ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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もう一つの顔

日曜日を挟んでいよいよ明日は暴力事件の審議の日だ。昨日、綾小路から佐倉がおそらく協力してくれるとの連絡が入った。頑なに拒んでいた佐倉が協力するとは何があったんだろうか。正直、佐倉が証言する事はないと思っていたのだがこの土日に何かあったのか。綾小路から連絡が来たということは綾小路が何かしたのかもしれない。しかし、おそらくって書いてあるから確実ってわけじゃなさそうだし、佐倉がいたところで大きな影響はないから問題はないのだが……

 

ミーン、ミンミンミンミンミン

 

「はあ、暑っつ…」

 

太陽の熱い日差しにセミの鳴く音、俺は夏を一身に感じながら登校していると、

 

「ん?これって……」

 

学校内の下駄箱に行くまでの道にある掲示板に須藤の事件のことに関する情報提供を求める貼り紙がしてあった。うちのクラスではそんな話は出ていなかったので一之瀬が動いてくれていたということだろう。その張り紙には情報提供に応じてくれればポイントを支払うということまで書いてあった。確かにポイントが関わるなら協力する気のなかった生徒も応じてくれるかもしれない。財力のあるBクラスだからこそ出来るやり方だ。ウチの財政状況じゃ絶対無理だな。

 

「お、おはよー、迅くんっ」

 

俺は後ろから一之瀬に声をかけられた。いつもよりは少し固い様子だが先日のことをまだ気にしているのだろうか。しかしそれにしてもタイミングが良いな。

 

「ああ、おはよう。この張り紙、一之瀬が作ったのか?」

 

俺は張り紙を指差しながら一之瀬に尋ねる。

 

「え、張り紙?………なるほどね。こういうのもありだね」

 

「……一之瀬がやったんじゃないのか?」

 

俺はBクラスの作戦なら全て一之瀬がまとめていると考えていたが違ったらしい。

 

「えっと、この張り紙を貼ったのは私たちのクラスの子だと思うよ。これは多分……あ、いたいた神崎くん」

 

神崎と呼ばれた男子生徒は一之瀬の手招きにお応じてこちらへ歩いてきた。

 

「この張り紙、神崎くんだよね」

 

「ああ、金曜日のうちに用意して貼っておいた。それがどうかしたのか?」

 

「ううん、迅くんが誰がやったのか気になってたから。あ、紹介するね。Bクラスの神崎くん。こっちはDクラスの迅くん……じゃなくて八剣くんだよ」

 

「神崎だ。よろしく」

 

俺は神崎から差し出された手を取り握手する。神崎の見た目から感じた印象は真面目で物静かそうな生徒だ。自己主張が強そうなタイプではない。身長は俺とほぼ変わらないから175cmくらいだろうか。

 

「しかし、そうかお前が八剣か」

 

「ん?俺のことを知ってるのか?」

 

「ああ、中間試験で全教科満点だったからな。流石に話題にもなる。」

 

「そうか…」

 

「それにお前の話は一之瀬からよく話は聞いているからな。」

 

「よく?」

 

俺は一之瀬の方を見ると一之瀬は顔を赤くしながらあたふたしている。珍しいな。

 

「一之瀬が褒めちぎっていたからよく覚えて……」

 

「わーわー、ストップストップ!!」

 

一之瀬は大きな声を出して神崎の言葉を遮った。その時の一之瀬の様子はとても可愛らしいものだった。

 

「か、神崎くん、な、何言ってるのかな!?あ、あと、ごめんね。勝手に迅くんのこと話しちゃって…」

 

一之瀬は顔が赤いまま焦って俺に謝る。

 

「あ、ああ、別に良いけど…」

 

俺のことを褒めていたのか、それは嬉しいな。

 

「そ、それより神崎くん、有力な情報あった?」

 

「いや、残念ながら使いものになりそうな情報はなかった」

 

一之瀬は恥ずかしかったのか、無理矢理話題を変更した。

 

