準備期間をおいてから日本国召喚   作:レシプロ至上主義者

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 全国のパーパルディア皇国ぶっ殺し隊の皆様、お待たせいたしました。

 それでは……パ皇崩壊RTAはっじまっるよ~!


階段を踏みしめて・13段

 「どういうことだ!?」

 

 第3外務局の執務室にて、カイオスの怒号が窓ガラスを揺らす。

 上司の怒りを浴びせられ、身を竦める職員を無視してカイオスは声を張り上げる。

 

 「今回の作戦には監察軍だけでなく、海軍も加わっていたのだぞ!? ワイバーンは全てロードとオーバーロード種で固められ、戦列艦も150門級以上で編成されている。制空権、制海権を確保して速やかに上陸できるはずだ。それほどの戦力が、全滅!? こちらに一報をよこす余裕もなく!!? ありえんだろう!」

 「ですが、フェンへ侵攻した艦隊以外は誰一人として連絡が取れません。アルタラスへ近づこうとすると、必ず消息不明となることも考えると、やはり全滅したと考えたほうが……」

 「……百歩譲って日本懲罰艦隊が全滅したのはわからんでもない。実はムー正規軍が日本に駐留していて、返り討ちにあったのだろう。だがアルタラスへ派遣した艦隊まで全滅するなどありえん! 連中は蛮族どものなかでは優秀だったが、列強の軍を壊滅させられる力など無かったぞ!」

 

 叫ぶだけ叫んで、頭を抱え込んでしまう。彼の頭はこの理解不能な状況を前に混乱しきっていた。

 そこへ、バタンッと大きく音を立てて開かれるドア。ノックもせずに入ってきた職員は息を切らしながら報告する。

 

 「た、大変です! 日本軍がフェンへ上陸しました! 占領軍はすでに壊滅状態です!」

 

 

 

 

 

 野戦軍と艦隊をサーモバリック爆弾で焼却し、基地と統治機構は誘導爆弾で処理した日本国防陸軍海兵隊は、フェン王国南部の海岸線に油断なく上陸した。

たとえ先頭は無人化され、装甲と遠隔操作機銃をポン付けされた重機が進み、上空から海軍の軽空母から発艦した戦闘ヘリと全身翼の無人戦闘機の的確かつ迅速な援護があるとしても、接近戦では万が一がありうるからだ。

 

 「もうアマノキまで落したか。あと1日くらいはかかると思っていたんだがな」

 「無人機と戦闘ヘリがよく働いてくれているようで、おかげさまで死傷者と重傷者ゼロです」

 「閣下、現地から報告です。パーパルディアの生き残りが現地人によるリンチにあっているようです。1件、2件だけでも止めるかどうか、判断を仰ぎたいと」

 「2件ほど止めて、助けてやればあとはもういい。アリバイさえできればいいからな、それに……現地人のストレス発散も必要だろう」

 

 強襲揚陸艦秋津洲の司令部にて、現場から入る情報をさばきながら、現場で決められない問題への対応を下していく。

 

 「で、現地の抵抗組織か生き残った有力者は確認できたか?」

 「……いるにはいましたが、反パ組織は全員で30人程度の烏合の衆。有力者のほうはパーパルディアに占領されたさいにほぼ全員処刑されたようです」

 「そうか。まあいなくてもどうにかなる。それに飛行場と港さえ手に入れば、この島に用はない」

 

 悲惨なフェン王国の内情をバッサリ切り捨てた司令官は、残存敵勢力の掃討と工兵隊上陸を急がせる。

 3カ月後、離散したパーパルディア皇国軍を殲滅し終えたフェン自治区に、港と大型飛行場が完成した。

 

 

 

 

 

 パラディス城、大会議室では低気圧が吹き荒れていた。

 その中心はもちろん日本・アルタラス侵攻艦隊全滅と日本による旧フェン王国解放の報告を受けた皇帝ルディアスである。

 

 「して……カイオス、アルデよ」

 「「はっ……」」

 「蛮族どもへの懲罰失敗と、フェンが蛮族の手に落ちたことについて、何か申し開きはあるか? まずはカイオス、申してみよ」

 

 冷厳なる皇帝の詰問に、カイオスとアルデは震えながら自身が把握している情報を開陳していく。

 

 「国家監察軍が担当したアルタラスとフェン、それぞれ順を追って説明させていただきます。まずアルタラスですが、アルタラスを攻撃するワイバーンロードの発艦中に何らかの攻撃を受け、竜母群は全滅。残った戦列艦と輸送船で上陸を強行しましたが、アルタラスから飛行機械と連射式銃による反撃によって、これも全滅したと……」

 「……いずれもムーの兵器ではないか。ムーの支援を受けている日本ならばともかく、なぜアルタラスが保有している?」

 「分かりません……。なぜアルタラス如きにこれほどの軍備を用意できたのか……。日本を通じて、ムーが極秘にアルタラスを支援した可能性もありますが、それならばその兆候を我が国が掴めぬとは思えません。日本と違い、アルタラスは我が国の目と鼻の先です」

 

 艦隊との通信が途絶する前に得た曖昧な情報しかないために、カイオスも“負けたということ以外は、何もわからない”と言っているに等しい報告しかできない。

 

 「フェンについてですが、こちらもアルタラス同様、たいした情報は入っておりません。ただ基地、艦隊、野戦軍全てが攻撃を受け、壊滅したことは確かです。報告を行っていた部隊も連絡が途切れていますので、おそらく……」

 「いくらムーの支援を受けているとはいえ、皇軍が蛮族にこうも一方的にやられるか? ……ムー正規軍が加わっているのではないか?」

 「まさか……いや、しかし、そうとしか考えられませんな。早速、第1外務局と協力し、尻尾を掴んで見せます」

 

