準備期間をおいてから日本国召喚   作:レシプロ至上主義者

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階段を踏みしめて・9段

 日本本土にある国防装備研究庁に、ジェットエンジンに酷似した工業製品が秘密裏に運び込まれた。

 

 「これがか?」

 「はい、神聖ミリシアル帝国のジェットエンジン――彼らが魔光呪発式空気圧縮放射エンジンと呼ぶ、魔法で動く発動機です」

 

 研究員たちの前に鎮座するのは神聖ミリシアル帝国製ジェットエンジン。

 管理が比較的ゆるかった旧型を、ジーミ王国の協力を得て第3国経由での輸入に成功したのだ。

 対価は鹵獲した(日本基準で)骨董品の暗号機30台。

 

 「軽く調べたそうだが、何か分かったか?」

 「はい。まず材質が想像以上に悪いです。魔法で部品を強化して誤魔化していますが、魔法がなければネ20のようなことになっていますね」

 

 戦前の日本で製作されたジェットエンジン、ネ20。

 特殊攻撃機橘花の心臓にもなったエンジンだが、信頼性、耐久性、出力とエンジンとして大事な要素全てに問題を抱えており、平時なら実験用の域を出ない代物であった。

 

 「他にもサイズのわりに出力が低すぎますね。これで実戦用の軍用機を作るのはかなり無理があるかと。これ以上は もっと時間をかけないと分かりません」

 「……旧型ということを差し引いても酷いな。ジーミ王国かミリシアルに粗悪品を掴まされたんじゃないのか?」

 「上もその可能性も疑っているようで、念のため別ルートからも入手するようです。……これは個人的な感想ですが、たぶんこいつは正規品だと思います。粗悪品にしては、製造も管理も、きちんとされていたことが伺えますから」

 

 優秀で周囲からの信頼も厚い職員の言葉に、上司はうなりながら考える。

 

 「そういえば……神聖ミリシアル帝国はラヴァーナル帝国の遺跡から発掘したものを解析して近代的な文明を築いていると聞いたな。まさか、現物のデッドコピーばかり繰り返して、理論や基礎研究が進んでいないのか?」

 「さすがにそれはないかと……。飛行機を大々的に運用しているのですから、ある程度の理論はあるはずです」

 

 常識的に考えれば、工業製品を量産し、運用するのであれば、それらに関する技術と学問がある程度は蓄積されていなければならない。

 機械とは精巧になればなるほど、基礎の遅れが形となって出てくるのだから。

 

 「うーむ、ミリシアルに関してはもっと探りを入れてもらわねばならんか。報告書に意見を添えておこう」

 

 国防装備研究庁の職員たちは、異世界最強国家の国力を探るべく動き始める。

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国からの暴発を狙った無礼千万な要求に宣戦布告で答えたアルタラス王国では、日本からのタレコミもあってすでに迎撃準備に入っていた。

 

 「敵艦隊の位置は間違いないか!?」

 「問題ありません! 念のために日本にも確認を取りましたが、向こうの情報とも一致しました!」

 

 最終確認を終えたアルタラス王国空軍司令官は、興奮で目をぎらつかせる部下たちに訓示を述べる。

 

 「これより我がアルタラス王国軍はパーパルディア皇国軍に対し、攻撃を開始する。列強が相手だが、日本から供与された兵器とそれを使いこなす諸君らがいる限り、我が国に敗北はない! 心してかかれ!」

 「「「ハッ!」」」

 

 ムーが建設した空港とは別の、日本がアルタラス王国軍の訓練用に作り上げた簡易飛行場からプロペラ、もしくはジェットの噴流を吹き散らしながら離陸してゆくのは、明らかに人が搭乗できないサイズの小型飛行機。

 これこそがアルタラス王国空軍、唯一にして主航空戦力たるドローン兵器たちである。

 当初、アルタラス王国としては航空戦力を全て日本の戦闘機に置き換えるつもりでいたのだが、日本側から予想されるパーパルディア皇国の進攻にパイロットの育成が間に合わないと伝えられて頓挫してしまった。

 そこで提案されたのが、この無人機である。

 物にもよるが、有人飛行機よりも操作の習得が容易で、それほど高度な設備を要求されない。非近代・非科学国家のアルタラス王国でも比較的早期に戦力化できるドローンが、アルタラスの事情に合致していると説明された。

 この提案を呑んだアルタラス王国は、パイロット候補を日本に派遣して訓練してもらいつつ、国内の空軍兵士たちに猛訓練を課し、顧問団とセットで送られてきたドローンの操作を覚えさせた。

