ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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今回は、順に堀北視点、八剣視点、龍園視点、綾小路視点となっています。


勝利の余韻と種明かし

私たちDクラスはCクラス側の自白によって審議に勝利した。Cクラスは審議の後、逃げるように生徒会室を去っていったが、私たちは椅子に座ったまま誰も動かず喋らない。それも当然、こちらを嵌める気だったはずのCクラスが急に自白しだしたのだ。絶対に起こるはずのなかった出来事が急に起こった理由を何度も頭の中で考えるが答えは出ない。いくらこっちに証拠があろうと、怪我をしたという事実がある以上Cクラスは絶対的に有利な状況にある。Cクラスの生徒もそれをわかっていたから前半は怪我を話しの中心に持っていこうとした。結果的には八剣くんが流れを変えてしまったわけだけど……。負けを確信したから罪を和らげるために自白した?いや、こっちに流れが来ていたことは確かだが、負けを確信するというほどではなかったはず………

 

「…っ!!」

 

そんな考えを頭で巡らせていたとき、ある可能性が頭に浮かぶ。初めから考えることは出来たが、そんなこと出来るはずがないという思い込みや私の複雑な感情のせいで無意識に考えないようにしていた一つの可能性。それは……

 

「よかったな。須藤」

 

私が考察を続けようとしていると茶柱先生が須藤くんに労いの言葉をかける。八剣くんは興味がないのか携帯を操作している。

 

「へへ、当然だぜ」

 

「私個人としては、お前は今回罰せられるべきだと思ったがな」

 

茶柱先生は今度は須藤くんに厳しい言葉を向ける。

 

「今回の事件は、そもそもお前の日頃の行いが招いたことだ。事件の真実や嘘なんて些細なことで、大切なのは事件そのものを起こさせないことだ。お前だって本当はわかってるんだろう?」

 

「う………」

 

須藤くんが罰の悪そうな顔する。

 

「だが自分の非を認めるのは格好悪い。だから態度だけは偉そうにしている。強がっている。それもいいだろう。しかし、それでは本当の仲間など出来るはずもない。いずれ堀北もお前に見切りをつけて、離れていくだろう」

 

もうほとんど離れてますけど。そう心の中で茶柱先生に突っ込む。

 

「自分の過ちを認めるのも強さだぞ」

 

私は茶柱先生が初めて、担任として教え子に接していると感じた。それを須藤くんだって本当は気づいていたんじゃないかと思う。

 

須藤くんは項垂れるように椅子に座り込む。

 

「わかってんよ……。そもそも俺がしっかりしてれば、俺が相手を殴りさえしなきゃ、こんな大ごとにはならなかった。どっかではわかってたんだ」

 

それでも彼は強がり自己主張だけを続けてきた。

 

「バスケも喧嘩も自分が満足するためだけに突っ走ってきた。けど、今はもうそれだけじゃないんだよな……。俺はDクラスの生徒で、俺一人の行動がクラス全体に影響を与える。それを身をもって体験したぜ…」

 

須藤くんもそれを認めてなければいけないとわかっていたのかもしれない。だが、自分のプライドがそれを許さなかったのだろう。

 

「俺はもう二度と問題を起こさねえよ」

 

その言葉は須藤くんの口から出た初めての懺悔のようだった。その言葉が果たして茶柱先生に届くのか、そんなはずはない。

 

「安易な口約束はやめた方がいい。どうせお前はまたすぐに問題を起こす」

 

「っ………!」

 

そう、人間性というものはそう簡単には変わらない。須藤くんは須藤くんなのだから。

 

「お前はどう思う堀北。須藤は問題を起こさない生徒になると思うか?」

 

「いいえ、思いません」

 

私は間髪入れずに即答する。そして言葉を続ける。

 

「でも………確かに須藤くんは進歩しました。自分がしてしまった間違いに一つ気がついたんです。だから、きっと明日のあなたは、今日よりも成長しているはずよ」

 

「お、おう」

 

