ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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目撃者の価値と協力者

翌朝、クラス内は情報交換に忙しない様子だった。特に平田と櫛田が忙しくしており一度聞いた生徒の名前を記録しているようだ。

 

「おはよ、八剣くん」

 

「おはよう。松下」

 

松下千秋。最近少し話すようになったクラスメイト。クラスでは篠原、佐藤達と一緒にいることが多く、他の子達より冷静でクールな女子だ。

 

「八剣くんは参加しないの?目撃者探し」

 

「ああ、俺がいてもあんまり意味ないしな。松下は参加してるのか?」

 

「うん。そういう流れだったし仕方ないかな」

 

「何か収穫はあったのか?」

 

「全くなし」

 

「だろうな」

 

「わかってて聞いたでしょ?」

 

松下が俺の顔を覗き込んでくる。上目遣いになっていてちょっとドキッとした。

 

「まあ、手がかりほぼ無しの足を使った聞き込みじゃ簡単には見つからないよな」

 

「うん。効率的じゃないよね。八剣くんならどうする?」

 

「目撃者を探さない」

 

「そういうことじゃないんだけど…」

 

「そもそも須藤の無実を証明する上で目撃者が切り札になる可能性は低いだろ」

 

「それって目撃者の条件の話?」

 

「ああ」

 

俺の予想では松下は優れた成績こそ残していないが実際は結構頭が切れるんじゃないか思う。今の俺の回りくどい言い方もしっかり理解できている。綾小路みたいに実力を隠してるタイプなんじゃないだろうか。なんで隠してるのかはわからないけど。

 

「もし目撃者がいてもうちのクラスじゃ効果は薄いし、Cクラスの生徒なら詰みだ。全く関係ない人物が目撃者でも目撃した場面が一部始終じゃなく、須藤が一方的に殴ってる場面だけならそれも意味がない。結局、うちに都合の良い目撃者じゃないとアウトなわけだからな」

 

「そうだね」

 

「仮にうちに都合の良い目撃者がいたとしても、今度は目撃者がそこにいた証拠が必要になる。そんなのあったら奇跡だろ?学校側や多くの生徒から信頼のある生徒でもない限りな」

 

「…確かに」

 

「それに時間が経つほど目撃者の価値は下がる。なんでかって言うと…」

 

「なんで初めに説明されたタイミングで目撃者だってことを明かさなかったのかってなるってこと?」

 

「ああ。そうだ。昨日学校を休んでて話を聞いてなかったとかなら別だけどな。つまり、目撃者が切り札になる条件は、CとDクラス以外の生徒で事件の一部始終を目撃していてかつ学校側から信頼があって昨日説明を聞いていなかった生徒ってことになる」

 

「………そんな人いる?」

 

「な?結局そうなるだろ?その上この話は須藤の話を全面的に信じることが最低条件だしな」

 

「そこもちょっと怪しいよね…」

 

須藤はいた気がするっと言っただけで確実に誰かがいた確証があるわけじゃない。松下達が探している人物はそもそも存在しない可能性も充分ある。松下もそのことが気にかかってる様だ。このクラスで須藤の印象は0どころかマイナスなので無理もないが…

そんな話を松下と話していると、

 

「はー、本当にCクラスの奴らが悪いなんて証明出来んのかな…」

 

池がそう呟く、

 

「目撃者さえ見つかれば不可能な話じゃないよ。頑張ろう池くん」

 

「頑張ろうってったってさ、そもそも目撃者なんているのかよ。須藤もなんとなくそう思っただけなんだろ?やっぱり嘘なんじゃねえの?」

 

普段須藤と仲の良い池でさえ懐疑的なのだ。本気で信じてるのは平田くらいじゃないだろうか。

 

「僕らが疑っていたら、そこから何も発展しない。違う?」

 

むしろ何故平田はそこまで須藤を信じられるのだろうか。接点も少ないし、須藤からよく思われていないこともわかっているはずだ。

 

「そりゃそうだけどさ……もし須藤が悪いってなったらポイント引かれるわけだろ?そしたらまた0だぜ0。いつまで経っても遊びまくるなんて夢のまた夢だぜ」

 

「そうなったらまた1から貯めれば良い。まだ入学して三ヶ月さ」

 

そんなまっすぐな返答に顔を赤くしている女子も少なくなかった。軽井沢はそんな自分の彼氏を誇りに感じてるのか、得意げな顔をしていた。

 

「ポイントは大事だと思うんだよ俺は。それが皆んなのモチベーションに繋がるじゃん?だから何としてもクラスポイントは死守したいんだよ。87ポイントでもさ」

 