「そっか、じゃあこっちの掲示板も見てみるね」

 

そう言うと一之瀬は携帯をポケットから取り出して操作し始めた。

 

「もう一つ掲示板があるのか?」

 

一之瀬は微笑みながら違うよっと返事をした後、俺に携帯を見せてくれた。

 

「学校のHP見たことあるかな?そこに掲示板があるんだけどね、そこで情報提供を呼びかけてるの。暴力事件のことに関して知ってることがあったら教えてほしいって」

 

画面には確かに情報提供を呼びかける書き込みがあり、閲覧者数も見えるようになっている。うちのクラスがやったように足で聞き込みをするよりもよっぽど効率的なやり方と言えるだろう。そしてこちらにもポイントを支払うという文面があった。

 

「ポイントまで使ってもらって悪いな。すぐに返すって言いたいところだがうちのクラスは深刻な財政難でな。返済の時期は相談させて欲しいんだが」

 

「ううん、それは気にしないで私たちが勝手にやってることだから。それに今の手ごたえだとちょっと新しい情報は難しいかもね。……あ」

 

一之瀬が画面をスライドしていると急に声を上げる。

 

「どうした?」

 

「書き込み、2件ほどメール来てるみたい。少し情報があるって」

 

一之瀬は暫くメールを読んだあとこちらに携帯を向けた。

 

「例のCクラスの一人、石崎くんは中学時代相当な悪だったみたい。喧嘩の腕も結構立つらしくて地元じゃ恐れられてたんだって。同郷の子からのリークかな」

 

「興味深いな」

 

一緒に文面を読んでいた神崎がそう呟いた。確かにこの情報は明日の審議でカウンターとして使えそうだ。3対1の状況で喧嘩慣れしているやつが一発も殴るどころか防ぐことすら出来ないなんて明らかに不自然だ。審議ではそこの違和感を突くべきだろう。だが……

 

「神崎くんはどう思う?」

 

一之瀬は神崎に尋ねる。

 

「もしかすると須藤にやられたのはわざとかもしれないな。3人が須藤に罪を着せるため動いたと考えれば自然と話は繋がる」

 

「うん。流石神崎くん、ズバリだね。迅くんもそう思う?」

 

「ああ、そうだな。可能性は充分あるな。でもこれだけじゃ弱いよな」

 

椎名に聞いてるので真相は知っているがこの2人に流石にそれを話すわけにはいかない。

 

「だよねー。殴っちゃったていう事実があるもんね」

 

「ああ、結局それはどうしよもないからな」

 

「Dクラスの目撃者の意見を合わせれば6対4、あるいは7対3にまで持っていけるかもしれない。そっちはどうだ?確実な目撃者だったのか?」

 

神崎がそう言って俺に尋ねてくる。

 

「あー、そうだなぁ。それは……」

 

俺が喋ろうとした時にある人物が登校しているのを見て俺はそいつを呼び止める。

 

「綾小路!」

 

俺が呼ぶと綾小路はこちらを向き歩いてきた。

 

「八剣、どうしたんだ、こんなところで?」

 

綾小路はこの前の出来事がなかったかのように話を進める。

 

「噂をすればだな。綾小路、こっちの二人はBクラスの一之瀬と神崎、2人ともこいつはDクラスの綾小路、目撃者のことに関してはこいつの方が詳しいから聞いてくれ」

 

俺は一之瀬と神崎に綾小路を紹介して、綾小路には二人を紹介する。

 

「綾小路くんだね、私はBクラスの一之瀬帆波よろしくね」

 

「同じくBクラスの神崎だ。よろしく頼む」

 

そう言って神崎は俺の時と同じように綾小路に手を差し出す。

 

「Dクラスの綾小路だ。よろしく」

 

綾小路はそう言って神崎と握手する。

 

「それで綾小路、目撃者の件はどうなったんだ?」

 

