準備期間をおいてから日本国召喚   作:レシプロ至上主義者

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日本式大陸掃除

 パラディス城が崩壊する様子は、多くの人が目撃していた。

 自分たちの頭上をワイバーンを遥かに凌ぐ速度で飛んでゆく飛行物体は、より多くの人が目にしていた。

 衛兵から話を聞こうとした者もいたが、前触れもなく起きる爆発で次々死んで数が減っているうえに、巻き込まれるのを恐れて近づかなくなった。

 不安と恐怖に苛まれ、暴発寸前に達したころ、それらは来た。

 海上に出現した鉄の船団と空を覆いつくす飛行機械の群れが、エストシラントへ常識を覆す速さで向かってきたのだ。

 

 

 

 

 

 レミールは自室でシーツにくるまり、震えていた。

 

 「……ルディアスさま……なぜ……」

 

 謎の爆発事件にて皇帝ルディアス含めた皇国上層部が全滅した日、彼女は視察で爆発地点からも自宅からも離れていた。

 今では丸ごと借り上げたホテルの一室で、他人がいるときは当たり散らし、1人のときはこうしてルディアスが死んだことを思い出して震えて過ごす日々を送っている。

 

 「し、失礼します! レミール様!」

 「っ! なんだ!? いったい何の用だ!!?」

 

 どうしても必要な場合以外は誰も近づかなくなったレミールの部屋にドアを叩く音と、慌てた様子の侍女の声が鳴り響く。

 癇癪を爆発させたレミールに臆することなく、ドアの向こうの侍女は用件を伝える。

 

 「正体不明の軍勢が、ここエストシラントに上陸していると衛兵から報告が!」

 「なんだと……皇国軍は何をしている!?」

 「レミール様! もう皇国軍は……いえ、もう軍と呼べる存在はエストシラントにはいません! いるのは、ごく僅かな衛兵だけです!」

 

 パラディス城で謎の爆発が起きて以降、生き残った政府関係者や軍の兵士と衛兵が混乱を収めようと行動した。

 だが彼らも、屋外にいれば即座に、屋内にいても遅くとも1週間以内に、エストシラント上空に居座るやたら小さい飛行機械が落とす爆弾で死亡した。

 撃墜しようにも、エストシラント防衛の任に就いていたワイバーンはパラディス城とともに基地ごと爆散し、他のワイバーン基地と連絡が取れないため、他所から引き抜いてくることもできない。

 その結果、率先して動く人間はいなくなり、これ以上事態が悪化しないようにするのと、自分たちの安全確保以上の行動をしなくなった。

 

 「裏手に馬車が用意してあります。それで脱出を……」

 

 言い終わる前に轟く爆発音。音からして、近くで爆発が起きたのが分かる。

 タイミングの良すぎる爆発に固まる2人。そこへハキハキとした男性の声がかけられる。

 

 「裏手に回した馬車がやられました! 他の馬も巻き添えにあい全滅です!」

 「そ、そんな……」

 「とにかく急いで脱出の準備を! 敵は飛行機械からも兵士を降下させています! このままでは郊外への脱出路も塞がれ……」

 

 そこで、急かす声を遮るように響く破裂音。

 マスケットとは似ているようで違う、連続した銃声に悲鳴を上げるレミール。

 一瞬の静寂を経て、荒々しくドアが蹴り破られると同時に、筒状の何かが投げ込まれ、煙を噴き出す。

煙を吸い込むと急速に睡魔に襲われ、レミールは意識を暗転させた。

 

 

 

 

 

 『羊は確保した。繰り返す、羊は確保した』

 「了解。すぐ増援が到着する。それまで羊を死守せよ」

 

 レミールに麻袋を被せ、手際よく手足を縛りあげる都市迷彩の戦闘服を着た男たち。

 彼らは日本国防陸軍特殊作戦群。

 陸上自衛隊のころと変わらぬ名を戴く彼らは、試練を通じて規模を拡大しつつ、最精鋭の名に恥じぬ仕事をしていた。

 

 ――戦闘ヘリの援護の元、迎えに来たV-22にレミールを放り込みつつ乗り込んだ彼らは無事、強襲揚陸艦いおうとうに帰還した。

 皇族であり、過激な発言と行動を重ねてきたレミールは、アルタラス王国特別収容所に入れられることとなる。

 パーパルディア皇国とは日本と同盟国たるアルタラス王国を襲った武装勢力であり、正義を証明するためにも、その首魁を裁く必要があるのだから。

 

 