「気持ちはわかるよ。でもポイントに固執しすぎて本質を見失うのは危険さ。僕たちにとって一番大切なのは仲間を大切にすることだよ」

 

平田はなんの迷いもなくそう言う。

 

「須藤が……悪かったとしてもかよ」

 

池はそんな平田に気圧された様に下を向く。

 

「平田くんの言うことはもっともだけどさ。正直あたしもポイントは欲しいかな。Aクラスの連中なんて月10万も貰ってるし正直羨ましいって感じ。それに比べてこっちはどん底じゃん?」

 

先生に注意されずとも授業態度に気をつけて1000あったクラスポイントを全て吐き出すようなまねをしなければこんなことにはなっていないので自業自得とも言えるが、

 

「なんで俺最初からAクラスじゃなかったんだろ。Aクラスだったら今頃すげぇ楽しい学校生活が送れてただろうな」

 

「あたしもAだったらなぁ、もっといろんなとこ遊びに行けるのに」

 

正直、池や軽井沢のDクラス配属はおそらくただの能力不足だと思う。

 

「一瞬でAクラスに上がれる裏技みたいなのがあったら良いのにな〜」

 

「喜べ池、一瞬でAクラスに行く方法は存在するぞ」

 

そう言いながら茶柱先生は教室に入ってくる。池達の話を聞いていたようだ。

 

「またまた〜。紗枝ちゃん先生、俺らをからかわないでくださいよ」

 

「本当の話だ。この学校にはそういった特殊な方法も用意されている」

 

茶柱先生の真剣なもの言いに、ヘラヘラ笑っていた池達の態度も変わってくる。そしてクラスの全員が茶柱先生に視線を向ける。

 

「せんせー、その特殊な方法ってなんでございましょう?」

 

池は茶柱先生にそう尋ねる。

 

「私は入学式の日に通達したはずだ。この学校にポイントで買えないものはないと。プライベートポイントを払えば好きなクラスに移動する権利も買うことができる」

 

確かに、前回の中間テストでは須藤の英語の1点を俺は10万ポイントで買った。それが可能ならクラス移動の権利も同じようにプライベートポイントで買うことが出来るってわけだ。

 

「ま、マジっすか!?何ポイント貯めたら、そんなことが出来るんですか?」

 

「2000万だ。頑張って貯めるんだな」

 

2000万か。今のところはあまり現実的じゃないな。

 

「に、2000万!?そんなの無理に決まってるじゃないですか!」

 

「確かに通常ではな。だが、無条件にクラスを移動出来るのだから当然だろう」

 

「じゃあ聞くっすけど、過去にクラス替えに成功した人はいるんですか?」

 

当然の疑問が池から飛ぶ。

 

「残念ながら過去には存在しない。理由は明らかだろう、入学時からクラスポイントをしっかり維持しても360万、ポイントを効率よく増やしても400万に届くかどうかだ。到底手が届かない」

 

「そんなの無理に決まってるじゃないですか」

 

「実質不可能の様なものだが、不可能じゃない、この差は大きいぞ、池」

 

「私からも質問させていただいてもよろしいでしょうか」

 

そんな池と茶柱先生のやりとりを聞いて堀北が手を上げた。

 

「学校が始まって以来、過去最高どれだけのポイントを貯めた生徒がいたんですか?」

 

「良い質問だな。3年ほど前だが1200万ほどのポイントを貯めていた生徒がいたな。あれは確かBクラスだったか」

 

「1200万?!それもBクラスが!?」

 

「だが、その生徒は結局Aクラスに上がる前に退学になった。理由はポイントを集めるために大規模な詐欺行為を行なっていたからだ」

 

「詐欺?」

 

「入学したてのポイントに対して知識の浅い新入生からポイントを騙し取っていたんだ。もちろん、学校側がそのような暴挙を許すわけがない。着眼点は悪くないが、ルールを破ったからにはそれ相応の制裁を受けてもらう」

 

つまり、犯罪のような真似をしても1200万が限界ということだ。

周りも同じように考えたのか興味をなくしている。結局地道にクラスポイントを上げたほうがまだ現実的と判断したのだろう。

 

「そうか、お前たちにはまだ部活でポイントを貰っている生徒はいなかったな」

 

「なんすかそれ?」

 

「部活の活躍や貢献度によってそれ相応のポイントが支給されるケースがあるということだ」

 

なるほど、学校の評判を上げればポイントがご褒美として貰えるってわけか。この学校も国が運営しているとはいえ学校であることには変わりない。学校は世間からの評判が重要だ。全国レベルで活躍する生徒が学校にいればその学校の名に箔がつく。

