ようこそ個人主義者のいる教室へ 作:ボロネーゼ
「平田、ちょっと話があるんだが…」
俺は翌日、平田にBクラスが協力を申し出ていることを話した。平田は喜んでその申し出を受けると言っていたので、俺は一之瀬に許可が通ったことをメールで送る。状況的に仕方ないが俺はBクラスとの橋渡し役になってしまった。
「Bクラスが協力してくれるのか?」
「どういうこと?」
すると、そのやり取りを聞いていたであろう綾小路と堀北が俺の元に聞きに来る。
「ん?ああ、まぁ色々あって…」
俺は一之瀬からの提案と情報を綾小路と堀北に共有した。この二人、特に綾小路には共有しておいた方が良いと考えたからだ。
「そうか。利害関係が一致したってことか」
「そうね。リスクもあるけど、背に腹は変えられないわね」
綾小路は納得したように、堀北は考えるようにしてからそう言った。
「それにしても、お前ら、急にやる気出したなどうした?」
「俺は元々、協力してただろ?」
「それ、あなたが言うの?頑なに参加しなかったくせに」
綾小路の白々しい誤魔化しを無視して、堀北は俺に尋ねる。
「事情が変わったんだよ。とにかく一応協力はしてやる。ていうか、頑なに参加しなかったのはお前もだろ」
「不本意だけど、そうせざるを得ないだけよ。今のあなたの発言からしてもね」
「ああ、部活がクラスポイントにも影響するってやつか?」
「ええ、クラスポイントにまで影響するなんて茶柱先生は言ってなかったわ。後で抗議しないと」
「言っても無駄だと思うけどな」
堀北もそれを理解しているようで反論はしなかった。
「ますます、説得には失敗できないわね」
「説得?」
「ああ、目撃者が見つかったんだ」
「へえ、誰だ?」
本当に目撃者がいたのか、さて俺の考えた条件を満たせているだろうか。
「佐倉だ。」
綾小路はそう言って、席に座っている佐倉を見る。佐倉とはDクラスの生徒だ。それ以上の情報はない。強いて言うなら大人しい生徒だろうか。何故情報がないのか、それは誰とも話している所を見たことがないからだ。誰と仲が良いとかどんなことが趣味とかも予測すらつけられない。いつも孤独な堀北より情報がない。人に話しかけたくても人見知りをしてなかなか出来ないタイプか、もしくは堀北のように孤独を好むタイプだろうか?
「……同じクラスか」
やっぱりそんな都合の良い目撃者なんて現れないよな。でも、いないよりマシか。
「ああ、だが、いないよりいいだろ」
綾小路が俺と同じことを言っていた。
「とりあえず、今日の放課後説得を試みるわ。……櫛田さんが」
「櫛田だよりかよ……完全に堀北がする流れだったろ」
「私がやってもいいけど、櫛田さんの方が説得には向いているでしょう?適材適所よ」
「まあ、確かにお前に出来るとは思えんけどな」
そう言うと堀北に睨まれる。
「……成功するといけどな」
「その間はなんなの?」
「そもそも、目撃者として証言してくれるなら、もうしてくれてる筈だ。それがないってことは証言なんてする気ないってことだろ」
「それは……」
「まあ、その可能性はあるな」
綾小路が同意する。
「佐倉がどんなタイプの人間かわからないからまだなんとも言えないけどな」
俺たちは佐倉が証言してくれることを祈ってその日を過ごした。
放課後、櫛田は予定通り佐倉の説得を試みた。俺は帰る準備をしながらその様子を見ていた。綾小路や堀北はもちろん、池や山内、須藤も少し緊張した様子で見ている。
「佐倉さんっ」
「…………な、なに?……」
佐倉はまさか話しかけられるとは思ってもいなかったのかどこか慌てた様子だ。声のボリュームからしても気が弱いタイプか。
「ちょっと佐倉さんに聞きたいことがあるんだけど……この後ちょっと時間いいかな?」
「………ご、ごめんなさい。………私…この後用事があって……」
こりゃダメだな。相手が学年でトップクラスの人当たりの良さを持つ櫛田でさえ拒絶している。説得は厳しいだろうな。
「そんなに時間とらせないよ?大切なことだから話をさせてほしいの。須藤くんの事件があった時、もしかしたら佐倉さんが近くにいたんじゃないかって…」
「し、知らないです!ほ、堀北さんにも言われたけど、私全然知らなくて……」
佐倉は弱々しい言葉だが、きっぱりと否定している。しかし、それはおそらく嘘だ。まるで何かを隠している感が出まくってる。それでも、櫛田は引き下がらない。いや、ここまで須藤の目撃者探しをしてきた身としては引き下がれないのだろう。
「もう……いいですか?……帰っても?」
「今から少し時間取れないかな」
「……どうしてですか?…私、何も知らないのに」
周囲の注目も少しずつ櫛田と佐倉に集まってきている。もし佐倉が気の弱く人付き合いが苦手なタイプなら、状況は悪化していると言える。何故ならそのような生徒の大抵は注目されることを嫌うからだ。つまり、佐倉の説得に時間をかければかけるほど佐倉が頷いてくれる可能性も減る。
「……私、人付き合いが苦手なので…ごめん…なさい」
佐倉レベルで人付き合いが苦手な生徒ならそろそろ強引な手に出てもおかしくない。
「さ、さようならっ」
佐倉は話をうまく切り上げられないと判断したのか、鞄を持って逃げ出した。
その時、佐倉は本堂とぶつかり、手に持っていたデジカメを落としてしまう。
ガシャッ!
