「〜♪〜♪」
何気なく鼻歌を(多少音痴だが)歌いながらアテナが歩く。
それを見たメイドたちは邪魔するのも憚り、それでいてアテナが嬉しそうな顔をしているのを見て嬉しくなり、より一層仕事に精が出ていた。
「……?おや、マスター。上機嫌なご様子ですが何かありましたか?」
「あ、しぐるど。おはよー」
「おはようございますマスター」
「えーとね、そのね」
珍しく顔を限界まで緩めながらニヤニヤし、体をクネクネさせているアテナを見てシグルドは「この時間が一生続けば」と内心思いながらマスターであるアテナの言葉を待つ。
一応(ギルメンの悪ノリ込みで)ちゃんと英雄シグルドに沿ったプロフィールになっているが、やはりナザリックに属する者故か、ギルドメンバーに対して、更に言うならばアテナに対してはこの世の誰よりも心酔している。
ブリュンヒルデとアテナ、アインズの中から誰か1人を選べと言われたら恐らく苦しさのあまり切腹をするだろう(ブリュンヒルデ談)
「えへへ〜その、ね、アインズさんにね〜」
「はい」
「一緒に、お出かけしましょうって、誘われたんだぁ〜。えへへ。夢じゃないかなぁ〜」
「まさしく現実ですよマスター。当方が保証しましょう」
成程こうなる筈だとシグルドは即座に理解し、未だニヤけてふらついているアテナを丁寧に優しく、目的地まで付き添うことになる。
そしてこの現場のすぐ近くにとある2人がいた。
「アインズ様が⁉︎」
「アテナ様をお誘いした⁉︎」
「シャルティア!すぐにアテナ様に追いつくわよ!アインズ様とアテナ様を2人っきりにさせるわけには行かないわ!」
「いやいやいや!ちょっと待つでありんす!そんなことをしたら不敬でありんしょう!やめなんし!」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ!アインズ様が!アインズ様が!」
今日も今日とてナザリックは平和である
あの戦争の日から3日後、リ・エスティーゼ王国から正式にエ・ランテルとその近郊を明け渡すという文書が届き、あの街はナザリックのものになった。
明日にはエ・ランテルにアインズさんが作ったアンデット達で行進を行うらしい。
「アテナさんはあくまでも護衛という立ち位置なので、俺と一緒に馬車で移動、というわけには行かないみたいです。申し訳ない」
「はい、アルベド達から大まかには聞いてます。一応何度かシミュレーションはしたので、だいじょうぶです。…………多分」
「多分じゃだめですよ」
「あぅ…」
アインズさんの軽快な笑いに思わず恥ずかしくなる。でも、私やること結構重要なんだもん!緊張もするって!
「それはそうと、アテナさん」
「はい?」
「ヤケド痕隠すための化粧ですが、使ってるモノ変えたんですか?」
「え?いや、なにも変えて、ないです。なんで、そう思った、ですか?」
「普段と違う感じがしまして。ああ、もちろん綺麗なんですよ。ただ言葉だと言い表せないんですけど、なんか何処か違う気がして」
「あー……。えーと、その…。普段は、アルベドやブリュンヒルデにお願い、してるです。でも今日、自分で全部やってみた、です」
「そうなんですか⁉︎凄いな、ヤケド痕なんて何にも見えないですよ!」
「ありが、と、ございます…」
なんで、なんでアインズさんこんなに誉めてくれるの?
顔大丈夫だよね、緩んでないよね。熱っ、誰か!誰か冷まして!
その後、対抗心からかアルベドが乱入して誉めてもらおうとしたとかしなかったとか。それはまた別のお話--
〜数週間後 エ・ランテル〜
「アルベド、エ・ランテルの支配は順調に進みそうかい?」
「今のところ大きな騒ぎは無いわね。人間にも意外と順応性があるみたい」
「強者に従うのは弱者の生存本能なのかもしれないね。何より【冒険者モモン】の存在が大きい」
「ええ、モモンの存在が人間の恐怖を抑えているのは間違いないわね」
「全く気が遠くなる思いですよ。至高の御身41人を纏められていた御方の底知れぬ知略には」
今はアインズさんに呼ばれて、たまたま同じタイミングで来ていたアルベド、デミウルゴスと一緒にエ・ランテルで一番大きな屋敷に来ています。
ただ一つ言わせてください
何がどうなって冒険者モモンが役に立ったの?
