ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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最近、執筆が遅れ気味ですが頑張っていきます。


勇気と逆転の一手

佐倉は当然部屋に入った後も緊張で大丈夫とは程遠い状態だった。だが、そんなことは関係なく審議は進む。

 

「1ーD、佐倉愛里さんです」

 

「目撃者がいるというので何事かと思いましたが、Dクラスの生徒ですか」

 

坂上はハンカチで汗を拭きながら少し安心したように言った。隣の生徒たちは顔色が真っ青なままだが。

 

「何か問題でもありますか。坂上先生」

 

「いえいえ、どうぞ進めてください」

 

坂上は茶柱先生と視線を交差させる。

 

「では証言をお願いしてもよろしいでしょうか。佐倉さん」

 

「は、はい………。あの、私は……」

 

佐倉の顔色が青くなり、口を閉ざしてしまう。そして生徒会室に静寂が訪れる。なんか、顔色が青くなってるやつばっかだなこの空間。

 

「彼女は目撃者ではなかったようですね。これ以上は時間の無駄です」

 

「何を急いでんいるんですか?坂上先生」

 

「急ぎたくもなります。このような無駄なことで私の生徒が苦しんでいるんですよ。彼らはムードメーカーで多くの仲間に心配をかけたことを……」

 

坂上の無駄に長い弁明を聞き流しながら俺は佐倉を観察していた。佐倉は今も縮こまっている。だがあれは……あの顔は勇気を出そうとしている顔だ。正直、ここで佐倉が何を言っても大きく状況は変わらない。だが、俺の作戦のためには後一歩Cクラスに精神的負荷をかける必要がある。佐倉がそれになってくれるならこっちとしては楽なんだが……

 

「確かにこれ以上は時間の無駄でしょう。下がっていいぞ、佐倉」

 

茶柱先生は興味が失せたっと言った感じで佐倉にそう言った。どうやら坂上の長話は終わったようだ。佐倉は………やっぱり無理か。全員が諦めかけたその時、

 

「私は!……私は確かに見ました!!!」

 

その時、佐倉の大声が生徒会室に響き渡る。坂上やCクラスの生徒はビクッと体を震わせ、堀北や茶柱先生も目を見開いている。

 

「最初にCクラスの生徒が須藤くんに殴りかかったんです。間違いありませんっ!」

 

佐倉の普段の落ち着いた雰囲気があるせいか、佐倉の言葉には重みがあった。Cクラスの生徒は絶望したような表情をしている。確かにそこまで必死に言うのなら本当なんじゃないのかと思わせる程の重みだ。しかし…

 

「すまないが、私から発言させてもらってもいいだろうか」

 

坂上が手を上げてそう言った。

 

「本来、極力教師が口を挟むべきではないと理解しているが、この状況は生徒があまりに不憫でならない。生徒会長、構わないかな?」

 

「フッ」

 

俺は笑いを堪えるのに精一杯だった。もはやCクラスの生徒たちは佐倉の発言で真実が暴かれるかと不安で反論はおろか何も耳に入っていない。それを見かねて本来中立であるべき教師が出てきたという事実が面白くてたまらない。

 

「何かおかしいことがあるかな?」

 

坂上は顔を硬らせながら俺に聞いた。

 

「いえいえ、別に何も」

 

俺がわざとらしくそう言うと坂上は佐倉に目を向けた。

 

「佐倉くんと言ったね。私は君を疑っているわけではないんだが、それでも一つ聞かせてくれ。君は目撃者として名乗りをあげるのが随分と遅かったようだが、それはどうしてかな?本当に見たのならもっと早く名乗り出るべきだった」

 

「それは、その………巻き込まれたくなかったからです」

 

「それはどうして……」

 

坂上と佐倉の言い合いが始まる。佐倉は口下手なタイプだ、言い合いになれば正直勝ち目は低い。

 

話は以前茶柱先生と話した内容になっていった。佐倉が嘘の目撃者なんじゃないのかと坂上が執拗に佐倉を攻め立ててていく。まあ、坂上からしたら目撃者の存在でけは立証してくないだろうからな。この部分だけは俺でもどうしようもない。やっぱり当初から俺が考えていたようにDクラスの目撃者じゃ強みに欠けたようだ。

 

「君が本当に目撃したという証拠でも無ければ信じるには弱すぎる」

 

そう言って坂上は勝ちを確信したのか不敵に微笑み座ろうとする。そのとき、

 

「証拠なら…ありますっ!!」

 

佐倉はそう言って机の前にまで足を進める。

 

「もうこれ以上はよしたまえ。本当に証拠があるのなら、もっと早い段階で…」

 

バンッ

 

佐倉は封筒を机に叩きつけた。

 

「それは……?」

 

坂上の表情が封筒を見てから曇っていく。

 

「私があの日特別棟にいた証拠です!」

 

橘先輩は佐倉に断りを入れてから封筒を開封する。すると、封筒の中からは数枚の写真が出てきた。

 

「会長、これは…」

 

橘先輩は写真を会長に提出する。会長は暫く写真を見た後、俺たちにも見えるようにする。そこに写っていたのは色っぽい表情をしたグラビアアイドル、雫こと佐倉だった。

 

