突然ですが、お空の変態堕天司と一緒に呪いが蔓延る世界で目を覚ましました。 作:時長凜祢@二次創作主力垢
「おっと、キョウスケじゃないか。まだオレに何か用かい?」
現れた兄さんの姿を見て、ベリアルはいつもの調子で話しかける。その赤い瞳にはどこか楽しげな色が宿っており、この状況を面白がっていることがよくわかる。
そんなベリアルに対して、兄さんは明らかに警戒とはまた別に、怒りのようなものを宿しているようだった。
これは……私は口出ししない方がいいだろう。とりあえず、一旦は様子見か。
「……お前、誰だよ。」
無言で兄さんに眼を向けていると、兄さんはベリアルに問いかける。
お前、誰だよ……ってことは、やっぱりベリアルは織部明彦って名前の誰かの皮を被ってここに現れたことになるのだろうか?
でも、だとしたら母さんのあの信じ様は?もし違う存在であるならば、母さんもベリアルを疑うはず……
「誰ってイヤだなあ。幼馴染みの名前をお忘れかい?キミの友人の織部……」
「惚けんな!!!!」
状況を分析しようと思考回路を回していると、兄さんがベリアルの返答を怒鳴りつけるようにして遮る。
思わず目を丸くして驚いてしまったが、ベリアルは気にしていないように見える。
ベリアルも何かに気付いてる?それとも、ただ気にしていないだけ?意味がわからず首を傾げていると、兄さんが再び口を開いた。
「明彦はすでに死んでんだよ!!14年前の8月に!!なのにアイツのフリをして、お前は俺らの家に潜り込んだ!!一回だけしか会ってなくて、小さい頃の記憶に過ぎないから忘れてしまっている星歌を通して!!いったいなんなんだよお前は!!俺の大親友の名前を騙りやがって!!」
その瞬間、兄さんの手元には巨大な鎌が現れて、容赦無くベリアルめがけてそれを振る。
明らかにただの武器じゃないそれは、妙な力を秘めていた。まるで、息が詰まるかのような、そんな気配を持ち合わせている。
いきなりのことに固まっていると、今度はベリアルが動いた。右手をまっすぐ横に伸ばしたかと思えば、手のひらを中心に兄さんが持つ鎌と似たような気配が渦巻く。
程なくして現れたのはサイス・オブ・ベリアルで、軽々と兄さんの鎌をサイス・オブ・ベリアルで破壊する。
火力おかしくね……?と思ったのは一瞬のこと。呆気に取られてベリアルを眺めていると、兄さんの手元に再び武器が現れ、ベリアルに対する攻撃を続ける。
だが、全てベリアルに軽々といなされるか、破壊されるかのどちらかだ。
「……ふぅん?だが、キミ、自分の母親の前だとオレをちゃんとそいつとして扱っていたじゃないか。これはどう言う意味だい?」
「母さんはその事故で幼馴染みと先輩を亡くしてんだよ!!明彦のことも可愛がっていた!!だから、明彦だけでも生きてくれてよかったと安心してたからああするしかなかった!!」
「へぇ?じゃあ、なんで攻撃してくるんだよ。オレが本物で、キミの手で殺されたとなれば、さらに悲劇が起こるんじゃないか?」
「偽物なのはとうにわかってんだよ!!でも、こっちに害さえなければ黙って見過ごすことだってできた!!だが、星歌とお前の間には妙な結びつきがある!!その結びつきがあまり良くないものだってこともわかってるんだ!!だから聞いてるんだよ!!お前は誰なんだ!?」
兄さんの言葉に目を丸くする。私とベリアルの間に妙な結びつきがある……だって?
その結びつきっていったい……。
「………なるほど。そう言うことか。道理で変わった感覚があったワケだ。」
混乱して目を丸くしていると、ベリアルがポツリと呟くように言葉を口にする。
何かわかったのかと視線を向ければ、ベリアルは私に赤い瞳を向けて、小さく笑みを浮かべた。
しかし、すぐに兄さんの方に目を向けては不敵な笑みを浮かべる。同時に、再び自身を攻撃しようとしている兄さんを牽制するかのように、サイス・オブ・ベリアルの刃を、私の首元に静かに添えられた。
「……え?」
「そこまで言われちゃあ、種明かしをするしかないな。おっと、動くなよ、シノハナ キョウスケ。大好きで大切な妹ちゃんの首と胴体がおさらばするぜ?」
「!? 星歌!!」
まさかの事態に混乱していると、ベリアルは兄さんに対して動いたらこの場で私を殺すと楽しげに脅す。
私にヤイバを突きつけられたからか、兄さんは私の名前を呼んだあと足を止め、殺気を飛ばしながらベリアルを睨みつけた。
しかし、ベリアルはその殺気を意に介していないようで、笑みを浮かべたまま私の首元に刃を近づける。
鎌を持っていない方の手で、私の背中に“動いたら怪我をするからそのままで”と小さく書きながら。
それを確認した私は、ベリアルに目を向けたまま無言になる。確かに、わずかでも動いたら刃が当たりそうな位置にあるからね。
反転術式使える人いないし、私もそれが使えるワケじゃないから、このまま動かない方が良さそうだ。
「キミのど天然すぎる母親は簡単に騙せたのに、君は素直に騙されてくれないか。騙されてくれた方が、何倍もよかったんだが、残念だよ。」
「……!!」
「動くなって言ってるだろう?それとも、そんなにキミは自分の大切な妹に死んで欲しいのかい?キミの母親もかなりショックを受けるだろうねぇ。彼女が死んだのはキミのせいだって聞いたりしたら。ああ、もしかしてそう言うプレイがお好みかな?だとしたら望み通りにしてあげようか?」
「!?よせ!!」
「………だったら動かずその場にいることだね。家族を追い込みたくはないだろう?」
「っ………」
……ワーオ……見事なまでに人質になっちゃってる。え?これそう言う遊び?なんかベリアルの変な遊びに巻き込まれた?