という音を立ててデジカメは床とに落ちた。ぶつかった本堂は悪い、悪いっと言った様子で気にすることなく行ってしまう。
「う、嘘、映らない…」
佐倉にとってそのデジカメは相当大事なものだったのか、電源ボタンやらいろんなボタンを押すがデジカメが反応することはなかった。
「ご、ごめんね。私が急に話しかけたから」
「…い、いえ、不注意だった私が悪いので……さようなら」
今の佐倉を呼び止めることは流石に櫛田でも出来なかったようだ。
「何であんな根暗女が目撃者なんだよ。ついてねえな。つか俺を救う気あんのかよ」
須藤はそう言ってため息を吐き捨てる。
「何か事情があるんだよ。それにまだ佐倉さんの口から見たって聞いたわけじゃないし。本人にそんなこと言っちゃダメだよ?」
櫛田は須藤にそう言い、堀北も須藤に近づいていく。俺は櫛田と須藤が話している間に綾小路の側まで近づいていく。
「綾小路、お前はどう思う?」
「まあ、何か隠してる風だったな」
綾小路も俺と同じような結論に至ったようだ。
「ふざけんな!俺は無実なんだよ無実。殴ったのも正当防衛だ」
須藤が声を荒げる。どうやら堀北が須藤に本音を吐き出したようだ。それにしても、須藤は堀北にはまだ大人しいと思う。ああ、そういえば須藤は堀北に惚れてるって綾小路が言ってたな。それが理由か。
「正当防衛はそんなに甘いものじゃないわ」
須藤が一発でも殴られてたら正当防衛の主張も、もう少しマシだったと思うが。いや、それでもあいつなら厳しいか。
「なあ、もう完璧な解決策もないし諦めようぜ?」
池が須藤にそう言う。
「なんだよお前ら協力してくれるんじゃなかったのかよ?」
「だって……なあ」
池は他のクラスメイトに同意を求める。
「あなたのお友達すら協力する気にはなれないそうよ残念だったわね」
「なんで俺ばっかりこんな目に合うんだ。使えねえ連中だな」
今のところ須藤の発言全てがただでさえマイナスの印象をさらに下げ続けている。
「あなたその言葉が全て自分に対してのブーメランだって気づいてる?」
「どういう意味だよそりゃあ」
最近は険悪な雰囲気がクラスに流れることはあったが、今日はいつも以上だ。
「ねえ、綾小路くん、八剣くん。」
櫛田は俺たちにスッと近づいてきた。
「綾小路くんは須藤くんの味方だよね?」
「まあ、そうだな」
と綾小路は答える。
「八剣くんは?」
「別に味方じゃない。俺には俺の行動理念があるだけだ。本来ならあいつがどうなろうと知ったことじゃない」
「……そっか」
櫛田は落ち込んだように言う。
「どうしたんだ?改めて」
綾小路は櫛田にそう尋ねる。
「ほら、ちょっと険悪だし。皆んな須藤くんを助ける気が薄れている気がして」
「まあ、そうだな。仕方ないけどな」
元々、本気で須藤を助けてあげたいという生徒がどれだけいただろうか。俺が見た感じでは平田と櫛田の二人だけだった。それ以外の生徒は松下も言っていたが、人付き合いの流れで参加せざるを得なかっただけ。今回クラスの多くが協力しているのは本気で助けたいと思った生徒が平田と櫛田という影響力の強い生徒だったから。本心では須藤なんて停学どころか退学にでもなれば良いと考える生徒がいてもおかしくない。もし仮に、暴力事件に巻き込まれたのが平田だったらクラス全員の反応も士気も違ったはずだ。
「やっぱり君は退学しておいた方がよかったんじゃないかなぁ。レッドヘヤー君。君の存在は美しくない」
そう考えているとまさにそれを口にする生徒が現れた。高円寺だ。
「……なんだと?もう一回言ってみろよ!オイ!」
「同じことを何度も言うなんてナンセンスだよ。物分かりが悪いと自覚しているのであれば、特別にもう一度レクチャーしてあげてもいいが」
ガンっ!!