「私は………あの日、自分を撮るために人のいない場所を探していました。その時の証拠として日付も入っています」

 

写真の右下に刻まれている時間は確かに事件のあった時刻と一致している。これには俺も少し息を呑む。佐倉がそこにいたという証明が出来たからだ。その証明が出来たからと言って事態が急変するわけではないが、あと少し必要だったCクラスへの精神攻撃はこれで完璧になったと言って良いい。石崎たちの様子を見ればわかる。顔が青くなるだけではなく、冷や汗をかき、足も僅かに震えている。

 

「これは何で撮影した物だね?」

 

「デジタルカメラですけど…」

 

「確かデジタルカメラは容易に日付の変更が出来たはずだ。パソコン上で日付のみ操作してプリントアウトすれば、事件当日の時間帯を再現できる。証拠としては不十分です」

 

「しかし、坂上先生、この写真は違うと思いますが」

 

「こ、これは…」

 

坂上の主張を押し退けたのは、須藤が石崎を殴ったと思われる瞬間が背景に映っている佐倉の自撮り写真だった。

 

「これで私がそこにいた事を信じてもらえたと思います」

 

「佐倉さん……」

 

俺は気づいていた。堀北の様子の変化に。勇気を振り絞り戦う佐倉の様子を見て目に闘志が宿ってきてることに。

 

「なるほど、確かにあなたが現場にいたというのは本当のことのようだ。その点は認めましょう。しかし、この写真ではどちらが仕掛けたかはわかりません。あなたが一部始終を見ていた確証にもなりませんし」

 

坂上はハンカチで汗を軽く拭きながらそう言った。そして、

 

「茶柱先生、ここは落とし所を模索しませんか」

 

「落とし所、ですか」

 

「私は今回の一件、須藤くんが嘘をついて証言したと確信しています」

 

「テメ……!」

 

俺は坂上に飛びかかりそうになった須藤を引っ張り抑え込む。

 

「いつまで話し合っても話は平行線でしょう。私たちは証言を変えませんし、あなた達も目撃者との口裏合わせをやめない。これでは決着はつきません。そこで落とし所です。私もCクラスの生徒にもいくばくか責任があると思っています。3人いたことや、喧嘩慣れしている過去を持っているようなので。それは問題でしょう。そこで須藤くんに二週間の停学、Cクラスの生徒たちに一週間の停学。それで如何でしょうか。罰の重さの違いは相手を傷つけたかどうかです」

 

坂上はDクラスに大きなペナルティを負わせることを諦めて確実に須藤に罪を着せる策に切り替えたのだろう。Cクラスが怪しくなってきた今、生徒会長の判断に任せるよりある程度の譲歩を申し出てこの件を終わらせるのが最適と考えたか。もし監視カメラの映像や佐倉の証言、証拠がなければCクラスは無傷、須藤は一ヶ月の停学になっていたはずだ。

 

「ふざけんな!冗談じゃねえぞ」

 

須藤が叫ぶが坂上は無視する。

 

「どうですか?茶柱先生」

 

「結論は出たようなものでしょう。坂上先生の提案を断る理由はありません」

 

茶柱先生の返答を聞いて坂上は満足そうに頷く。茶柱先生がそう言った後、俺は堀北に語りかけた。

 

「堀北、どうする?わかってると思うが、お前には今二つの選択肢がある、どちらかが罪を認めるまで徹底的にやるか、向こうの提案を受け入れるか。答えは出てるようなものだが、Dクラスの代表はお前だ。最終的な判断はお前が決めてくれ」

 

俺は椅子に座り誰にも見えないように携帯を取り出し、操作する。

 

「それでは、Dクラス代表の堀北さん、意見をお聞かせください」

 

坂上はさっきと打って変わって余裕の表情を浮かべている。Cクラスからすれば須藤を無罪にさえさせなければ勝ちだからだ。石崎たちも食い入るように堀北を見ている。あいつらの心情を言語化するなら『頼むから、条件を受け入れてくれ』っと言ったところだろう

 

「……わかりました」

 

堀北ゆっくりと立ち上がった。だが、俺は安心していた。堀北の表情がこの部屋に入った時とは180度変わっていたからだ。

 

「堀北!」

 

須藤が叫ぶが堀北は止まらない。

 

「私は今回、この事件を引き起こした須藤くんには大きな問題があると思っています。何故なら、彼は日頃の自分の行いを、周囲への迷惑を全く考えないからです。喧嘩に明け暮れていた経歴。気に食わないことがあればすぐに声を荒げ、手を上げる性格。そんな人が騒動を起こせばこうなることは目に見えて明らかだったからです」

 

「て、テメェ…………!」

 

「あなたのそういう態度が全ての元凶だという事を理解しなさい」

 

堀北は須藤よりも大きく強い気迫で須藤を持って須藤を睨みつけた。

 

「だから私は、当初から須藤くんを救うことには消極的でした。無理に手を差し伸べ救ったところで、彼はまた同じことを平気で繰り返すことがわかっていたからです」

 

「ありがとうございました。着席してください」

 