須藤くんが戸惑った様子で返事をする。

 

「よかったな須藤。堀北はまだお前を見放していないらしい」

 

「いいえ、もう見放しています。これ以上見放すところがないだけです」

 

「な、なんだよそれ!」

 

須藤くんは頭を掻きむしった後、重いものを振り切ったように笑顔を作った。

 

「んじゃあ、俺、部活行くからよ。またな堀北」

 

須藤くんはそう言って生徒会室を飛び出して行った。

 

「………はぁ」

 

その様子を見て八剣くんは呆れるようにため息をついた。反省してないと感じたのだろうか。

 

「んじゃ、俺もこれで」

 

そう言って八剣くんが席を立ち上がろうとすると、

 

「待て。お前に少し話しがある。お前たちは先に出ていろ」

 

茶柱先生は佐倉さんと兄さん、橘さんに退室を促す。佐倉さんは頷きすぐに部屋から退室し、兄さんたちも他にもやることがあるのか特に茶柱先生に言葉を返すこともなく書類を持って生徒会室を出て行った。

 

「それで、どんな手を使ったんだ?八剣」

 

部屋の扉が完全に閉まったのを確認すると茶柱先生は八剣くんに質問を始めた。八剣くんはもう一度椅子に座り直す。

 

「どんな手?どういう意味ですか?」

 

八剣くんは携帯を操作し終わったのかポケットに携帯を直す。

 

「わかっているだろう。あの状況でCクラスが突然真実を自白するなんて普通はあり得ない。つまり、何かがあいつらの身に起こったということだ」

 

「………それで?」

 

「その何かをお前が仕組んだんじゃないのか?」

 

茶柱先生は八剣くんを探るような目で見ながら質問した。先生も私と同じ結論に至ったようだ。それじゃあ、やっぱり……

 

「何を根拠にそんな事を言っているのか知りませんが、俺がやったのは事件の証拠集めだけですよ」

 

八剣くんはその考えをキッパリと否定した。

 

「話す気はない……ということか」

 

茶柱先生は何を言っても八剣くんは認めないと踏んだのか、それだけ言うと席を立った。

 

「私はもう行く。お前たちも残るのは程々にな。邪魔になる」

 

そう言って部屋から出ていった。

 

「…………」

 

「…………」

 

少し無音の時間が訪れる。すると、八剣くんは立ち上がった。

 

「俺もそろそろ行く。堀北はどうする?」

 

「どうするって……」

 

「いや、兄貴と話したいんだったら残ったら話せるんじゃないか?」

 

「そ、それは………いいえ、遠慮するわ。今の私は兄さんと話す資格なんてないから」

 

「兄弟で話すだけなのに、資格なんて必要ないと思うけどな」

 

八剣くんはそう言うけど、今回私は兄さんに痴態を見せてしまった。きっとさらに失望したことだろう。いったいどんな顔をして会えばいいのかわからない。

 

「いいえ、今の私ではダメなの……もっと、強くならなければ」

 

「そうか…」

 

「ねえ、八剣くん」

 

「……ん?」

 

「私は今回のことで確信したわ。あなたはこういう頭脳戦において、いいえ、あなたは他にも私より高い能力を幾つも持ってる」

 

茶柱先生の質問では否定したけど八剣くんは今回、なんらかの行動を起こしてこの審議に勝った。根拠は審議の作戦会議の時、彼は私に『Dクラスの代表をやってくれ』、『Cクラスがどんな妥協案を持ち掛けてきても全て却下しろ』そして、『審議後半で喋る機会を与えてくれ』っとこの3点を求めた。何故Dクラスの代表を私にしたのかはわからないけど、それ以外は今思えばCクラスに勝てる算段がついていたからこそ求めたものだったのだろう。

 

八剣くんのスペックを完全に把握できたわけじゃない。だが、例えば、過去問があったとはいえ全教科満点を取る学力、水泳で見た高い身体能力に兄さんを退けた武力、そして絶望的な状況から逆転を起こして勝つことが出来る発想力。全て今の私にはまだ出来ない事だ。