須藤が机を蹴り飛ばし、高円寺のところまで歩いて行く。一触即発の雰囲気に場は凍りつき音が消える。
「そこまでだ。二人とも落ち着いて」
この場で唯一動いたのは平田だった。教室内での暴力沙汰は流石にまずいと判断したのだろう。その上、須藤に関しては今、暴力沙汰を起こせば、もう審議の余地すらなくなる可能性がある。
「須藤くん。君も問題だけど高円寺くんも悪いよ」
「あいにく私は生まれてから一度も悪いことをした覚えはないのでねぇ。君の勘違いさ」
「上等だ。ボコボコに顔面潰してから土下座させてやる」
おそらくそれは叶わないだろう。須藤は喧嘩が得意らしいが、俺から見ればチンピラの域を出ない。故に武の心得があり戦闘経験が豊富な奴なら充分倒せる。それに対して高円寺は俺ですら実力が測りきれていない。高円寺と俺が闘えば無事じゃ済まないだろう。俺が本気で闘ってギリ勝てるかどうか、もしかしたら場合によっては負けることもあるかもしれない。それだけ勝つビジョンが見えない。
「やめるんだ」
平田が静止するが、須藤も高円寺も止まらない。高円寺に至っては止めること自体不可能かもしれないが、
「もうやめようよ。私友達同士が喧嘩するところなんて見たくないよ」
「櫛田さんの言う通りだ。それに須藤くん、君は審議を控えた身だ。ここで暴力事件を起こせば学校からの心証が悪くなる。そうだろう?」
「チッ」
平田は須藤にそう言った。須藤は平田の言うことに納得したのか。バンッと強引に扉を開けて教室を出て行き、廊下で一度大きく吠える声が聞こえてきた。
「高円寺くん。協力を強制する気はない。だけど彼を責め立てるのは間違ってるよ」
「残念だが私は生まれてから一度も間違ったことをしたことはないのだよ。おっと、そろそろデートの時間だ、僕はこれで失礼するよ」
高円寺はそう言って去っていった。あいつをコントロールするのは無理だな。
「須藤くんは成長しないわね」
「堀北さんももう少し優しい言い方があったんじゃないかな……」
「言っても無駄な人には容赦しないことにしているの」
言っても無駄じゃない相手にも容赦ないくせにっと考えてそうな綾小路は堀北に睨まれる。
「なに?」
「世の中には大器晩成って言葉があってだな……」
綾小路と堀北が言い合いをしている間に俺は池のほうに話しかける。
「池、ちょっといいか?」
「ん?おう…」
池は普段話さない俺が話しかけてきたことに少し違和感を感じていたようだ。
「須藤とは友達なんだよな?諦めていいのか?飯もよく一緒みたいだし」
「まあ、仲悪いとは思ってないぜ。けどちょっち足手まとい過ぎっしょ。今でも授業中一番サボってんのは須藤だし、ああやって喧嘩するのも須藤だし。その辺は線引きしないとな」
なるほど。友達ではあるが同類ではないっと言いたいわけか、
「私頑張って佐倉さんを説得するよ。そしたらきっとこの悪い流れも変わるはずだし」
「そうかしら。この際だから言うけど、佐倉さんが証言しても効果は薄いと思うわ。おそらく学校側もDクラスから突如湧いて出た目撃者の存在を疑うはずよ」
「疑うってどうして?」
話は俺が以前松下と話していた内容になっていった。今頃出て行ってもDクラスが用意した目撃者だと疑われること、そして、目撃者が話の決定打になるための条件について。俺はその話を聞き流しながら携帯で時間を確認する。この後、ある人と会う約束をしているからだ。
「今回の事件が教室で起こった事件なら話は別だったんだけどな」
「どいうこと?」
「いや、教室には様子を監視するカメラが設置されてるだろ?だから何が起ころうと証拠はバッチリだったんだけどな。Cクラスがどんな嘘をつこうと一発なんだが」
その言葉に池や櫛田は驚いた様子だった。そうかこいつら監視カメラがあることに気づいてなかったのか。
「じゃあ、事件現場のカメラを調べれば…」
「特別棟には監視カメラがないからな」
池の思いつきの発想を俺は打ち砕く。その後、少し話し合い俺たちは解散となった。
「綾小路くん、八剣くん、一緒に帰らない?」
「…………」
堀北の提案に綾小路は思わず堀北の額に手を当てていた。
「熱はないわよ。少し相談したいこともあるし」
「ああ、別にいいけど」
綾小路はそう言った。
