これは、とある女子高生が巻き込まれた都市伝説の全貌である。
『ねえ、聞いた?最近噂になってる都市伝説。』
『なにそれ、どんなの?』
『終電で帰るとき、一人ぼっちの状態で居眠りしちゃうと異世界に連れていかれちゃう、って話!』
『えー、こわーい!』
「はぁ……アホらし。」
私はLINEのトーク画面から目を離し、ケータイをスリープモードにしてポケットにしまった。そもそも科学全盛の現代に都市伝説なんて非科学的すぎる。そう結論付けて、仮眠をとるために眼を閉じた。どうせ私が下りるのは終点だから、寝過ごすこともないでしょう。
突如響いた、耳をつんざくような金属の擦れる音。それと同時に強く引っ張られるような力で、私はシートに転がった。
軽く頭を振って目を開けると、景色はさほど変わっていなかった。
「凄い音だったね、お姉さん。」
思わずぎょっとした。声のした方に振り向くと、少し間を空けて黒色のセーラー服を着た女の子が座っている。私が乗った時は誰もいなかったのに、いつ乗って来たんだろうとか、この辺では見たことがない制服だなとか思いながら、彼女の言葉に首肯で返す。
「何かぶつかったのかしら。」
その割には衝撃がなかったな、なんてのんきなことを考えながら、様子を見るために立ち上がった。電車に乗った時には月も出ていたから、目を凝らせば何か見えるかもしれない。
けれど予想に反して、どれだけ目を凝らしても何も見えることは無い。というよりも、まるで電車のガラスがすべて曇りガラスになってしまったかのようにぼやけている。赤いライトが点滅して、カン、カンという音も聞こえるから、多分踏切の近くなんだろう。
「何か分かった?」
「いいえ、何も。とにかく待つしかなさそうね。そのうちアナウンスもあるだろうし。」
そう言って私はもとのシートに座りなおしたけれど、内心は不安で仕方がなかった。気を紛らわせようとケータイをつけても、なぜか圏外になっている。これだから型落ちじゃなくて新作が欲しかったのに。
でもよく見ると、LINEのグループトークに何か受信していた。さっきの都市伝説の続きだろうか。
『なんでも、その時間にいじめっ子に呼び出された女の子が踏切に閉じ込められて、逃げることもできなくて電車に轢かれて死んじゃったんだって。』
『えー、なんでそんなことしたの!?』
『私が聞いた話だと、【友達試験】っていう名目で色々酷いことしてたんだって。でもその女の子は友達が欲しくて、【試験】に頑張って合格してたんだけど、それが面白くなかったいじめっ子の主犯格が絶対に合格できない試験をやらせて……って話だったよ。』
『えー、ひどすぎ……!』
『あ、私別のバージョンなら聞いたことあるよ?いじめじゃなくて事故で、異世界に連れてかれるんじゃなくてその子と入れ替わっちゃう、って話だったけど。』
『うへぇ、色々あるねぇ……』
『でも、このお話自体は実際にあった事みたいだよ。その女の子の名前も聞いたんだよね。何だったかな……』
「そういえば、お姉さんの名前を聞いてもいいですか?」
下にスクロールしようとしたとき、いつの間にか私の目の前のシートに移動していた女の子がそんな事を言ってきた。特に断る理由も無いから、教えてあげてもいいでしょう。
「私?如月
「あ、お姉さんと同じ苗字です!ボクはヤミ、キサラギ ヤミって言うんだ!」
「あら、そうなの?じゃあヤミちゃんって呼んでもいい?」
「ぜひ!」
《ヲ待たセいタ死ましタ。列車ノ安全が確認デきまでキまできましタタタタタので、運転を再開イたしましましましマす。》
そんなアナウンスが流れて、電車はゆっくりと動き出した。運転が再開したのはいいけど、この電車もいい加減オンボロだ。錆の臭いもひどいし、配線がやられているんだろう。随分とバグったアナウンスだった。
ブーッ、ブーッとケータイが二回震えた。LINEのトーク通知らしい。何気なくその通知を開いた瞬間、私は凍り付いた。
『思い出した!その子は[鬼 弥美]って名前!はぁ……すっきりしたぁ……』
『鬼?変な名前だね。』
『……もしかして[オニ]って読むと思ってる?』
『違うの?』
『違うよー!実はこれ、先輩と同じ苗字なんだよね。』
『え、って事は……』
『そう、その子の名前は
っていうんだって。』
恐る恐るケータイから視線を上げると、女の子……ヤミちゃんは私の方を見ながら微笑んでいた。でも、瞬きを一切していない。その目の奥はコールタールのような、どろりと濁った暗い闇の色をしていた。
「あなた……あなたは……」
「あなた、なんて……他人行儀だなぁ、ハスミ先輩。」
「嫌ッ!!」
ぐっ、と手を掴まれた瞬間、私は悲鳴を上げた。触れられただけで凍えそうなほど冷たく、硬い手。およそ生きている人間のものじゃない。
ヤミちゃんのセーラー服も、よく見ると黒色じゃなく、元の色は紺色だと分かる。黒色だと思ったのは、胴体を中心にどす黒く染まっていたから。
さっきからしていた鉄錆に似た匂いの原因も、ボロい電車なんかじゃなかった。これは、血の匂いだ。
「あぁ……なんだ、気づいちゃったんだ。でも、もう手遅れだよ。」
「て、手遅れ……って……」
「この電車は走り続けるんだ。永遠に。どこへも向かう事は無い。でも、ボクはここでやっと下車できる。永い永い旅を……楽しんでね、ハスミ先輩。」
そして、私の意識は暗転した。
昼休み。後輩ちゃん達がめいめいにお昼ご飯を食べている。
「あ、いたいた!せんぱーい!」
「うん、どうしたの?」
「あの、もしよければ一緒にご飯食べませんか?お弁当も交換っこしましょう!」
「あはは、いいよ。じゃあ先に席を取って待っていてくれない?ボクもすぐ行くからさ。」
「わかりました!なるべく早く来てくださいね、ヤミ先輩!」
「はいはい。」
同じ部活の後輩ちゃんと別れて、お弁当を取りにロッカーへ向かう。と、学内モニターで流れているニュースが聞こえてきた。
《本日未明、██県██市にある██駅付近で大規模な土砂崩れが発生。列車が巻き込まれる事態となりました。なお、現在も被害者の捜索は続いており───》
ボクはそれ以上気に留めることも無く、お弁当を持ってカフェテリアに向かった。後輩ちゃんを探していると、まわりのざわめきに混じって噂話も聞こえてくる。
「ねぇ、聞いた?最近噂になってる都市伝説!」
「聞いた聞いた!電車の事故に巻き込まれた女の子が、一人じゃ寂しいからってもう一人あの世に連れて行こうとして、終電に乗ってくるって話でしょ?」
「なにそれ、怖ーい!」
「そういえば、その事故の犠牲になった子の名前ってなんだっけ?何かで聞いた覚えがあるんだよねー。」
「あー、確か───
だっけ?」
「……ふふっ。」
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