ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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一巻も終盤になってきました。


変更と過去問

綾小路が堀北を説得した翌日、堀北と綾小路はさっそく勉強会の再開に向けて行動していた。と言ってもあの二人に赤点組を連れてくることは出来ないので、もう一度櫛田に頼んだらしい。結果的に言うと、勧誘に成功したようだ。流石は櫛田と言ったところか。それと堀北は勉強会のやり方を、授業を真面目に聞いてその内容で重要な部分を休み時間に復習するという方針に切り替えたようだ。なるほど、問題をそのまま頭に叩き込むってことか。確かにあいつらにはそれがあっているかもしれない。現に綾小路曰く、一日目は予定通り堀北の作戦がはまり、良い滑り出しが出来たらしい。俺の参加する平田の勉強会も好調だしこのままトラブルなく進んでくれればいいが。

 

♢♢♢♢

 

 

「何?テスト範囲が変わった?」

 

テストが一週間に迫った頃、櫛田から衝撃の事実がクラスに告げられた。何でも綾小路達と勉強会をしていた時に別のクラスの人間からそのことを指摘され、茶柱先生に確認したところ茶柱先生が伝え忘れていたそうだ。正直、伝え忘れていたというのは簡単には信じられない。茶柱先生が優秀かどうかはわからないが、そこまでヘマをする様には思えない。だとすると、意図的にクラスを窮地に追い込んでいることになるが…真意が全くわからない。

 

(いや、それよりあれを使う必要性が出てきたな。)

 

この状況を逆転させるにはそれが一番有効だろう。確証はないし、ハマらなければ悲惨な結果もあり得るが、試す価値はある。

 

ブー、ブー

 

その時、俺の携帯が鳴り始める。現在教室にはいない綾小路からだ。

 

『もしもし』

 

俺が携帯を耳に当てると、

 

『八剣、いきなりで悪いが頼みたいことがある。』

 

『ああ、だろうな』

 

『………俺の頼み事がわかってるのか?』

 

『まぁ、大体予想はつく。過去問だろ?』

 

『ああ、よくわかったな。』

 

『最初からお前なら気づいてると思ってた。過去問の件なんだが、俺にあてがあるんだ。調達は任せてくれないか?』

 

『そうなのか。………じゃあ、そうしてくれると助かる。最初はポイントを借りるつもりだったんだが…』

 

『その必要はない。今日の夜、空いてるか?』

 

『ああ』

 

『お前の部屋に寄るよ。何時がいい?』

 

『そうだな……19時はどうだ?』

 

『わかった。19時にものを持ってお前の部屋に寄る。』

 

『わかった。それじゃあ、手間をかけるが頼む』

 

そう言って通話は終了する。俺はその後すぐに、黒田先輩にメールをする。返信はすぐに返ってきて、了解とのことだ。まぁ当然、先輩は断れないのだが、

 

 

♢♢♢♢

 

 

その日の19時、俺は封筒を持って綾小路の部屋まで足を運んでいた。綾小路の部屋は俺の隣の隣なので1分もかからない。

俺は綾小路の部屋の前まで来ると、インターホンを鳴らす。

 

「時間ぴったりだな」

 

「まあな」

 

綾小路が部屋から出てきた。俺は綾小路の部屋に足を踏み入れるとそこには予想外の人物がいた。

 

「はは、こんばんは、八剣くん。」

 

「櫛田?」

 

何故か綾小路の部屋に櫛田がいた。

 

「なんで綾小路の部屋に櫛田が?」

 

「それは…」

 

「私が綾小路くんに無理を言って頼んだんだ。綾小路くんの秘策っていうのが気になって。八剣くんは私がいると嫌かな?」

 

綾小路が答える前に櫛田が答える。

 

(まぁ、今回の話は聞かれても問題ないか。むしろ櫛田を利用できるか)

 

「いや、別にいいけど。」

 

「ほんと?ありがとう!」

 

