準備期間をおいてから日本国召喚   作:レシプロ至上主義者

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次へ向けて・終歩

 アルタラス王国国王ターラ14世は緊張していた。以前から極秘裏に進めていた日本との交渉、その最終段階に入っていたからだ。

 

 「ではこの内容でよろしいですね?」

 「うむ。契約書にあるとおり、わが国は日本国に対し土地の一部を300年租借する。その対価として、日本国は我が国に各種支援を行う。これでお願いする」

 「承知致しました。陛下のご英断、首相にも必ずお伝えします」

 

 自身のサインが記入された書類を鞄にしまい、日本の外交官はそそくさと退室していった。

 それを見届けたターラ14世は腰が抜けたかのように、ドカッと勢いよく椅子に座り込む。

 

 「ようやくか……」

 「ここまで長かったですね。あとは……」

 「パーパルディアに露見しないか、だな。……無事に彼が日本にたどり着けば、我が国はパーパルディア皇国の影響下から抜け出せる」

 「陛下……言いたくはありませんが、頭の上の重しが日本に代わっただけではありませんか?」

 

 臣下の言葉に何をいまさら、といった顔をするターラ14世。

 

 「どちらも重しには違いない。だが日本は搾取するだけでなく、対価を提示した。それにより、我が国は間違いなく富むだろう。……ただ肥え太っていくだけの獣よりは万倍マシだ」

 

 力関係で向こうが上である以上、搾取されるのは仕方がない。

 だが日本は搾取するだけでなく、働いた分、支払った分の対価を出し、自分たちに過失があったら責任を取るとまで言ってくれた。

 その言葉を信じられるかは――特に最後――ともかく、ロウリア王国を一日で瓦解させた実力と、日本に鞍替えした旧ロウリア諸侯への待遇から賭けにでることを決意した。

 

 「お前も知っているだろう? 新しい皇帝が即位してからというもの、パーパルディア皇国は日に日に横暴になっている。このままいけば何を要求されるか分かったものではない」

 「それはそうですが……」

 

 尚も言いつのろうとする臣下にターラ14世は手を振って遮る。

 

 「どうあれ、賽は投げられたのだ。我々の世代が後の世で日本の属国になる選択をした売国奴と蔑まれるか、アルタラス王国中興の祖と称えられるかは、我々の今後の働きにかかっている。時間はあまりないが、やれることをやるぞ」

 

 決意のこもった瞳とともに断言するターラ14世。

 彼の決断により、パーパルディア皇国全土は日本の爆撃圏内に収まった。

 

 

 

 

 

 国防装備研究庁の管轄するビルの一室、そこにはロデニウス大陸の友好国から集められた魔導士たちがいた。

 

 「皆様にわざわざ我が国にまでお越しいただいた理由は、皆様の持つ魔法の知識……そして魔法を使えるがゆえの視点を求めたためです」

 

 挨拶もそこそこに司会を務める男は説明を始める。

 

 「ご存知の方も多いと思いますが、我々日本人は魔力を持ちません。ですので魔法も使えない。しかし、魔法技術を理解し分析するには、やはり専門家がいてくれたほうが心強い。そのために皆様が集められました……。ここまではよろしいですか?」

 

 戸惑いながらも理解を示した彼らに、司会役の男は話を続ける。

 

 「分析の対象は古の魔法帝国を含めた、魔法国家です。彼らの魔法の道具はどのような原理で、どのように動くのか? また我々が実現、あるいは構想していることを彼らは実現可能か? それを知るのが我々の目的です。手始めに、こちらの映像をご覧ください」

 

 室内が暗くなり、プロジェクターが司会の手の先に映像を映し出す。

 映像では、金属製の分厚い板に画面の外から飛んできた物体がぶつかった瞬間、激しい炎と光とともに穴が開く様子が映っていた。

 

 「特殊な形状の容器を用いて火薬の力を一点に集中させ、分厚い装甲に穴をあける……わが国ではHEATと呼ばれるものなのですが、魔法を用いて同じことは可能でしょうか?」

 