 アルタラス王国の希望と命運を背負い、多種多様なドローンが、パーパルディア皇国竜母艦隊を攻撃すべく飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国監察軍の艦隊はアルタラス王国へ進路をとっていた。

 目的はアルタラス王国の占領。上陸とともに兵力差に物を言わせてアルタラス王国軍を粉砕し、電撃的に王都を占領、そのまま国家崩壊へ追い込むという作戦が採択された。

 

 「竜母6隻とそこに載せられたワイバーンロード。これをもってまず制空権を確保し、その後に上陸を開始する。各員、油断なく事に当たれと伝えよ。アルタラス如きに被害を出したら、末代までの恥だぞ」

 『はっ!』

 

 魔信で艦隊の面々に、再度の作戦手順の確認と訓示を終えたポクトアール提督は船窓へ顔を向ける。

 丸い船窓からは、雄々しく波をかきわけ進む竜母が見える。

 

 「戦列艦もいいが、竜母もまた逞しくも美しい、いい船だな」

 

甲板にワイバーンを上げ始めた竜母に突入していく影が一瞬、ポクトアールの目が捉えた。

 

 「……んっ!!?」

 

 窓の向こうで竜母が爆発し、沈んでいく。

 さらに飛来してきた黒い影は竜母に激突するたびに竜母が爆発して沈むから大きく傾く。

 

 「なんだ!? 敵の攻撃か!!? 通信兵、今すぐ上空で警戒中のワイバーンロードに命令しろ! 敵の攻撃を受けている。周囲を調べ、敵を見つけ次第攻撃せよ、だ!」

 「了解しまし……」

 

 通信兵が返事を終える前に、ポクトアールの意識は闇に落ちた。

 全ての竜母を潰し終えて、あぶれてしまった自爆ドローンの操縦者がたまたま目につけた戦列艦が、ポクトアールのいる旗艦だった。

 この些細な不運から、パーパルディア艦隊は混乱の収束にかなりの時間をかけることとなる。

 

 

 

 

 

 低視認迷彩を施し、低空を飛行してきたドローンに母艦をやられたワイバーンロードたちは、遮二無二アルタラス王国へ飛んでいく。

 竜母を全て撃破された以上、彼らが下りられる場所はアルタラスしかないのだ。海上に着水することもできるが、そうすれば愛騎を失うことになる。人は引き上げられても、ワイバーンは重過ぎる。

 相棒とともに生き残るには、アルタラスの一部を占領し、友軍が来るまで粘るしかない。

 

 「……! 陸地が見えたぞ! 地上の蛮族どもを焼き払え!」

 『おおおーーーっ!!!』

 

 もともとアルタラス王国の近くまで来ていたこともあって、すぐに陸地が見えてくる。

 自分たちが生き残るためにも、一刻も早く上陸地点のアルタラス兵を殲滅し、味方がすぐ上陸できる状況にしなければならない。

 焦りが隊長の思考を焦がすなかで、陸地から光が煙とともに現れる。

 

 「……? なんだあれ」

 

 は、と続けようとした隊長は煙の尾を引きつつ突入してきた灰色の槍の爆発で消滅した。

 

 『た、隊長ーっ!!!』

 

 自分たちの上司が一瞬で死んだことを理解した誰かの叫びが魔信を通して部隊の全員に伝わる。

 そこへ僅かな時間差で発射された灰色の槍が再び爆発する。それも複数。

 血と肉の雨がアルタラスの海と大地に降り注ぐなか、幸運にも狙われなかったワイバーンロードたちは速度を上げて鉄臭い雨を浴びながら突き進む。

 このまま空にいたら死ぬ、さりとて地上に降りてもアルタラス兵に殺される。ならば殺される前に1人でも多くの敵兵を道連れにしてくれる。

 自棄と狂気が混じった思考で突進しながら、また1騎、1騎と落とされていく。

 最後に残った1騎が陸地の上に達した。竜騎士は歪んだ笑みで相棒に導力火炎弾を噴くよう命じ――四方八方が撃ち込まれた大小様々な光弾によってミンチよりも損壊の激しい死体となった。

 

 

 

 

 

 「空軍連中はよくやってくれた。これで我々は頭上を気にすることなく戦える」

 「司令官、そろそろ……」

 「うむ。……」

 

 指揮官を失い、航空戦力も失ったパーパルディア艦隊は、それでも上陸を決行した。

 やられたまま引いては国に帰った際にどのような処罰が下るか分からないのに加え、あれ以降竜母を屠った攻撃が行われなかったことから、もう実行できないか、何かしらの制限があるのだろうと推測――現実逃避ともいう――し、陸戦に持ち込めれば勝機はあると判断したのだ。