 

「………」

 

八剣くんは私の話を黙って聞いていた。

 

「いいえ、今までもそのことに気づいてた。だけどその事を認めたくなかった、だから考えないようにしてた。でも、認めるわ、そうじゃないと進めないと思うから」

 

私はそのまま言葉を続ける。

 

「私はいつか必ずあなたを越えるわ。越えて今度こそ兄さんの妹として恥じない人物になる」

 

「俺を越えたらなれるのか?」

 

「私はそう考えているわ。審議中も兄さんはあなたを気にかけていたようだし。ああ、審議中と言えば……」

 

ズシッ

 

私は八剣くんの脇腹に手刀を叩き込む。

 

「……痛いぞ」

 

「証拠を生徒会側に申請したなんて聞いていないのだけれど…」

 

「言い忘れてただけだ。悪かったな」

 

彼は白々しくそう言った。白々しさでは綾小路くんよりはマシだけれど。

 

「っていうか直ぐに手を出すなよ。須藤かよ」

 

彼は脇腹を摩りながら私にそう言ってきた。

 

「彼と一緒にしないでくれる?あなたが先にやってきたのよ。今のでプラマイ0ね」

 

「俺は目を覚ましてやったんだろうが」

 

「それついてはとても感謝してるわ。でも、他にもやり方があったと思うのだけど」

 

「贅沢言うなよ」

 

「それじゃあ、そろそろ行きましょう。これ以上兄さんの邪魔になってはいけないわ」

 

「はいはい」

 

私はそう言って八剣くんと一緒に生徒会室から出ていった。

 

 

♢♢♢♢

 

 

俺と堀北が生徒会室から出るとそこには佐倉と綾小路がいた。

 

「綾小路、来てたのか」

 

「まあな。結果は佐倉から聞いた。これで無事解決だな」

 

「おう。Cクラスが自白したからな。っていうか佐倉は大丈夫か?」

 

佐倉の目は充血し目の周りが腫れている。まさに泣いた後って感じだ。

 

「まあ、色々あってな」

 

綾小路がフォローを入れる。佐倉のことは綾小路に任せれば大丈夫か。

 

「じゃあ、そろそろ帰るか」

 

俺たちは4人で歩き出す。しかし4人で帰っていても、メンツがメンツなだけに誰も話し始めない。しばらく沈黙が続き下駄箱付近まで来たところでそこには一之瀬がいた。

 

「やっほ。遅かったね」

 

「一之瀬、待っててくれたのか」

 

「うん。早く結果を聞きたくて」

 

「そうか。じゃあ、俺は一之瀬と話して帰るから先に帰ってくれ」

 

俺がそういうと、三人は頷き帰っていった。そして、俺は生徒会室で起きた一連の出来事を一之瀬に語っていく。

 

「そっか、Cクラスが自首したのかー。審議に勝てたことはよかったけど妙だね」

 

「Cクラスがそんなことするはずないってことか?」

 

「うん。急にそんなことするなんて何か企んでるとしか思えない。それか、Cクラスにとって予想外の出来事が起こったか、だね」

 

確かに一之瀬がそう考えるのも当然と言えば当然だ。特にBクラスは何度かCクラスから被害を受けている、やり方の巧妙さも理解しているしそれを途中で投げ出すことはないということもわかっているだろう。だからこそ今回の結果に疑問を浮かべる。そして鋭い奴はある結論に行き着く。

 

「まあ、でも結果的にはCクラスが損する形になったんだから良いんじゃないか?おそらく、停学の手続きが執行されればそれはクラスポイントにも繋がる。一之瀬はCクラスの勢いを抑えてかつポイントを離せたし、俺たちはCクラスに近付ける。悪いことはなしだ」

 

唯一あるとすれば、協力してくれた椎名にも被害を及ぼしたことだ。Cクラスに反撃した以上仕方ないのだが、あとで謝罪と埋め合わせをする必要があるな。

 

「そうなんだけどね…」

 

