ケルビちゃん
おっぱい大きい。髪の毛は緑に白斑点。小さい角。大きい垂れ耳。元雌ケルビ。
ネガティブでことあるごとに命乞いをしている。
「キェェェェェェェェェ! ごめんなさーい! すいませーん!!!」
「待ってよぉおおおおお! 角触らせてよおおおお!」
朝っぱらから騒々しいなと思ったら、同室のついんさいくると、垂れたでかい耳に小さい角の生えた緑っぽいあちこち白の斑点のある長い髪の毛の女がかけっこをしていた。その女の走り方は、どことなくわしのそれと似ている気がした。歩幅が大きく、体の左右移動が大きいのだ。
その緑髪の女は、ツインターボ必死の追撃にも関わらず大きなステップで身をかわしていた。直線で走るターボをスマートなステップで切り返しては逃げまくる、まるであれである。
「森でよく見かけた小さいのに似ているな……」
「あれは……ケルビ……」
「けるび? 肉の種類か?」
「それはカルビだ。あれもウマ娘になっていたらしくてな、実技筆記共に良好な成績なのに面接で大泣きして話題になってたぞ。森で見たことがないか。キリン種に似た、ウマみたいなやつのことだ」
「ああ、なるほど、あやつもわしらと同じ世界出身なのか」
ぴーぴー泣き叫びながら逃げまくる、その速いこと。肉食動物から逃げ惑うとむそんがぜる?とかいう鹿?を思い起こさせる。てれびで見たことあるぞ!
「あいつもスカウトするか」
「すかうと?」
「ああ、チームを作ろうと思っている。いまのところ“逃げ”しかいないのが悩みの種なわけだが、あの足の速さは特筆するべきだ」
一方ついんぶれーどはスタミナが切れてヘロヘロになっていた。目をぐるぐる回しながら、腕を前のめりにして走っている。
対するケルビは疲れてはいるものの、比較的余裕があるように見えた。
が、疲れ切ってしまったツインターボを見てケルビはあろうことか足を止めて泣きべそをかきながら戻ってきた。ツインターボがケルビを地面に押し倒す。まるで子供の追いかけっこだ。
「あばばばばばごめんなざい゛ごめんなさ゛い゛! 逃げ切っちゃってごべんなざい゛! 角でも服でも脱ぎますがらぁぁぁぁぁぁぁ!」
「そりゃああああ!」
「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ角もがないでぇぇぇぇぇぇ!」
たーぼが角を触っている。触るだけでいいのか……。なんともおかしなやつだ。
「捕まったな」
「ああ。角でも切り取って素材にするのか」
「はんたーはどうしてそこまで素材剥ぎ取りにこだわるのだ……その割にはわしは切り取らずに埋葬するし、お前は本当にわからん男だな」
「お前との戦いはそういうんじゃないんだ。俺の生涯をかけたものだった。敬意をもって埋葬したかったんだ」
こやつ。ますます気に入ったぞ。ぜひこやつの血を受け入れねば。
などと思っていると、はんたーが腕を解き、じゃれている二人の元に歩き始めた。わしも後から続く。角を堪能しただぶるおーらいざーがふふんと満足げに離れる。角触りたいだけらしい。子供か? 子供だった。
「ケルビと言ったな。一緒にこないか?」
「は、はひいいいいい! キリンさん! キリンさんですかぁ! あの雷をビリビリしてるこりゅーの人ですよねぇ!? あばばばばば」
泡を吹き始めるので、はんたーが軽く肩を揺さぶると正気に戻ったらしい。
「もしかしてお前も前世の記憶があるのか?」
ケルビがはっと口に手を置くと、途端に震え始めた。
「ももももももももしかしてあなたはハンターさんなんですか!? ひぃ止めて皮剥がないでくださいお洋服なら脱ぎますからぁぁ……」
どうやらこやつも記憶があるらしく、服を脱いで命乞いを始める。憶病すぎる。前世ならともかく今のニホンで皮をはごうとするものなどおるまいに。
というよりおなごが服を男子の前で脱ぐなどあってはならんことはわしにもわかった。手を掴んでやめさせると、途端に鼻水やらで酷い顔に変貌する。子供か? 子供だった。ハンカチをはんたーから受け取って顔を拭ってやる。
「とにかく。チームを作ろうと思っている。もし興味があるなら、連絡をくれ。チーム室もおさえるつもりでいるから」
「きょ、興味ですかぁ………えへ、えへへへ、走るのには興味ありますねぇ……えへ、ぐへへ」
笑い方をなんとかしろ。
後日。わしたちは部室(チーム室?)を理事長に書類を提出して押さえた。しかしこれが元物置だったらしく、部屋というよりガラクタまみれの部屋という有様で、一日かけて無駄なものをどけるのと掃除にかけてしまった。
わしたちが一通り環境を整えてお茶にしていると、こんこんとのっくする音が聞こえてきた。扉をバーンと元気よくあけた割にはおどおどと腕を胸元にあてた姿勢のケルビが入ってきた。
「すすすすすすすすすすみませーん! 入部しに来たケルビですけどぉ!」
「あ、角の子だ! ターボはツインターボ! よろしくね」
「わしはキリンじゃ。こいつははんたー」
「よろしく」
かくして今のところ“逃げ”しかいないチーム『ライズ』が誕生したのだった。