俺は綾小路にそう聞いた。朝のメールだけではどれくらいの確実性があるのか判断出来なかったからだ。

 

「そうだな。一応協力はするっと言ってくれたが、まだ何とも言えないな」

 

「そうか」  

 

「うーん、何か事情があるのかもね」

 

神崎と一之瀬はそれぞれそう言った。

なるほど、綾小路ならもっと知ってると思ったがそういう状況か。まあ、佐倉の性格を考慮すれば正しいかもしれないが。

 

「さすがに別の目撃者の情報はないね。出てきたら面白いと思ったんだけど厳しいかなぁ。もう時間はないけどネットや貼り紙の方から情報を待つしかないね」

 

「ネット?張り紙?」

 

「ああ、それは…」

 

途中から話に参加した綾小路に俺はBクラスがネットや貼り紙を使って協力してくれていることを説明した。

 

「そうか。でも、いいのか?そこまでして貰って。Cクラスの連中に目をつけられかねないぞ」

 

綾小路は一之瀬と神崎にそう言った。

 

「あはは、うちはもう目をつけられてるから同じだよ。元々、CとAの両方に狙われることになるんだし」

 

「一之瀬の言うとおりだ。俺たちに何も問題はない。それに、ルールに基づいての競争なら望む所だが、今回はそのルール外、到底許していいことじゃない」

 

二人の闘う意志をしっかりと感じたのか綾小路はそれ以上何も言わなかった。

 

「とりあえず、情報をくれた子にはポイントを振り込んであげないとね。あ、でも匿名希望か……どうやって振り込むんだろ。迅くんわかる?」

 

「ああ、一応」

 

「え、本当!じゃあ、教えてくれる?」

 

そう言って一之瀬は俺と体を密着させ、携帯が見えるようにする。

 

(………当たってる)

 

いつもそうだが、一之瀬には自分の体に対して無防備なところがある。現に俺の腕に一之瀬の大きなものがしっかりと当たっており、柔らかい感触と髪からシャンプーもしくはトリートメントのいい匂いがしている。こういう無自覚な行動が多くの男子の心を掴み、恋の病にかけているのかもしれない。…………一之瀬の身のことをを考えると、今度注意するべきだろうか。

 

「じゃあ、ポイントの送信画面を開いてくれ。左上に自分のIDがあるだろ?」

 

「えーっと……」

 

一之瀬は俺の言う通り携帯を操作していく。その瞬間、携帯の画面に一之瀬の所持ポイントが表示される。そこには俺ほどではないにしろ巨額なポイントが表示されていた。

 

「っ!」

 

「……えっと、これだよね。これをどうすればいいの?」

 

ポイントに気を取られて黙っていた俺に一之瀬が問いかける。一之瀬は俺に体を密着させたままで携帯の画面も俺に見えるように向けられたままだった。一之瀬は何故、俺に所持ポイントを隠そうとしないのだろうか。所持ポイントがバレることは大きなデメリットに繋がる可能性があるということは一之瀬にも理解できている筈だ。

 

「あ、ああ、そのIDから一時的なトークンキーを発行できる。それを相手に送れば入金のリクエストが来るはずだ」

 

「なるほど。………出来た!これで良いよね?」

 

「…ああ、そうだな」

 

「教えてくれてありがとう!それじゃあ、行こっか」

 

そう言って一之瀬は歩き始め、綾小路や神崎も続く。

 

(一之瀬は一体どうやってあの額のポイントを集めたんだ?)

