ようこそ個人主義者のいる教室へ 作:ボロネーゼ
暴力事件と文学少女
7月。それは日に日に気温が上昇し、夏を感じ始める季節だ。他の学校では制服が夏服に変わる時期とも言える。この学校にも夏服は存在している。しかし、結構高額なため、ポイントが枯渇しがちのDクラスは生活に精一杯でそこまで手が回らないのが現実だ。正直、俺はポイントに余裕があるため購入してもいいのだが、クラスで俺だけが高額な夏服を買うとポイントに余裕があることを疑われかねない。そんな理由で俺も手がつけれていなかった。学校内はクーラーが効いているため涼しいが、登下校中は気をつけなければ熱中症の可能性も出てくる。
そんなことを考えながら教室の扉を開ける。すると教室はいつもと変わらず騒がしいが今日は全体的にいつもよりさらに落ち着きがない。当然と言えば当然だ。今日は7月1日、つまりポイントが支給される日だ。しかし、朝確認した時は残念ながら0ポイントだった。先月は中間テストなど頑張ったと思うのだが、それは含まれなかったのだろうか。
「おはよう諸君。今日はいつにも増して落ち着きがないな」
茶柱先生がそう言いながら教室に入ってくる。そんな先生に池はすぐに立ち上がって質問する。
「先生!ポイントが振り込まれてなかったんですけど今月も0ポイントだったんですか?!この一ヶ月俺たちほんとに頑張りましたよ?
中間テストも乗り越えたし、遅刻や私語だって…」
「少し落ち着け、池。もちろん先月お前達が頑張ったことは学校も認めている」
茶柱先生は諭す様に言い、池も大人しく座る。
「では、早速今月のポイントを発表する」
茶柱先生は前と同じような紙を黒板に貼った。その紙には各クラスの今月の
Dクラスは87CP。他のクラスは前回に比べて100CP近く上昇していた。
(Dは87。0じゃなかったのか。じゃあポイントの振り込みがなかったのは…)
「87……ってことは俺たちプラスになったってこたか!?」
俺の思考は池の声によって遮られた。池は立ち上がって喜んでいる。
「喜ぶのはまだ早いぞ。他のクラスはお前らと同等かそれ以上にポイントを増やしている。差は縮まっていない。これは初めての中間テストを乗り切った一年生へのご褒美の様なものだ。最低100ポイントが支給されることになっていたに過ぎない。」
茶柱先生はそう言い堀北の方を見る。
「がっかりしたか堀北。まぁ、クラスの差が余計に開いてしまったからな」
「いいえ、今回でわかったこともありますから」
いつもの落ち着いた様子で先生にそう言う。
「なんだよわかったことって?」
池が堀北に質問するが、堀北は黙っている。答えるつもりはないってことだろう。
「僕たちが4月、5月に積み重ねてきた負債……私語や遅刻は、目に見えないマイナスにはなっていなかったってことを堀北さんは言いたかったんじゃないかな」
頭の回転が早い平田はそう答える。
「なるほど、たしかにポイント貰っても大量のマイナスがあったら0のはずだもんな」
わかりやすい説明に池も理解したようだ。
「あれ、でも、じゃあどうしてポイントが振り込まれてないんだ?」
ここで俺の当初の疑問に帰着した。池の言うとおり、87CPがあるなら、今日8700
「今回少しトラブルがあってな。一年生のポイント支給が遅れている。悪いがもう少し待ってくれ」
「え〜、学校の不備なんだからなんかおまけとかないんすか?」
クラスからはそのような不満が挙がる。
「そう責めるな。学校側の判断だから私に言われても困る。トラブルが解消され次第、ポイントが振り込まれるはずだ。ポイントが残っていればの話だが」
茶柱先生はそんな意味深な言葉を残してホームルームは終了した。
入学してから三か月、俺の人間関係にもいくつか変化があった。
「昼、一人か?」
「ああ」
「じゃあ、一緒に食わないか?毎度食堂までついてきてもらって悪いが…」
「それは別にいいけどな」
俺に話しかけてきたのは三宅、弓道部に所属している男子だ。席が近いことから最近話す様になり、たまに昼食に誘われることもある。三宅は食堂で昼食を取っているので、誘われた時は食堂までついて行って昼食を取っている。
「八剣って毎日弁当を作ってるけど、材料費とか大丈夫なのか?」
三宅が俺の弁当を見ながら聞いてくる。
「スーパーには無料で提供されてる食材があるんだ。毎日の弁当はそれで作ってる」
「でも、そういう食材って結構偏ってるだろ?なのに八剣のは美味そうな弁当だから疑問に思ったんだ。」
