斬首作戦は成功しました。以降はクワ・トイネ公国、クイラ王国とともに各地の諸侯へ切り崩しを行います。ああ、それとクワ・トイネ公国から要望のあったギム近郊の敵兵団の殲滅ですが、これには本土から空軍の爆撃飛行隊を差し向けているので、明日の午後には戦果確認を終えて報告がくると思います」
「よろしい、満足いく結果だ」
総理の締めの言葉とともに、この場にいる者たちの中でロウリア王国は過去のものとなった。
あとは現実が彼らの認識に追いつくのを待つだけだろう。
「あとは外務省と協力して国益確保に努力してもらうとして……。国防大臣」
「はい」
「広島計画はどうなっているのかね?」
広島計画。
原子爆弾によって焼き払われた土地の名を冠するこの計画。日本の原子力の軍事利用に関わる全てがこの計画のもと進められている。
「各種弾道ミサイルと巡航ミサイルの核弾頭部設計並びに製造は完了しました。あとは実験を残すのみです」
「早いな。広島計画が始まったのは3年前だぞ?」
「いずれも、実物と技術者が手元にありますからね。我が国の技術者曰く、少し改良しただけだとか」
日本が試練を通じて得た“戦利品”は多岐にわたる。
その中には当然の如く、核ミサイルとその技術者も含まれていた。
「実物はほとんどスクラップだったろうに、よくコピーできたな」
そして鹵獲品の運命として、無事なものよりスクラップ同然のもののほうが、圧倒的に多かった。
もし技術者があまり確保できていなかったら、広島計画は完了に10年以上かかっていたという試算が国防省から出たほどだ。
「何はともあれ、かけた金に見合った成果が出たことは喜ばしい。それで? 起爆実験は新内地のどこかか、クイラ王国か?」
新内地とは1度目の転移後に起きた戦争で日本に編入された土地を指す。
地政学上の要衝や資源地帯などを押さえたあとはさっさと独立――当然、経済的植民地にしたうえで――させてしまおうとしていたが、現地住民の声など複数の要因から都道府県名に組み込まれて、日本国の一部となっている。
「残念ながら、実験の目途は立っていません。この星の海流や風の流れなど、分かっていないことが多すぎます。下手に実験を急いで本土が放射能汚染にさらされては本末転倒です」
「……試験もしていない兵器を配備するなどできんな。核の自力生産はまだ先か」
「広島に落とされたものと同程度の核爆弾なら、新内地の土地で、すぐ実験できますが……。あまり意味がありません」
「載せる爆撃機がほとんどないうえに、威力も低すぎる。そんなものに金をかけるなら、安全に実験できる場所の確保に人と金を注ぐべき……当然だな。ああ、それとプラットフォームもな」
総理の言葉が、今の日本がまだ核武装できていない理由の全てだった。
鹵獲品もあるが、補充が利かない上に多くはサンプルとしての価値が高い。日本人のもったいない精神もあって使わる可能性は低い。
「まあ、しばらく使う機会のなさそうな兵器は置いておくとして、だ。クイラ王国との交渉はどうだ?」
「こちらは順調です。向こうも使い道のない土地を貸すだけで金が入ってくると大喜びだそうで」
「結構。クワ・トイネ公国のほうは?」
「こちらはオフレコですが、了承すると返事がきています。後日、正式な書類が大使に手渡されるでしょう」
ロウリア王国戦以前から、日本は両国にある提案を持ち掛け、交渉していた。
クイラ王国は石油などが産出しない砂漠を貸し出し、そこを使わなくなった鹵獲兵器類保管場所にする。
クワ・トイネ公国は不要な土地に軍民共用の空港を建設し、戦争となったらそこを日本に貸し出すこと。
両国が差し出すのは土地のみで、建築費や維持費は基本的に日本が持ち、しかも日本がその土地を使用している間は金が入ってくるというこの儲け話に、どちらからも好感触が返ってきていた。
なおクイラ王国の砂漠で核実験を行うつもりは、日本政府にはない。放射能汚染もそうだが、異世界に余計な情報が洩れるリスクを避けるためだ。
「クワ・トイネ公国政府並びにクイラ王国政府、共にこの施設から得られる資金で近代化を我が国に依頼したいそうです」
外務大臣からの報告に閣僚の視線が彼に集う。
「近代化? 兵器の輸入とかではなく?」
「はい。それと、安全保障条約の締結も進めたいと。……それもこちらの提案した内容を、ほぼそのまま受け入れる、と申しております」
ロウリア王国の情報を得た時点で、日本は両国に日米安保条約に近いものを、大使館を通して提案していた。ロウリアの開戦が早かったことと、国内の意思統一に時間がかかったために戦争には間に合わなかった。
「外務大臣。確認したいのだが、彼らは今日、我が国がロウリア王国を潰したことを知っているのかね?」
「それはないかと。彼らの通信技術は文明不相応に発達していますが、上層部に伝わるのには2週間程度はかかるでしょうから」
「そうか…………金のなる木から得た金を無駄遣いせず、富国強兵に邁進すると。そして自分から菓子折り携えて、お願いしてきたと。……久しぶりだ。1戦も交えず、礼儀をわきまえた国を相手にするのは」
心から感心した様子の総理。彼はこの報告で、クワ・トイネ公国とクイラ王国が日本の友好国となったと認めた。
「諸君、喜ばしいことに新しい友人2名は、旧世界の周辺諸国や転移世界の蛮族どもに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいほど、勤勉で誠実なようだ。――ならば誠実と信頼を第一とする我々はそれに応えるべきだと思うのだが、どうかな?」
総理の言葉に皆、笑顔で頷く。
彼らも総理とともに喜んでいた。武力による裁きを受けた、その様を見たわけでもないのに礼儀正しく願い出てくる、常識を持った国家を味方に出来たことを。