俺ガイルの比企谷八幡と一色いろはを勇者と姫の立場に置き換えて書いたラブコメです。

昔、アニメの3期放送記念で書いてた書きかけの作品を発掘したので、完成させました。

ラブコメは全く書いた事がないので勢いだけで読んでください。

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ただの妄想で書いたものです。難しく設定とかゴチャゴチャと考えずに読め!!!


勇者様、責任とってくださいね♡

 この世界は地球とは別の異世界である。そこにはまだ科学も大して発展しておらず、中世ヨーロッパの世界観と言った方が理解し易いだろう。

 

 そんな世界の数ある国の中で、いろはす王国と呼ばれる国がある。その国の姫は大変美しく聡明で、あらゆる者から愛される要素を兼ねそろえている。

 その名をいろは姫といい、隣国果ては遠方の国からの婚約の申し込みが殺到するほどであった。

 

 そんな平和な王国に魔の手が迫る。300年も前に勇者と賢者の2人の英雄が力を合わせてようやく封印に成功した魔王が再びこの世界に現れたのである。

 そのことを重く見たいろはす王国の国王は、魔王を倒せるものを呼び寄せた。

 

「今この国は滅亡の危機に瀕しておる。そこで、300年前に魔王を封印した勇者の末裔であるそなた達に力を貸してもらいたいのじゃ!」

 

 白い顎髭を生やしたいかにもな王様は目の前の勇者の末裔である5人の勇者に助力を願う。

 

「勿論です。俺は偉大なる先祖の血をひく者として、そして、王国に住まう民としても此度の魔王の所業を許すことはできません。この力を是非とも王国の未来の為に使わせてください!」

 

 まさに誰もが理想とする勇者らしい言葉を恥ずかしげもなく語るこの男は、光の勇者と呼ばれ、名を葉山 隼人という。

 魔王が復活する以前から女性に人気があり、男性も葉山の強さや誰隔てなく優しさを振りまくその姿に尊敬や憧れの感情を抱いている。

 

「やっぱ光の勇者様はひと味違うわぁ~、まっ、俺も勇者だし~、魔王が現れたってんならこの俺の出番っしょ!」

 

 このウェ~イ系のチャラいノリの男は、炎の勇者と呼ばれる戸部……下の名前は忘れた。周りもとべっちとしか呼んでないし、別にどうでもいいだろう。

 こいつはこの通り気安い奴で、誰もが敬意とか払わない変わりにそれなりに人気はあった。

 葉山なんかには頼めないような盗賊退治や中堅クラスの冒険者に頼むような依頼なんかを引き受けてたので、市民からは一部葉山以上の人気があるようだ。

 

「ほむんほむん。何も心配することはあるまい。この剣豪勇者である我がいる以上、この戦は我らの勝利以外ありえんのだからな!」

 

 ……っえ? この男の説明必要?? まっ、しゃあないか。え~、この男は剣豪なんかではなく樹の勇者で名は材木座っていう中二病患者だ。それも下手に勇者の血なんかひいてしまっているからたちが悪い。

 こいつは下手な見栄だけで行動するから余計に事態を悪化させたり、周りを巻き込んで大惨事にしたりする常習犯だ。

 だけど、最終的にはなんやかんやで上手くいって、思わぬ手柄を上げたりするから、世間では樹の勇者ではなく強運の勇者の方で呼ばれている。

 

「でも、確かに皆と一緒に戦うんなら負ける気はしないよね」

 

 女性に見えるっていうか天使に見えるこの子は風の勇者であり、女性からも男性からも求婚されるまさにエンジェルである戸塚 彩香。MYエンジェル

 戦う姿は戦場のワルキューレとも評され、蝶のように舞い、蜂のように刺すと評されてる。

 にこやかに笑う姿は男であることを疑問に思わせる。否、こんなにかわいい子が女の子のはずがない。(頭がバカになってます)

 

「おお、何とも心強い勇者様方じゃ。これなら魔王が攻め込んで来ても問題はあるまい!」

 

 勇者たちの強きな言葉に王様も満足げに頷いている。

 ここで聡明な読者の諸君は気づいているだろうか? ここまで紹介した勇者は4人だけ。ちゃんと地の文も読んでくれていたら分かるのだが、王様が招集したのは5人の勇者である。

 となると、あと1人が残っているのだが、まあ忘れられているのなら自分で紹介するしかねぇか。

 

 俺の名前は比企谷 八幡だ。ちなみに、闇の勇者をやってます。まあ、俺が闇の勇者をやってるのなんか家族以外ではあまり知られていないがな。

 別に影が薄いから知らないっていうわけじゃなくて、俺が宣伝してないから知らないだけである。

 いやだって、葉山とかあの戸部みたいに頼まれ事されるじゃない。だから省エネの俺は自分から面倒事の勇者とか名乗るのはポリシーに反しているから言わないだけである。

 決して名乗っても葉山とかと比較されるのが嫌だからとかいう理由ではない。

 

 とまあ、存在を忘れられた俺を抜きにして今後の事とか色々と勝手に決まっていった。いつの間にか葉山がリーダーになっていたし、戸部がちゃちゃを入れて会議の進行を遅らせたり、材木座が頓珍漢な作戦や無謀な特攻を挙げていったが葉山と戸塚がちゃんと止めてくれた為に問題は無く、会議は恙なく終了した。

 