 

「部活で活躍したらポイントが貰えるんすか?!」

 

「ああ、そうだ。」

 

「酷いっすよ!それをもっと早く言ってくれれば…」

 

「部活に入っていたっとでも言うつもりか?そんな軽い気持ちで入部して結果を残せるとでも?」

 

「そ、それは…でも可能性はあるでしょ!」

 

茶柱先生の言うことは最もだが池の意見も理解できなくはない。大抵は真面目にやらなければ全国レベルの結果なんて残せないが、ポイント目当てで入って才能を開花させることだってある。

 

「ねえ、八剣くんは部活入らないの?水泳とか凄かったし」

 

松下が俺にそう尋ねる。そういえば平田にも同じような質問をされたな。

 

「そうだな。一つのことをずっと続けるってのが性に合わないってのもある。結構飽きっぽいからな、俺」

 

「そうなんだ。なんかもったいないな」

 

「そうか?」

 

「うん。八剣くんが部活に入って結果出したらそのポイントで何か奢ってもらおうと思ったのに」

 

「おい。それはただ貢がせてるだけだろ」

 

「ふふ、バレたか」

 

松下は俺に悪戯をしたように小さく微笑みながら佐藤達の方へ歩いて行った。

 

 

♢♢♢♢

 

 

俺は放課後、カフェ『パレット』に来ていた。『パレット』とは学校内にあるカフェで学生が多く利用するカフェだ。だが、そんなカフェも俺はこれまでは足を運んだことはなかったのだが今日初めて足を踏み入れた。何故なら一之瀬から聞きたいことがあると呼び出されているからだ。それにしても人が多いな。前もこんなことがあったが、あの時は静かなカフェだった。まあ、人が多い場所は周囲の喧騒に紛れられるメリットもあるが、

 

「あ!こっちこっち〜」

 

声の方向を向くと、そっちには大きく手を振っている一之瀬がいた。俺に存在をアピールするためだろうがかなり目立っている。一之瀬も心なしか顔が赤い気がする。やはり、やってみたものの一際注目を集めるのが恥ずかしかったのだろうか。

 

「悪いな、遅くなった」

 

「ううん。私も今きたところだから」

 

そんなありがちなやり取りをして俺は一之瀬が取っていた二人席の向かいに座る。

 

「それで聞きたいことって何だ?」

 

「じつはDクラスとCクラスで暴力事件が起きたって昨日先生から聞かされたんだけどね。昨日の放課後BクラスにDクラスの子が目撃者探しに来てたって聞いたの。だから気になっちゃって」

 

「そうか、昨日うちのクラスの一部が目撃者探しをしてたけどBクラスにも行ってたんだな」

 

「その口ぶりだと迅くんは参加してないんだ?」

 

「ああ、そうだな」

 

「そっか……じゃあ、事件の詳細を聞いても良い?先生からは喧嘩があったくらいにしか聞いてないんだよね」

 

俺は一之瀬に事件の詳細と論点を話した。Dクラスの須藤がバスケ部の1年で唯一レギュラーに選ばれかけていること。それに嫉妬したCクラスの生徒が須藤を特別棟に呼び出して部活を辞めるよう脅し、挑発したこと。その結果、須藤はCクラスの生徒を殴ったこと。しかし、Cクラス曰く、逆に須藤から呼び出され一方的に殴られたと学校に申告しておりそこで食い違っているということ。

 

「なるほどねぇ。それでBクラスまで足を運んでたんだ。うーん、これって結構大きな問題じゃない?だってどっちかが嘘の証言をしてるってことだよね」

 

「そうだな」

 

「迅くんはどう考えてるの?」

 

「さあな。俺にはわからない」

 

正直なところ、須藤の様子を見る感じでは嘘を言っているわけじゃなさそうではあった。あくまで俺の観察による推測なので根拠に乏しいが、

 

「そっか。なんにせよ今のうちにはっきりさせといた方がいいんじゃない?」

 

「それも一理あるけど。興味ない奴が入っても士気が下がるだけだろ?」

 

「え〜そんなことないと思うけどなぁ。事件のこと調べみようよ、私も協力するからさ」

 

「待て、なんでそうなる。一之瀬は無関係だろ?」

 

「でも、目撃者探しとか、証拠集めとか人が多い方がいいでしょ?」

 

「それはそうかもしれんが…」

 

「……それにこの前さ、BクラスがCクラスにちょっかいをかけられてるって言ったよね?」

 

