準備期間をおいてから日本国召喚   作:レシプロ至上主義者

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 ルビ振ろうとしたらなぜか保存されなかった、解せぬ。
 そんな怒りを込めつつ投稿。


次へ向けて・一歩

 ロウリア王国を1つにまとめていた楔が無くなったことで分解しつつあるなか、日本は晴れて同盟国となったクワ・トイネ、クイラ両国に近代化ロードマップを提示。

 これを受け入れた両国は急速に、だが国内に火種が生まれぬように発展していった。

 一部趣のある建物を残しつつ、超高層ビルが建ち並び、アスファルト舗装の道路が国内の都市という都市を繋いだ。清潔な水がどこでも手に入るようになり、衛生面も改善された。

 小中高に大学、憲法の発布と制度面の整備も怠らない。

 国家の近代化に並行して進められる軍事支援も実施された。

 まず陸軍。彼らはまず、他国への侵攻よりも自国防衛に適した能力を求めた。

 クイラ王国は旧ロウリア王国勢力からの侵攻に備えて戦車、火砲の配備を進めた。また旧ロウリア王国領との国境に多数の防御陣地を構築し始めた。

クワ・トイネ公国はロウリア崩壊後多発する、国境絡みの問題に対処するためにジープ、トラック、ドローンに対人レーダーなど広範囲の監視と警備活動に必要な装備を導入した。

 海軍は日本から鹵獲品の哨戒ボートなどを数隻供与されただけだった。高度な技術者の集まりであり、金食い虫の海軍を養う力は両国ともになかったのだ。

 もっとも優遇されたのは空軍だった。ターボプロップの初等練習機にジェットの高等練習機。さらには予備機、部品に事欠かない、旧式かつ鹵獲だが超音速ジェット戦闘機をそれぞれ10機以上渡された。教官に加えて戦闘機運用に必要なスタッフまで完備である。

 自国の予備戦力としてキープしたい日本の思惑による空軍への手厚い支援は、のちに『クワ・トイネ空軍とクイラ空軍は日本空軍の弟』と称されるほどの緊密な関係につながった。

 

 

 

 

 

 クワ・トイネ公国公都クワ・トイネ。

 日本企業によって建設されたホテルの最上階。内調などによる事前に“掃除”した部屋にて、訪クワした日本国総理大臣と外務大臣が雑談していた。

 

 「やはりこの世界にはまともな国家が存在する。そのことを実感できただけでも、クワ・トイネ訪問には意味があった」

 「……これまでが酷すぎたのかもしれません。なにせ、この世界の蛮族より下劣な国家が当たり前でしたから」

 

 2人の脳裏によぎるのは1度目の転移先。ロウリア王国がただの悪ガキに思えるほど、吐き気を催す邪悪な国々。歴史上、地球に存在したあらゆる国家の黒い側面を煮詰めた敵は、日本国の考えを根本から叩き壊した。

 その経験によって培われた疑心は未だ消えないが、少なくともまだ敵対していない、礼儀正しく付き合いを求める“人間”を殺しにかかるほど日本は、日本人は蛮族に堕ちていない。

 

 「新しい友人たちとの付き合いは順調、素晴らしいことだ。…………それはそうと外務大臣? 彼らに着ける首輪の具合はどうかね?」

 

 魔王の如き邪悪な笑みを浮かべた総理に、外務大臣も同じ笑みで答える。

 

 「完璧です。インフラだけでなく、工業などの主要産業に食い込めています。これで彼らが嚙みついてきても、早晩産業を餓死させられます」

 

 日本はクワ・トイネ公国とクイラ王国に何をしたのか?