「それでは勇者様方、長い話し合いでお疲れでしょう。我が王国の未来を祝して、ささやかながらおもてなしの準備をしております。是非とも、ご堪能下さい」

 

 パンパン! と王様が手を叩くと、身なりの整った兵とメイドが俺たちを案内してくれる。

 

 

 おっと、何故か俺の回りに兵もメイドも来なかった。

 

 べ、別に悲しくなんてないだからね! ………………なにやってんだろ。

 

 そのまま兵とメイドに案内された(後からついて行った)先には大きなパーティー会場が存在した。

 そこでは、金の掛かった服を着た如何にもな貴族や大商人といった者から、名うての剣士や魔法使いに教会の聖女までが出席していた。

 

 誰も彼もが、今しがた入場してきた勇者である俺たちを見ると我先にと自己紹介をしだす。

 

 あっ、ごめん。訂正するわ。俺たちではなく、俺以外の勇者だった。何故あの材木座にも人が集まって俺には来ないんだ。

 

 そのまま、ただボ~っと突っ立ているのも何なので、いくつか用意されている料理を皿に乗せて誰の邪魔にもならないように壁にもたれて食事する。

 世間はコロ○とか厄介な病気が流行っているし、食事中なども気を使えるボッチこそが世のコ〇ナ感染防止の最終防衛ラインと呼んでも過言でない(気がする)

 

 そのまま誰に気づかれることなく食事を続けていると、また周囲が一層騒がしくなった。

 

 何だと思い騒ぎになっているであろう場所に視線を向けると、そこには栗色の髪をしたショートヘアのお姫様が立っていた。

 

「も~、そんなお世辞を言われても私困っちゃいますよ♪」

 

「いやいや、いろは姫はお世辞抜きでとてもお美しいですよ」

 

「そうですよ。私も女としていろは姫には憧れちゃいます!」

 

 どうやらこの国のお姫様であるいろは姫が来たようだ。成程、確かに噂通りの美貌の持ち主だ。

 周りの奴らもそのことを褒め称えるばかりだ。

 

 それに対していろは姫は『え~、私ってそこまで皆さんが言うほど可愛くないですよ~』みたいなあざとい反応で返して余計に好感度を上げている。

 

 流石は一国のお姫様だこと、ボッチ歴=年齢の人間観察が趣味となってしまった俺でなきゃあの演技は見逃しちゃうね。(死亡フラグ)

 

 やばっ、某狩人×狩人の有名人さんの死亡フラグを立てちまった。

 もうじき戦争だっていうのに不吉なことしちまったな。

 

 いっけねぇ、と心の中で1人小芝居をしていると、耳をつんざくような音が耳に入る。

 

 キャ~!!! 

 

 え、なに!? 悲鳴? 

 

 突然の大声に何事かと思って見てみたら、あのいろは姫と勇者葉山が仲良く手を取ってダンスしていやがった。

 

 ああなるほどね。さっきの悲鳴みたいな声は女子共の感極まって出た声というわけか。

 まあ、確かに美少女のお姫様とイケメンの勇者様が手を繋いでダンスだなんて女子的には憧れのシチュエーションだからな。

 

 周りの連中もそれを見てヒューヒュー! と茶化している。

 特に戸部が騒ぎまくって凄くやかましい!! 

 

 ……あんなの気にしたところで俺には縁のない世界だ。せっかく城に招かれてパーティーに参加してるんだ、普段じゃ食えない料理を堪能するとしよう。

 

 そうやって、賑やかな場所から目をそらし、空になった皿を持って再び料理が置かれているテーブルに近づいていった。

 

 ♦

 

 私の名前はいろは、この国のお姫様をやっています。

 昔からお父様に蝶よ花よと愛でられて生きてきましたが、最近になって魔王とかいう超メンドイのが復活しちゃったらしく、それを倒せる勇者の子孫を呼んでパーティーを始めているみたいなんです。

 

 聞けば、そのパーティーには巷で有名なあの光の勇者の葉山さんが出席しているみたいで、これは姫としては参加せざるを得ないじゃないですか。

 お父様にこの国の姫として勇者様方と交友を深めてみたいと言ったら一発でお許しを頂いた。

 

 そして、本日のパーティーに参加してみれば噂に(たが)わぬ絶世の美青年がそこにはいた。

 

「お初にお目にかかります。いろは姫様とこうして直に出会えたことに感謝を……」

 

「こちらこそ、光の勇者と名高い葉山様に出会えて光栄です」

 

 互いに笑顔と礼をもって挨拶を交わし、折角だからということで葉山が手を差し出し、その意味を私も一瞬で理解し、その差し出された手を取ってパーティー会場に流れる音楽に合わせてダンスを始める。

 

(確かにウチの城のメイドたちが噂するほどの美形ですね。貴族服でも着れば王子よりも王子らしいですし、礼儀作法も申し分なし。下手な国の王子と結婚するよりかはこの勇者様と結婚しちゃった方がいいかもですね♪)

 

 ダンスを踊りながら目の前の勇者の価値を測るいろは姫は、その腹グロさを一切周りに悟らせぬように常に人当たりの良い笑顔で仮面し続けている。

 

「姫とのダンスはとても楽しかったです。是非とも、魔王を倒した暁には再び……」

 

「ええ、勇者様。こちらも再び国が平和になった時にもう一度……」

 