「ああ」

 

「その時も結構苦戦して何とか解決したんだけど、勝負としては勝ったと言えるかどうか……」

 

つまりBクラスからすればCクラスにうまいことやられたってわけか。

 

「もし、Cクラス側が嘘をついていて、それでかつ今回の事件がCクラスの思い通りにことが進んだら、さらにCクラスを調子づかせることになるよね。私としてはそれは避けたいんだよね」

 

「なるほどな」

 

5月くらいからBクラスはCクラスの攻撃を受けていた。そして今回の事件がCクラスが仕組んだものならCクラスは範囲を広げDクラスにも手を出し始めたことになる。このまま勢いをつけさせるのは危険と判断したんだろう。

 

「Cクラスに一泡吹かせて出鼻を挫けるならBクラスにもメリットはある。だからね、私が協力することで真相に少しでも近づくなら協力したい。結果次第では結局Dクラスが被害を受けることもあるかもしれないけど……」

 

それは須藤が嘘をついていた場合だが、その結果だとBクラスは収穫なしで、Dクラスは須藤の停学、下手したらそれ以上のペナルティを受ける可能性がある。最悪のパターンだ。

 

「どうかな?悪い話じゃないと思うんだけど。双方利害は一致してるし」

 

確かにBクラスとDクラスの利害は一致している。しかし、一之瀬が協力するという事は推薦人の俺も必然的に協力することになってしまうのではないだろうか。

 

「いや、俺は元々手伝う気が…」

 

「迅くんにもメリットがあるんだよ」

 

「…メリット?」

 

「うん。だって、もしCクラスにやられて来月も0ポイントだったら迅くん困るよね?」

 

正直ポイントには困っていない。5月始めに黒田先輩から大きな収入があったし、6月からも黒田先輩に振り込まれるプライベートポイントの半分を微収しているため結構な額が貯まってきている。だが、膨大なポイントを所持していることは一之瀬にもまだ伏せているので一之瀬からはポイントに困っているように見えるだろう。

 

「まぁ、そうかもな」

 

「それに、その子って1年生でレギュラーになりそうなんでしょ?凄いじゃない。今は足を引っ張ってるかもしれないけど後々クラスの財産になるかもね。部活の貢献度次第ではクラスポイントにも繋がるんだからさ」

 

「何?クラスポイントにも影響するのか?」

 

「うん。……って知らなかったの?担任の先生から言われなかった?」

 

「プライベートポイントのことだけな」

 

またもあの教師は自分のクラスを陥れようとしているのだろうか。クラスポイントに影響が出るとなるとかなり話が変わってくるだろうに。

 

「なんか変だね。迅くんの先生」

 

「変っていうか。無関心って感じだな」

 

「この学校じゃ、担任の先生の評価は卒業のクラスで決まるって話知ってる?」

 

「いや、初耳だ」

 

もしかすると、あの担任が言ってないせいで、他のクラスは知っているのに、Dクラスだけが知らないことは結構あるのかもしれない。

 

「うちの星之宮先生がさよく言ってるんだよね。Aクラスの担任になれたら特別ボーナスが出るから頑張りたいって」

 

茶柱先生は生徒だけでなく金にも出世にも興味がないのだろうか。

 

「そっちの担任が羨ましいな」

 

「あー、それはちょっとね…」

 

一之瀬は星之宮先生に思うところがあるのか口を濁す。……確かにあの先生はあの先生で一癖ありそうだ。

 

「とにかく、私と一緒に事件の真相を探ってみない?それとも、どうしても嫌かな?…」

 

一之瀬はテーブルに身を乗り出し俺の右手を両手で掴んで、俺に心配そうな顔をして近づいてくる。意識しているのか無意識なのかはわからないが目が上目遣いになっておりとても断りづらい。それにしても女の子と顔の距離が近くなるのは何度経験しても慣れない。一之瀬のような超がつく美少女なら尚更だ。

 

「…その聞き方はずるいぞ」

 

「へ?あ、ご、ごめん…」

 

一之瀬は俺の手を離して席につく。

 

(無意識だったのか……恐ろしいな)

 

「………一旦、うちのクラスのリーダー的なやつに相談してもいいか?」

 

思わずわかったっと言いそうなところをなんとか抑えて一之瀬にそう言った。平田ならYesと言うだろうが一応確認する必要はあるだろう。

 

「うん、そうだね。私もクラスの皆んなに言っておくよ。結論は明日聞かせて?」

 

「……了解」

 

一之瀬の無意識な世渡り術に感心と危機感を覚えながらその日は解散となった。

 

 

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