【妄想TVシリーズ】シン・ウルトラマン第XX話『禍威獣無法地帯』【単話抜き出し】 作:ドーバイン
原作:シン・ウルトラマン
タグ:R-15 残酷な描写 シン・ウルトラマン ウルトラマン 原作改変 独自設定 ご都合主義
「これ絶対ガボラ撃破とザラブ登場までの間にTVシリーズだと何体か禍威獣を倒す回が挟まってただろ……」
という概念を受信したので、初心者のくせに書き殴りました。
結果は……まぁ自分は楽しめたのでヨシ!
キャラの解釈(特に浅見)や禍威獣の設定に結構オリ要素を混ぜてるので、地雷踏むかもと思ったらスルー推奨です。
暑い。
天幕の中はエアコンによって最大限の冷風が流されているにも関わらず、簡素なパイプ椅子に座っている誰もが耐え難い熱気に纏わりつかれている。
「どうにかなんないんですか、これ」
滝 明久(たき あきひさ)がうんざりしながら額の汗を腕で拭う。既にスーツのジャケットを脱ぎ、ワイシャツは袖を限界まで捲りあげ、役場でこの姿を晒そうものなら抗議の電話でもかかってきそうな格好である。
「ぼやくなよ、滝」
「気持ちはわかるけど」
田村 君男(たむら きみお)が顔を上げて諫め、船縁 由美(ふなべり ゆみ)がメガネの位置を指で戻しながら同情したのは、模範的公務員としての意識があったからではない。彼らもまた、うだるような暑さに辟易してジャケットを脱いでいた。
それでもこの二人が言外に態度を慎むように匂わせた理由といえば、やはり天幕の中にいる多数派に対する配慮を求めたからだ。
滝はチラリと肩越しに視線を彷徨わせる。天幕に向かい合うようにして座る迷彩服の面々は、通気性に乏しい防弾チョッキを着こみながら、黙々と仕事をこなしていた。
「――すみません」
滝は自らの声がよく響くように意識した上で謝罪した。
『禍特対』――禍威獣特設対策室専従班は、未曾有の巨大生物『禍威獣』による被害に悩まされた日本政府が設立した組織であり、禍威獣対策となれば指揮権をあっさりと移譲され、各組織を手足のごとく使うことができる――というのは制度上の話でしかない。
たしかに指示には従ってくれる。ヘリを飛ばして現場まで輸送し、山腹の開豁地に設置された禍威獣対策本部の天幕内に席を設け、必要なものも揃えてくれた。しかしそれはあくまで『仕事』だからでしかない。
人間の内面は『仕事』という言葉だけで片付けられるほど単純ではないし、むしろいいように顎でこき使われる立場からすれば、反感のひとつでも覚えるのが当然と言える。
ヘルメットを被った頭からだくだくと汗を流しているのは望んだこととはいえ不愉快なことに変わりはないはずだ。
そんな時、自分達よりも遥かに『涼しい』格好になれるにも関わらず、愚痴など零す様子を見せられてはたまったものではないだろう。
三人のやり取りは、禍特対という組織が置かれている社会的なバランスを保つために必要なものだった。.
「いやでもほんと暑いわよ? どーにかなんないのこれ!」
甲高い声が響き、パイプ椅子がギシリと軋む。背もたれに身体を預けて、そのまま後ろに倒れ込まんばかりに天を向く妙齢の女性に、その場にいた全員(正確には一人を除き)がこう思った。
――公安というのは、人の心を持っていないものなのか?