 やがて音楽は終わり、踊っていたダンスも止めて再び互いに礼をもって別れる。

 それを見計らって有象無象の男どもが砂糖にたかるアリの如く寄ってきたが、なんかチャラい系の勇者やホムンホムンっと鼻息がうるさい勇者が面倒だったので、先ほどのダンスで疲れたからと言って水を飲みに行くふりをしてその場から去っていった。

 

 これでお父様が招集した5人の勇者のうち3人は見れた。まともそうなのは1人だけだったが、あと残りの2人はとキョロキョロとパーティー会場を見回してみると、光の勇者様ほどではないがそこそこの人だかりが出来ている場所があった。

 

 その中心にはとても綺麗な顔立ちをした女の子が立っていた。

 どこの貴族令嬢かと思って見ていれば、どうやらあの子は勇者様のようだったのだ。

 

 えっ? 今回集められた勇者様って全員男じゃなかったっけ? 

 もしかして、あんだけカワイイ顔立ちで男の子!? おっふ、なんかちょっと負けたような軽い敗北感が襲ってきたんですけど。

 

 とりあえず、軽く挨拶ぐらいは交わしておきますか。

 

 そう思って近づいたが、近くで見ると余計にその顔立ちの良さが分かる。

 

「あっ、いろは姫様。さっきのダンス凄く良かったです。あの、良かったらボクとも一緒に踊ってくれますか?」

 

「あっ、はい……」

 

 ヤバイ! 声も凄く綺麗だし、私なんかと違って天然でいい人オーラを放ってるんですけど。

 思わずダンスの誘いも上摺った声で返事してしまった。正直物凄く恥ずかしい。

 

 でも、この勇者様はそれを指摘せずにニコッと安心させるような笑みで私の手を握ってくれた。

 

(光の勇者様も良かったけど、風の勇者様も悪くないですね。こうなると、最後の1人の勇者様にも期待していいかも♪)

 

 炎と樹の勇者のことはすっかり頭の中から消し去っているのはご愛嬌ということで。

 

 戸塚とのダンスも終えたいろは姫は、再び群がってきた男衆から上手いこと逃げてみせた。

 

 それからしばらく会場内を散策してみせたが、最後の勇者は何処にもいなかった。

 

「はぁ~あ、これだけ探しても見当たらないってことは、もしかしてもう帰っちゃったとか?」

 

 探し回るのに歩き疲れて、壁にもたれかかりながら誰にも聞こえないような音量で独り言を呟く。

 

(そういえば、最後の勇者様の噂話とか全然耳にしてないけど、どんな人なんだろう?)

 

 頭の中で陰のあるイケメンや、口数少ない仕事人なのだろうと想像しながら右手に持ったグラスの中のワインを一口飲む。

 

「え~っと、勇者様って光と炎と樹と風と……、最後のは──―そうだ闇だ!!」

 

「えっ!?」

 

「はぇ?」

 

 喉につっかえたようなものが取れたように思い出したいろは姫はそこそこ大きな声で最後の勇者の属性を口にすると、いつの間にか隣に立っていた死んだ魚のような目をした猫背でアホ毛を生やした男が驚いたような声を出したので、こっちも素っ頓狂な恥ずかしい声を出してしまった。

 

 ♦

 

 えっ? 何!? 急に姫さんが俺と同じように隣で壁にもたれかかって独りでブツブツ言いだしたし、こっちに気づいていないっぽいから俺も無視して1人でモクモクと飯を食ってたら、何故か俺の事を口にしちゃったから驚いてこっちも声出しちゃたんだけど。

 

 んでもって、それでようやくこっちに気づいたのか、なんか可愛い……いや、あざとい声を出して警戒するような目で俺を見てくる。

 

 やめて、俺客人だから! 怪しい者じゃないから衛兵さんだけは呼ばないで!! 

 

「えっと? 誰ですかあなたは……」

 

「……一般人Aです」

 

「すぅ──―衛っ「すみませんでした。一応客人としてこちらにお呼ばれされました闇の勇者です」

 

 判断から実行までのスピードが早い! 鱗滝さんもニッコリの逸材だよこの子!? 

 

 仕方なく俺の正体を明かしちゃったけど、ここで捕まったら家にいる妹や母ちゃんに問答無用でぶっ殺される可能性が大だから仕方ねぇよな。

 リスクとリターンを鑑みてここで正体を明かしてしまった方がいいと判断したまでのこと。

 

 我ながら家族に殺されるから屈するって情けねぇな……。

 

「えぇ~、あなたが本当に勇者なんですか?」

 

「いや、俺だって疑問に思われるのはしょうがないと思うけど、正真正銘の闇の勇者なんで……」

 

 嫌そうな顔して頭をかく八幡を見て、いろは姫もガッカリといった表情を隠すことなく遠慮ない視線を向けてくる。

 

「はぁ、まあ炎と樹がアレですし。期待していなかったと言えば噓になりますけど……」

 

「え~、何その反応は……。これって俺が悪いの?」

 

 ってか俺ってあの2人と同じ扱いかよ。地味にへこむな……。

 

「ってか俺って一応この国を救うように頼まれた勇者だよ? そんなズタボロに言わなくていいじゃん」

 

「いや~、なんか最初に私の恥ずかしい所を見られたっていうか聞かれた? から遠慮しなくていいかな~って♪」

 

「なにそのトンデモ理論は。ってか俺悪くないよね? 最初からこの場所にいたし、後からやって来てそれはないんじゃ……」

 