 

俺の中にはその疑問が頭を回り続けている。確かに俺は一之瀬以上のポイントを所持することに成功している。だが、それは3年間ポイントを溜め込んでいる先輩の弱みを握り、巻き上げることに成功したからだ。

 

この世には安全な正当法を好むタイプと反則ギリギリの裏工作を好むタイプの2種類の人間がいる。一之瀬は性格からして間違いなく前者だろう。となると、正当法であの額のポイントを稼いだことになる。その方法が思いつかないことはないが、ほぼ不可能と言っても過言じゃない。

 

「おーい、迅くん!早くー」

 

俺は頭をぶるぶると振り、一旦考えるのをやめて一之瀬たちの方へ歩いて行った。

 

 

♢♢♢♢

 

 

学校に着いていつも通りのホームルームを受けた後、綾小路、櫛田、佐倉は茶柱先生を追いかけていった。佐倉が目撃者だということを申告するためだ。俺と堀北は教室で綾小路たちが帰ってくるのを待っている。

 

「今回の事件あなたはどう考えているの?」

 

堀北が俺にそうというかけてきた。

 

「どう、とは?」

 

「今回の事件、どれだけ頑張っても須藤くんが一方的に殴ったという事実がある以上Dクラスが無実を勝ち取るのは厳しいと私は考えているわ」

 

今朝、一之瀬や神崎と話していたことがここでも出てきた。

 

「まあ、そうだな」

 

「佐倉さんにしても同じクラスで信憑性が低いから大した強みにはならない」

 

俺は首を縦に振る。

 

「ならこの事件どういう方針で進めれば良いと思う?審議でも勝ち目がない、目撃者も当てにならないとなるともう詰んでるじゃない」

 

「だから、異論はないぞ。お前の言ってることは間違ってない。Dクラスが審議で無実を取ることは実質不可能に近い。それに方針って言ってももう前日だ出来ることはない。精々明日の審議で奇跡が起こることを願うんだな」

 

「奇跡なんて起きるわけないじゃない。ちなみに聞くけどその奇跡ってどんなもの?」

 

「Cクラスが嘘をついていたと自分で認めるか訴えを取り下げることだ」

 

「………そんなことあるわけないじゃない」

 

堀北は少し考えが足りていない。絶対に起こらない奇跡しか突破する方法がないのなら、それを自分で起こせば良い。その時、職員室から綾小路たちが帰ってくる。佐倉に関しては心なしか青ざめているように見える。

 

「どうだった?」

 

俺は綾小路に何が起きたのかを尋ねた。綾小路曰く、茶柱先生から審議の前日にDクラスから出てきた目撃者なんて疑われると言われ、佐倉が明日の審議に参加することになったらしい。大体予想通りだな。

 

「当然と言えば当然の結果ね」

 

「ごめんなさい。私がもっと早く名乗り出ていたら……」

 

「いいえ、元々目撃者がDクラスだったことが運の尽きよ」

 

それはフォローになっているのか疑問だが堀北は続けた。

 

「それから櫛田さん。当日は私と……八剣くんに出席させてもらえないかしら。あなたが佐倉さんの支えになることは充分理解しているけれど討論となれば話は別よ」

 

まあ妥当だな。綾小路にあんなことを言った手間、綾小路が選ばれたら俺が変わる必要があったが杞憂に終わった。堀北の中で確実に実力を発揮しない綾小路よりのらりくらりしてる俺の方がマシと考えたのかもしれない。

 

「それは………うん、そうだね。その分野じゃ私は役に立てないと思う」

 

「佐倉さんもそれで構わないかしら」

 

「……わ、わかった」

 

全然良くないって感じだが今はそう言うしかないだろうな。

 

 

♢♢♢♢

 

「というわけで堀北さんと八剣くんが明日の審議に参加することになったの」

 

俺たちは今食堂で明日の審議の作戦会議をしていた。今はこれまでのことを堀北が須藤に説明している状況だ。

 

「おう、悪いけど頼むぜ、堀北。あと八剣も」

 

なんかついでみたいに言われてるな。いや、元々須藤からすれば俺はついでなのだろう。初めに俺が参加すると聞いた時も反発してきた、そしてそれを堀北と櫛田がなんとか収めたのだ。

 

「でも、明日須藤くんの無実を証明できるかな」

 

「当たり前だろ、櫛田。俺はハメられただけなんだからよ。無実に決まってる。なあ」

 

