ようこそ個人主義者のいる教室へ 作:ボロネーゼ
学校二日目、今日から授業が始まる。と言っても、高校、いや、中学でもそうかもしれないが初回授業というのはほとんどが、先生の自己紹介、授業の進め方や持ち物などの説明で授業の一コマが終了する。なので、本格的に始まるのは、実質明日からだ。
さて、早速はじめての昼休みが訪れたわけだが、そろそろ誰かクラスメイトとの接触を図らなければならないだろう。ある程度影響力があった方が都合が良い。このまま、ずっと一人というわけにもいかない。
周りを見渡すと、二日目ですでにいくつかグループが出来上がっている。まだ二日目なので暫定的なものもあると思うが、どちらにせよ入るなら今しかない。理由は言わずもがな、すでに出来上がってるグループに紹介以外で急に入ることの異様さと気まずさは計り知れない。気にしなければいいだけの話だと一蹴することもできるが、自分が入って空気が変わってしまうとグループにも何か申し訳なさを感じる。
そもそも俺が求めるのは、あらゆるクラスメイトとの個人的な友人関係だ。どこか一つのグループに入ろうととは考えていない。何故なら、グループに入ると偏った人間関係になる可能性が高いからだ。つまり、薄く広い関係を築きたい。そのため、中立のようなグループがあればいいのだが。
俺は現状で出来上がっているグループの分析を始めた。
まず、池、山内、須藤チーム。お調子の二人と不良という治安と印象に心配なチーム。池と山内は二日目ですでに会話内容が誰が美人だとか、誰の胸が大きいだとかの会話が多い。思春期の男子がそういうことに敏感で誰かと共有したいという気持ちは理解するが、それを大声で喋るのは悪手でしかない。すでに女子の印象は下落中だろう。そこにいかにも不良っというような須藤の存在だ。中立とは程遠い。……このグループとは今回は縁がなかったということにしよう。
次に、大本命かつ最大規模の平田チーム。しかしここは、グループというより人望のある平田が引っ張りだこになっているといった感じでグループ特有の結束のようなものはない。なのでここが一番現実的なのだが…
おそらく、このグループに参加すれば平田とは最低限仲良くなれるだろう。あいつは誰にでも柔らかく接するタイプだ。誰か一人に肩入れするわけでもなく、蔑ろにすることもなくっといった感じ。だから、平田とこそ仲良くなれても他は見込みが薄いかもしれない。
最後に、グループではないが、現在孤立してる人チーム。これには俺も当てはまり、今見た感じでは綾小路、外村、幸村など。……村多いな。この孤立している人物と仲良くなっていくという方法。しかし、これはリスキーでもある。コミニュケーション能力が高くない人物と先に仲良くなると、最終的にそこでグループが成立してしまう。それも、一種の鎖国のようなグループが。そうなると他のグループの人と仲良くなるのは難しいのだ。逆は可能でもこちらからアプローチすることは厳しいと言わざるおえない。
「あ、」
という分析をしている間にみんな食堂に向かったのか、教室には人はほとんど残っていなかった。
…昨日の自己紹介、ちょっと盛り上げるべきだっただろうか。
昼の失敗を通して、俺は放課後もう一度チャンスを掴みに体育館に来ていた。
今からここで部活説明会がある。だが、俺は現状では部活に入る気はない。もし何らかの事情で入る必要が有れば入るが今のところその予定はない。ここに来たのはこの部活説明会に来た人と仲良くなる作戦だ。クラスにも部活に入ろうとと思っている人はいるはず、説明会に来たクラスメイトをチェックして交友関係に持っていく。それに、このイベントに参加すれば後日話しの話題にもなる。例えばこんな感じ、「部活興味あるのか?」「どこの部考えてるんだ?」「この前、部活説明会来てたよな?」のように自然な流れを演出する。
俺は体育館に入るや否や、クラスメイトを探す。
しかし、数が多くなかなか見つけることが出来ないまま部活説明会は始まってしまう。
(まずいぞ、このままだと本当にまずい。)
この学校に来てから、24時間が既に経っているのにまだ誰とも会話していない。
そう内心焦っていると、ヤジのようなものが聞こえる。
ステージに目を向けると、眼鏡をかけた迫力のある人物がそこで固まっている。それに、誰かは知らないが馬鹿にするようなヤジを飛ばす。しかし、それでもその人は瞬き一つすることがないため場は自然と静かになっていく。
(いや、固まってるんじゃない。沈黙するだけで体育館を支配した。)
体育館にいる全員が黙って、その人物を見つめている。
「私は、生徒会会長を務めている、堀北学と言います。」
生徒会長は続けて、
「生徒会もまた、上級生の卒業に伴い、1年生から立候補を募ることになっています。特別立候補に資格は必要ありませんが、もしも生徒会への立候補を考えている者がいるのなら、部活への所属は避けて頂くようお願いします。生徒会と部活の掛け持ちは原則受け付けていません。」
この場を支配し、重圧を感じさせるのは生徒会長だからではなく、堀北学という生徒の力だろう。彼のことを何も知らない俺でさえ只者じゃないとヒシヒシと感じる。
「それから、私たち生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校に汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、歓迎しよう」
大きな印象を残して生徒会長はその場を去った。
説明会が終わり次々と生徒が体育館から外に流れ出ていく。
俺もその波に乗って、体育館を後にしたが、外でクラスメイトを探す。まだ一人も見つけられてない、今日話せなくてもせめて来ていたという事実だけでも確認しないとならない。
(あれは綾小路と池達!)