 

 ――戦後日本の生存戦略の1つ。世界の工業製品を日本製品なしでは成り立たないようにする。

 

 これと同じ謀略を日本は仕掛けていた。

 各種製造機械を作るマザーマシン。車両、船舶等に載せるエンジン、コンピューター,etc……。

 一部の部品は作れる。なんなら製品の大部分を作れるように指導してもいい。

 だが中核部分は独占する。それは製品のみに限らず、それらの維持・管理・製造に必須の人員機材も、だ。

 

 「いやはや先人には足を向けて寝られんな。こうして世界が変わっても我々のためとなる知恵を残してくださったのだから」

 「全くです……。それと国防大臣の協力もあって、両国政府閣僚を解放的にするアプローチ並びに航空機による人道的鎮圧を行えるようになりました」

 

 解放的にするアプローチと航空機による人道的鎮圧。

 どちらも名称を変えただけの、傀儡政権樹立クーデターとピンポイント戦略爆撃のことだ。

 

 「もっとも、この様子では紙の上でどちらの計画も終わりそうですが」

 「その方がいい。殲滅戦よりは安上がりとはいえ、金がかかることには変わりがないからな」

 「次に外地権益の事ですが、元ロウリア王国の諸侯数名がこちらの話に応じました。遠からず権益を確保できるかと」

 「条件は全て飲んだか?」

 「ええ、こちらが拍子抜けするほど、あっさりと」

 

 以前から進めていた裏工作が実を結びつつあった。

 条件は相手の持ち物――日本が手に入れる価値あるものの多寡によって変わる。

 共通している条件は、王都より北にある港を日本に200年租借するというもので、これと引き換えに日本の取引に応じた諸侯は支援とロウリア王国に課される――という予定になっている各種賠償免除の特権が与えられる。

 

 「ただ、港に適した土地を持っていたのは1人だけです。他は全員内陸ですから、飛行場と農地と鉱山くらいですかね」

 「ふむ……まあ今回は最初だからな。こいつらが成功すれば、乗る人間も増えるだろう。引き続き工作を行いたまえ」

 

 当初の目的である沿岸部の諸侯は1人だけだったが、総理はさして気にしてはいなかった。

 最初から全部思い通りに行くと思うほど、彼は子供ではなかったし、最後に日本が大きく黒字となるのなら過程はそこまで重要ではないからだ。

 

 「最後に、次の敵が分かりました。パーパルディア皇国です」

 「新しい皇帝になってから無軌道な拡張政策に乗り出しているんだったな」

 

 今日会談したクワ・トイネ公国のカナタ首相との話にも上がった国家の情報を、総理は脳内の引き出しから探し出す。

 先代皇帝のころまでは横暴ながら話の通じる大国だったが、現皇帝のルディアスが即位してからは完全な覇権主義国家へと脱皮した。

 現在では周辺国に蛇蝎の如く嫌われ、悪魔のように恐れられている。ついでにより上位の列強からの評価もあまり高くない。

 

 「かなりの圧政を敷いているようですが、一方で現地民の分断などを行っていないという情報もあります。事実なら火事を起こしやすいと国防大臣も嬉しそうでしたよ」

 「燃料代も節約できるし、君たち外務省もポストが増えると」

 「必要なことでしょう? 資源があれば金蔓に、無くても敗戦国パーパルディアのお目付け役に出来る国をこちら側に引き込むのは」

 

 いやまったくもってそのとおり、と総理は苦笑しつつも同意する。

 外務省が国益に反しない範囲で組織の利益を追求するのは何も問題はないし、そのために国防省と手を組むのもあたりまえの事だ。

 

 「もうそろそろ寝かせてもらうよ。明日にはクイラ王国で国王陛下への謁見、宰相閣下との会談だからね」

 「では私も、安保条約の参戦条項についての会議があるので失礼します。……彼らクイラ王国もクワ・トイネ同様、こちらの首輪を気に入ってくれればよいのですが」

 

 

 

 

 

 「これより鹵獲兵器選別会議を始めます」

 

 日本本土の国防省会議室にて、ある重要な会議が始まった。

 試練によって多くの戦乱を経験した日本が抱える問題の1つに、鹵獲兵器の処理が含まれている。

 親日的民間人に被害が出たり、反日的組織の手に渡ることを考えると、野ざらしにして放置しておくわけにもいかず、国内のあちこちに集積所を造り、そこへ集めている。

 

 「陸戦兵器と航空機はある程度、クワ・トイネとクイラに売ることができます。ですが艦艇はしばらく彼らは必要としない。売れる相手もいないこれらをどうするのか、それを決めていこうと思います」

 

 クイラ王国に大規模な保管施設を建築することが決まり、陸上・航空兵器の大半はそこへ移されることが決まっている。

 一方でそれができない兵器が存在する。軍艦だ。

 