何も考えずそう言えるのは逆に感心するぞ。堀北は何も答えずパンを口にしている。

 

「おい堀北、どうなんだよ」

 

須藤が堀北の顔を覗き込む。

 

「汚い顔を近づけないで」

 

「…き、汚くねぇよ」

 

あ、今の結構傷ついてるな。

 

「あなたが簡単に無実を証明できると思っているのが不思議でならないわ」

 

「真実を知る目撃者、敵の過去の素行の悪さ。それだけで充分だっての。悪い連中だぜ」

 

容疑をかけられてる本人の素行も最悪なんだから意味ないだろというツッコミはしなかった。絶対めんどくさいことになるからだ。

 

「おい、まだ読んでる途中なんだから返せよ」

 

「俺もポイント払ってんだから良いだろ?」

 

池も山内が何やら揉めていると目をやると週刊誌を取り合っていた。静かだと思えばそれを読んでたからか。

 

「あれ………?」

 

櫛田はそれを見て何か考える素振りを見せた。何かに気づいたのだろうか。

 

「……もしかして……」

 

「どうした?」

 

「ううん。なんでもない。ちょっと引っ掛かっただけだから」

 

櫛田は携帯を出して何か調べ物を始めた。

 

 

♢♢♢♢

 

その日の夜、俺の元に櫛田から『気づいたことがあるので、綾小路くんの部屋まで来て欲しい』というメールが届いた。めんどくさかったので断ろうかとも思ったが、櫛田が気づいたこととやらに多少の興味があるので結局綾小路の部屋に足を運んでいた。

 

俺は綾小路の部屋のインターホンを押して少し待つ。すると綾小路が出てきて部屋に入るように促される。

 

「こんばんは、八剣くん」

 

「おーすっ」

 

部屋に入ると櫛田、池、山内がいた。櫛田は笑顔で俺に挨拶し、池はまだ数回しか話したことがないのにも関わらず既にフレンドリーな挨拶をしてきた。俺は2人の形は違えど高いコミュニケーション能力に改めて感心していた。山内は俺に興味がないのか携帯を触っており、目を離さない。

 

「さて、これで全員揃ったかな」

 

俺が相変わらずカーペットもクッションもない床に座ると櫛田がそう切り出した。これで全員ということは昼集まった時にいた須藤と堀北は来ないってことか。須藤が来てないことを考えると櫛田が呼ばなかったのか、単純に何か都合が悪いかったのか。堀北は櫛田のことだから一度は誘った筈だ。特に事件に関わることだしな。その結果来なかったってことか。

 

「何か進展があったの?櫛田ちゃん」

 

「進展も進展、凄いことに気づいちゃった。綾小路くんパソコン借りてもいいかな」

 

綾小路は櫛田に頷いて許可を出す。櫛田は綾小路から許可を貰うとインターネットに接続し、ワード入力後、検索を始める。

 

「じゃーん。これをご覧くださーい」

 

俺はパソコンの画面を後ろから覗き込む。櫛田がアクセスしたのは誰かのブログのようだった。作りからして本格的な為、何処かの事務所が運営していると推測できる。

 

「あれ、この写真って雫じゃん」

 

「「雫?」」

 

俺と綾小路の聞き返す声が被る。

 

「グラビアアイドルだよ。ちょっと前まで少年誌にも出てたことがあるんだぜ」

 

「へー」

 

グラビアアイドルか。確かに乗ってる写真は全て目が引くように上手く撮れているし、雫って子の容姿も魅力的な体型もグラビアアイドルというに相応しいものだった。

 

「この子に見覚えない?」

 

櫛田は俺たちにそう聞く。俺は写真の僅かに微笑む可愛らしい顔をよく見て今まで会ってきた人物と照合していく。

 

(……佐倉?)