「ま、そこは腕次第だな」
「勉強や運動だけじゃなくて料理も出来るのか……すごいな」
「料理は親父に教えてもらったんだ。俺の親父、料理好きだから」
三宅とはいつもこのような実のない話をしているが三宅は楽しいのだろうか
放課後、俺が席で帰る準備をしていると、茶柱先生は須藤に声をかけていた。
「須藤、お前に話がある。職員室まで来てもらうか」
「は?なんで俺が。部活あるんすけど」
「顧問に許可は取ってある。来るも来ないもお前の自由だが、あとでどうなっても責任は持たんぞ」
「……チッ」
茶柱先生の脅しの様な言葉に須藤は舌打ちをしながら茶柱先生について行った。
「はぁ〜、変わった様で変わってないよな、あいつ。退学しといたほうがよかったんじゃ?」
誰かは知らないがそんな声が聞こえる。クラス対抗を軸としたこの学校で同じクラスメイトからこの嫌われようか…
「あなたもそう思う?須藤くんが退学しておけばよかったって」
そう声をかけられたので横を見ると堀北と綾小路がいた。
「俺はどっちでも。お前らは?」
俺がそう聞くと、
「俺は別にそう思わないけどな」 「そうね。クラスのためになるかはまだ未知数なのは確かね」
とそれぞれあいつららしい回答してきた。
「ま、いくらプラスを生み出しても、プラス以上のマイナスを生み出すなら結局意味ないけどな」
「そうね。でも、あなたは助けたわ。わざわざ10万ポイントも払って」
「そうなのか?」
綾小路は確認する様に俺に聞いてきた。
「まあな。詳しくは堀北から聞いてくれ。この前話したから」
「…………」
堀北は黙っている。綾小路に話す気はないのだろうか。ま、あいつも予想ぐらいはついてただろうけど。
俺が教室を出ると二人もついてきた。
「少し気になるわね。今朝、先生が言ってたこと。」
「ポイントの振り込みが遅れてることか?」
堀北の呟きに綾小路が問う。
「ええ、トラブルがあったらしいけど、それが学校側の問題なのか生徒の問題なのか。もし後者なら……」
「考えすぎじゃないか?Dクラスだけがポイントを止められてるわけじゃないしな。単純に学校側の問題だって」
綾小路がそう言う。確かに一年生全員のポイント支給が止められている以上、Dクラスの問題という可能性は低いが、
「そうだといいわね。トラブルは必ずポイントに直結するから」
「まぁ、そうだな。そうだといいんだけどなぁ…」
「何か思い当たる節があるの?」
俺の意味深な物言いに堀北は尋ねる。
「いや、根拠のないただの憶測だ」
「いいから話して」
「今須藤が連れて行かれたのと関係あるのかなってな」
その言葉に堀北は顔を歪め、綾小路は少し考えるようにしてから無表情に戻る。
「それは最悪ね。Dクラスが関わってることになるわ」
「ま、憶測だ。深く考えても仕方ない。じゃあ、俺はちょっと寄るとこあるから。じゃあな」
俺はそう言って二人と別れ、目的地に歩いて行った。
「これ返却で」
俺は図書室の受付に借りていた本を返却し、新しい本を借りるため本棚に向かう。入学してから色々あって読書の時間があまりなかったが最近やっと余裕が出来てきた。この学校の図書室の本の量は相当のものだ。全部読もうと思っても三年間で足りるかどうか。その上、図書室で本を借りるのにはポイントがかからない。つまり、無償で趣味に勤しめる最高の空間と言っても過言じゃない。
(さて…何を借りるか。前回はSF系だったし、今回は別ジャンルを読むか)
そう考えながら本を物色していると、
(………見られてるな)
背後から視線を感じる。常に監視しているって感じじゃなく、チラッと何度も見られている。だが少なくとも偶然じゃなくて俺の存在を意識している。俺はあえてそちらに視線を向けず今いる本棚から出て別の本棚に向かう。
(…付いて来たか)
俺は行き止まりの列まで進み本棚の一番奥、つまり図書室の一番端の位置まで歩き止まる。
「いい加減出てきたらどうだ?」
そう言いながら振り向くと、隣の本棚からヒョコっと可愛らしい女の子が姿を現した。
「すみません。あとを付ける様なことをして…」
女の子はペコっと頭を下げて俺に謝った。
「あー、君は?」
「私は1年Cクラスの椎名ひよりと申します」
白髪のロングヘアーが特徴的な美少女は椎名ひよりと名乗った。彼女は言葉では言い表しにくいが、ポワポワとした不思議な雰囲気を纏っている。余談だが、椎名は堀北や一之瀬とはまた違うタイプだが負けないレベルの美少女だった。