 パーパルディアの技術レベルに似合わぬ近代的なデザインの揚陸船が、アルタラスの砂浜目がけて突き進む。

 リントブルムと兵員を載せた木造のそれにロケット、榴弾、迫撃砲弾が弾雨と表現するのに不足ないほど撃ち込まれる。

 一方的に攻撃される揚陸船を支援しようと砂浜へ近づく戦列艦。そちらにも火力の一部を向けられたことで、これまで文明圏外国家相手に無敵を誇った戦列艦が、誘爆によりはじけ飛ぶ。

 しかしその隙をついて数隻の揚陸船が接岸に成功した。

 

 「急げ、急げ! 船にいたら狙われるぞ!」

 「リントブルムを前に出せ! 盾にして前進するんだ!」

 

 数十倍もの人間と装備を犠牲に上陸を果たした皇国兵たち。

 どうにか一矢報いようと足掻くが、事前に上陸地点を予測して張り巡らされた鉄条網に阻まれ、前進できずにいる。

 

 「上陸を許したか……、上陸地点に主力部隊を向かわせろ! 一兵たりとて生かして返すな!」

 

 日本国防陸軍式教育を受けた精鋭部隊。装備も人員もアルタラス最高の部隊が上陸部隊の前に立ちはだかった。

 アルタラス王国陸軍の主力を務めるのは戦車……ではなく自走高射機関砲と155mm自走砲である。

 日本との交流以前から列強の研究をしていたアルタラス王国は、当然のように日本の研究も行い、その研究結果をもとにこれらの装備が最適であると結論付けた。

 

 ・パーパルディアのリントブルムを遠距離から撃破できるのは戦車砲も高射機関砲も変わらない。だが機関砲は歩兵を薙ぎ払うのにも使える。

 ・戦車との最大の違いとして、ワイバーン対策も一緒に出来る。高射機関砲1本に絞れば、数をそろえて地上と空の防御を厚くできる。

 ・高射機関砲が届かない距離に逃げる戦列艦は155mm自走砲と対戦車ミサイル、空軍の支援で対処すればよい。

 ・まとめ買いで単価を下げ、浮いた予算で予備の砲弾と部品を買える。

 

 つまり相手に脅威となる火砲を備えた装甲戦力が存在しないため、航空戦力にも同時に対処できる自走高射機関砲を求めたということだ。

 

 「目標! 敵歩兵ならびにリントブルム。敵船は砲兵に任せろ!」

 「了解! 1号から4号、一斉射撃開始! 撃てーっ!!!」

 

 40mm、35mm、30mm、20mm……日本中からかき集めた高射機関砲から、人間には過剰な威力を持つ4種の砲弾が放たれる。

 原始的な矢を弾くリントブルムも、金属製の怪物を倒すために生み出された鉄礫には耐えられず、周囲のパーパルディア兵たちと共に砂浜を赤く染めながら躯を晒していく。

 

 「提督! 上陸部隊はアルタラス王国軍の迎撃にあい、全滅しました! 援護に向かった戦列艦も……」

 「……ここまでだな。艦隊は反転し、本国へ帰還する」

 

 最後の賭けであった上陸作戦も失敗に終わったことで、代理で指揮を執っていた提督は撤退を決断する。

 

 「敵残存艦艇、撤退していきます」

 「日本軍に連絡して、温存しておいた大型無人機を発進させろ! ワイバーンがいなければ落とされる心配はない!」

 

 目の前で尻尾巻いて逃げようとする侵略者を見逃すほど、アルタラス王国軍はお人よしではない。

 内燃機関搭載の船に比べれば悲しいほど遅い帆船たちは、それでも風神の涙を全力稼働させつつ、群れの一部を犠牲にしながらアルタラス島から少しずつ遠ざかっていく。

 

 「榴弾砲、対戦車ミサイルは射程に入っている限り攻撃を続けろ! 空軍と日本軍には射程外へ逃げた奴を狙うよう強く言っておけ。ここで逃したら陛下と国民に顔向けできんぞ!」

 

 爆弾、ロケットあるいは機関砲を載せた大型無人機と自爆用小型無人機が、散り散りとなって逃げようとする戦列艦を1隻ずつ仕留めていく。ワイバーンの援護もなく、まともな対空兵器を持っていない彼らにできる抵抗は逃げることだけである。