 

学校では普段メガネを掛けているし、普段と雰囲気が違いすぎるため一瞬わからなかったが顔をよく見れば佐倉と一致する。

 

「見覚えもなにも……雫だろ?」

 

池や山内は写真を見つめてはいるがわかっていないようだ。

 

「よく見て」

 

池はさらに写真を見つめた後、

 

「……可愛い」

 

一般的な回答を出した。確かに可愛いとは思うけど。

 

「じゃなくって!これ佐倉さんじゃない?」

 

櫛田は耐えきれなかったのかそう言ってネタバラシをする。

 

「……櫛田ちゃん。誰が誰だって?」

 

「同じクラスの佐倉さん」

 

「へ………?佐倉って……いやいやいや、ありえないっしょ」

 

池はそう言って笑う。山内は段々と表情が固くなっていく。

 

「なあ池、俺冷静に見てると……確かに佐倉っぽいかなって」

 

「だってメガネかけてないぜ。髪型だって違うし」

 

「お前その覚え方は単細胞すぎるだろ」

 

確かに。メガネは外せば良いし、髪型は変えれば良い話だ。

 

「佐倉が……雫?確かにちょっと似てる気はするけど流石に別人だって。なあ、綾小路」

 

池は綾小路にそう尋ねる。

 

「いや、佐倉で間違いない。ここ」

 

綾小路が指を刺したのはある写真の背景だ。そこにはこの寮と同じ扉が写っていた。

 

「この寮と同じだね」

 

櫛田もそれに気づいたのかそう言った。

 

「じゃあ、やっぱり佐倉は雫なんだ。まだ全然実感ないけど」

 

「よく気づいたな、櫛田」

 

重ねてみればわかるかもしれないが、何も情報がない状態では気づくのは困難だろう。

 

「池くんたちが週刊誌を読んでるのを見て思い出したんだよね。佐倉さんってどこかで見たことあるなぁって前から感じてたから」

 

「俺らのクラスにグラドルがいたなんて………興奮してきた!」

 

池はそう言ってハイテンションになる。櫛田は苦笑しているがいくら優しいとは言っても心の中では引いてるんじゃないだろうか。

 

「でも、確か雫って人気で始めた頃、急に姿消しちゃったんだよな」

 

そんな話をしていると時刻は9時に近づいていた。そろそろ解散しようという流れになり玄関まで歩いていく。

 

「櫛田、ちょっと話があるんだが残ってもらっても良いか?」

 

綾小路はそう言って櫛田を呼び止めていたが、俺はお呼びじゃないようなので池や山内が櫛田を待っている中先に部屋に戻ってきた。俺は部屋に戻った後、自宅のパソコンで明日の最終準備を終わらせた後、佐倉のブログを開いた。学校では誰よりも物静かな生徒、アイドルとしては明るく活発的な様子、どっちが本当の佐倉なんだろうか。

 

俺は佐倉の二面性を考えながらブログをスクロールしていくとそこにはコメント欄のようなものがあった。多くのコメントは可愛い、応援してる、次の更新が待ち遠しい、雑誌やテレビには出ないのかっというようなファンからのよくあるコメントが連なっていた。コメントの量からも佐倉の人気や知名度はかなりのものなのかも知れない。

 

(……ん?)

 

そんな明るい応援コメントの中に、明らかに歪で意味深なコメントがあった。しかもつい最近だ。

 

『運命って信じる?僕は信じるよ。これからはずっと一緒だね』

 

ただの行き過ぎたファンの暴走とも取れるがこのようなコメントは同じ人物から毎日のように書き込まれている。佐倉からすれば怖いだろうな。ネット越しでも見透かしたり近くにいるようなコメントの所為で自分を常に見られているという恐怖に襲われているはずだ。ただの妄想という可能性も十分あるが、もし、この話が妄想じゃなく、この学校の敷地内にこの行き過ぎたファンがいるとして、佐倉は直接受けた何かしらの被害に恐怖しているとすれば………佐倉にとって事態は最悪の展開に向かっているのかもしれない。

 

 

 

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