「悪いけど俺はこの後予定がある」
「……そう」
俺は堀北の提案を蹴って教室を出て行った。
俺は学校のとある場所まで来ていた。そこは校舎裏のそこにはベンチが一つあるだけで、監視カメラも人気も全くと言っていいほどない。静かな場所だ。待ち時間までまだ少しあるのでベンチに座って待つ。数分後、一人の生徒がそこに現れる。
「…来たか。悪いなこんな場所まで呼び出して」
「いえ、人目を避けて合うには好都合な場所ですので」
校舎裏に現れたのは、Cクラスの椎名ひよりだ。
「実は椎名に直接会って聞きたいことがあってな」
「はい。ある程度の予想はつけてきました」
「そうか。言ってみてくれるか」
「はい。Dクラスとの喧嘩騒動のことですよね」
「そうだな」
「Cクラスの一人として謝罪させてください。本当に申し訳ありません」
「謝るって事はやっぱり今回の件はCクラスの罠って事だな」
予想通りの展開だな
「はい。すみません…」
「様子を見るに椎名はこの一件に関わってないんだろ?なら椎名が謝る事じゃない。俺も椎名を責めるために呼んだんじゃないしな」
今回の件にCクラスが関わっていても、椎名が関わっていないのは彼女の様子を見れば一目瞭然だった。もしこれが演技だったとしたら相当なものだろう。
「はい。そうだったとしてもCクラスの生徒である以上責任がないわけではないと思いますので」
「律儀だな。そんな気持ちに付け入る様な真似をして悪いが、俺の質問に答えてくれないか?もちろん答えられる範囲で構わないし、自分の身を一番に考えてくれ」
俺は椎名が話しやすくなるためにそう言った。椎名はずっと申し訳なさそうにしている。
「今回の件の事なら私に答えられることはなんでもお話します。この学校の制度上、争うことも時には仕方がない部分もありますが基本的には皆さん仲良くされるべきだと私は考えています。公正な学校が用意した場ならまだしも今回の件はCクラスがAクラスに上がるための行動にしてはいきすぎていると私は思います。」
椎名はそう言い切った。口ぶりから察するに椎名自身はクラス間の闘いに大して興味がないのかもしれない。しかし、学校の都合上、Aクラスに上がるための闘いは許容しても、自分が悪だと思っていることに対してはクラスの方針にも反抗することが出来るあたり俺が思っていたよりかなり勇気を持っている生徒のようだ。
「それに私は八剣くんの事は信頼していますので」
「………何で?」
正直、椎名とはこの前一回あっただけで信頼されるようなことは何もしていない。信頼なんてされる理由がない。
「この前会った時、八剣くんは私が嘘をついているか見抜こうとしていましたよね。視線でわかりました。そして、八剣くんは私が嘘をついていないと判断した瞬間、警戒レベルが下がりました。それは自分の目に相当の自信がある証拠です。」
(この前の観察がバレてたか……上手くやったつもりだったんだが)
おそらく椎名は洞察力や観察力が相当優れている。あの少しの時間で逆に俺の力の片鱗を見抜きかけていたのだから。
「自分の実力を信頼している。そういう人は実力者の場合が高いと私は思っています。もし私が色々話してもそれを外部に漏らしたりはしないでしょう」
「自分の力を買い被る愚か者かもしれないぞ?」
「そうでしょか?少なくとも私にはそうは見えませんでした」
「でも、それだけだと弱くないか?」
「もう一つは私をここに呼び出した事です」
「…?」
「私が八剣くんと話しているところをクラスの人に見られれば私はただでは済まない。その配慮をしてくださったのでは?」
「俺がCクラスの生徒と話しているのがバレたらまずいからっていうだけってことも考えられるだろ?」
「ええ、ですがリスクが高いのは間違いなく私です。八剣くんからこの場所を提案するのは八剣くんのお心遣いだと思いました。それにさっき自分の身を一番に考えていいとおっしゃいました。その言葉に嘘は感じられなかったのですが違いますか?」
「……まあ」
今回も嘘をついている様子はない。思ったことをそのまま言っているのか。
「(信頼してくれる分にはいいか) まあ、理由はわかった。じゃあ、早速だけど本題に入っていいか?」
俺はそう結論付けて、本題に入ろうとする。