引きつった笑みを浮かべそうになりながら、私はベリアルから目を離さない。
こうしておけば、側から見たら隣にいた存在を警戒しているようにも、自身の状況に焦りを覚えているようにも見えるからね。
いやあ、本当に劇団にいた時の演技力が上手い具合に利用できるな。実際は、不敵な笑みを浮かべてヴィランヴィランしてる最推しの顔面を眺めているだけなんだけど。
あ、ちょっとベリアル。今笑いそうになっただろ。最推しのイイ表情を眺めて何が悪い。笑いそうになるな。
「イイ子だ。じゃあ、そのまま話を聞いてもらおうか。ああ、妹ちゃんはこのまま人質ってことで、この刃物は退かさないでおくよ。これが彼女の柔肌に食い込むのが見たくないのなら、何もしないでくれよ?」
軽く今の状態を崩しそうになってるベリアルの姿に少しだけ呆れながら、二人の会話に耳を傾ける。
「本当は素直に教えるような質じゃないんだが、今回だけは特別に教えてあげるよ。オレとセイカには確かに繋がりがある。それは、いわゆる契約と呼ばれるモノだ。力を貸す代わりに対価を払う……そんな話、どっかで聞いたことないか?」
「……悪魔か………!!」
「堕天司って言ってくれよ。オレを作り出した創造主がつけてくれた、特別な名前なんだぜ?まあ、今はそんなのどうでもいいか。」
「……なんでお前みたいなヤツが星歌と………!!」
「それは教えてやれないな。話せるのはここまでだ。」
「っ………!!」
「ああ、言っとくけど、オレは大して契約に重きを置いてなくてね。別に契約者がいなくてもどうでもいいもんだから、いつでもこの子を殺すことができるワケだが、今はその気分じゃない。だが、この子の兄であるキミがオレと敵対するのであれば、キミからの敵意を感じることがあれば、気分だとか関係無くこの子を終わらせるつもりだから、そこら辺はよく考えてから行動を取ってくれよ?」
ベリアルの言葉に、兄さんは黙り込む。敵意を向けた場合、その時は容赦なく妹の命を奪うと言うのは、流石だと言えるだろう。
いや、今はそれよりも、私とベリアルの間に契約?いったいなんの契約が?まさか、空の民と星晶獣が契約を結んでいるのと同じことかま起こってるって言う話じゃないだろうな?