 ざわざわと喧騒が魔導士たちの間に広がる。

 ややあって、旧ロウリア貴族領から来た老人が手を挙げて答えた。

 

 「可能かと思われます。同じ形状の器を用いて、火薬の代わりとなる魔法……火、風、それから雷属性の魔力で組んだもので再現できるでしょう。無論、試行錯誤は必須でしょうが」

 「ありがとうございます。……やはり魔法で科学の再現は可能ですか。では次にこちらの古の魔法帝国が運用していた兵器について……」

 

 日本と友好国の頭脳の共同作業は続く。

 

 

 

 

 

 第2文明圏の列強国ムー。

 神聖ミリシアル帝国に次ぐ世界2位の大国であり、独力で機械文明を発展させてきた歴史を持つ。

 ムー国内にある空軍基地と民間空港が併設されたアイナンク空港に技術士官マイラスが呼び出された。

 

 「技術士官のマイラスです」

 「ご苦労、マイラス君。さっそくだが今日、君を呼んだ理由について話そう。つい先日、我が国に国交開設を求めて訪れた艦隊。特に旗艦を調べてもらいたいのだ」

 「? 艦隊の旗艦を、ですか?」

 「うむ、日本国というらしいのだが、なんでも文明圏外国家らしいが、そうとは思えないのだよ」

 

 出会いがしらにいきなり本題に入る上司に困惑しつつも、まじめな態度を崩さないマイラスに上司から数枚の写真が手渡される。

 

 「こ、これはっ!!?」

 

 マイラスは見せられた写真を食い入るように見つめ、ワナワナ震える。

 写真には、ラ・カサミが巡洋艦に見えるほどの巨大戦艦が写っていた。

 

 「この戦艦は日本国のものらしい。彼らはそう言ってはいるが、正直信じがたいというのが本音だ。魔力の反応も一切なかったからね」

 「つまりこれは内燃機関で動く機械文明のものだということだが……、もしそうなら日本国は我がムーを超える技術力を持っていることになる。そこでマイラス君。君には彼らの軍艦が、我が国より本当に優れているのか調べてほしいのだ」

 「幸いと言うべきか、彼らは飛行機械も有しているようでね。ここ、アイナンク空港に来ている。我が国を案内して我が国の技術を見せつつ探りを入れてくれたまえ」

 「分かりました。このマイラス、全身全霊で任務にあたります」

 

 外交官と上司に説明されたマイラスはピシリと敬礼して任務を受諾する。

 

 (ラ・カサミを超える戦艦に独自開発の飛行機械を保有する国家だと……! 信じ難いが、もし本当なら是非とも間近で見たいものだ!)

 

 内心では使命感と好奇心が溶け合いつつ、やる気となって燃え盛っていたが。

 

 

 

 

 

 空港に着陸した日本のヘリコプターに驚愕したり、ムーの歴史を教えた際に実は大昔の友好国だったことが判明したりした激動の数日を乗り越え、ついにマイラスは日本の戦艦を直接見る時が来た。

 港から見える位置に、日本国の戦艦は停泊していた。

 

 「あれが我が国の保有する4隻の戦艦が内の1隻、ながとです」

 「あれが……」

 

 写真で見るのとは違う、船から発せられる見えない圧力を感じる。

 大きくもしなやかさを感じさせる船体に、城砦を思わせる重厚な艦橋と連装砲4基8門を載せた黒鉄の要塞。

 

 「主砲は42cm連装砲4基8門。また各種装備も我が国の優秀なものを搭載しており、世界最強の戦艦と自負しております」

 「よ、よんじゅう…………。ははは……、それだけの大口径なら威力も凄まじいのでしょうね」

 「はい。それ相応の防御を取り入れた軍艦でなければ、一撃轟沈もありえます」

 

 自国の戦艦がまさにそうなりそうだと、冷や汗をかきながら顔を引きつらせるマイラス。

 ちなみに彼らの周囲では、見たこともない巨大戦艦を一目見ようと人だかりができていた。

 

 「少し静かな場所へ行きませんか? ここでは落ち着いた話は無理でしょうから……」

 「……そうですね」

 

 気遣うべき客人に気を遣われる。

 専門の外交官ではないとはいえ、これはマイラスの失点に違いなかった。

 恥じ入りながら近くの喫茶店へ案内し、用意させたコーヒーをすすりつつ精神を落ち着かせ、思考をまとめる。

 

 (日本は間違いなく我が国を超える技術力を持った国だ! ながとだけではない。それらを作り、運用できる国力……国の基礎からしてムーよりも巨大かつ強固なんだ!)