 

 

 

 アルタラス王国飛行場に建設された無人機指揮所の管制室では、パーパルディア皇国全土の情報が集められていた。

 

 「まだ撃ち漏らしがいたか」

 

 偵察衛星に加え、監視用の高高度無人飛行船と大型無人偵察機、時々現地からの情報提供者から得た情報を統合、精査して運よく生き延びた高価値目標を見つけ出しては、一つ一つ丁寧に処理する。

 地道で、そして効率的な作業は今日も行われる。

 

 「ストラトス・アイから報告。新たな高価値目標を選定した。速やかに排除されたし、なお目標近くには航空戦力が確認されている」

 『ストラトス・ブレインからストラトス・アイへ、了解した。ただちに待機中の部隊に始末させる』

 

 報告とともに送られたデータから攻撃計画が立てられ、待機していたパイロットと整備員が慌ただしく動き出す。

 

 「……そういえば、いま待機してるのはクイラ空軍の飛行隊だな」

 

 日本が運用しているこの飛行場には、クイラ王立空軍から派遣された4機のCF-1Bが“パーパルディア皇国を自称する海賊支配領域における治安改善任務”に従事しており、彼らもローテーションに組み込まれていた。

 命令を受けたCF-1B、F-15GJが2機づつパーパルディア皇国の残滓を吹き飛ばすべく、飛行場から飛び立つ。

 

 

 

 

 

 胴体下に地中貫通爆弾を吊るしたF-15GJが先行し、その後方上空でCF-1Bが護衛に就く。

 大抵の目標は巡航ミサイルで片を付けてしまうのだが、今回は内部諜報員からのタレコミで地下施設の存在も確認されているため、F-15GJにバンカーバスターを搭載させての出撃となった。

 

 『スカイ・マリアからサンド・フォックス隊。目標上空に飛行物体、ワイバーンだ。速やかに排除せよ』

 「サンド・フォックス1了解、ただちに排除する。2、続け」

 『2、了解』

 

 AWACSから指示を受けたサンド・フォックス1ことグエン・ドム・ポン少尉は、緊張しながらも訓練通りにレーダーで捉えたワイバーンをロックし、中距離空対空ミサイルを発射する。

 

 「FOX1」

 『2、FOX1』

 

 主翼下のパイロンから切り離されたのちに、AAMはロケットを点火して飛翔する。

 数秒後、ミサイルと敵機を示す光点が重なり、消えた。

 

 『敵ワイバーンの撃墜を確認。サンド・フォックス1、2おめでとう。君たちはクイラ王立空軍初の戦果を上げた』

 「ありがとう、他に敵はいないか?」

 『レーダーに反応はない。おそらく今墜とした敵は、巡航ミサイルの攻撃時に偶々哨戒で上がっていたんだろう』

 「了解、護衛に戻る」

 

 通信を終えてF-15GJの上位へと戻る。すでに爆撃を終えたのか、腹に抱えていたバンカーバスターはなく、地上からは土煙がもうもうと立ちのぼっていた。

 

 「……やっぱかっこいいなぁ」

 

 その後ろ姿を見て、グエンは少年のように目を光らせながら憧憬のこもった息を漏らす。

F-15GJゴールデンイーグル。日本国防空軍において質量ともに主力戦闘機の座を得ている戦闘爆撃機。

 CF-1Bの4倍のエンジン推力が生み出す爆撃機並みの武装搭載量と隔絶した飛行性能。後席の有無だけで制空から対地・対艦任務に切り替えられる多用途性。そしてCF-1Bと比べて、目玉が飛び出そうな値段。

 

 「いつか、俺たちも乗れる日が来るかな?」

 

 将来、訪れてほしい未来図を思い描きながらグエン達は帰還の途に就いた。

 

 

 

 

 

 日本新内地東部から複数の気球が舞い上がっていく。

 ここだけでなく、ここからなら気流に乗ると判断された日本各地から、偵察気球を飛ばしているのだ。

 気球には証拠となる文字や製造番号の類は一切なく、電子機器にも念には念を入れて5重の自壊装置が付いており、品質以外に日本だと臭わせるものは一つもない。

 偵察機と人工衛星があるのに気球を使うのか? と疑問に思うかもしれないが、これには訳がある。

 

 気球を使って、未接触国家と要警戒対象国家の防空体制を調べるためだ。

 