 技術、戦意ともにパーパルディア軍に勝っていたアルタラス王国軍は、パーパルディア皇国の侵略の手を跳ね除けることに成功した。

 リントブルムの死骸等の戦利品は日本と共同で調査されることとなり、捕虜は一部の例外を除き、アルタラスの法に則り鉱山労働へと駆り出されることとなる。

 

 

 

 

 

 日本最西端の島より、100km西の海。パーパルディア皇国海軍は既にここまで進出していた。

 アルタラスの海で起きた同胞の悲劇など知る由もない彼らは、ムーによるこれ以上の日本支援を防ぐため、ムーの物資を降ろしているらしい島への攻撃を準備していた。

作戦の重要性から、12隻もの竜母が投入されている。その威容は文明圏外国家の中小国家が震えあがり、降伏を視野に入れるほどだ。

 

 「これほどの戦力を任されるとは……。感慨深いが、蛮族ごときが相手では少々物足りないな」

 

 艦隊を指揮するバーンは、これほどの戦力を任されたことへの喜びと、その力をふるう先が相応しい相手でないことに落胆を感じていた。

 

 「提督、そろそろワイバーンロードの攻撃圏内です」

 「よし、ヴェロニアを除く全竜母、発艦はじめ! 不遜なる蛮族どもを殺してこい!」

 

 旗艦ヴェロニアから発せられた命令に従い、11隻の竜母からワイバーンロードが甲板を蹴って空へ舞う。

 100騎のワイバーンロードは、艦隊からみて東にある日本の島、クッハパャ・ソウへ攻撃すべく飛行する。

 

 

 

 

 

 蛮族に一撃を加えんと士気あげている竜騎士たちが向かう先、クッハパャ・ソウは無人島だったが、開拓が進められていた途中でパーパルディア皇国の侵攻が起きたために、ある施設が建設された。

それは日本製戦闘機導入で、不要となったワイバーンをクワ・トイネ公国、クイラ王国から運び、国防陸軍工兵隊が1カ月半で用意した厩舎に押し込んでできた偽ワイバーン基地である。

 滑走路に至っては地面にベニヤ板を敷いて、ペイントしただけというお粗末さであり、そのお粗末な滑走路の脇に並んでいるのは、ムーから引き渡されたマリンなどのムーの航空機に加え、日本が鹵獲した複葉機多数。

 低コスト・低クオリティを徹底して作られた偽装基地。

 そんな失っても損など無いに等しい基地を、パーパルディア皇国の竜騎士たちは襲撃した。

 

 「まだ離陸していないな……ワイバーンと飛行機械を優先しろ! それを片付けたら全て焼き尽くせ!」

 『ハッ!』

 

隊長の命令に従い、竜騎士たちは厩舎と滑走路脇の古典的航空機にブレスを浴びせ、その後は目についた物、人を焼き払っていく。

 基地がクッハパャ・ソウの面積に対して小さかったこともあり、30分ほどで基地だけでなく、埠頭とそこに停泊していた帆船も焼かれ、使い物にならなくなっていた。

 

 「これだけやればいいだろう、全騎帰投するぞ!」

 

 奇襲が成功したからとはいえ、圧倒的勝利を納めた竜騎士たちは意気揚々と母艦へ帰ってゆく。

 迎撃が一切なかったことなど、勝利に酔っている彼らは気にもしていなかった。

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国日本侵攻艦隊の20km離れた位置の海域。その水面下で、潜水艦あかしおはレーダーで敵艦隊を捕捉しつつ、反撃の時を待っていた。

 

 「やはりワイバーンはとろいな……」

 「所詮は生き物ですし、近代戦に対応できない兵器ですから。ドン亀なのも当然かと」

 「まあそのおかげでこっちも準備万端でお出迎えできるわけだが。副長、カメラはしっかりと動作しているか?」

 「はい、つつがなく。このあかしおでもしっかり受信していますよ」

 

 カメラが写しているのは、火の手が上がるクッハパャ・ソウ基地。

 後に必要となる正当性確保のための証拠集めとして配置されたカメラたちは、一部犠牲となりつつも立派に使命を果たしていた。

 

 「艦長、通信です。『クッハパャ・ソウが武装勢力により攻撃を受けた。付近の国防軍部隊はただちに反撃を開始せよ』、と」

 「よし分かった。……総員、ミサイル試験の時間だ。配置につけ」

 

 ロウリア戦争にて、木造船への有効性が証明されたサーモバリックだが、ミサイルで使用した場合はどうなるのか?

