「どうしようもない」「階段」「銃弾」

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三題噺「留美とおばあちゃんその3、おばあちゃんと秋葉原」

「留美ちゃん、今日も暑くなりそうだから、そろそろ出かけるかい?」

「うん、わかったよ、おばあちゃん」

 

 おばあちゃんはいつもの、群青色の着物と小粋な下駄をはいて、にこにこと微笑みながら、あたしの準備が終わるのを、玄関で待っている。トーストを口に押し込んで、コーヒーで胃に流し込み、洗面所で歯を磨く。

 

 化粧はやめとこう。お婆ちゃんと一緒だし、ナンパなんてされたらたまんない。あたしは髪をわざとボサボサにして、白いプーマの帽子をまぶかにかぶった。うん、これで大丈夫、誰がどう見てもかっこいい男の子だ。あたしは鏡にウインクして、口をすすいで顔を洗い、洗面所を出た。

 

「お婆ちゃん! 準備できたよ!」

「慌てなくても大丈夫だよ、カバンは持ったかい?」

「あっ!」

 

 そうだ、サイドポーチを忘れていた。いつもこうだ。お婆ちゃんがいないと、あたしは何もできないのだ。

 

 

 

 

「お婆ちゃん?」

「なんだい?」

 

 目的地である秋葉原に到着し、あたしはお婆ちゃんに質問した。

 

「ほんとに、キンニクカフェで、人工筋肉を交換するだけでいいの?」

 

「うんうん、ずっと交換したかったんだよ、ありがとう留美ちゃん。私にとって、最高のお誕生日プレゼントだよ」

 

 

 

 そう、それなら良いけど……。と、言おうとしたけれど言えなかった。お婆ちゃんの人工脊椎は、もう大分劣化していて、そろそろ交換が必要なはずなのだ。でも脊椎交換までは、あたしのアルバイトのお金では無理だった。きっとお婆ちゃんは、それをわかっていて、人工筋肉の交換が良いって、言ったんだろう。ごめんね、お婆ちゃん。来年のお誕生日には、お金をためて脊椎交換してあげるからね。

 

 

 と、その時。ターーーーン! という耳をつんざくような音がした。おばあちゃんが、ひっと言って後ろにのけぞった。お婆ちゃんの後ろには、数段の階段があり、お婆ちゃんはそこを転げて、地面にうつぶせて動かなくなった。

 

「お婆ちゃん!」

 

 あたしは階段をおりながら、音のした方、秋葉原駅の入り口をみると、猟銃のようなものを持った、グラサンの男が、こちらに向かって歩いてくる。あたしは瞬間、秋葉原連続殺傷事件と、某総理の銃撃事件を同時に思い出した。だめだ。このままではあたしとお婆ちゃんは、あの男に撃たれるだろう。あたしとお婆ちゃんは、ロボットだけれど、弾丸が体内の太いパイプを分断したりしたら、それで終わりだ。

 

「留美ちゃん、お逃げ。どうやら脊椎が、折れてしまったようだよ。もう、どうしようもないよ、留美ちゃんだけでも……」

 

「いやよ! お婆ちゃん!」

 

 あたしはお婆ちゃんに抱きついた。それ以上何もできなかった。やっぱりだ。お婆ちゃんの脊椎は、ちょっとした衝撃で折れちゃうくらい、いたんでいたんだ。それはわかっていたのに……。後悔はいつも、どうしようもない状況になって、起こるものだ。

 

 

 

「おい、お前ら」

 

 

 グラサンの男が背後に立ち、あたしとお婆ちゃんに言った。あたしは振り返って言った。

 

「何よ!」

 

グラサンは言った。

 

「おまえら二人とも、ロボットだな?」

 

「ええ、そうよ! それがどうしたのよ!」

 

「留美ちゃん……。あまりその人を、刺激しないで」

 

 

 ぎり、とあたしは歯ぎしりをする。あたしは悪くないのに。この男が悪いのに。

 

 でもあたしはお婆ちゃんに従うことにした。

 

「わかったわ、お婆ちゃん」

 

 あたしは自分の身体を戦闘モードに切り替えようとしていたけれど、それを解除した。グラサンが言った。

 

「お願いがある。俺をこの銃で殺してくれないか? 俺、もう生きてることに疲れたんだ」

 

「え? な、何をいってるの?」

 

 そういえば、秋葉原連続殺人事件の犯人も、死刑になりたくて、犯罪をしたんだっけ?

 

 あたしたちロボットは、自殺を禁止されているから、そんなこと考えたこともない。自殺をする生き物は、人間だけだ。人間は、なんて弱い生き物なんだろう。

 

 グラサンは続けた。

 

「俺達人間は、もう絶滅寸前なんだ。ロボットたちが優しくしてくれて、励ましてくれるんだけどもう限界だ。頼む! 俺を殺してくれ!」

 

 グラサンは猟銃を逆に持ち直して、あたしに差し出した。

 

 どうしよう……。お婆ちゃんは助けたい。でも、あたしはロボットだ。人間を撃つことなんて、きっとできない。

 

「むり、無理です。ごめんなさい」

 

あたしはぽろぽろと涙をこぼし、おばあちゃんに抱きついた。グラサンはそんなあたしたちを、青い顔で呆然と見下ろしていた。

 

<つづく>


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