わが種族は、キリン、というらしい。これは、敵対していた人間の雄たちがそう呼んでいたからわかったことだ。
自分のことを、名前で呼ぶ習慣などなかった。
人間という種族は恐ろしい連中である。聞いた話では百年も生きない癖に、一年に一匹子供を産むという。わがキリンではそうはいかぬ。到底、追いつくことなどできない。そして、道具を扱える。手先がとても器用で、ものを加工する技術に長けている。特筆するべきはその正確な投擲であろうか。こと投擲に関しては、われらが属しているという古龍種にも劣らない正確性を有している。
わしが生まれたのは、連中が新大陸と呼んでいる山の奥深くのことだ。父親は母親を孕ませたあと行方をくらました。母親の乳を吸ってわしは育った。ある日、自然と雷を扱えるようになった。気が付くと体は白く、強く、きょうだいたちにも負けない体になっていた。
わしは、大陸をかけまわった。溶けた岩が流れる地帯、森林、雪山も。決まった縄張りはもたず、暮らした。
ある日、その男に出会った。鋭い目つきをした男だ。粗末な武器を片手に挑みかかってきたので、雷で蹴散らしてやった。
男はしつこかった。何度も何度もあらわれてはわしを殺そうとしてくる。面白い。何度も殺そうとしたが、殺しきれぬ。人間はしぶとい生き物だ。一殺せば百産んでかかってくる。殺さぬ方がいいのかもしれぬと、わしはいつも逃げた。
そうしているうちに、情が沸いた。わしはいくつまで生きるのか、予測もつかぬ。長い生の中で、この男だけは特に印象的であった。
戦った。角をへし折られたこともあった。弱弱しかった男も年を取るにつれ、わしと打ち合えるようになった。
決着はついた。わしは男との力量の差が、同じになっていることを悟った。わしは、全力で殺しにかかり、そして殺された。
男の特大の剣が振るわれ、わしの毛皮を切り裂き、内臓を酷く傷つけた。致命傷だ。どうと、倒れ込み、男を見た。
「すまない」
男は謝ると、わしの体の横に穴を掘り、そこにわしを埋めた。
人間には、ハンターという職業があるという。ハンターは、獲物を殺して血肉を奪いとるらしい。だがそうはせず、わしは人間たちがそうするという墓に埋葬された。
ああ、願わくば、このような強者と次もまみえてみたい。願わくば、強者の血を残してやりたい。子を残す前に逝くことが残念でならぬ。
わしは死んだ。
そして。
「うおおおおおおおお!」
ウマ娘という種族になっていた。
意味が分からぬ。わしは死んだはずではないのか。人間には死の先を求めるところがあるというが、そんなものはないはずだ。人間も、古龍も、死ねばそのまま他の獣や虫に食われて朽ち果てるのみだ。いくつかの例外があることを、わしは知っていたが。あのような巨大な龍であれば、のちの世に強烈な影響を残し続けるであろうという、存在もあったからだ。
ウマ娘。曰く、人間が飼育していた“馬”と呼ばれる
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、だいぶ走ったか……」
ウマ娘は、希少な存在らしい。特に、わしのような頭に角を生やして生まれてきたものなど、“ほとんど”いないらしい。研究者とかいう連中に角を削られそうになって大暴れしてケイサツを呼ばれたのは記憶に新しい。れんとげんなるカラクリはよくわからぬ。じっとしているだけでいいなどという道具があるのか?
おかしな話である。わしは馬ではなく、キリンなのだから。あの母親の血を受け継いだ、古い種族なのだから。
曰く、ウマ娘はレースに出場し、そこで競うらしい。人間の発想というものは理解が及ばぬ。優劣を決めたいならば、殺し合いをすればいいではないか。ウマ娘として生を受けたわしも、走るならまだしも『踊る』『歌う』などまっぴらであったので、この世界における両親には、『トレセン学園』には入学しないことを伝え、脚力で稼いだ資金を使って旅に出ていた。
幻住 麒麟。それが今のわしの名前らしい。ウマ娘としての名前も、本名も、同じらしい。しかし、この漢字という記号は厄介で、いまだにうまく書けぬ。覚えるつもりではいるのだが。
わしは、日本というクニに生まれた。なんでも、クニというものは縄張りと同じらしい。人は群れて生きる動物だ。クニがなければ、生きていけないのだという。なんとも面倒なことだ。
わしは、ホッカイドウと呼ばれる土地を走り続けていた。
なぜか? 強い雄を見つけるためである。
前世では、わしは雄であった。だが子はついに作れなかった。
今世では、雌である。強い雄とまじわり、血を残してみたいのだ。生命とはそうあるべきなのだから。
しかし、この世界の人間の雄は貧弱だった。前の世界のように剣を振り回したり、火に巻かれても平気であったり、崖から飛び降りたりということはできないらしい。
なので、血を受け入れてもいい男はいまだに見つかっておらぬ。
「はっ! ………はっはっはっ!」
わしの走り方はまるでレイヨウみたいだと言われることがある。歩幅が大きく、跳んでいるようだからと。しかし、レイヨウとはなんのことか?
わしは道を走っていた。すると横からおーとばいという乗り物が並走してくるではないか。
「なんだ貴様は! ………!!」
乗っている男がじっとこちらを見つめてくるので、わしはペースを上げた。しかしぴたりとついてくる。悔しいがこのおーとばいという乗り物に瞬間的には勝てても結局は負けてしまう。人間の恐ろしいところは、その手先の器用さだ。わが種族でも作れぬ高度な道具を、次々と生み出してしまう。
わしがばてて足を止めると、おーとばいに乗っていた男はおりた。そしてヘルメットを取る。
「き、貴様はっ…………」
「やはり、そうか」
男は静かに言うと、その鋭い瞳でわしを見た。
見覚えのあり過ぎる容姿をしていた。
「はんたー、お前もこちらの世界に来ていたとは!!」
その男は、わしを殺した男であった。
男は静かに言った。
「トレセン学園に来ないか」
続きがないやん!
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俺が書くよ!
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お前が書くんだよ!