「………何をしたらいい?」
「うん?」
「何をしたら星歌を解放するか聞いてるんだ。」
「解放?それは、この状況からの解放?それとも、契約の方かな?」
「どちらもだ。」
「どちらも……ねぇ……。この状況からの解放なら、オレが提示する条件を飲むだけでいいが、契約に関しては解除するつもりはない。彼女とは一緒に行動を取るつもりだからね。互いに互いの繋がりを切らない方が都合がイイ。まあ、こちらの目的を果たすことができれば、自由にしてあげるつもりさ。もちろん、オレの目的は話すつもりないんだけどね。」
「目的を話さないと、こちらも条件を飲むつもりは……」
「おいおい。何か勘違いしてないか?キミさ。自分の立場わかってないだろ。彼女の命はオレの間合いに現在進行形で存在してるんだぜ?つまり、キミに拒否権はないんだよ。今この場で気分を変えて、この子に手を出してもいいんだぜ?オレは。」
「っ……!?」
「!?」
「おっとごーめん。キミのお兄さんがあまりにもイラつくヤツだったモンだからつい力が入っちゃったみたいだ。恨むなら、キミのお兄さんを恨んでくれ。」
もちろん、これは嘘である。私の首にサイス・オブ・ベリアルの刃は当たっていないし、ベリアルも鎌を持つ手に力を加えてはいない。
ただ、じっと彼を見つめていたら、まるでこっちに合わせろとばかりの視線を向けてきたので、咄嗟に刃が触れたフリをしただけだ。
しかし、今の兄さんにはこれだけで十分騙せる。大切な妹……私が置かれている立場を利用してるようなもんだから、ちょっと良心は痛むけど、ベリアルが口にした契約と呼ばれるものは、多分、こっちの世界にいる間、必要なものなのだろう。
まあ、約束もしちゃったしね。絶対にベリアルを創造主の元へ戻すって。
それなら、一緒に行動を取る方が都合がいいし、この場で離れるわけにもいかない。
「……で?条件を飲むのか飲まないのか、選んでくれるかい?まあ、妹思いのお兄ちゃんなら……答えはもう決まってると思うけどね。」
「……条件は?」
「オレの本性は口外しないこと。話はオレに合わせること。そして、オレには絶対逆らわないこと。この三つを守るなら、キミの家族には手を出さない。だが、少しでもこれらを守らなければ、守らなかったキミのせいで、まずはキミの妹が、次にキミの父親が、最後にキミの母親が……目の前で死ぬことになるぜ?なんなら、キミのせいだと思わせるように、キミの母親が大事にしてる人間も、母親の前で終わらせようか。キミがこっちに逆らったから、アンタの大切なモノはみんな死んだって言葉を土産にね。」
兄さんの表情が一気に歪む。怒りと絶望、その両方が混ざったような表情だ。
私も内心でうわっと呟く。ここまで清々しいほどに逆らえば周りが危ない目に遭うって言えるもんなんだね。
流石は、主人公の敵として生まれたグラブルヴィランズの一人。まあ、今の私はそれに加担してるようなものなんだけどさ。
「っ………わかった……条件を飲む。だから、誰にも危害を加えないでくれ。」
「……よく言えました。本当はもっとキミに無様を曝け出させたいところだが、今回はこれくらいにしてあげるよ。」
それって、王道展開の一つである、もうちょっと誠意を見せろとか言って土下座とか懇願させたりとかの精神的にダメ入るあれ?
……ベリアルなら普通にやりそうだわ……と少しだけ遠い目をしてしまう。
よかったね、兄さん。ベリアルがサディズムを満たしたい状態じゃなくて。
「じゃ、そう言うワケだから、オレ達はこれで。安心しろよ。キミがちゃんとオレに従ってりゃ、誰も傷つかなくて済むからさ。キミの家族も、その周りもね。だから……絶対に逆らうなよ?キョウスケ。」
「…………っ」
そんなことを思っていると、ベリアルが兄さんに絶対に逆らうなと念押ししたのち、手にしていたサイス・オブ・ベリアルを消して、私の肩を抱き寄せる。
……とりあえず、大人しく肩を抱かれておけばいいのかな?
「それじゃあ行こうか。セイカちゃんは、オレに逆らわないだろう?」
「………うん。」
こちらに顔を近づけて、確認するように聞いてくるベリアルの質問に大人しく答えれば、彼は小さく笑みを浮かべる。そして、オレとキミの間に何があるのかわかったと、小さく口にしたのち、私の体をその場で反転させて、出かけるための道を歩き始めた。
……側から見たらDV彼氏……とか一瞬思っちゃったりしたけど、うん。指摘しないでスルーしておこう。
「ああ、そうそう。キミのお母さんの記憶だが……あれ、多分一部改変が含まれてるぜ?」
「!?」
「なんのせいで変えられたのかは、オレの知ったところじゃないけどねぇ。」
………最後の最後で重要なことを言うんじゃない。
星歌
呼び止めてきた兄の詮索を長引かせないようにさせるためにも、ベリアルに話を合わせて、彼に逆らえない人質を演じ切った引き立て役。
清々しいまでに悪役をやる最推しを見てかなりときめいていたが、自慢の演技力を利用して悟られないようにしていた。
ベリアル
星歌に自分に合わせるようにと表情だけで伝え、清々しいまでの悪役っぷりを見せた狡知の堕天司。
星歌の演技の支援もあり、見事に彼女の兄である京助に自身に従うことを約束させることに成功する。
星歌を殺すつもりはないが、京助が少しでも逆らうようであれば、星歌には死んだ演技をさせ、京助の母親と、その周りは宣言通り痛めつける気だった。
イイねぇ、想像しただけでサディズムが擽られる。
京助
目の前で星歌、および自身の家族とその周りの人間たちを人質に取られ、ベリアルが口にした絶対服従を受け入れざるを得なくなった星歌の兄。
こう見えて呪術師であるため、星歌とベリアルの間にある妙なつながりを感じ取ることができたが、その繋がりは立つことができず、そのまま黙らされた。
この話の一番の被害者になってしまった青年。