手を団扇にして扇ぐ浅見 弘子(あさみ ひろこ)は、公安組織から出向してきたとは思えぬほどにだらしない態度であった。周囲から向けられた意識などまるで気にかけていないようである。
「あぢぃ~」とか「これでエアコン効いてるの?」とか「シャワー浴びたいんですけど」とか好き勝手にぼやくさまに、彼女の上司たる田村が背筋を凍らせて頬を熱くするという器用な感覚を覚えているのも束の間、浅見は傍らの男に目を向けた。
「ねぇ、あなたもそう思わない?」
「発汗は体温を下げるために身体が行う一種の防御機構だ。暑くて汗をかくのならむしろ正常と言える」
「いやそーいう意味じゃなくて……あなたってほんと人の心がわからないわね」
お前が言うな、とは誰もが心中に抱いた言葉である。
神永 新二(かみなが しんじ)のノートPCが検証結果を弾き出し、陳腐なピープ音と共にディスプレイにグラフや数値が表示された。
神永は眉一つ動かさずに言った。
「班長、修正された試算が出ました。このままでは禍威獣第18号チャンドラーは、1時間と経たずに多々羅市に到着します」
「ご苦労、神永」
田村が自分のPCに送られてきた結果を眺めて、神永とは対象的に眉を顰める。
「……何度も『餌』を食べているのにこれか?」
「奴に飛行能力がないことを甘く見すぎました。再度の検証によれば、歩行による進行速度で考えると同種のペギラより上です」
「同種らしき、よ。ま、ペギラと同じように特殊な呼気を放出し続けるわけだから……同種扱いしてもいいかしらね」
船縁がPCディスプレイの片隅に縮小されていた画像データを拡大した。
そこにはかつて東京を氷河期に変えた禍威獣――当時はまだ『巨大不明生物』と呼ばれていたが――ペギラに酷似した怪物の姿が映し出されていた。もっとも、
「外見は耳がくっついた以外あまり変化がないけど」
滝が指摘したように、ペギラには見られなかったコウモリを思わせる耳が頭部についている点は別だったが。
「問題は別の部分にあるわよ」
椅子に腰掛け直した浅見が指先で拭い取った汗を睨む。田村が続けた。
「その通りだ。なんせ奴は――ペギラとは真逆に周囲を酷暑に変えてしまうのだからな」
その日、もはや日常と化したニュースが日本国内を駆け巡った。
禍威獣出現!
防災省はこれを禍威獣第17号『マグラー』と命名!
禍特対主導のもと、自衛隊出撃!
謎の外星人『ウルトラマン』は、またしても現れるのか!?
禍威獣第7号『ネロンガ』の一件後、『ガボラ』、そしてそれに続く様々な禍威獣が立て続けに日本を襲っていた。姿を表した17体目の禍威獣『マグラー』に対して、もはやルーチンワークよろしく指揮権の移譲、対策本部の設置、攻撃の準備が行われ、あれよあれよという間に禍特対は『マグラー』に対しての攻撃を宣言した。
もっとも、禍威獣を退治する決意を持って臨んでいるかと言えば嘘になる。
なんといっても禍威獣ときたら、毎度毎度人類の想像を上回る生態、行動、及び能力(滝いわく『インチキ効果』)を発揮し、現場を大混乱に陥れるのだ。
そしてこれまた毎度のように現れる謎の巨大外星人『ウルトラマン』の働きによって禍威獣は倒され、禍特対以下の各組織は役に立たなかった高価な兵器群を後方に送った後、地道な後始末に追われるのである。これでおおいに面子を潰されてきたのは自衛隊である。
国防を担う組織であるにも関わらず、霞が関の独立愚連隊に頭を抑えられ、少ないない被害を受け続け、結局は『ウルトラマン』頼りとなる。
沸々と湧き上がる禍威獣を退治できないもどかしさが、『マグラー』相手には爆発したらしい。
綿密な作戦計画。徹底的な砲爆撃。容赦のない追撃。
禍特対が半ば押し切られるように承認した攻撃には、自衛隊の思いが込められていた。
全裸かどうかすらわからん謎の外星人に、もう手柄など渡すものか。
ナパーム弾が『マグラー』の頭部で炸裂し、完全に生命活動が停止した時、対策本部に詰めていた自衛隊員らが歓声を上げたのは以上のような経緯があったからだった。