「いいんです。だって私この国のお姫様なんですから」

 

「……君、未来の暴君になったりしない?」

 

「んな? 失礼な!? 不敬罪でお父様に言って牢屋にぶち込みますよ!」

 

「いや出てる出てる。メッチャ暴君の素質出てるよお前……」

 

 その後すぐに姫を見つけた男どもがダンスの誘いを持ち掛けてきて、その間に俺はその場から気づかれないように去っていった。

 

 そのまま俺といろは姫が再び会話することなくパーティーは終了した。

 

 

 これが、いろは姫と闇の勇者の初めての出会いであり、その後もまた色々と出会うことになるのだが、そのお話は少し割愛させていただこう。

 

 そうして、美女と野獣ならぬ美少女と腐れ眼という奇妙な関係が続いていたが、この関係が変わる事件がいろはす王国に襲い掛かることになる。

 

「殺戮の時間だ!!! 愚かなる人間どもに我ら魔王軍の恐ろしさを骨の髄まで思い知らせてやれ!!!」

 

「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」

 

 無数の異形の軍勢が王国へ押し寄せてきたのだ。

 それも運の悪いことに5人の勇者のうち3人が別の国へ同盟の申し出や救援要請等で留守にしている時に襲撃してきたのだ。

 

 だが、不幸中の幸いと言っていいのか、勇者の中でも実力人気共にナンバー1の光の勇者葉山が国内に在住しており、そのことが王国民にとっての希望の星だった。

 

「クソォ! こんな時に夜襲を仕掛けて来るなんて魔王軍の奴らめ!!」

 

「文句垂れている暇があるんなら勇者様が戦場に到着するまでの時間稼ぎの為に1秒でも多くの時間を稼ぎやがれってんだ!!!」

 

 城壁を守る衛兵たちが大忙しで迫りくる魔王軍の魔の手から国を守らんと剣や槍を携えて走り回る。

 

 その間にも国中では魔王軍の怒声や人間たちの悲鳴が戦場に響き渡る。

 そんな危機的状況のなか、城の中を2人のメイドと姫が逃げ出そうと走っていた。

 

「さあ、姫様こちらです!」

 

「ま、待って下さい! お父様は? それに光の勇者様は何処に?」

 

「国王様は兵の指揮を執るために前線に出向いておられます。光の勇者様は未だ城へ辿り着けてはいない御様子で……」

 

「そんな……」

 

「申し訳ございませんが、今の姫様に出来ることは逃げること以外ございません。どうか、ご自身の身の安全のみをお考え下さい」

 

「…………そうですね。非力な私が戦場に出たとしても皆様の足を引っ張るだけ。ならば、勝った兵やお父様に勇者様への賛辞を投げかけるのが私の役目です!」

 

「ええ、ご立派です姫様」

 

 王族専用の逃げ道を通り抜けると、今は使われていない古い井戸の底に繋がり、そこから這い出ると城の外に出ることが出来た。

 少し視線を上げれば燃えて煙を上げる城が目に入る。

 

「っ、まだここは危険です早くこの場から離れましょう」

 

「…………いいえ、姫様。ここでよろしいのです」

 

「え? なに言ってるの? こんな場所じゃいつ魔王軍がやって来るか……まさか!?」

 

「ふふふ、世間知らずのマヌケな姫様かと思ったが、存外に頭の回転は早いようだな」

 

 先程まで一緒に逃げていたメイドはその顔を酷く歪ませて笑うと、体から色が抜け落ちてゆき、やがて全身が黒一色に変貌したかと思いきや、グニャグニャと形を変えて人間から魔物の姿へと変身した。

 

「そう、私は魔王軍四天王の配下が1人。演劇者アクター・ワンと申す者です」

 

 見た目から想像がつかない程、礼儀正しい挨拶を交わす目の前の魔物に得体の知れない不気味さを感じる。

 

「これはご丁寧にどうも。私の自己紹介はいりませんよね?」

 

「ええ勿論です。我々の目的である貴方の情報は全て把握済みですので」

 

「だとすれば、貴方達の目的は私を人質に取った勇者様の討伐といったところでしょうか?」

 

「おお……、その冷静な態度に加えて今の状況を把握してからの我々の狙いを看破する頭の良さ、是非とも我が軍に加入して貰いたい人材……」

 

 感極まったかのように仰々しい態度で舞台役者のような振る舞いを見せる。名前や2つ名からいってまさに役者として生まれてきたのだろう。

 

「ただ惜しくらむは貴方が人質としての価値の方が何倍も高いということだけ、残念ですが逃げられないようにその手足は切断させてもらいましょうか」

 

 先程メイドから元の姿へ変身した時と同じ様に、その手を巨大なハサミへと変化させ2~3度ジョキン! ジョキン! と動かしてみせる。

 

「ひぃ!」

 

「ふふふ、ようやく女の子らしい可愛らしい悲鳴が聞こえましたね。ですが、容赦はしませんよ」

 

 じりじりと近づいてくる魔物を前に悲鳴を上げることしかできない自分を呪う。

 今こうして立っているだけでも足が震えて走れそうにもない。

 この唐突過ぎる現実に頭がついていけず夢か幻のように感じてしまう。

 

 だからこそだろうか? 私の脳裏にあの死んだ魚の目をした勇者との思い出が蘇ったのは。

 

 

 

 

「いや、なんですかこれは?」

 