「はい」
「この一件を考えついたのは誰だ?」
「龍園くんです」
「龍園?そいつが今回の件を考えたのか」
「今回の件だけではなくCクラスは龍園くんの主導のもとに動いています」
(龍園って男がCクラスの頭って訳か)
「なるほどな。龍園ってのはどういうやつだ?」
「龍園くんはあらゆる裏を読むのが得意です。ルールの抜け穴や公には裁きにくいことを的確に突くんです。そして荒々しい部分があります。利益のためなら他の人に容赦しませんし、同じクラスメイトでも反抗する生徒がいれば制裁を加えるといった。徹底した支配体制をCクラスにひいています」
ってことは椎名はこのことが龍園にバレたら相当やばいな。
「なるほど。Cクラスの独裁者って感じか」
「はい。当初は反発も大きかったのですが、今は誰も彼に逆らう生徒はいません。」
椎名が今俺に喋っているのはある意味裏切りとも取れるが、それだけ俺を信頼しているということか。
「性格通り龍園くんの策は少々荒々しいものですが、CクラスがAクラスに上がるためには必須だと考えています」
「そう思わせる実力があるってことか…」
「ええ」
「じゃあ次だが、その龍園のメールアドレスを知ってるか?」
「はい。クラスの人は全員知っています。何かあれば報告するようにと言われていますので…」
(最低限の情報網もバッチリってことか)
「じゃあ、龍園の連絡先を教えてくれないか?」
「それは……」
「ま、流石に無理か」
ダメ元で聞いてみると、
「これでいいですか?」
椎名は携帯をこっちに向けた。そこにはメールアドレスと電話番号が記載されていた。
「………いいのか?」
「常識的に考えても普通はだめです。でも事態の沈静化に必要なんですよね、なら仕方ないです。……八剣くんだから教えたんですよ。他の人なら絶対に答えません」
「そうか」
やはり何故か椎名の中では俺は相当信頼されているようだ。椎名は俺に対してさっき俺に言った以外にどんな印象を持っているのだろうか。
「……八剣くん。そのかわりお願いがあるのですが…」
「ん?」
「これからも人気のない場所でこうして会ってくれませんか?」
CクラスとDクラスがこんなことになった以上俺が椎名と距離を置くと考えたのだろう。実際、そう考えてたし、
「俺はいいが、椎名のリスクが高まるんじゃないか?」
「せっかくの読書仲間を手放したくないんです。」
椎名は悲しそうな目で俺をみてきた。そんな目をされるととても断りにくい。
「わかった。今回は結構無理してもらったし、それくらいなら俺はいいぞ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
椎名はとても嬉しそうにしていた。前もこんな会話したけどそんなに本好きこの学校に少ないのだろうか。確かに図書室はテスト前以外はいつもガラガラだけど…
俺と椎名はそのあと少し本について語り合い解散した。それにしても龍園の存在とメールアドレスを知れたのはとても大きな収穫だったな。
『そっかー、目撃者はDクラスの子だったのか〜』
俺はその日の夜、一之瀬に情報を共有するために今日あったことを電話で話していた。
『ああ、もし、審議の日に証言してくれても効果は薄いだろうな。』
そもそも証言してくれるかすら怪しいところだが、
『まあ、でも、ほら目撃者であることには変わりないんだしさ。それに他の目撃者がいる可能性もあるでしょ?確率は低いけど』
ないに等しいような確率だが可能性は0ではない。
『うちのクラスの皆んなも協力してくれるってことだから、明日以降皆んなで具体的な方法を考えて色々やってみるよ』
『ああ、悪いな』
『気にしないで。行動するときは事前に連絡したほうが良い?』
『いや、俺の返信を待ってたら時間もかかるし、一之瀬に任せるよ』
『了解!一緒に頑張ろ!』
俺はそのあと、一之瀬と少し雑談して通話を終了した。通知中もそうだが俺は今、部屋にあるパソコンでとある作業を進めていた。
(これで完璧か…)
俺はパソコンのエンターキーを押すとメール送信完了の合図が出る。これで上手くいけば大きく状況が動くんだがな。とりあえず、様子見だと判断した俺はベッドによこになってそのまま睡眠を取った。