そして『マグラー』の撃破と前後して本州の反対側に現れた禍威獣『チャンドラー』に対しての反応が遅くなったのも同様の理由であった。
「チャンドラーの周囲およそ20km^2は、赤道付近における熱帯地域と同様の気候に変化しています。11月という今の時期を考えればこれは異常ですよ」
船縁はハンカチを出して額に当てた。
ポケットに入れることすら躊躇われるほどに濡れている布では、たいして意味はない。が、滴り落ちてくる汗に対処するには仕方ない。
「それだけならまだよかったんだけどな」
「まったくよ……。なんでさらに妙な植物まで異常繁殖するわけ?」
滝のぼやきに合わせて、忌々しそうに呻く浅見。
神永が口を開きかけた時、天幕の中に息せき切って自衛隊員が飛び込んできた。
「ほ、報告します! 禍威獣『スフラン』の除去作業、及び民間人の救出・避難誘導に深刻な遅れが発生しています!」
自衛隊員らがどよめき、禍特対の面々が唸った。
「急ぐように言ったはずだぞ! それに報告は無線で行なえと――」
「しかし、人員も装備も圧倒的に不足しているんです! 私の部隊の無線は壊れました! げ、現場はもう限界です……!」
自衛隊指揮官の叱責じみた声に、泣きそうになって抗弁した自衛隊員の顔は真っ赤だった。
その後、呂律の怪しい報告を続け、ふらふらとした足取りで天幕から出ていこうとする自衛隊員を呼び止めたのは浅見だった。
「ちょっと! あなた顔真っ赤よ!」
「わかっています。しかし休むわけには」
「休めとは言ってないわ。これを飲んで息を整えてから行きなさい」
立ち上がってペットボトルを手渡す。ぬるくなっているので清涼感には程遠いが、逆を言えば飲みやすい。
自衛隊員はもごもごと口ごもった後、控えめに頭を下げてそれを受け取り、去っていった。
「あの」
「なによ」
「あれ、飲みかけじゃ」
「……はぁ? だから何?」
「ぁ、すみません……」
滝がパイプ椅子の上で小さくなったのを浅見がフンと鼻を鳴らしてふんぞり返ったのが同時だった。
禍特対の分析官は足元に手を伸ばして新しいボトルを取ろうとし、細い指が空を掴むと顔を強張らせた。
田村と船縁が微笑ましいものを見たかのように苦笑するなか、神永は浅見の横顔を眺めたあと、目を再びPCのディスプレイに戻した。
いくつか開かれたままになっているウインドウのひとつに映っているのは、多々羅市の市街がどのようになっているかを正確に要約する画像であった。
日本においてありふれた中小都市は、張り巡らされた植物の蔓と幹、槍の穂先のような葉が織りなす緑色の幾何学模様に覆われている。
別のイメージを選択する。
縄よりも太い蔓が人間を絡め取り、まるで人質に取るかのように雑居ビルの壁に張り付けられている様子。
別のイメージ。
恐怖と絶望に歪んだ人々の顔。『スフラン』の葉先がギロチンの刃のように首元に当てられている。
別のイメージ。
助けに行った自衛隊員が銃や火炎放射器を用いて応戦するさまをキャプチャしたもの。
別のイメージ。いや、これは無線通信の記録ファイルだ。
《こちら三沢3佐。現状は数的不利にあり、市民の救出は困難と思われる》
《藤孝1佐。『チャンドラー』の進行が止まらない。あいつ、『スフラン』を食ってる間以外はまるで止まらんぞ》
《沖田2曹、殉職した小隊長に代わって指揮を取ります! ――おい、気をつけろ永井! お前の後ろに蔓が来てるぞ!》
神永は知らぬうちに前のめりになっていた姿勢をもとに戻した。
多々羅市は『チャンドラー』の出現と同時に(正確には酷暑が確認され始めた時に)、街の中で無数に発生した謎の植物によって町民が被害を受け、実際は避難すらままならない状態となっていた。
協議の結果、既存の植物とは異なる異常な攻撃性を持ったそれが、禍威獣第19号『スフラン』と命名される頃には、避難誘導用の人員を転用した救出部隊にも被害が出始めていた。
加えて、『チャンドラー』は歩みを止めること無く街に近付き続け、なけなしの火力を集中した自衛隊による攻撃も足止めにすらなっていない。