「なにって、お前が今度国を離れて遠出したらお土産買って来て下さいって頼むから……」

 

 あの宴会から何故か姫と関わることが増えた俺は魔王軍の侵攻調査として国を離れて帰ってきた際に、お土産として店のおばちゃんからオススメされた地域の守り神的な人形を買ってきたのだが、どうやらお姫様のお眼鏡には適わなかったようだ。

 っていうか、買った当初はお守り人形なんてこんな物かと思ったが、いざ拒絶されて見てみると魔除け感を出し過ぎて逆に呪の人形染みてるなこりゃ。

 

「はぁ~、気に入らねなら返せ。後でまた別のを買ってきてやるから」

 

「ふふ、いえいえ、どうせ勇者様のことだから、また性懲りもなくしょうもな~い物を無駄に買ってくるだけでしょうし、品行方正で聡明なお姫様な私は仕方な~くこれで我慢します♪」

 

 そう言って大切そうに人形を抱きしめる。

 

「いや、別に我慢しなくていいから。っていうか、いちいち言動があざといんだよお前は……」

 

「ああ! またお姫様の私に無礼なこと言った。不敬罪でひっ捕らえるようにお父様に言いつけますよ!」

 

「誠に申し訳ございませんでした!!」

 

 いくら勇者でも国家権力に逆らえない。はっきりわかんだね。

 

「まったく、だけどお優しいみんなの理想のお姫様な私は寛大な心で許してあげます」

 

「へいへい、姫様の器のデカさに今後足を向けて眠れませんよっと」

 

 む~っと頬っぺたを膨らませて適当に返事を返す勇者を睨みあげる。

 

 いつも誰も彼もが私を姫だからと特別扱いしてきた。それが嫌ではなかったし、当たり前だと認めていた。

 でも、この人だけは私を変に特別扱いせず対等な存在として接してくれる。それがなんだかこそばゆくて心地よくて、ついみんなが望む可愛いお姫様じゃなくて、私本来の生意気なお姫様としての姿を見せられる。

 だから、私は……。

 

「っま、そんな人形でいいなら別にいいけどよ。けど、もしなんかあれば、その、あれだ……」

 

「んんん? なんですかあれって? っは! まさか、この人形のプレゼントにかこつけて一世一代の告白ですか? ごめんなさい。流石に呪いの人形で付き合うとかマジ無理です!」

 

「いや、別に告白とかじゃないし、ってかフラれるのかよ……」

 

 あの時の私はちょっと意地悪だったかもしれない。勇者様の言いたいことが本当は分かっていたのに、照れて顔を赤くしそっぽを向くあの人が面白くてついからかってしまった。

 

 ううん……、違う。多分私も恥ずかしかったんだ。面と向かって言われてたらきっと私も照れちゃうから。顔を真っ赤に赤面させていつもの私を保てなくなっちゃうから。

 だから私はいつも通りあざとく生意気なお姫様を演じたんだ。

 

 でも、今ならきっとはっきり口にできる。

 

 

 

 思い出の世界からゆっくりと意識が現実に帰ってくる。

 

 未だ何一つ変わっていないこの現状を変えるべく私は大声で叫ぶのだ! 

 

「すぅ……、助けてください! 勇者様!! 

 

「何を!? っぐ!!?」

 

 その次の瞬間、私と魔物の間に煙幕が発生する。

 驚く私と魔物を無視して、1つの影が私を抱えてこの場から逃げ去っていった。

 

「あはっ♪ やっぱり来てくれた……」

 

「あのね、俺は勇者だなんて呼ばれてるけど、戦闘なんざからっきしで諜報活動専門の人間なんですけどね……」

 

 こうして悪態を吐きながらも必死で私を助けようと駆けつけてくれた勇者様に、こんな状況だけど嬉しくて頬が緩んでしまう。

 ああ……、私ってもうちょっと高嶺の花だと思ってたんだけどなぁ~。案外惚れた相手にはチョロかったみたい。

 

「このっ! 何処の馬の骨か知りませんが!! 私を舐めないでもらいたい!!」

 

 逃げる私たちを見て当然そのまま棒立ちであっさり見送る筈もなく、激昂したアクター・ワンと名乗る魔物は足を馬のそれに変化させ、すぐさま後を追いかけて来た。

 

「ちょっと勇者様! あの魔物が凄い速さで追いかけて来ましたよ!」

 

「分かってる。そもそも、俺が何の備えもせずに助けに入ったと思うか?」

 

「いいえ! ぜんっぜん思いません!!」

 

 俺のことを分かってくれて嬉しくはあるが、そう力強く肯定されると何故か目から汗が垂れるんですが。グスン

 まあ、事実俺は魔王軍が光の勇者がいるタイミングで攻めてきたことに疑問を感じて相手の気持ちになって考えた結果、奴らの目的はいろは姫じゃないかと当たりをつけて行動した結果がドンピシャだったわけ。

 ふっ、人の気持ちを考えて行動するのは苦手なのに悪党の気持ちを考えて行動するのが得意って、本当に自分は勇者なのでしょうか? 