一之瀬はどうしても腑に落ちないようだ。だが、それでいい。一之瀬もクラスのリーダーならそれくらい考えることは必要だ。俺からはこれ以上何も言えないが。

 

「…………今回の事件でさ、Dクラスは目撃者探しとか、証拠集め以外に何か手を打った?」

 

「どうかな、俺にはわからない」

 

「そっか。私はてっきり迅くんがCクラスを退けたんだと思ったんだけどね」

 

「俺が?」

 

「うん。迅くんなら出来るでしょ?」

 

「さあ?どうだろうな」

 

「迅くんなら出来るよ。迅くんはすごい人だもん」

 

一之瀬は眩しいまでの笑顔でそう言った。

 

「………そうか。一之瀬が言うならそうなのかもな」

 

「うん!……あ、そうだ!実は迅くんの耳に入れておきたいことがあるんだよ」

 

「耳に入れておきたいこと?」

 

「実は今回の事件には黒幕がいるの」

 

「黒幕、か」

 

一之瀬も黒幕の存在に気がついていたようだな。

 

「うん。以前、BクラスとCクラスが揉めたことがあるって言ったよね?」

 

「ああ」

 

「その時に裏で糸を引いていたのがCクラスの龍園くんなんだ」

 

「龍園……」

 

「知ってる?」

 

龍園のことは椎名から聞いているし、間接的とはいえ今回の件で利用(・・)させてもらったので知っているのだが、念のため知らないということにしておこう。

 

「…いや、知らないな」

 

「彼自身は目立った行動は起こしてないからね。知らなくても無理はないよ」

 

いつも明るい一之瀬の表情が険しいものになっている。

 

「私が1年生の中で最も警戒してる生徒の一人だよ。須藤くんを嘘つきにしたてあげたことも、Bクラスと揉め事を起こしたのも全部彼の仕業。利益のためなら他人を陥れる事を躊躇わない人物。……‥相当手強いよ」

 

一之瀬がここまで言うってことは、Bクラスも相当掻き回されたようだな。

 

「わかった。俺も警戒しとく」

 

「うん。それが良いよ。何かあれば私に言ってね。なんでも力を貸すから」

 

「それはありがたいな。その時は頼む」

 

「うん。それじゃあ、そろそろ帰ろっか。……せっかくだし、一緒に寮まで帰らない?」

 

俺は一之瀬の提案を受け入れて、雑談しながら帰路に着いた。

 

 

♢♢♢♢

 

ドスッ

 

人を殴る鈍い音が校舎裏、それもこの学校の至る所にある監視カメラの死角になる場所で響く。

 

「ゴホッ。グホッ、ゲホッ、……はあ、はあ。も、もう勘弁してください。お願いします!」

 

Cクラスの石崎はある男にそう懇願する。ボコボコにされているのは、石崎、小宮、近藤の3名、小宮と近藤は痛みと恐怖でもう声を出すことも出来ない。石崎が懇願した男はこの場に来てから石崎たちがボコボコにされる様を見ているだけだったが初めて口を開いた。

 

「あ?勘弁してくれ?………アルベルト」

 

「ま、待っ……グゥッ!」

 

アルベルトと呼ばれた日本人離れした肌と圧倒的な体格を持った男は黙ったまま容赦なく石崎を蹴り飛ばす。

 

「お前がこうなってる理由はお前が一番よくわかってるはずだよな?せっかく落ちこぼれどもで退学になった時の学校の反応をみようと思ったのに台無しだぜ。俺の命令に逆らったんだ。これぐらいの痛みは当然だろ」

 

「……‥っ」

 

「勝手に自首した挙句、理由は俺に命じられたからだと?ハッ、随分寝ぼけたこと言いやがる」

 

「そ、それは本当なんです!本当に送られて来たんですって!!」

 

「俺の携帯にそんなメールを送った痕跡はねえし、お前らの携帯にもそんなメールが届いた痕跡がない。この事実を前にどうやってお前らを信じろと?」

 