この際、誰が駄目とか言ってる場合じゃない。まず、最低限クラスメイトとして認識して貰わねば。
俺が綾小路たちの方へ足を進めようとすると、
「迅くん?」
そんな声が聞こえる。今となっては懐かしいと感じる。
俺が振り返るとそこには小学校の時に唯一の友達とも言えた存在。一之瀬帆波がそこにはいた。
久しぶりに会った一之瀬は別人のように変わったというのは大袈裟だが、俺の知っている頃からは大きな変化を遂げていた。
ストロベリーブロンドの長く綺麗な髪にクリッとした大きな瞳。二つのボタンで留められたブレザーを押し出す大きな胸。当時も天真爛漫でとても可愛らしい少女だったが、さらに磨きがかかっている。おそらく、百人に聞いても全員が全員美少女だと太鼓判を押すだろう。
「おう。えー……久しぶり?」
どう答えるべきなのかわからなかった俺は、とりあえず何か返さなければとそう返した。
「何でここにいるの?!」
一之瀬がそう言いながら近寄ってくる。
後ろにいるのは、彼女のクラスメイトだろうか。
「何でって……まあ、この学校に入学したからだな。」
「でも、迅くんって、海外にいるんじゃなかった?」
「この学校に入るにあたって帰ってきたんだよ」
俺がそう言うと、一之瀬は少し拗ねた様に、
「帰ってきてるなら連絡くれてもいいじゃん」
「いや、連絡先知らねーし」
俺がそう言うと、何かに気づいたのか、
「あ、そうだったね。そうだ、連絡先交換しようよ」
一之瀬からそんな誘いを受ける。
正直、連絡先の交換はいいのだが、ここはまずい。何故ならあからさまに目立っているからだ。目立っているのは一之瀬なのだが俺という謎の男が一緒にいることによってさらに目立つ。おそらく一之瀬のクラスメイトと思われる生徒も俺の顔を注視している。特に右の女の子なんてちょっと睨んでいるようにすら見える。だが、一之瀬の誘いを断るわけにもいかず、とりあえず携帯を出す。
「それにしても、ほんとに久しぶりだね。5年ぶりくらいかな?」
「ああ、そうだな」
「迅くんは何クラスにいるの?」
「俺はDだ」
「私はB。これからまたよろしくね。」
「ああ。」
すると、一之瀬は後ろで待たせているクラスメイトに気づいたのか。そっちに一度笑顔を向けてから。
「それじゃあ、またね迅くん。絶対連絡するからチェックしてね。」
そう言うと友達と去っていった。友達に俺との関係を聞かれていたようだが大丈夫だろうか。って一之瀬の心配をしてる場合じゃないな。俺は逃げるようにその場から立ち去った。
次の日、俺は今日こそは誰かと関わりを作ると決意しながら教室に入ったのだが、
「おい、八剣!昨日のあの子お前の彼女か?」
「何で入学二日で彼女が出来んだよ?!」
俺は教室に入った瞬間に池と山内に詰め寄られてしまった。
「いや、一之瀬は彼女じゃないぞ。同郷というか幼馴染みというか。まぁ、そんな感じだ。」
「まじか、あんな可愛い子が幼馴染みとかどんな強運だよ。」
まさか、昨日あれだけ話そうと思っていたのが、一之瀬と関わった瞬間これとはな。
だが、せっかく話が出来てるんだ。友達になるチャンスなのではないだろうか。一之瀬を利用するようで気は引けるが、背に腹は変えられない。とりあえず、こいつらと友達に…
「胸も大きいしな。」
「ああ、あれはやべえよ」
………………こいつらと友達になって大丈夫だろうか