 

 その直後、俺の狙い通りに魔物の足に俺が仕掛けた罠が作動する。

 

「なっ!? ぐがはぁ!!」

 

 木々の間に仕掛けた頑丈な黒色のロープに足を絡ませ、顔面から地面にダイブする。

 うわぁ~、仕掛けた本人が言うのもなんだけどあれは痛そう……。

 

「クソがぁぁぁぁ!!!!」

 

 顔面から血を垂れ流して怒号を上げて立ち上がる魔物。

 

 一時の足止めにはなったけど、逆に相手を怒らせっちまったな。

 その後もあちこちに仕掛けた罠に面白いように引っ掛かてくれるが、怒りでブチ切れた魔物は姿形を変えながら強引に力技で突破していく。

 

「……流石に姫様を確保するのに単独で行動するだけあって想定以上に強いな」

 

「どうするんですか勇者様! 罠には掛かってますけど、少しづつ距離を詰められてますよ!?」

 

 ええい! 知ってるよ。けどどうしたもんか、既に俺の仕掛けた罠はついさっき破られたアレがラストだ。

 そうして逃げ続けて辿り着いた先は燃え広がる城の城壁だった。

 

「はぁはぁ、ようやく追いついたぞ! ちょこまかと無駄な抵抗をしやがって!! 貴様だけはこの手で八つ裂きにしてくれる!!!」

 

「悪いけどそれは勘弁して貰いたいね。俺は痛いのとかメッチャ苦手なんで……」

 

 抱えていた姫様をそっと地面に降ろして腰にぶら下げていた普段使わない剣を抜き、不格好ながら構えてみせる。

 

「それはいい事を聞いた。なら、まずはその手足をぐちゃぐちゃにした後でゆっくりと皮を剥いで悲鳴を上げさせてやる」

 

 そう言うと、再び魔物は姿を変えて今度は筋肉モリモリのサイクロプスみたいな姿へと変貌を遂げる。

 

 ──―ああ、こりゃ俺じゃ勝てねぇは……。

 

「だけども、俺としては最後まで悪あがきさせてもらうぜ! 目と耳を塞いどけ

 

 敵に聞こえぬように小声で姫に忠告すると、懐から取り出したるは護身用として持っておけと性悪な魔女から渡されたパーティクラッカーのような見た目のマジックアイテム。

 効果は単純な音と光によるただの目くらまし程度だが、逃亡を目的とした今の状況ならばこれ以上役に立つ物はなかった。

 

「はぁ、これを使ったらどうせネチネチとアイツから嫌味を言われるんだろうな……」

 

「ガアアアアァァァァ!!!」

 

 本を片手に自慢げに俺を罵倒する魔女の姿を幻視しながら、怒り狂って突っ込んでくる魔物目掛けてマジックアイテムを使用する。

 その瞬間、辺り一面を真っ白に染める程の強烈な光と鼓膜が破裂するかと思うほどの轟音が響き渡った。

 

「グオオオオオオオォォォ!!!?」

 

「がぁっはぁっ!?」

 

 ミスった! マジックアイテムを使用する距離が近すぎた! あの野郎、目を押さえながら無闇矢鱈に腕を振り回してぶん殴ってきやがった。

 不幸にもその一発が見事に命中して城壁に叩き付けられる。

 

 さっきも言ったけど、俺ってば勇者様とか呼ばれてっけど戦闘なんざほぼ無縁の諜報活動専門の人間なんだよ! 

 あんなサイクロプスみたいな化け物の一撃を喰らって無事で済むかってんだ! 

 

「ちくしょう! どこだ!? どこにいる!!」

 

 未だ視力の戻っていない魔物はフラフラと手探りで俺を探している。

 さっさと逃げ出したいけど、俺も今の一撃でいくつか骨が折れたし血もかなり垂れ流してる。

 正直言ってこのままぶっ倒れたまま眠っちまいたいが……。

 

「勇者様!!」

 

 ああもう、バカ野郎が……。今が絶好の逃げるチャンスだったろうが、こんな足手まといなんかの為に貴重なチャンスを捨てやがって。

 

 折角俺が作り出したチャンスを不意に捨てて駆け寄ってくるいろは姫を見て心の中で罵倒するが、その心の奥底には多少……そう多少は惚れた相手が心配そうに駆け寄って来てくれたことに喜んでいる自分がいる。

 

「何やってるんですか!? 自信満々に『悪あがきさせてもらうぜ!』なんてカッコつけた結果がこれですか?」

 

「あの、俺って一応お前を助けた味方なんだけど、なんで言葉のナイフでぶっ刺してくんの? ってか、俺が恥ずかしいんでそのモノマネは勘弁してくれません?」

 

「いいえ嫌です! 私を庇ってこんな大怪我するマヌケさんはこれでも足りないぐらいです」

 

 ええ……、こんな大怪我して助けたのに返ってくるのが感謝じゃなくて罵倒とか、俺って不幸過ぎじゃねぇ? 