でもそんなのは口が裂けても聞けず、2人と一緒に「本当にアインズさんすごいよねー」と同じことを言うしかなかった。
大きな扉を開けると、私たち以外の階層守護者のみんな、プレアデス、オルトリンデ達ワルキューレ、セバスが集まっていた。
アルベド達はみんなの前に代表するように立ち、私はアインズさんの横に置いてある椅子に座る。
その後いつもの忠誠の儀が終わり、アインズさんによる「面を上げよ」の号令でみんなの顔が上がる
それからアインズさんが集まってくれたことに感謝して、それに対して守護者のみんなが魔導王様のために何でもやります(以下略)とそれぞれが告げていき、アルベドの「建国お祝い申し上げます」の言葉で締めくくられた。
「皆、ありがとう。だがお前達は私の大切な友人達の子供の様な存在だ。陛下などの堅苦しい継承は不要。これからもアインズと呼んで欲しい。さて…アテナさんは何かありますか?」
「じゃあ…一つだけいいですか?」
「はい、どうぞ」
「その…みんな、本当にお疲れ様です。これからも色々と大変なことがあると思います。でもアインズさんが信頼しているみんなならきっと、何でもできると、そう確信できます。これからも一緒にアインズさんを支えていけるよう、頑張りましょう」
私の言葉でみんなが「オォー!」と元気よく掛け声をしてくれ、内心ホッとしながらアインズさんに続きを促す。
「ついにナザリックが表に出る時が来た!私はここに!」
アインズはギルド武器を高く掲げる。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導国建国を!宣言する!」
こうして、ナザリックは正式な国として、建国した。
〜数週間後 バハルス帝国 孤児院【エル】〜
「……これも違うか」
元【英雄の集い】メンバー、エイ=ユー・オウことユーは1人で孤児院の一室に籠っていた。
色々とアイテムを出しては(黄金の波紋の中に)放り投げ、出して何かを確認しては放り投げ、を繰り返していた。
「フレーバーテキストと効果が違うものって意外と無いな。1番詳しいのはやっぱ……けどもう、正直あいつらと会いたく無いんだよなぁ……面倒だし」
アレに貸しを作るくらいならアインズの下に着くほうが百倍マシだ。
コンコン
ガチャ
「やあ
「全く。物理的にモノ多すぎて時間外からあっても足りん」
返事を待たずに入ってきたのは萌葱色(濃い黄緑色)の髪をした、16歳前後の少年、少女のどちらに見える、どこか幼さを感じる顔をしており、体全体を覆うように一枚の白い羽織物を身に付けていた。
ユーは本来の名前で呼ばれていないにも関わらず、顔馴染みかのように対応する。
「ふーん。……そうやってガラクタを溜め込むからだよ。少しは整理したらどうかな?宝の持ち腐れだよ?」
「うるさい」
ユーは黄金の波紋を1つ創り出し、伝説級の武器(剣)を、躊躇いなく発射する。しかし剣は雑に弾かれ、撃たれた側は何とも無いかのように歩み寄る。
「危ないじゃないか」
「よく言う。それで何の用だ
「バーサーカーから連絡が来たんだ。ギルに繋いでくれって」
エルキドゥと呼ばれた人物は、ユーがその辺に放り投げまくっていたアイテムを拾いながら先ほど受けたメッセージの相手を伝える。
ユーはというと、バーサーカーの名前が出た途端に死ぬほど嫌そうな顔をしていた。
「一応聞くが何の用事だって?」
「匿ってくれ、だってさ」
「やなこった。で、それだけ?」
「いや。まだあるよ。実は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の遣いだっていうメイドが来たんだ」
「は?」
エルキドゥから出てきた言葉にユーは思わず素っ頓狂な声を出す。エルキドゥは予想通りだったのか小さく笑いながら説明を続ける。
「ユリって名乗るメイドでね。どうも魔導王とやらは孤児院の運営に興味があるらしい。それで同盟国であるバハルス帝国にある孤児院の中でも特に規模の大きかったココを見学したいみたいだよ」