 もしミサイルでも十分な効果があるのなら、色々と使い道が出てくる。ちょうど在庫余りの亜音速対艦ミサイルがあるから、これを改造して試してみよう。

 水上艦でも航空機でもなく、潜水艦が反撃役に選ばれた理由がこれである。

 

 「竜母にミサイル発射。弾頭はサーモバリックだ」

 「了解。僚艦との目標重複を避けるよう徹底しろ。サーモバリックミサイル、発射」

 「付近の海域より、発射音を確認。ひきしおのものと思われます」

 「ひきしおからデータ、入りました。目標は外周の戦列艦です」

 

 一切の憐れみも気負いもなく、海狼たちは攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 ワイバーン隊から魔信で戦果報告を受け取った艦隊ではちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。

 敵の航空戦力が飛び立つ前に基地ごと全滅させられたのだ。相手が格下の蛮族とはいえ、大戦果には違いない。

 

 「海面から何かが打ちあがっ……こ、こっちへ飛んできます!」

 

 見張り員が大声を上げて報告をしてから、詳細不明の物体が艦隊に到達するまで3分足らず。

 下っ端の水兵だけでなく、指揮官たちまで浮かれていた艦隊は、全方位から接近してきた何かから発生した火球によって海上のオーブンへと姿を変えた。

 僅かな生存者たちは、誰にも気づかれることなく日本の海に還ることとなる。

 

 

 

 

 

 クッハパャ・ソウで起きた喜劇は、衛星を通して日本本土の会議室にも届けられていた。

 

 「――素晴らしい。完璧だ、国防大臣。これだけの証拠があれば、攻撃されたのが囮でも問題ないだろう。外務大臣、友好各国への根回しは?」

 「完了しています。総理の決断でいつでも開始できます」

 「よろしい、フェン王国の保護占領を開始してくれ。……国防大臣、その後に行われる武装勢力に対する武力行使の説明を」

 「はい、まずはアルタラスとフェンに大規模な飛行場を建設し、空軍輸送飛行隊を配置します。この部隊に配備する予定の新兵器……輸送機投下型巡航ミサイルパレットを使用し、武装勢力、パーパルディア皇国首都エストシラントを含む主要都市。並びに事実上の植民地である属国の軍・政府関連施設を一斉攻撃します」

 

 国家の中枢への攻撃。国家を預かる者にとって悪夢でしかないそれを、辺境の支部にまで徹底して行う。

 これが成功すれば、パーパルディア皇国は国家の屋台骨どころか、生命活動に必要な器官をほぼ全て失うこととなる。

 

 「新兵器が故障を起こしたらどうする? エストシラントとデュロは近いからどうにかなるが、属国は少し遠いぞ」

 「そのときは代わりとして、本土に待機させている爆撃機、水上艦艇に巡航ミサイルを撃たせますので、多少作戦開始が遅れる程度ですむ予定です。……話を戻しまして、巡航ミサイルで敵の指揮系統を破壊したのちに、各属領の反パーパルディア組織を蜂起させて独立宣言を行わせ、最後にエストシラントとデュロを占領します」

 

 作戦の流れを説明しきった国防大臣は、胸を張り、腹に力を込めて宣言する。

 

 「アルタラス、エストシラント、フェン、デュロ、そしてロデニウス大陸を押さえることができれば、本土より西に多段式の哨戒・防衛網を構築できます」

 

 それは1度目の転移以来、多くの戦災に晒され、怯えてきた日本人の悲願だった。

 特にアルタラスとエストシラント、フェンは日本の船が使う航路のすぐ近くにある。シーレーン防衛、西方から来る敵の早期発見、撃破するためには是非とも手に入れたい場所である。

 

 「東に関してはあまり拠点に適した外地がないので、新内地と同盟国、それとロデニウス大陸東海岸に基地を建設して、可能な限り遠方での早期発見に努めます」

 「南東と北東に国家がなかったか? そこを抑えれば少しはましにならないか」

 「南東の国家とはすでに接触し、外交交渉が始まっているそうです。北東の国は円のように一周した、険しい山脈の内にあるため、万が一の際に安全確保が難しいのでパーパルディア皇国を片付けてからになります」

 

 東に関しての警戒網の現状と将来について語ったところで、国防大臣はふと思い出したことを話題に挙げた。

 

 「それと総理、今回犠牲となった者たちについては、本土にて慰霊式典を開こうと思うのですが」

 「ああ、それで構わんよ。何せ人生最後に祖国の役に立ち、罪を贖った人間に、鞭打つつもりはないからな」

 

 実に穏やかな、嘲りと蔑みのこもった瞳の笑みで優しく答える総理。

 死者を意味もなく辱める趣味など、持ち合わせてはいないのだから。

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