 その内約は

 戦艦 52隻

 空母 146隻

 巡洋艦 430隻

 駆逐艦 930隻

 潜水艦 720隻

 その他 魚雷艇など小型船、支援艦艇多数

 

 となる。

 これだけ見ると米国を超えたように見えるが、当然そんなことはない。

 まず、大半の船が旧式、というか時代遅れ。第2次大戦の軍艦はまだいい方で、中には第1次大戦相当の船も少なくない。

 残りは近代化改装を施した第2次大戦から冷戦時代の船と既に国防軍へ編入された現代艦が6:4の割合で存在する。

 今日、この場で論じるのは国防軍では使い道のない船の処遇だ。

 

 「やはりスクラップが妥当では? 場所も金もとるなら、少しでも意義のある使い方をすべきでしょう」

 「遠方にはムーという国があるそうだろう? なんでも戦艦を運用してるらしいじゃないか、無論調査は必要だろうが、ふっかけてやれるんじゃないか?」

 「まだ国交すら結んでいない国ですよ? かなり離れているようですし、信頼に値するのか調べるだけでもどれだけ時間がかかるか……。分かるころには赤錆まみれになっているでしょう」

 「近隣諸国にクワ・トイネとクイラみたいに信頼できる国はないのか?」

 「アルタラス王国という国が候補に挙がっていますが、パーパルディアの勢力圏に近いので引き込むにはもう一手欲しいところです」

 

 軍人たちの会議は続く。

 結論として、国防軍で使えない性能の船の内、状態の悪いものは全てスクラップ。状態の良いものは将来、他国への輸出用に保管されることが決まった。

 

 

 

 

 

 元ロウリア王国の諸侯だった男は神と日本に感謝していた。

 日本によって王国が崩壊し、混乱の中で王都に幽閉されていた息子が帰ってきた。

 その息子から渡された日本からの書状。内容は脅し3割取引7割といったものであった。

 王国を滅ぼした相手に思うところはあったが、王国崩壊による物流の混乱と他の諸侯の不穏な動きが重なったことと、取引の内容を信じれば、自分の懐から出すものがあまりないことから提案を飲むことを決めた。

 それからは早かった。

 日本の大きな商会――企業というらしい――が、王国が誇った大艦隊の拠点を超える規模の港を造り、領地にアスファルトという素材の道を張り巡らせた。それらの工事の際に企業は作業員として領民を雇ったので失業者が皆無に近くなり、犯罪も減って消費が増え、領地は活気づいた。

 不穏な動きをしていた隣の諸侯も、日本からの援軍にあっさり返り討ちに遭った。最近、日本に講和を求めたらしい。

 

 「……どうせなら、あの船に来てもらいたかったな」

 

 執務室の窓から港を眺める。

 そこには日本からの援軍であるミサイル駆逐艦が4隻埠頭へつながれている。より小さなミサイル艇などと共に派遣された彼らは、無いに等しい諸侯海軍に変わって周辺海域の犯罪取り締まりを行っている。

 今港に停泊している船が強いことはよく分かっている。

 数日前、敵対している諸侯が送り込んできたワイバーン6騎を光の矢をもって即座に撃ち落とすのをこの目で見ているのだから。

 だがあの戦船の雄姿は男の心をつかんで離さず、脳に焼き付いている。

 

 ――神竜を想像させる荘厳な巨体に収められた42cmという信じられない巨砲。それを3門束ねた砲塔を4基背負い佇む様は、まさに黒鉄の城と呼ぶにふさわしい威容だった。

 

 訓練を兼ねた親善訪問で一度訪れてそれっきりであり、滅多なことではここに来ることはないだろう。あの船を呼び寄せる伝手も金も、男にはない。

 そこで男はふと思い出す。

 日本に留学させる予定の息子が、あの戦船の精密な模型を売っている企業が最近領地に出店したと話していた。

 

 「模型で我慢するか」

 

 執事に日本企業から戦船――戦艦やまとの模型を買ってくるよう命じる。出来が良かったら、息子に見せて自慢しようかなと考えながら。

 これがきっかけとなり、後にこの領地は『ロデニウス大陸におけるモデラーの聖地』と呼ばれることとなる。


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