 

 ──―って、違うか。

 

「まあ、その……ごめん……」

 

「もう……バカァ……」

 

 こんな目を真っ赤にして泣きそうな顔を見たらふざけたこと言えねぇな。

 いや、俺も本当はもっとスマートに解決しようとしたんだよ。けど、相手が思ったよりも強そうだからドジ踏んじゃっただけで、本当だよ八幡噓つかない。

 

「く……くっそ~~!! ようやく視力が戻ってきたぞ!!」

 

 ま、マズいな……、あの魔物の視力が回復してしまった。

 まだこっちの体の方は満足に動ける程に回復してもいないというのに……。

 

「そこか! くっくっく、どうやらデタラメに振り回した腕に当たった感触は貴様だったか」

 

 ボロボロになった俺の姿を視界に入れると魔物らしい邪悪な笑みを浮かべてゆっくりと近づいてくる。

 

「逃げろ、ここは俺がなんとか時間を稼ぐ!」

 

「何言ってるんですか! そんなボロボロの体でそんな真似出来る訳ないじゃないですか!」

 

「なっ、おま──―」

 

 痛む体を無理矢理動かして立ち上がったというのに、一向にこの場から逃げようとしないいろはに怒鳴り声を上げようとしたが、もう無駄だと悟ってその場に座り込む。

 

「ほぉ、観念したか。今までの鬱憤を晴らす為に多少は抵抗してみせて欲しかったが、その潔さに免じて首を刎ねて楽に殺してやろう」

 

 抵抗の意思を見せずに座り込んだ俺を見て、観念したかとその丸太のような腕を再びハサミにへと変化させ、俺の首を斬り飛ばそうと近づいてくる。

 

「ああ、なんか勘違いしてるようだけど。とりあえずは上を見てみ」

 

「あぁ?」

 

 城壁の上を指さすと、魔物もそれにつられて視線を上に上げる。

 

「ゲゲェ!!」

 

 そこに立っていたのは魔王軍の天敵にして、今回のこの魔物の殺害予定だった者。

 

 そう光の勇者がそこには立っていた──―

 

「やれやれ、いきなりド派手な光と爆音が聞こえたから何事かと思って急いで来てみたら。やっぱり、君の仕業か……」

 

「うっせぇ、来るのが遅いんだよ。お陰で見ろこの重症だ」

 

 気に食わない爽やかな笑みを浮かべながら、文字通り上から目線で見てきやがる光の勇者様にたっぷりの皮肉を言ってやった。

 

「そんな、まさかあれは私の動きを封じるものではなく、光の勇者を呼び出す為の目印だったというのか……」

 

 先程まで余裕そうに笑っていた魔物は今や驚愕の表情のまま冷や汗すらかいていた。

 

「まあ、そういう訳で選手交代だ。後は任せたぞ!」

 

「ボクも街や城で戦ってきたばかりなんだけな。まあ、君には借りもあるし、何より光の勇者として目の前の脅威を放っておく訳にはいかないしね」

 

 抜き放つその剣は、俺の護身用の量産品とは違い精霊の加護が込められた聖剣であり、その刀身から放たれる聖なる光は邪悪な魔物を弱らせる。

 

「そんな……、我々の計画が……こんな……」

 

 震えながら聖剣を持つ葉山を見て絶望する魔物は膝から崩れ落ちた。

 聖剣の光を見て理解してしまったのだろう。自身と勇者との絶対的な力の差に。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

「ぐぎゃああああああああああ!!!」

 

 光のオーラを纏った聖剣の一撃を受けた魔物は真っ二つに切り裂かれた。

 

 ええぇ、俺が手も足も出なかった魔物を瞬殺とか怖ぁ……。もうアイツが魔王じゃんとか考えちゃったりするけど、長年ボッチで鍛え続けてきた無表情フェイスでならぬハシビロコウフェイスをもってすれば俺の考えを悟られることなどありえない。

 

「う~ん、なんとなくだけどバカにしてる?」

 

「サテ、ナンノコトヤラ?」

 

 馬鹿な!? 何故バレたというのか? 

 まさか、これが光の勇者様の観察眼とでもいうのか!? 

 

「はぁ~、君ともそこそこの付き合いだからね。ところで、あまりお姫様を放っておくと後が怖いよ」

 

「あっ!」

 

 今思い出したと言わんばかりの声を出して横を見ると、プク~っとハリセンボンかよとツッコミたくなるような頬を膨らませたいろは姫が立っていた。

 

「なんですかその『あっ!』って、もしかして本当に私のこと忘れてたんですか!?」

 

「いや~、ほらあれだ。葉山の奴がド派手に登場してあの魔物を聖剣ブッパの一撃が凄くてですね……、すんません忘れてました」

 

 慌てて身振り手振りで必死に言い訳したけどその目線は噓は絶対に許さないと語っており、ついに根負けして正直に謝罪した。

 

「ムムム……、なんですかピンチの時に颯爽と現れてちょっとドキッ! ってして好感度アップしましたが、今の言動でマイナスに傾きましたのでゴメンナサイ!」

 

 えぇ、ちゃんと正直に謝罪したのに勝手に告白したみたいになってお断りされたんだけど。

 

 でも……

 

「ドキッ! とはしたのか……」

 

「んなっ!」

 

 ヤベェ! つい口に出しちまった。ああ、またドン引きされてお断りされるんだろうな。顔もなんか怒りで真っ赤にプルプルしてるし……。

 まあ、こんなボロボロのカッコ悪い勇者なんて姫であるコイツと釣り合うわけもないしな……。

 

「ほら、こんなダメ勇者なんか放っておいて、さっさといつもみたく葉山に『助けてくれてありがとうございました』とか言ってアプローチしてこいよ」

 

 やっぱカッコ悪いな俺、自分には不釣り合いだから、アイツとの方がお似合いだからと考えちまったら急に投げやりな態度になって。

 ほら、どうしたんだよ? いつまでもこんな所にいないで早く葉山のところに行けよ。

 

 そうじゃねぇと、また俺の口が何を言い出すか俺でも分からねぇ……!! 