「そ、それは………」

 

「だが、俺も鬼じゃねえ。ひとまずお前らの主張を信じてやる」

 

「っ!!!」

 

「送っていないはずのメールをお前らが受け取ったという主張を信じるなら。どうやったのかは知らねえがその状況を作り出した黒幕がいる筈だ」

 

「く、黒幕……」

 

「お前らはなあ、嵌められたんだよ。誰にやられた?心当たりぐらいあるんじゃねぇのか?」

 

「……………」

 

石崎は少し考えるように黙った後、ふと思いついたかのように口を開いた。

 

「……た、多分、ほ、堀北って女です。Dクラスの代表だって言ってました」

 

「………堀北か。………ククッ、やってくれるじゃねぇか。挨拶くらいはしておくか」

 

龍園はそう言って不敵な笑みを浮かべた。

 

 

♢♢♢♢

 

 

オレは堀北と佐倉と共に特に会話することもなく寮に帰った後、先日、八剣がオレの部屋を訪ねてきた日のことを思い出していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「だが、そうなるとお前の代案はどういうやり方なんだ?」

 

「気になるのか?我関せずを一応通そうとしているのに…」

 

オレがそう聞き返すと、

 

「ここまで話されると誰でもお前の代案が気になるだろ。気にならない方がおかしい」

 

「ま、教えてもいいけど口外するなよ」

 

「ああ」

 

「まずは敵を知る。つまり、Cクラスを探って今回の黒幕を割り出す」

 

「黒幕?」

 

「俺には今回の被害者3人がこの策を考えつき行動したとは思えない。被害者3人も元々喧嘩っ早い性格だったらしいしな。何より喧嘩っ早い性格の奴らが一発も殴り返さないってのも怪しい」

 

「つまり、あいつらをまとめ上げてる人間がいるって事か」

 

「ああ。あいつらはただの駒、頭の命令に従ってるだけだ。だから、先に頭を潰す」

 

「潰す?」

 

「潰すって言っても、今回の場合はそいつそのものを叩くんじゃない。それは目立ちすぎるからな。具体的にはそいつの立場を利用する」

 

八剣はそのまま言葉を続けた。

 

「駒ってのは、その行動に疑問を抱いても、上がやれっと言えば実行する。なら、その頭に今回の事件はCクラス側の嘘の告発だと自首しろとあいつらに言わせれば良い」

 

「それが出来れば良いが……あまり現実的じゃないんじゃないか?」

 

「別に直接言わせる必要はない。言ったように見せかけられればいいんだ」

 

「……というと?」

 

「メールだよ」

 

八剣は携帯の画面を俺に見せながらそう言った。その画面には『Dクラスは決定的な証拠を握っている。退学になる前に自首して罰を軽くしろ』と書かれていた。

 

「このメールを絶好のタイミングであいつら3人に送る」

 

「それは…「わかってる」……」

 

オレはその言葉に反論しようとしたが八剣はそれを止めた。

 

「お前の言いたいことはわかる。いくら偽造メールを作ったところで送信者が俺じゃ当然意味がない。だが、このメールがあいつらのボスから送られてきたものだとしたら?」

 

「まあ、その通りにするかもな」

 

「そういう事だ。ま、お前が知りたいのはその方法だろうけどな」

 

「…………」

 

「簡単な話だ。黒幕を含めあいつらの携帯を乗っ取ってやれば良い。ハッキング(・・・・・)でな」

 

「っ!!」

 

これにはオレも驚いた。まさかそんな策を使う、いや、使えるとは。

 

「ハッキングって………出来るのか?」

 

「まあな。流石に詳しい方法は伏せさせてもらうけど……」

 

それは当然だろうな。このことをオレに話すことも八剣にとっては相当なリスクなはずだ。流石に細かい方法まで八剣が語ることはないだろう。

 

「とにかく、そこは俺にとって問題じゃない。問題はタイミングだ。そのメールを黒幕の携帯からいつ送るのかで結果は大きく変わる。黒幕があいつら3人の近くにいなくてかつ指示を出せない状況でなければならない」