 栄えある皇軍が蛮族に負けた、と考えるより、大国の軍隊が覆面参戦していたから負けた、と考えたほうが納得できる。

 パーパルディア皇国首脳部は納得できる答えに満足し、後日ムーを問い詰めるための証拠集めを開始することを決めた。

 

 「日本での戦いについては、海軍が担当いたしましたので私が説明させていただきます。日本侵攻艦隊はムーとの関係が疑われる島をワイバーンロードで攻撃し、基地、港、停泊していた船舶全て焼き払うことに成功しました。ですが……そのあと艦隊からの報告が一切なく、こちらからの呼びかけにも一切反応がないことから、全滅したと判断いたしました」

 「まだ無事な船はあるだろう。それらを確認に向かわせればよいではないか」

 「それが……何隻か向かわせたのですが、1隻も帰ってくることがなく……」

 「……いかにムーとはいえ、1隻も逃がさず、連絡もさせずに全滅させるなどできるのか……?」

 

 日本、アルタラス、フェンと敗北が続いているのに、全ての戦いで詳しい情報が全く手に入らない。理解の及ばぬ異常事態を前に、大会議室は泥のような重い空気に包まれる。

 そのタイミングで最悪の空気となった大会議室の扉が開かれ、駆け寄ってきた軍部の士官はアルデに何か耳打ちをする。

 何を伝えられたのか、アルデは徐々に顔を青ざめさせてゆき、ついには死人のような表情となった。

 

 「アルデよ、何があった? 包み隠さず申せ」

 「……洋上で警戒に当たっていた戦列艦から、大型の飛行機械が多数、皇国本土へ向けて飛行しているのを目撃したと……!」

 「なっ……!」

 

 自国へ向けて、明らかに友好的ではない航空戦力が飛来しようとしている。

 この状況では、日本軍否ムー正規軍以外にあり得ない。

 

 「急いでワイバーンオーバーロードを出撃させろ! 1機たりとて……」

 

 ルディアスの叫びは途中で途絶えた。

 外から飛び込んできた何かが爆発し、大会議室にいた人間全てこの世から消滅させたからだ。

 

 

 

 

 

 アルタラスに設置された無人機管制室のモニターの中に映し出されているのはパラディス城。かつては優美であっただろう城の上部が無残に崩れている。

 

 「呆気ないな」

 

 エストシラント上空を飛行中の無人機操縦者が、淡々とつぶやく。彼の担当であるパラディス城含めたエストシラントを映しているものとは別のモニターには、時間と共に赤いバツ印が増えてゆくエスペラント大陸の地図が映っている。

 仮にも列強と呼ばれている国が滅びてゆく過程としては、あまりにも早く、そして味気なかった。

 フェンとアルタラスの飛行場から離陸したC-3大型輸送機、その数30。

 輸送機投下型巡航ミサイルパレットにより1機につき9発の巡航ミサイルを搭載できている。すなわちミサイルの総数は270発。

 確殺の意志が込められたそれらが、パーパルディア皇国全土の高価値目標――政府組織、軍事施設、経済関連施設へと降り注いだのだ。

 その結果は今、モニターに映るバツ印とその数が示している。

 

 「おっ、なんか兵士っぽい連中が集まってるな……。攻撃要請を出しておくか」

 

 要請を受けた無人機から投下された小型爆弾が、マスケットで武装した集団の中心で爆発する。それを阻止すべきワイバーンオーバーロードは空軍のF-15GJ戦闘機によって地面の染みに転職している。

 パーパルディア皇国のものとは一線を画す炸薬により、ゴミのように吹き飛ぶパーパルディア人。これと似たような光景は、デュロでも起きている。

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国領クーズ。その支配の象徴である総督府は、見るも無残な瓦礫の山となっていた。

 

 「本当にパーパルディアを……」

 

 クーズ独立委員会の一員であるハキは、驚きを隠さずにつぶやく。

 

 「これで信じてくれただろう? パーパルディア如き我が国の、日本の敵ではないと」

 

 ハキの隣で胸を張ってそう告げるのは、存在感の薄い男――日本の工作員である。

 クーズに潜入した彼は本国の指示に従い、これまで手塩をかけて育ててきた反パ組織に独立運動の開始を促した。

 当然というべきか、ハキを始めとするクーズ独立委員会の面々は渋った。いくら多くの支援をしてくれた相手の頼みとはいえ、列強相手に喧嘩を売れといわれてはい、と言えるわけもない。

 そのため工作員は、ハキたちを連れて見晴らしの良い場所で、この光景を見せつけた。

 力の誇示。日本という国は、お前たちを蹂躙したパーパルディア皇国よりも強いのだという証明である。

 

 「疑ってすまなかった、友よ。これほどの力を持ったお前たちが味方してくれるなら、クーズを取り戻せる」

 「涙を流すのはあとだ、ハキ。まずは残ったパーパルディアのクズどもを片付けよう」

 「そうだな……通信機で決起を伝えるんだ! クーズを取り戻すぞ!」

 

 涙をぬぐって部下に命令するハキ。工作員も用意していた無人機を飛ばし、いつでも援護できるよう準備に入る。

 よくてマスケット銃しか持たないパーパルディア皇国属領統治軍に、ボルトアクションライフルで武装し、ドローンの援護を受けた民兵たちが襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 僅かに残ったパーパルディア人の生き残りを始末した後、クーズ独立委員会はクーズ共和国と名を改め、独立を宣言。

 他の独立した元属領を含めて日本はこれら元パーパルディア領の独立を支持、早期の国交の樹立と復興支援を約束した。


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