 

 って、これじゃどこぞの痛い感じの勇者のアイツを笑えねぇな。

 

「はぁ、本当に勇者様は情けなくてイジイジしてて根暗っぽくて考えが後ろ向き過ぎるんですよ!」

 

「いや、グサグサ言い過ぎじゃねぇ? もう肉体的にも精神的にも致命傷なんだけども……」

 

「まったくしょうがないですね。ほら、立てますか?」

 

「いや、別に大丈夫だし。ってか、1人で立てるし!」

 

「うわぁ~、なんですかそのツンデレ口調は? あざとく振る舞ってるつもりですか?」

 

「うん。今のは俺もちょっと無いなって思った……」

 

 こういう気安い関係が居心地が良すぎて、そこから一歩を踏み出せない勇気を持たない自分はやっぱり勇者を名乗るのは間違っているのかもしれない。

 

 本物の勇者様な葉山の奴は……って、もう姿消してやがる。

 

「葉山の奴はもうどっか行っちまったぞ。ま、どうせ困っている人でも見つけて助けに行ったんだろうけど」

 

「でしょうね~」

 

「でしょうね~ってお前、いいのかよ? 前々から俺に散々『付き合ったり結婚するなら光の勇者様がいい~』って愚痴ってただろ」

 

「そりゃそうですよ。見た目も中身も実績も、どれを取ってもパーフェクトじゃないですか。普通の女の子なら当然光の勇者様を選びますよ!」

 

「そりゃそうだな。だったら早く葉山に会いに行けよ」

 

 分かっていたこととは言え、やっぱり正直に葉山の方がいいと言われるとムッ! ときてしまう。

 こんな自分がどうしようもなく小物なのは理解している。だから早くこの場からいなくなってほしい。

 これ以上俺に優しくされたらきっと俺は勘違いしてしまうから……、だから俺はいつだって優しい女の子は嫌いだ。

 

 そんな俺の卑屈な願いが通じたのか、いろは姫の奴も呆れた……というより、少し怒った? 顔で睨んできた。

 

「ええそうですか、そんなに私に光の勇者様の方へ行って欲しいんですね?」

 

 何なんですかこの人は!? そりゃ私だって常日頃からこの人に光の勇者様が良いだなんて口にはしてますよ。

 でも、だからって私を助ける為に傷ついた人を放り捨てて色目を使いに行く薄情者だとでも思ってるんですかね? 

 

 ああもう、なんで私がこんな鈍感な人の為に悩んだりしないといけないんですか! 

 こうなったら実力行使で分からせてやりますよ! 吹っ切れた乙女の行動力を舐めないでくださいね!! 

 

「勇者様……こっちをちゃんと見てください!」

 

「えっちょっ、近い近い!? ってか頬を掴まないで、というかなんで目を瞑ってるんですか?」

 

 む~、暴れないでくださいよ。いくら怪我人とはいえ、こちとらスプーンとフォークより重い物は持ったことがありませんとか地で言っちゃう乙女なんですよ。

 仮にも勇者でそこそこ力が強いんですから、そんなに抵抗されちゃ狙いが定まらないんですけど。

 

「む~、えい!」

 

「むがっ!?」

 

 無理矢理に口で口を塞ぐ、世間一般ではその行為の事をキスと定義されるのだろう。

 

 だがそれはキスと呼ぶにはあまりにも美しくなく、恋人たちの行為と言うにはムードもなく、愛のある行動というにはあまりにも強引であった。

 

 しかし、こんなにも胸が高鳴り、頭が沸騰しそうになるくらい恥ずかしいというのに、心は今まで生きてきた中で一番幸せに感じるということは、やはりこれはキスと定義してしかるべきだろう。

 

「ん、ぷはっ!」

 

「な、な、な、な──―」

 

「なんくるないさ~?」

 

「いや、ちげぇよ!? 何やってんのお前? ビッチなの? ビッチなのか!?」

 

 真っ赤に染まった顔で怒り出す勇者様は無礼にも私の事をビッチだなんて呼んで来た。

 本当に勇者様はデリカシーというか、品性を少しは光の勇者様から分けて貰ったらどうなんですか! 

 

「まったくもって失礼ですね。私が誰でも簡単にく……口づけを許したりなんてひませんにょ」

 

「おい、後半めっちゃ嚙みまくってるぞ」

 

 うぅ……、口づけって単語で滅茶苦茶意識してしまいました。っていうか、さっきまであんなにキョドってたのに私のミスで冷静に戻るな! 

 

 すぅ~はぁ~、落ち着け私! イメージするのはいつだって最強に可愛い自分だ。

 私は一国のお姫様、いつだってどんな時でも可愛いく美しくあざといキャラを演じるのみ!! 

 

 よ~し、もう一線は超えたんだ。臆するな我は無敵なり!! だから、ここで決める!! 

 

「ほら~、私ってキスは結婚する相手以外にしない主義の人間じゃないですか〜」

 

「いや、そんなの知らないんだけど。なんでさも俺が知ってるみたいな感じで喋ってるわけ?」

 

 一見すると惚けているようだが、私も勇者様も顔や耳が分かり易いくらいに真っ赤な色になっている。

 これって、期待してもいいってことですよね勇者様。

 

 だったら……

 

「だから、勇者様。責任、ちゃ〜んと取ってくださいね♡」

 

 




どうでしたか?胸がキュン!ってきたら感想よろしく!!

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