櫛田はとても明るい声と笑顔で俺にお礼を言った。

 

「八剣、さっそくだが、頼んでたものは用意できたか?」

 

「ああ、これだろ?」

 

俺はそう答え、封筒から過去問を取り出して一昨年の一学期中間試験の問題と小テストを二人の前に並べる。

 

「これってもしかして」

 

「ああ、一昨年の過去問だ。先輩に譲って貰った。」

 

「え、それって大丈夫なの?その……先輩に譲って貰って、問題にならない?」

 

「別に問題じゃないだろ。それがまずいなら最初に説明されてるはずだ。それに先輩が一年の時のテストを大事に保管してることを考えてもこの学校じゃこういうやり取りが頻繁に行われているってことだ。」

 

「そっか。でも、なんで?定期テストって毎回変わるよね?今回のテストと一昨年のテストは全然違うんじゃない?」

 

「ま、普通はな。でもこの学校は色々普通じゃないし、毎回変わるとしても一年の一学期中間に関しては例外の可能性が高い。それを表してるのがこの前の小テストだ。」

 

櫛田の疑問に答えながら綾小路を見ると自分の小テストの答案と過去問を確認していた。最後まで俺に説明させるつもりのようだ。

 

「この前の小テスト?」

 

「ああ、最後の方の問題かなり難しかったろ?」

 

「うん。私は問題の意味すら理解できなかったかな。」

 

「あれは本来高二、高三で習うレベルの問題なんだ。解けない奴が多数出るのは目に見えてる。なのに小テストに出るなんて明らかにおかしいだろ?でも、全く同じ問題の過去問があれば…」

 

「……解けるね」

 

「そういうことだ。で、貰った小テストの過去問とこの前のテストを確認したら…」

 

「一言一句違わないな」

 

確認を終えた綾小路がそう答える。櫛田もそれを食い入る様に見る。

 

「本当だ、すごい!これがあればテストは楽勝だね!早く皆んなに見せてあげようよ。」

 

櫛田は飛び跳ねる勢いで喜んでいる。

 

「いや、それはまだよそう」

 

綾小路がそう言う。

 

「え、なんで?せっかく八剣くんが手に入れてくれたのに」

 

「士気の問題だな」

 

俺がそう言うと綾小路は頷く、

 

「どういうこと?」

 

櫛田は不思議そうに首を傾げる。これを世間ではあざといというのだろうか。

 

「これが有効な過去問だということを知れば、どうしても緊張が緩むし。折角の猛勉強に水を差す。何より信用しすぎるのも問題だ。中間テストも小テストのような同じ問題とは限らないし、今年だけ違うという可能性もある。」

 

そう、過去問はある意味では諸刃の剣とも言える。型にハマれば最強だが、ハマらなければ一気にドン底だ。なので過去問に頼りすぎるのはリスクが高い。そもそもこの過去問は本来、最後のダメ押しとして使うべきものだ。だから過去問がなくても赤点は回避出来るぐらいのレベルは最低限欲しい。最初から頼るものじゃない。

 

「じゃあこれはどうやって使うの?」

 

櫛田がそう尋ねる。

 

「テスト前日にこれが過去問であることをネタばらしする。そして一昨年はほぼ同じ問題、答えだったってことを一緒に教える。そしたら皆んなはどうする?」

 

「夜、必死に齧り付いて過去問を暗記する!」

 

「そうだ」

 

綾小路はそう答えながら過去問を封筒に直す。

 

「ねえ、綾小路くんはいつから過去問を手に入れようって思ってたの?」

 

櫛田が綾小路に尋ねる。

 

「手に入れようと思ったのはテスト範囲の変更を聞かされた時だ。もっとも過去問が有効的な可能性は中間テストの説明をされた時から想定してた」

 

「ええ!そんな前から!?」

 

「まあ、八剣も気付いていたみたいだが、」

 