「そうか。じゃあ椎名、単刀直入に聞くけどなんで俺をつけてたんだ?」
「あなたがここ数週間、図書室に度々通っているのを目にしまして。本がお好きなのでは?っと思い気付けば目で追い、付いて行ってしまったのです。」
椎名が申し訳なさそうに言う。
(……今のところ嘘は言ってないな)
俺は椎名を細く観察する。あいにく嘘を見抜くのは得意分野だ。
「なるほどな。でも、俺が本好きだとして椎名はどうしたかったんだ?」
「本が好きな方なら仲良くなれると思いまして。実は私のCクラスには小説を好む人がいなくて話相手がいないんです」
「そうか…」
嘘をつけば誰しろ少しは動揺したりするが、椎名にはそれが見られない。嘘も言ってない様だし、興味本位の行動ならこのまま切り上げてもいいかと思っていると、
「あの、さっきご迷惑をかけてしまったばかりでお願い出来るような立場ではないのですが、もし良ければ私の話相手になっていただけないでしょうか?」
椎名はそう俺に聞いてくる。
「まぁ、それは別にいいけど」
「本当ですか!」
椎名が俺との距離をスッと詰めて、少しキラキラした目で俺を見ている。そんなに話し相手に飢えていたのだろうか。
「あ、ああ」
Cクラスにも知り合いはいた方が都合が良いだろう。本の話し相手は今のところ綾小路しかいないので俺も欲しかったし。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「1年Dクラスの八剣迅だ。」
「八剣くんですね。人の顔と名前を覚えるのは苦手なのですが、八剣くんのことは覚えました。これからよろしくお願いします」
この後、椎名と一時間ちかく本について語り、連絡先を交換して解散となった。椎名は丁寧な言葉使いなため物静かな子だと思っていたが結構笑顔を出したり明るい一面があるようだ。
「今日はお前たちに報告がある。先日学校でちょっとしたトラブルが起きた。そこに座ってる須藤とCクラスの生徒との間でトラブルがあった様だ。要は喧嘩だな」
翌日、茶柱先生から須藤とCクラスの生徒が揉めたこと、責任の度合いによっては須藤の停学、クラスポイントの削減が行われることが告げられた。その話にクラスが騒つく。
Cクラスって昨日椎名と接触したばかりなのだが…
「その………結論が出てないのはどうしてなんですか?」
平田から当然の質問が飛ぶ。
「訴えはCクラスの生徒からだ。一方的に殴られたらしい。ところが真実を確認すると須藤はそれは事実ではないと言った。彼が言うにはCクラスの生徒から呼び出され、喧嘩を売られたらしい。」
「俺は悪くねえ。正当防衛だ正当防衛」
悪びれた様子もなくそう言う須藤にクラスメイト達は白い目を向ける。
「だが、証拠はないんだろう?」
「そんなのあるわけねぇだろ」
「つまり、今のところ真実がわからない。だから結論が保留になっている。どちらが悪いかで対応も変わるのでな」
なるほど、学校側としては当然どちらの話もむげに出来ないから先延ばしにしてるってことか。
「無実以外納得いかねぇけどな。こっちが慰謝料貰いたいくらいだぜ」
「っと本人は言っているが信憑性は高くない。須藤がいたかもしれないという目撃者でもいれば話は変わるんだがな。どうだ?喧嘩を目撃した生徒はいないか?」
茶柱先生はそう全員に尋ねるが誰からも手が上がることはなかった。
「残念ながらこのクラスにはいない様だな」
「………のようだな」
茶柱先生がそう言い、須藤はつまらなさそうにする。
「学校は目撃者を探すため、今各担任の先生が詳細を話しているはずだ」
「は!?バラしたのかよ!?」
バラしたって…事が起こった時点で情報が共有されるのは当たり前だと思う。
「とにかく話は以上だ。目撃者がいるいない、証拠があるない、全ての判断は来週の火曜日に行われる審議で決まる。それではホームルームを終了する」
茶柱先生はそう言って教室を後にし、須藤もすぐに教室から出て行った。
「なあ、須藤の話最悪じゃね?」
「くそ、またあいつのせいで今月も0ポイントかよ」
池がそう切り出し、他の生徒も不満を募らせていく。そしてそれは須藤一点に集まり出した。だが無理もない、やっと0ポイントの生活から抜け出せると歓喜していた時に起こった事件だ。その上事を起こしたのが、これまでクラスの足を引っ張り続けている須藤だ。いい加減にしてほしいと思うのは自然だろう。
「ねえ皆んな、少し私の話を聞いて貰ってもいいかな?」
櫛田はそんな状況に見かねたのか立ち上がった。