 

「……つまり」

 

「審議の最中だ」

 

「審議の最中?」

 

「審議の最中なら黒幕は近くにいないし、口を出せない。その上、俺があいつらの心を言葉で揺さぶれば……」

 

「指示を疑問に思っても判断できずにただ従うってことか」

 

「ああ、審議の前半に動揺させ、後半に秘密兵器としてこのメールを送る。審議中に送るのはこの作戦をより確実にするためのものでもある」

 

「…………」

 

オレは八剣の言葉を黙って聞いた。オレにはリスクが相当高いと考えるが、八剣だってそれはわかっているはず。にもかかわらずこの策を選ぶということは成功する確信に近いものがあるっということか。

 

「そのために、審議の日までは須藤を無実にするものというより、あいつらを揺さぶれるネタを探すつもりだ。当日も言葉攻めメインでいく」

 

オレは八剣に念の為、最後の確認を入れる。

 

「八剣、つまりお前が今言った事をまとめると、まず、Cクラスを探って、今回の黒幕の正体を突き止める。そのあと、黒幕とCクラスの生徒3人の携帯をハッキングして乗っ取れる状態にする。そして、審議当日は言葉で相手を動揺させ不安を最大限煽り、正常な判断が出来なくなる状態まで持っていった後、黒幕の携帯を乗っ取り、罪を認めろとメールを送る。こういう事か?」

 

「簡単に言えばそうなるな」

 

「八剣、それ本気か?失敗すればお前は確実に退学だぞ」

 

「ヘマしなければいい話だろ?自分の実力くらい理解している」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「………八剣迅か」

 

オレは何度も話したことがあるのにも関わらず未だに八剣迅という人間の能力に底を測りきれていなかった。学力、身体能力共に高くクラスではトップクラスの存在。だが、おそらくまだ本気を出していない。特別根拠はないがそう感じていた。あいつからすればクラスで1位を取るくらい本気を出すまでもないということだろうか。その上、あいつは他にも多くのスキルを隠し持っている可能性が高い。実力を隠しているというよりかは発揮する機会がまだないという方が正しいかもしれない。それを証明するのが今回のハッキング技術だ。結果を見る限り以前話していた作戦を完璧にやり遂げたようだ。

 

さらに、八剣の行動は理解に苦しむ。中間テストの件では嫌々協力しているのかと思えば最後の方はやけに協力的だったし、今回もそうだが須藤の無実に協力しないのかと思えば、急に協力的になったりと真逆の行動をとることも結構ある。ただの気まぐれという可能性もあるが………

 

「……侮れないな」

 

今のところ八剣がオレの障害になったことはないが、実力者であるなら警戒する必要がある。行動も予測できないのなら尚更だ。そして、あいつはオレの本当の実力に気づきかけて……いや、もう気づいているのかもしれない。過去問を手引きしたのも、須藤の点数を買おうとしたのも八剣にはバレている。だから、わざわざ今回オレに手を出すなと念を押しにきた。本当のオレを知られているのならますます警戒するべきだ。

 

「いや、利用できるか……」

 

実力がバレているのなら逆にそれを利用して協力関係に持ち込めれば八剣を上手く活用できるかもしれない。だが、もう少し様子見が必要だな。

 

「…………」

 

オレはここでふと考える。『オレと八剣はどちらの方が優っているのか』っと。ハッキングなどの専門技術的なことでは八剣が勝るかもしれないが、学力や身体能力ならどうだろうか。正直、オレは今まで自分が負ける姿を想像出来たことはない。それは、堀北や高円寺、そして八剣と比べてもそれは決して例外じゃない。だが、同時に八剣には勝てるという姿も思い浮かばない。勝てるのか、はたまた引き分けになるのか、それは正直わからない。こんな感覚は初めてだ。これからの生活が八剣をどう動かすかで大きく変わる、とオレはこのとき確信した。

 

 

 

 

 

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