 

 日本の使節相手にムーの力を見せるたびにカウンターを食らってきたマイラスは、日本がムーよりも国力で優ることを認めていた。

 だがそれはマイラスが、ムーが両手を上げて降参することを意味するものではない。

 

 (確かに戦争や貿易で勝ち目はないかもしれない。だが我が国は世界第2位の列強として培ってきた各国との伝手がある。それにもし、西で暴れているグラ・バルカス帝国と日本が対立したら我が国は地理的に重要な拠点となりうる。そこを売り込めばあるいは……)

 

 自分の手札をどう使えば日本相手に有利に立ち回れるか、マイラスは脳を高速回転させて考える。

 

 (いずれにせよ、上が勘違いしないよう注意しつつ、外交部とも連携をとって少しでも有利な立場を確保していくしかない)

 「……先ほどは失礼しました。みっともないところをお見せしてしまい……」

 

 コーヒーで湿らせたマイラスはまず謝罪を口にする。

 事実であり、また彼らの性格からして下手に出ることで好印象を与えられると踏んだからだ。

 

 「マイラスさん、気にしないでください。自身の常識から外れたものを、こう何度も目の当たりにしていたら、誰でもそうなるでしょうから」

 「お優しい言葉、感謝します」

 

 遠回しに自分たちの力を誇示しつつ、相手を許すことで器の大きさを見せつける。

 出会った頃ならともかく、腹の決まったマイラスは動じることなく笑顔で礼を言う。

 

 「日本の力は、この数日でよく理解できました……。願わくば良い関係を築きたいものです」

 「我々も同じ気持ちです。しかし、信頼関係には相互の誠意が不可欠。これは一朝一夕で築くことは叶いません」

 (すぐには技術供与しない。してほしければそれ相応の対価をよこせ、といったところか……)

 

 内心で納得するマイラス。

 どこだってよほどのことがなければ、自国の先端技術を他国へ売るはずがない。

 

 「……長い付き合いになりそうですね」

 

 乾いた笑みを浮かべるマイラスに外交官はニコリと笑いかける。

 

 「そうですね。願わくば、それが両国にとって望ましい形であることを願うばかりです」

 

 後世に知日派の代表格として歴史に名を刻むマイラス。

 そのきっかけとなった日本国使節の案内は、彼にとって祖国の前途多難を予想させるものであった。

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国属領クーズ領。

 

 パーパルディア皇国の過酷な統治下にある属領の1つであるこの地の住人は、みなパーパルディア皇国の暴虐と搾取に苦しみ、暗い表情を浮かべている。

 日が暮れつつある時間、人もまばらな道を妙に存在感のない男が歩いていた。

 

 「………………」

 

 男は町を出て森の中にある小屋に入ると、糞尿の入った壺をどかし、床板を外してさらに土を掘る。しばらく掘ると、汚れた木箱が土の中より出てきた。

 箱の中から男は金属の箱状の製品――通信機器を取り出し、操作を始める。

 

 「クーズの“労働者組合”は順調に拡大中。ストライキにはあと2カ月を要する…………」

 

 機械を前にぶつぶつとつぶやきながら操作を続ける。

 全ての操作を終えたのか、男は通信機を箱に戻して穴の底に音を立てないようそっと置いた。

 

 「……自由と権利のために精々、働いてくれたまえよ? 労働者諸君」

 

 陰湿な笑みを浮かべながら、労働者だった男は通信機の入った箱を土の中に埋めた。




 なおアルタラスの決断によって日本にとっての価値が激減した国があります。

 いや~いったいどこの他国を紛争に巻き込もうとする王国なんでしょうね~?
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