 偵察機のような速度は出ないが、衛星と違って発見・迎撃が容易かつ安価で数も揃えられる。迎撃されなければ、衛星では分かりにくい地上の詳細な画像も手に入る。

 そのうえ、日本が下手人とばれるリスクもほぼない。

 初期案では、ムーの近くに潜水艦を派遣して神聖ミリシアル帝国に飛ばすことも考えられたが、ミリシアルを“現段階では”過度に刺激することは避けたかった政府の意向で取りやめとなっている。

 変わりに衛星による調査の結果、要警戒対象国となったアニュンリール皇国へ飛ばす気球が増えた。

 ふわりふわりと空へ浮かび、風に乗って異世界の大空へと流されていく気球たち。

 飛ばした者たちの期待する情報を得るべく、タンポポの種のように蒼穹へ昇って行った。

 

 

 

 

 

 日本の後押しを受けて旧属領で同盟を結成し、パーパルディア皇国との対決を宣言した73ヶ国連合。

 だが彼らは自国領内の安定化を優先し、パーパルディア皇国領への侵攻は行わなかった。スポンサーである日本の要望を受けてのことだ。

 だがその方針に苛立ちを覚えているものたちもいた。リーム王国である。

 

 

 

 

 

 リームとしては73ヶ国連合をパーパルディア領へとけしかけ、自分たちはできるだけ血と金を流さずにパーパルディア皇国を削り、日本の関心を買おうとしていた。

 だが肝心の73ヶ国連合はいくら煽り、ちらつかせ、脅しても終始塩対応であった。

 当然である。陸続きとはいえ、軍事的にも経済的にも魅力のない火事場泥棒が、最初から肩を持ち続けてきてくれた超大国に敵うわけがない。

 一向に動かない連合に見切りをつけたリームは方針を変えた。

 自国軍によるパーパルディア皇国への進行である。

 目標は南部の工業地帯、デュロであった。

 

 

 

 

 

 現地人を蹴散らし、パーパルディア皇国軍の残党に手こずりながら、リーム王国パーパルディア侵攻軍3万は南下を続けていた。

 

 「将軍、この調子ですとデュロにたどり着くのは2ヶ月後になります」

 「予想以上に皇国軍の生き残りが手強かったな……だが、ここまで来ればあとは要塞などない。デュロまでは損害無くたどり着けるだろう」

 

 そう、デュロまでは問題ない。だがデュロには最新鋭のワイバーンオーバーロードが陸軍と艦隊とセットで配備されている。上空援護のワイバーンも数日前から姿を見せておらず、連絡も取れない。万が一デュロ攻略の際に来なかったら敗退もありえる。

 

 思考に浮かび上がる不安要素に顔をしかめていると、羽音に似た奇妙な音に気が付く。

 音の聞こえる方向へ顔を向けると、そこには白く不気味な虫を思わせる機械がプロペラを回しながらリーム王国軍へと向かってきていた。

 

 「あ、あれはまさか……! 日本の白虫か!」

 

 その塗装と大きさからつけられた日本製無人機のあだ名を叫ぶ。

 パーパルディア皇国属領独立で活躍した無人機が、リーム戦線に投入された瞬間だった。

 

 「弓でも銃でも何でもいい! とにかく白虫どもを落とせ!」

 

 将軍が叫ぶが、ボルトアクションライフルでも困難なことをマスケット銃と弓でできるわけがない。

 貫通力の低い球体弾が届かない高度で接近した大型無人機は、主翼に吊り下げているポッドから白い煙を散布した。

 

 「な、なんだこりゃ、んぎっ! あ、があ……!」

 「布で口と鼻を覆え! 吸い込んだら……ぎ、ががが…………!」

 「お……! おぇ……!」

 

 煙を浴びた兵士たちは、首を絞められ呼吸を妨げられたかのようにのたうち回り、ビクビクと痙攣して動かなくなる。

 兵士も、騎士も、将軍も浴びた人間は平等に死んだ。

 所用で将軍から離れていた参謀が、魔信でワイバーンを寄越せと唾を吐き散らしながら怒鳴りつける。無人機が近づくにつれ、嗚咽混じりの懇願に変わっていくが、数日前に巡航ミサイルで更地に変わったワイバーン基地からの返事はついになかった。

 

 無人機から散布された化学兵器により、リーム王国パーパルディア皇国侵攻軍3万は壊滅。生き残りも無人機による追撃とパーパルディア皇国住人による報復で数を減らし、帰国できたのは100人にも満たなかった。

 リーム王国によるパーパルディア皇国侵攻は、陸上兵力とワイバーンを多数失う大損害を出して失敗に終わった。

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