多々羅市は急速に死と絶望の巷へと変わっていった。
逃げようにも逃げられない。助けようにも助けられない。抗おうにも抗えない。
翼を振り乱しながら地震めいた足音を響かせる禍威獣は、刻一刻と迫る破滅へのタイムリミットだ。
本州の反対側に出現した『マグラー』に、必要以上の装備を、過剰なまでの人員を、有り余る鬱憤をぶつけた後の自衛隊主力はそうそう動くことができない。
藁をもすがる思いで起草された核兵器使用プランは却下されている。市民や自衛隊ごと吹き飛ばすことになりかねないからだ。
唯一進行を遅らせる要因として、ときたま『チャンドラー』が森に生えているらしき『スフラン』(がまとわり付いた樹木)を丸ごと捕食していることが挙げられるが、それも満腹となったらしい今では望むものでもない。
万事休すであった。
禍特対の面々は各々顔を曇らせて、必死に対策法を考えている。
神永が『ある選択肢』を視野に入れ始めた時、再び天幕の入り口が開いて、自衛隊員が駆け込んできた。
「報告! 『スフラン』の発生地域がどんどん郊外にも広がっています! 既に車両集積地でも確認されています! いずれここも危険になるかもしれません!」
恐怖に彩られたどよめきが天幕の中に満ちた。車両の集積地は対策本部からは目と鼻の先だ。これまではあくまで情報として処理してきた事態が、急速に現実感を帯びて我が身に降りかかろうとしている。
「しかし我々は逃げるわけには――」
自衛隊指揮官が立ち上がった時、足元がふらついた。視線をさっと地面に投げると、先程まではなかったはずの隆起物が見えた。
緑色の、蔓だ。
悲鳴は短かった。躍り上がるように蔓を地面から伸ばした『スフラン』が、哀れな獲物の首に万力よりも強い力で絡みつく。
地面を割って出てきた『スフラン』は一本だけではなかった。次々と蔓が現れ、瞬く間に天幕の中は阿鼻叫喚の修羅場と化した。
緑色の魔の手は自衛隊員だけに伸びたわけではない。
滝に足に音もなく絡みついた『スフラン』は、そのまま宙空に獲物を持ち上げる。
「うわっ――」
悲鳴が、ついで銃声が上がった。
「滝くん、大丈夫!?」
銃口から硝煙が上がった拳銃を両手で振り回しながら浅見が訊いた。的確に根本を撃ち抜かれた『スフラン』は力を失い、滝はどすんと地面に転げ落ちた。
滝がしたたかにぶつけた頭を撫でさすっている間に、自衛隊員らも銃による応戦を始めた。軍用弾を受けた『スフラン』の蔓は破裂するように千切れる。
更に発砲を続けながら、浅見は公安らしい緊急事態における冷静さを見せつつ促す。しかし状況は浅見の想像を超えたスピードで進行していた。
「早くここから逃げないと――」
「浅見さん、後ろっ!」
船縁の叫びが届く前に、背後に現れた『スフラン』の蔓に絡め取られ、浅見は拘束された。その上、凄まじい力でぐいと引っ張られ、天幕の入り口を越え、日没によって急激に暗くなりつつある森の入り口まで、一瞬のうちに拉致された。
どすんと衝撃が走り、手放しそうになる意識を気合で保った浅見は、自身が樹木に縛り付けられていることに気付いた。既に手足もがんじがらめに固定され、身動きが取れない。
力を入れてもびくともしない蔓に、呻きながらも決死の抵抗を見せる浅見。その前に『スフラン』の蔓が鎌首をもたげて近づいてきた。闇に近い森の中で、緑色の葉先は大蛇のように見える。
『スフラン』の葉先を睨みつけていた浅見が目を閉じたのは、暗闇にまばゆい閃光が走ったときだっただ。
二度、三度と光が、そして乾いた音が森に響く。
『スフラン』の蔓による拘束が緩んだ浅見の身体を、見覚えのある腕が支えた。
「あ、ありがと」
「怪我はしていない。はやく皆のところへ合流を」
浅見の感謝を横顔で受け流しながら、神永は拳銃を収めて手早く蔓を外した。
死の間際から救い出されたとはいえ、この対応にむっとした浅見は神永に噛みつく。
「……ちょっと!こういう時は一言くらい『大丈夫か?』って心配するもんじゃないの!?」