綾小路は急に話を俺に振ってきた。櫛田は俺に、そうなの?っという顔を向けている。

 

「まぁな。茶柱先生が含みのあること言ってたしな」

 

「そうだっけ?」

 

櫛田は今度は俺に尋ねる。

 

「説明された日、『お前らが赤点を取らずに試験を乗り切る方法はあると確信している。』って茶柱先生は言った。須藤を筆頭に赤点候補の生徒が多数いることを担任として把握した上でそう言ったんだ。つまり、その発言は絶対に助かる方法があるってことを暗示してたんじゃないかと思う」

 

「それが過去問?」

 

「可能性は高いんじゃないか?」

 

「綾小路くんと八剣くんって結構キレもの?」

 

「悪知恵が働くだけだ。」  「さぁな」

 

俺と綾小路が同時にそう答える。

 

「ふぅん。」

 

櫛田は何か思うことがあるのか少し笑みを深める。

 

「櫛田、この過去問お前が入手したことにしてくれないか?」

 

「それはいいけど、なんで?八剣くんが手に入れたのに」

 

「クラスで数人としか面識がない俺より、櫛田の方が信じやすいだろ。」

 

「………わかった。八剣くんがそう言うなら」

 

「じゃあ、頼んだ。あとこのことはくれぐれも他言無用で頼むぞ」

 

「はは、綾小路くんにも言われたよ。このことは三人の秘密だね」

 

「まぁ、そうなるな」

 

綾小路がそう答える。

 

「秘密を共有した人たちって妙な絆っていうか信頼関係が生まれると思わない?」

 

「さあ、どうだろうな」

 

話し合いが終わった後、俺は櫛田と連絡先を交換した。クラスで連絡先を知らなかったのは俺と堀北だけらしい。俺のコミュニケーション能力は堀北と同じだったのか。

 

 

♢♢♢♢

 

 

チャイムが鳴り授業が終わる。いよいよ明日は中間テスト当日だ。

ホームルームを終え、茶柱先生が教室から出た後、櫛田は行動を起こした。

 

「皆んなごめんね。帰る前に少し私の話を聞いてもらってもいいかな」

 

櫛田の話ということもあって、全員が動きを止める。

 

「明日の中間テストのために一生懸命勉強してきたと思う。そのことで少し力になれることがあると思うの。今からプリントを配るね」

 

櫛田は俺が渡した過去問をコピーした紙を前から配っていく。

 

「テストの問題?もしかしてこれ櫛田さんが作ったの?」

 

堀北も驚いており、櫛田に尋ねる。

 

「これ実は過去問なんだ。三年生の先輩に譲ってもらったの」

 

「過去問?これもしかして使えるやつ?」

 

「うん。実は一昨年の中間テスト、これとほぼ同じ問題だったんだって。だから、これを勉強しておけば、きっと本番に役立つと思うの」

 

「うおお!マジかよ!サンキュー、櫛田ちゃん」

 

感激してテスト用紙を抱きしめる。他の生徒も皆んな興奮を抑えられない様子だった。

まあ、喜ぶのはいいけどな…

 

「なんだよこんなんあるなら、無理して頑張らなくてよかったな」

 

ヘラヘラと笑いながら山内が言う。こういう奴がいるから前日に渡さないといけなかったんだよな。

 

「須藤くんもこれで勉強してね」

 

櫛田が須藤にそう言う。

 

「おう、助かるぜ。」

 

須藤も嬉しそうにそう言う。喜ぶのはいいけど油断しすぎない方がいいと思うけどな。

 

「これは他のクラスの奴らには内緒にしようぜ。高得点をとって他のクラスのやつらをビビらせるんだ。」

 

調子に乗って池がそう言うが、それには賛成だ。わざわざ他のクラスの点数を上げてやる必要はない。まあ、他のクラスにも自力で気づくやつがいる可能性は高いが。

 

 

♢♢♢♢

 

 