「一応聞くけど、私の名前出した?」
「いいや。そもそもここの運営にギルは関わっていない事になってるから辿り着けるわけが無いと思ってる」
「そうであってくれマジで。何の為にこれまで私が奔走したのか分からん」
エルキドゥは「何故か定期的に寄付金が大量に来る孤児院なだけだしね」とイタズラな笑みを浮かべながら寄付している張本人の前に座る。
「じゃあアルシェやその家族達は避難させた方がいい?」
「問題ないと思うよ。アルシェは基本的にフォーサイトと一緒に外に出っ張りだし、念のためとはいえ
「だといいけど。はー…酒カスといいAOGといい、マジで最近面倒ごとばっかだな…」
「あはは。ギルさえ良ければ僕も一緒に旅するんだけどね」
「やめといた方がいいよ。私と一緒だと余計に面倒ごとに巻き込まれる。特に例の【引き篭もり】に目をつけられると本当にめんどくさいぞ?」
「ギルと一緒ならそれでも構わないさ」
「あっそう」
その後もドラ○もんの如くアイテムを出しては放り投げ、出しては放り投げを数十分繰り返し、調査に飽きたのか全てを黄金の波紋に収める。
「どこへ行くんだい?」
「リーダーたちと今日の仕事」
「そうか、頑張って」
「そっちもね。ポカをやらかしてくれるなよ」
「わかってるとも」
〜数ヶ月後〜
あれからのエ・ランテルはというと、アインズさん曰く統治はうまく行ってるみたいです。
みたい、というのは私はほとんど表に出て無いからなんだけど。
「アテナ様、本日のご予定は?」
「アインズさんと、一緒に、おでかけです。冒険者組合の人と、お話しするって」
「承知しました!それではエミヤ様とパンドラ様をお呼びいたします!」
「えっ?」
メイドさんに聞かれて答えると、なぜかエミヤとパンドラを呼ぶって言われて、そのまま出て行ってしまった。
なんで?
数分経って、本当に2人が連れてこられた。
しかもなんかやる気に満ちた顔つきしてる。というかそのキャリーのついた大きな箱はなんですか?
「えーと……」
「さあマスター、始めようか」
「アテナ様ッ!我らにッ!お任せアレッ!」
その後やけに真剣な2人を前に、ありとあらゆる正装ぽい服の着せ替え人形にされてしまいました。
……ちょっと楽しかったです
それから冒険者組合の……えーと…ナントカさんの元に一緒に行って、私の紹介がてら今後の動きを話し合いました。
特にアインズさんは『真の冒険者』というものを育てるための機関を作りたいみたいです。その為の第一歩として同盟国のバハルス帝国の闘技場で自分の強さを見せつけ、演説をしたいとか。
また同盟者であるジルクニフ皇帝には迷惑をかけられないので、こっそりと行ってこっそりと終わらせる予定らしいです。ナントカさんに密入国はあまり…とあまり良くない反応されていたけど、それもどうにか乗り切っていた。
アインズさんの語る『真の冒険者』について聞いたナントカさんは感銘を受けたぽくて、積極的にアインズさんに協力してくれるように変わっていくのを横から見てると、本当にアインズさんの話術はすごいなぁと思った。
……私もこれくらい出来るようになればいいんだけど。どうしても言葉がうまく回らないんだよね。
「では、帝国へ向かう日程はいつになさいますか?」
「そうだな、早ければ早いほど良い。だがそちらの都合もあるだろう。お前が段取りを組んでくれたならばそれに従おう」
「畏まりました。となりますと明後日に出発で如何ですか」
「うむ。ではそれまでに必要なものはあるか?」
「いえ特にございません」
「わかった。それでは明後日の同じ時間に訪れる。今日は突然押しかけてすまなかったな」
「とんでもございません」
それから特に揉め事など起こる事なく解散しました。
バハルス帝国かぁ…どんな感じなのか何気に楽しみです。
「アテナさんはダメですよ?」
「えっ」
執務室で言われたことに思わず変な声が出てしまった気がする。
ていうか、行っちゃだめなんですか?