「その必要はない。人間は――君は強い。私はそれを知ってる」
「……はぁ?」
思いもよらない返答に困惑する浅見をよそに、神永は天幕の方へ向き直った。悲鳴と銃声が連続している対策本部へ駆け出す。
浅見は慌てて立ち上がり、後を追ったものの、神永の姿は見えず、まるで消えてしまったかのようだった。
実は神永は途中で方向を変え、逆に森の奥へ向かっていた。『スフラン』は群れからはぐれた獲物を逃すまいと、十数本の蔓を伸ばして確保せんとする。
もし神永が『普通の地球人』であったなら、死を免れることは叶わない状況だった。
だが、『彼』は違った。
懐に手を入れた神永は、ペンよりも太く、ライトよりも細い棒状のものを取り出す。地球上の科学ではおよそ解明できない超科学の端末に、神永の指が沿って、ボタンにかかる。
次の瞬間、まばゆい光が森に満ちた闇を切り裂いた。
『ベータカプセル』の点火とともに、異なる次元から神永ではない『彼』が現れる。
赤みがかった閃光が巨大な手の形になるやいなや、神永はそれに握り込まれ、一体化した。
ぐんぐんと伸び上がるように現れた巨人の姿は、天幕の周りにいたものだけでなく、多々羅市で生きるための努力を続ける者たちの目にも映った。
「『ウルトラマン』……!」
見上げた浅見は、感嘆するかのように『彼』の呼び名を口にした。
星がまばらに輝くようになった空へ突き出された拳を、だらりと垂れ下げた『ウルトラマン』は、周囲を確認するかのように首をゆっくりと左右に振る。
「――!」
まるで視線を巡らせているかのような動きが終わると、突然両腕をX字状にクロスさせ、その場で高速回転を始めた。コマのように周り続ける『ウルトラマン』を見上げる人間らは、軒並み面食らっていた。
しかし一人、また一人と人々がある感覚を覚え始めた。
「……す、涼しくなった?」
「こ、この温度なら『スフラン』の活動は鈍るはず!」
「まさか『ウルトラマン』が……?」
天幕から外に出ていた禍特対の三人、滝、船縁、そして田村が人知を超えた現象に驚愕した。背筋が凍る様な感覚は、身体を急速に冷やす涼感だけによるものではない。
「班長! 神永さんは?」
「おぉ浅見くん……神永とは一緒じゃないのか?」
「……えっ?」
息を切らしてやってきた浅見は、油断なく周囲に気を配りながら三人と合流する。しかし田村に投げかけられた疑問が、そのまま戻ってきて動揺した。
先に戻ったはずの彼は、いまどこに?
答えを求める浅見の身体を横殴りの突風が襲った。思わず身をかばったあと、その発生源の方向へ視線を転じると、赤と銀の残像が夜空に吸い込まれ、やがて『チャンドラー』がいる方向へ流星のように落ちていった。
まるで逆再生するかのように滑らかに回転を止めた『ウルトラマン』は、そのまま両腕を上に突き出して飛び上がったのだ。
つい先程まで『チャンドラー』を相手に絶望的な防衛戦を行っていた自衛隊との間に、割って入るように音もなく降着した『ウルトラマン』は、腰をかがめたポーズを取るとともに、肩越しに振り返る。
まるで「後は任せろ」とでも言いたげな仕草に唖然とする自衛隊員らをよそに、『ウルトラマン』は戦いを開始した。
『チャンドラー』が腕と一体化した大きな翼を羽ばたかせ、凄まじい突風を巻き起こす。
『ウルトラマン』はたまらず顔をかばうように伏せるも、背後で自衛隊員らが吹き飛ばされそうになるのを知るやいなや、強引に前進、懐に入り込んで蹴りを浴びせる。
勢いよく後ろに倒れ込んだ『チャンドラー』が、ようやく立ち上がった所に全身でぶつかり、巨大な身体に掴みかかる。
片腕で殴りかかってくるも、これを巧みなスウェーで避けるや、逆にその腕にしがみつき、体重を腰に乗せて思い切り引きちぎった。
赤い鮮血が迸り、『チャンドラー』が悲痛な鳴き声を上げる。
「……今日の『ウルトラマン』はいつになく乱暴な戦い方だな?」
巨人と禍威獣の戦いの様子を、天幕の中に配置し直した機材を使って見ていた田村が漏らした。禍特対の他の三人も頷く。