「確かに先生の言う通り須藤くんは喧嘩をしたかもしれない。でもね須藤くんは巻き込まれただけなの」
櫛田曰く、須藤が一年でレギュラーに選ばれそうでそれを妬んだCクラスの生徒が数人で須藤を退部にしようと脅し、その結果、喧嘩に発展し殴ってしまったっと話した。櫛田の話にはクラスのほとんどが聞き入っていた。しかしそれでも、
「櫛田ちゃん、悪いけど俺その話信じられないよ。自分を正当化するために嘘をついたんじゃないかと思う。あいつ中学時代喧嘩ばっかやってたって言ってたしさ」
「前に廊下でぶつかった他のクラスの子の胸ぐらを掴んでるの私見たよ」
「俺は食堂で無理やり割り込んで注意されてるのに逆ギレしてるの見たことあるぜ」
須藤を援護する目撃情報は一切出ないのに、須藤の悪行や素行が悪い行動の目撃情報は止まることなく出続ける。
「僕は信じたい」
そんな時櫛田を援護したのは平田だった。
「他のクラスの人が疑うならまだわかる。でも同じクラスの仲間を最初に疑うのは間違ってると思う。精一杯協力してあげるのが友達なんじゃないかな」
「あたしもさんせー」
そんな平田に賛成したのは軽井沢だった。軽井沢は櫛田とは違うタイプの女子のリーダーだ。ギャルっぽいというか、強気なイメージがある。それとクラスの中心である平田の彼女らしい。
「もし濡れ衣なら問題でしょ?無実なら可哀想じゃない」
クラスで影響力のある軽井沢が賛成すると、多くの女子が賛成し始めた。軽井沢の影響力はすでにクラス屈指のものだろう。
こうして平田、櫛田、軽井沢が中心とした須藤を無実にするための場が出来上がっていた。
放課後、平田と軽井沢のイケメン&ギャルチームと櫛田や池達の美少女&お調子者チームの二組に分かれて聞き込みすることになったようだ。自分達の足を使って聞き込みをするようだが、正直あまり現実的じゃない。この学校の全校生は400人前後、全員に聞いて回るには相当時間がかかる。時間があるならそれもいいが時間に余裕がない状態だ。良い手とは言えない。
そんなことを考えながら俺は鞄を持ち上げ帰ろうとすると、
「八剣くん、帰っちゃうの?」
その様子を見て櫛田と綾小路が俺の席に来る。
「ああ、今のところ興味ないからな」
「でも、須藤くん困ってるんだよ?」
「ああみたいだな」
「みたいだなって……」
「俺は須藤とたいした面識ないし、そもそも困ってるなら誰でも助けるってのはおかしいだろ。俺は困ってる奴を全員助けるようなお人好しじゃない」
さあどう返してくるか
「……でも、Aクラスを目指すためにも必要なことだと思うの」
なるほど、アプローチを変えてきたか
「俺は別にAクラスを目指してるわけでもないからな。仮に俺がAクラスを目指すとしても須藤を助けたかはわからない」
「な、なんで?」
「いくら須藤に飛び抜けた身体能力があって将来的にプラスになる可能性があると言ってもそれ以上のマイナスを生み続けるなら意味がない」
「…………」
「話は終わりか?じゃあな、櫛田、綾小路」
「ま、待って、」 「ああ」
俺は周りの「帰っちゃうの?」という視線を感じながら無視して帰る。
様子を見るに綾小路も本気で助けようとしてるわけじゃなさそうだ。綾小路なら目撃者の聞き込みに大した意味はないってことに気づいてるはずだ。本気で助ける気なら堀北とかを使って動いてるはず。現に俺が帰ろうとしても櫛田についてきただけで俺を説得する気もなかった。クラスポイントがまた0になるのは少し惜しいが、近いうちクラスポイントが多く稼げるタイミングが来るはずだ。だから、今回の件は綾小路が本格的に動くまでは放置でいいだろう。
生徒データベース 7/1時点
氏名 八剣迅
クラス 1年Dクラス
学籍番号 S01T004763
部活動 無所属
誕生日 11月22日
評価 学力 B
知性 B+
判断力 C
身体能力 B
協調性 E
面接官からのコメント
筆記試験及び面接試験のどちらにおいても真面目に取り組む姿勢が全く見られず、手を抜いている様子が見られる。そのため、データでは学力、身体能力共に平均を少し上回るが本来はもっと良い成績を記録できる可能性がある。しかし、私的な理由で他を巻き込んで行動することがあるため協調性なしと判断する。データだけで判断するならばCクラス相当の生徒であるが、別途資料による諸事情でDクラス配属とする。物事に対して不真面目な態度と協調性の改善を期待する。
担任メモ
7/1現在成長の様子はなく、経過観察であることを報告します。