「同盟国とはいえ、皇帝陛下の目を盗んで密入国するんです。俺だけならまだしもアテナさんまでいると一緒に何かしらの罰を下されるかもしれません」
「だ、だいじょうぶ、ですよ。ちゃんと、変装、します!それにあいんずさん、護衛、やらなきゃです」
「護衛はオルトリンデの御使いだけにする予定です。それなら広範囲をカバーできますし、なによりバハルス帝国の民を畏怖させない為にもなります」
えーと、えーと、それなら……
「それにアルベド達にも内緒の事案ですから。アテナさんまでいないとなると、ちょっとバレるかなーって」
「だったら私も行きたいです!私も、アインズさんと内緒のお出かけ、やりたいです!」
「話を聞いてください」
デミウルゴスの聖王国についての計画が整ったからそちらに向かって欲しいと言われ、頑張って粘ったけどダメでした。
うぅ…行きたかった……
〜聖王国〜
「カルカ様、アインズ・ウール・ゴウン魔導国なる国から親書が届きました」
「親書?」
執務室で仕事中だった聖王女カルカ・ベサーレス。
【ローブルの至宝】と呼ばれており、聖王国で初めて聖王の座に就いた女性で、花に例えられるほど愛らしさと凛々しさを兼ね備えた顔と、艶めいて鮮やかな光沢が有る金糸の様な金髪を、長く伸ばしている。
そんな彼女の元に部下の1人が手紙を持ってきていた。
差出人は【アインズ・ウール・ゴウン魔導国】
バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国との小競り合い戦争に参入し、王国に壊滅的被害を与えたアンデットの王が立ち上げた国で、カルカは勿論そのことは把握していた。
アンデットの国というだけで国中の民が忌み嫌っていた。
現に親書を持ってきていた部下も嫌悪感を隠そうともしていない。そんな様子を見て軽くため息を吐きながら親書を受け取り、何の躊躇いもなく広げる。
「っ…その、聖王女様、何故……」
「アンデットの国とアンデットの王を忌み嫌わないのか、でしょうか?」
「……っ、は、はい。彼の国はリ・エスティーゼ王国の兵を大虐殺した残虐非道なアンデットが王として君臨しています。きっと!おそらく民衆も脅されて……」
「戦争はそのような場所です。それに私は例えアンデットが王の座に就いたとしても、王の職務を全うし民を導いているなるば問題は無い、そう考えています。実際、魔導国の実態を聞いた限りでは悪政を施行している様子もなく、民も笑って暮らしているそうですよ」
「そんなバカな!有り得ません!」
熱く喋る部下を見てより深いため息を吐きながら、退出するよう促す。部下は納得できない表情をしながらも、おとなしく退出していく。そして入れ替わりで入ってきたのは、顔以外の肌を一切見せない清楚な神官着を着用した茶髪を腰まで伸ばしている女性ケラルト・カストディオと、聖騎士の鎧を身につけた、同じく茶髪でこちらはボブカットの女性レメディオス・カストディオ。
カルカはタイミングがいいと言わんばかりに2人を手招きで寄せる。
2人は不思議に思いながら近寄り、カルカの広げていた書類を覗き込む。
「なっ……」
「これは……」
「2人の率直な意見を聞きたいのだけど、
親書の内容は簡潔にいうと、国同士の親交を深めるため何人か滞在させて欲しいという旨だった。
真っ先に答えたのは聖騎士のレメディオスだった。
「断るべきだ!あんなアンデットの国から来る者がマトモな筈がない!」
「カルカ様、私も姉様と同じ考えです。断るべきかと」
「そう?私は受け入れてもいいと思ってるわ。名目上は国同士の親交を深めたい事、それにこの国の在り方を学びたいそうよ。
それに…こちらに来るのはどうやらアンデットなどではなく、《聖騎士》のようですよ?」
「アンデットの国に聖騎士?ふざけているのか?」
「姉様…」
カルカから告げられた内容は俄かに信じがたい事で、本音を隠そうともしない姉のレメディオスをケラルトは咎めながらも内心は同じ思いを抱いていた。
「受け入れてくれた場合はお互いの国での不可侵条約、友好条約、またもしものときは聖王国の
聖王国は権力の問題によって南北で分断されてしまっている。
その原因だと自覚していたカルカは少しでも自国の民に安らぎを与える為にも受け入れる気だった。
「ケラルト、そこの紙を。返事を書きます」
「それは…」
「勿論----」
一ヶ月後、1人の少女がローブル聖王国の門を叩く
「初めまして。魔導国より参りました。『アテナ』と申します。この度はよろしくお願い致します聖王国の方々」
次回から聖王国編
カルカ様は……まあ何も言われてへんし
…………
よーし頑張るぞ!(メソラシ