船縁の推察通り、気温が低下したことで活動が著しく鈍った『スフラン』は自衛隊によって除去され、今の対策本部は冷静さを取り戻していた。
これは多々羅市も同様であり、夜の闇以外の脅威のない救助・避難活動は急ピッチで進んでいた。
と言っても、多々羅市に迫っていた『チャンドラー』は『ウルトラマン』に引き千切られた片腕を逃げる背中に投げつけられ、ついで腕を十字状にして放つ『光線』を受けて爆死してしまった以上、急ぐ必要性は急激に減っているのだが。
「結局、『ウルトラマン』がいなければどうにもなりませんでしたね」
「ああ……」
銀の流星のようになって飛んでいった『ウルトラマン』を見送りながら、愚痴るような滝の言葉に田村は頷いた。
結局、人間の力だけでは禍威獣に立ち向かうことは難しいのかもしれない。たった二体の禍威獣(正確には三体だが)に振り回され、満足に動くことが出来なかった自衛隊もそうだが、禍特対も有力な活躍が出来たかについて非常に疑わしい。
むしろ『マグラー』一体を確実に倒した自衛隊の方がよほど役に立ているのではないのか? 我々がやったことと言えば誰でも思いつくような指示を出して、あとは額を集めて唸っていただけではないか……。
禍特対班長が自身の属する組織のレゾンデートルについて思いを馳せていると、背後から誰かが近づいてくる気配がした。
「……神永!? 無事だったのか!」
「神永さん、どこ行ってたんです?」
「本当ですよ、浅見さんが言うには先にこっちに戻ってたはずだって」
「……」
振り向いた田村が、現れた神永に声をかけると、気づいた滝と船縁も続いて身を案じるように寄ってくる。
浅見だけはむっつりと黙ったまま神永を睨みつけたままだ。
「すまない、必要なことをやっていた」
「必要なことって? 私、あの後ずっと探してたのよ」
浅見さん、と船縁が肘で突くものの、浅見は刺々しい雰囲気を発散し続けている。神永はじっと浅見の目を見つめた。交差する視線。何故か猛烈に恥ずかしさが湧いてきて先に顔を伏せたのは浅見だった。
「心配をかけてすまなかった。『スフラン』に森の奥まで連れ去られたものがいないか、途中で思い直して探しに行っていた」
「そ、そう。まぁ仕事してたならいいけど」
浅見としては他ならぬ自分が『スフラン』に森の入り口まで連れ去られたことを考えると、同様の犠牲者がいないかどうか警戒していたと言われれば、追求を手を緩める他ない。
なんとなくこの件は不問にする雰囲気が漂うと、急に会話が途切れてしまった。
田村は強引に話題を変えるために、すぐには答えの出ない共通の疑問を口にした。
「しかし、何故あの禍威獣は現れたんだろうな?」
もちろん誰もまともに答えられるはずもない。それでも意図を察した船縁が生物学的見地から巣作りのためではと考察を行い、滝は『ペギラ』に対抗して東京を熱帯にするためだと安易な比較を提示し、浅見はわからないわねと締めくくった。
しかし神永は、いや神永と同化している『彼』だけは他の可能性を考えていた。
(惑星すべてを『チャンドラー』と『スフラン』に捕食させた後で、『チャンドラー』を始末すれば自然と『スフラン』も死滅する。禍威獣を倒せる能力を有しているかどうかさえ確認できれば、あとは適当に放り込んで待っているだけで星一つ無人にすることができる……。文明レベルの低い相手用の星間戦争用生物兵器としたら、効率的なことこの上ないな)
『彼』――『ウルトラマン』はすでに禍威獣が生物兵器である可能性についてかなり確信を深めていた。しかし何故それらが相次いで起動しているかについては思い至る要素がない。
『ウルトラマン』が禍威獣出現の『真の理由』を知るのは、まだもう少し先のことである。
危機の去った多々羅市全体へ、本来の季節にふさわしい風が吹き込んでいく。
禍特対メンバーの身体が急速に冷えて、思わず全員がぶるっと震えた。
まるで、未来に訪れる恐ろしい真実を予言するかのように、背筋を凍らせる寒さを運ぶ風だった。