橘先輩が堀北に着席を促す。しかし、堀北は立ったままだ。

 

「あの、着席されて大丈夫ですよ?」

 

橘先輩が確認するように堀北に言った。それでも堀北は立ったままだ。全員が堀北を凝視する。

 

「彼は反省すべきです。ですが、それは今回の事件に対してではありません。過去の自分を見つめ直すという意味での反省です。今話し合われている事件に関しては須藤くんに何ら非はないと私は考えています。何故なら、この事件は偶然起きてしまった不幸な出来事ではなく、Cクラス側が仕組んだ意図的な事件だからです!このまま泣き寝入りするつもりは一才ありません!」

 

堀北は強くそう言い切った。それを聞いて俺は薄く笑みを浮かべながら秘密兵器を投入する。

 

「……はは、何を言うかと思えば、意図的な事件?またおかしなことを。変な言いがかりはやめていただきたい。どうやら生徒会長の妹は不出来と言わざるを得ませんね」

 

坂上は相当苛立っているのか堀北を貶す。教師のやって良いことではないと思うが

 

ピコンッ、ピコンッ、ピコンッ

 

場の雰囲気に似つかない音が生徒会室に鳴る。その正体は石崎たち3人の携帯電話だ。

 

「Cクラス側、携帯電話の電源は落としてください」

 

橘先輩が石崎たちにそう注意する。

 

「す、すみませ……っ!!」

 

石崎たちは携帯の電源を切ろうと携帯を取り出して画面に出てきたメッセージを見た瞬間、目を見開いてフリーズする。

 

「……どうしましたか?」

 

橘先輩は携帯を見て固まっている3人に尋ねた。

 

「あ、いえ、えっと……」

 

石崎がしどろもどろして黙ってしまう。堀北はそれを勝機と感じたのか会長に進言する。

 

「兄さ……いえ、生徒会長、目撃者の証言通り須藤くんは被害者です。どうか間違いのない判断を」

 

「………ふむ」

 

会長は少し考えるようにして口を開いた。

 

「どうやらこれ以上話し合いを進めても無駄なようだな。今日の話し合いでわかったことは、互いの言い分は常に真逆。どちらかが非常に悪質な嘘をついているということだ。……最後に確認するDクラス側、」

 

「はい」

 

「主張に嘘偽りはない。そう言い切れるのだろうな?」

 

「もちろんです」

 

強く、鋭い眼光が堀北を指すが堀北は堂々と言った。

 

「Cクラスはどうだ?」

 

「「「…………」」」

 

「どうしたんです?早く答えなさい」

 

会長に返答を促されても石崎たちは黙ったままだ。坂上はそれを見かねて石崎たちに催促する。

 

「………たちです」

 

石崎が何かを言ったが声が小さいすぎて誰にも聞こえなかった。隣に座っている坂上でさえわかっていないようだ。すると、石崎はガタっと立ち上がると、

 

「須藤に先に殴りかかったのは俺たちです!須藤に罪を着せるためにやりました!!」

 

今度は大声でそう言った。小宮と近藤は下を向いている。Cクラスの突然の自白に全員が目を見開く。

 

「石崎くん、何を言うんですか!」

 

坂上も焦って思わず立ち上がり、石崎を強く問いただした。しかし、石崎はそれで気を使い果たしたのか椅子にガタッと座り込んでそのまま黙ってしまっている。

 

「君たち、一体何を………」

 

坂上は信じられないという表情で石崎たちを見つめ、次に俺たちを睨みつける。

 

「一体何をしたんです?自分達がやったと言わなければ暴力を振るうとでも脅しましたか?」

 

坂上は俺たちを睨んだままそう言った。堀北や須藤はまだ固まっているので俺が答える。

 

「脅し?こうして審議をしているというのにそんな時間がいつあるというんですか。そちらこそ変な言いがかりはやめていただきたい。教え子の急な罪の自白に混乱するのは理解しますが落ち着いてください」

 

「……っく」

 

坂上は俺を睨みながら悔しそうに椅子に座った。

 

「えっと、つまり今回の一件はCクラス側が意図的に起こした事件ということですね?」

 

橘先輩が石崎に確認をとる。

 

「……はい」

 

石崎が静かに答える。Cクラス側は教師も含めて全員が意気消沈している。

 

「わかりました。それでは他に意見がある方はいらっしゃるでしょうか?」

 

橘先輩が全員に確認するが誰も答えない。

 

「意見はないようですので、結論を出させていただきます。会長、お願いします」

 

「今回の事件、Cクラス側が虚偽を述べたと認めたため、須藤健を無罪とする。さらに小宮、近藤、石崎の3名は須藤にあらぬ罪を着せ、嘘の訴えを申し出たことにより、一ヶ月の停学処分とする」

 

会長が言い終わると締めを橘先輩に任せた。堀北や佐倉、須藤たちは何が起こったのかわかっていないのか混乱しながらもなんとか黙って話を聞いている。

 

「結果が出ましたので以上で審議を終了します。お疲れ様でした。処分の手続きに関しましては後日行いますので今日はお帰り頂いて結構です」

 

橘先輩の言葉で、ある意味運命の審議は幕を閉じた。

 

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