暫くしてクラスメイトたちは意気揚々と帰路について行った。俺もそれに続き教室を出る。学校を出て歩いていると、

 

「おーい、迅くん!」

 

後ろから声をかけられる。俺が振り向くとそこには手を振りながら走ってくる。一之瀬がいた。

 

「うわっ!」

 

俺との距離が近くなった時に一之瀬はガクっと躓きこっちに倒れ込んでくる。俺は一之瀬に怪我をさせないように出来るだけ優しくキャッチする。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。ありがとう」

 

「そうか。あんまり急ぐと危ないぞ」

 

「うん、ごめんね。迅くんを見かけたからついつい急いじゃって」

 

そう言われるとこれ以上何も言えなくなってしまう。

 

「そうか。いや、それよりいつまでこうしてるんだ?」

 

「え?」

 

俺は一之瀬を上手く受け止められたが、体制的には俺と一之瀬が抱き合った状態になっている。しかも、道のド真ん中で。

 

「ご、ごめん。すぐ退くねっ!」

 

一之瀬はそう言って俺から少し離れる。

 

「………」

 

「………」

 

互いに少し気まずくて何も言えない。何か言わなければならないが何を言うべきか。流石に抱き合った時にいい匂いがしたということは言えないだろう。

 

「……帰ろっか」

 

「…ああ」

 

結局、一之瀬の発言に乗っかる形になってしまった。

 

「明日から中間テストだね。」

 

「そうだな。でも一之瀬は余裕だろ?」

 

図書室に行った時にBクラスの生徒に勉強を教えていたのを見たことがある。Bクラスは小テストの平均点も悪くなかったという話だからDクラスのように勉強で窮地に追いやられる生徒は少なそうだ。となるとある程度のレベルを持った生徒が一之瀬に教えてもらってるということなので一之瀬はそれ以上に賢いことになる。

 

「そんなことないよ。結構不安も大きいかな。はじめてのテストだしね」

 

口調的にはBクラスは過去問には手をつけていないのかもしれない。

 

「そうか。でも、図書室で勉強教えてるのを見かけたぞ」

 

「そうなの?声かけてくれればよかったのに。」

 

少し不満そうに一之瀬は言う。

 

「勉強の雰囲気壊したら悪いだろ」

 

「それもそっか」

 

一之瀬すぐに笑顔に戻る。

 

「私も見たよ。Dクラスの子が図書室で勉強会してるとこ。Cクラスの子に挑発されて喧嘩寸前だったけどね」

 

一之瀬は苦笑いしながらそう言った。

おそらくそれは堀北の勉強会のことだろう。暴れかけたのは須藤だろうか。いや、須藤しかいないな。

 

「そうか。一之瀬は大丈夫だったか?」

 

「え?なんで?」

 

「間違ってたら悪いけど一之瀬の性格的に止めに入ったんじゃないかと思ってな」

 

「うん、まあね。ていうかよくわかったね」

 

一之瀬は少し嬉しそうに言う。

 

「一之瀬を知ってる奴なら想像に難しくない。それで大丈夫だったか?」

 

「うん。Cクラスの子がすぐに引いたから。それに校内だしね。CクラスはDクラスにもちょっかいをかけ始めてるのかな?」

 

「Dクラスにも?Bクラスは何かやられたのか?」

 

「うん。結構頻繁にね」

 

「…そうか」

 

どうやらこの短期間でもクラス間の戦いは水面下ですでに起こっていたらしい。Dクラスが何もされていないのは、Dクラスはクラスポイントが他のクラスと大差が付いている。だから、他のクラスには相手にすらされていなかったのだろう。

 

「困ったことが有れば、いつでも頼ってくれ。」

 

俺がそう言うと一之瀬は満面笑みで、

 

「うん。迅くんもいつでも私を頼ってね」

 

っと言った。その後も俺たちは話しながら寮まで帰宅した。

 

 




迅が一之瀬を気にかける理由は後々明らかにしていきます。
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